終 結 へ
 
戦闘開始から1週間が経った。初めは善戦していた帝国軍だったが、圧倒的物量の前には叶うわけもなく、 頼みの綱だった航空支援は3日前から途絶え気味で、制空権は共和国軍の物となりつつある。侵攻ルートを 3つに分けて進む共和国軍のうち、共和国領から山越えをして侵攻する部隊は、山頂付近に陣を構えると、 カノントータスによる砲撃を開始した。 2日後には目視できる地上施設の破壊を完了し、後は穴から這い出る敵をもぐらたたきの様に見つけては 攻撃するの繰り返しだった。これを黙って見過ごすわけにもいかない帝国軍は、敵支援砲撃部隊撃滅の為に 闇夜にまぎれてグレートサーベルと数機のヘルキャットが出撃する。 「我々の任務は地上施設に甚大な被害を及ぼしている敵支援砲撃隊の壊滅である。決死の覚悟で望んで貰いたい」 先のブリーフィングでそう述べた隊長のイルマン大尉だったが、この作戦事態が成功するなどとは到底思っていなかった。 仮に成功したとしても、物量に勝る共和国軍の後方には代わりはいくらでもいるのだから。 さらに数日が経ち、帝国軍によって要塞と化したこの山も、半分近くの施設が破壊、もしくは共和国軍の物となっていた。 各施設を繋ぐ坑道は、所々寸断されてしまい、連絡もままならない状態が続いていた。 そして夜明け前に、山の中腹で爆音と光が響き渡る。 その状況を別の山から見る男がいた。左眼には包帯を巻き、右目を細めている。 「地雷原に引っかかったのか。早朝からご苦労な事だ・・・」 右手に持った双眼鏡で現場を覗き込む。混乱する共和国軍に対して、近くに潜んでいたであろう サイカーチスの部隊が攻撃を仕掛けていた。まともな戦闘体制をとれぬまま、蹂躙される共和国軍。 「・・・・まったくみんな頑張りすぎだ」 「メイヤー少佐、ようやく本隊から連絡がきました。前にある山の中腹に敵部隊を誘いこめとの・・・・」 「あそこか?ならもう決着はついているみたいだぞ?」 そう言って双眼鏡を下士官に渡す。 「あ・・・・・」 下士官が覗き込んだ先には、撃墜されてのろしのように煙を噴くサイカーチスの姿が見えた。生き残った機体も、 山頂の方へ散開して逃げていく。 「あの地雷原を抜けるのに多少の時間稼ぎは出来るだろうが、俺達が突っ込んでもアレの二の舞になるだけだ。 一応この状況を本国にいる本隊へ報告してやれ。いいかげん増援を出す気になるだろうよ」 「はっ」 小声で返事し敬礼をすると、ずり落ちるように山を降りてゆく。 「サーベルと2機のヘルキャットだけではなぁ・・・」 翌朝、彼の報告で重い腰をあげたかどうかは分からないが、本国に駐留する一個大隊が中央山脈に入山すると、 敵主力部隊の脇から牽制する形を取る。その動きを察知した共和国軍は、自軍に有利に進むように、山と山の間にある 見晴らしの良い丘陵に陣を構えようとする。 一方、帝国軍も前衛として動いていたメイヤー隊と、ハンマーロックを中心とした第55軍を派遣する。 そこで鉢合わせとなった両軍による銃撃戦が行われたが、これが大規模な戦闘へと発展してしまった。 『少佐、その体で操縦は無理です!』 「こうなった以上は出るしかないだろう。まともな戦闘をする気はないから安心しろ」 そう言ってコクピットに入ると、2機のヘルキャットを引き連れて戦場へと赴く。 部下を安心させる為に言った言葉だったが、それはあっさりと破られるのである。 戦闘空域に到着すると、目の前でおこなわれている小競り合いの戦闘を、ひっかき回すかのように縦横無尽に駆け巡っては 敵ゾイドを血祭りに挙げる。突然現れたサーベルタイガーに動揺する共和国軍。 しばらくして、急遽派遣されたであろうシールドライガーMk-2の姿が見えた。 背中のビームキャノンがメイヤーのサーベルを狙い撃つ。着弾前に場所を変えてかわしていくメイヤー。 メイヤー自身、砲撃で牽制しながらシールドへと突撃する。背中のビームキャノンがあっても、戦闘スピードは相手が上だ。 しかし、彼の機体はそんな事を感じさせない動きでシールドと激しく激突する。互いの前足同士が絡み、正面に見える相手の コクピットに対して吼えあう。一旦離れると再び突撃を敢行する。 それをサッとかわすシールド。そしてその足でサーベルを追撃、砲撃をおこなう。走りながらの砲撃の為、 いくら補正していてもなかなか命中するものではない。それをあざ笑うように右前足を軸に機体を一気に旋回させ、 向かってくるシールドに目をやる。旋回したサーベルを見て、コースを変更しようとするシールド。  
その動作変更をする、一瞬の隙を狙って飛びつくサーベル。獲物を捕獲するように太くて長い牙がシールドの首元に突き刺さる。 その動きに、随伴していたヘルキャットのパイロットは言葉に詰まる。とても隻眼となって数日という動きには見えず、 その動きに舌を巻くばかりであった。 シールドの断末魔が辺りに響き渡ると、共和国軍の士気は一気に低下。ゆっくりと後退していく。 後退していく敵を見て、味方部隊が敵を追い立てようと追撃戦を開始した。 「活きがるとろくな事はないのによくやる」 そう言うと補給を理由に後退する。彼の両脇を55軍だけでなく、本隊そのものが移動して行く。その動きに合わせて、 山岳守備隊も周辺の共和国部隊に攻撃を始めた。成り行きで、当初予定より早くなってしまったが、 帝国軍による反撃作戦が開始された。この動きを予想していなかった共和国軍は、次々に撃破、または降伏していく。 さらに勢いを増す帝国軍に対して、慌てて虎の子のディバイソン部隊を前面に押し出す。 10機以上のディバイソンが横一列に並ぶと、背中の17門突撃砲が一斉に火を噴く。砲弾の雨の中を突き進む帝国軍。 この壁さえ突き破れば勝機が見えると確信していた。レッドホーンなど重装甲ゾイドを先頭に、ディバイソンに近づいて行くと、 格闘戦へと持ち込んで肉薄する。  
その脇では、豪腕を活かしてディバイソンの首を締め上げ、沈黙させるアイアンコング。 総力戦が開始されてから1時間。ディバイソンによる厚い壁が崩れ始めた。その合間を抜けて敵本陣へと切り込もうと する高速ゾイド部隊。それを見抜いていたようにもう一つの壁が存在していた。シールド、コマンドウルフから成る 高速機動部隊の壁である。その後方には、カノントータスを中心とした支援砲撃部隊が陣取っていた。怯みそうになる 気持ちを抑えて帝国軍の高速部隊は突撃を敢行する。だが、そこへ思わぬ通信が入る。 『南部より新手の共和国軍隊が進軍を開始。旧共和国、帝国領へも進軍している模様。各部隊は速やかにこれを迎撃せよ』 完全包囲網を敷き、攻撃して来る筈の無い飛び地の共和国軍による進撃。しかも各国境付近に対して行われる侵攻。 その隙を突いて、一気に畳み掛けるように反撃を開始する共和国軍。この予想だにしなかった行動により、 帝国軍の勢いが止まってしまう。形勢は一気に逆転し、帝国軍は多くの犠牲を強いて敗走した。 同じ頃、南部にあるもう一つの補給路守備隊も共和国軍の猛攻によって敗走。この事により、旧共和国領と帝国領を繋ぐ 補給路は完全に絶たれ、旧共和国領に駐屯する何万もの兵士が孤立する事となった。そして、旧共和国首都戦における 共和国軍の新型ゾイドとデスザウラーの対決、そして敗北。 以後、帝国軍は反撃のチャンスを掴む事なく、ニカイドス島で滅亡する事となる・・・。
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