心通わせるもの
「敵針路、変更の気配なし。これだけの損傷で沈む気配すらないとは驚きです。」 クルーからの状況報告がジュテポルデの耳に入る。 「片肺やられている割にはしぶいじゃないか。そこは天下のホエールキングと いうべきか・・・・、引き続き敵の戦力を殺ぎ続けろ。」 「はっ!」 ジュテポルデの命令を受けて再び自分の仕事に向かうクルー。 平静を装いつつジュテポルデは内心、焦っていた。 既に撃沈するにしても、墜落、空中爆発ともに町に被害が出る所まで進入され ており、うかつに撃墜することが出来ない状態に追い込まれていた。 その為に敵の戦力を殺ぎ少しでも脅威を減らすことしか出来ない。 (そんなに信頼の出来る傭兵なのか・・・・。) ふとそんな疑問がよぎる。 司令は信用のなる男だといっていても、自分はその男のことを何も知らない。 わけの分からない傭兵を信用しろという方がおかしい。 だがどんな疑問がおきようとも、現状では船内に侵入した傭兵に町に人々の命 を託すしかなかった。 その頃アルフレッドは、ブリッジ近くまで来ていた。 身を潜め、極力戦闘を避けながらここまでやってくるのに多少時間を要した。 だが、元々この機体はガイロス帝国で開発、使用されていた機体である。 元ガイロス帝国軍人のアルフレッドは、帝国軍人時代に設計図を見て熟知していて、 発見されることなく侵入することが出来た。 (何にでも興味は持っておくものだな、こんな所で役に立つとは。) そう心の中でつぶやくとT字路からそっとブリッジのある扉を見る。 扉の前に身構えた兵士が数人を確認する。 侵入されていること知っているため、ブリッジ付近の警備を強化しているようだ。 再び隠れると懐から手榴弾を取り出す。 そして右脇のベルトに装着されたポシェットから何かを取り出すと手榴弾に貼 り付ける。 その作業を2,3回繰り返すとおもむろに立ち上がると通路に身を踊り出す。 そして手にした細工済みの手榴弾を投げつける。 アルフレッドの姿を見て応戦しようと銃を構えた兵士達は目の前に飛んでくる 手榴弾を見て慌てふためく。 その場を右往左往しつつ離れる兵士達。 そのまま手榴弾は正面にあるブリッジの扉に当たるとそのままへばりつく。 しばらくしても爆発は起きない。 「お、おどしか!?」 そう言って近づく兵士達。 ふと見ると手榴弾のピンの先につけられた糸が見えるた。 その糸をたぐるとその先に不敵な笑みをせるアルフレッド。 「うわぁ!?」 そう言ってまた慌てて逃げる兵士達。 それにあわせて糸を引っ張ると次々に抜けるピン。 少しの間を置いて爆発する手榴弾。 爆風と煙があたり一帯に立ち込める。 煙がおさまるとブリッジの扉はものの見事に吹き飛んでいた。 それを確認すると共に一気にブリッジの入り口へと進む。 周りを見渡すと先ほどの警備兵達があたりに倒れている。 そしてブリッジの中を覗き込む。 キュン 顔の近くで金属がはじける音が木霊する。 「アルバン隊長の乗るギガに勝つとは傭兵とは思えない強さだ、いや傭兵だか らこそか。この大陸には正規軍パイロットなんぞ相手にならんような傭兵がご ろごろいるからな。」 そう言って銃を構えなおすオルメット。 その両脇にブリッジクルーがマシンガンを持って集まる。 「・・・・首謀者が死んだ以上、これ以上の戦闘は無意味だ。おとなしく降伏を勧める。」 「残念だが、今回の行動は参加した兵士の総意で行っている。よって作戦の中 止はない。」 オルメットの意志を確認すると一気にブリッジ内に侵入するアルフレッド。 それを見て銃の引き金を引くオルメット。 オルメットに続いて周りにいたクルーもマシンガンを放つ。 だがアルフレッドのすばやい動きに照準が定まらず全て外れる。 逆にアルフレッドは、移動しながら引き金を引いて的確に数人の腕を射抜く。 オルメットはその動きを見てとっさに近くにあったシートに身を隠す。 「うぁ!?」 うめきとともに、腕を撃たれクルーが銃を落としてその場でうずくまる。 アルフレッドは近くにあったコンソール台を盾に隠れる。
「早めに決着をつけなければ・・・・。」 そういって脇のポケットからサングラスを取り出してかけ、向こう側の様子を見る。 グラスについたつまみをいじりながら相手を注視する。 このグラスは多機能グラスでさまざまな機能を備えていた。 今は敵の人数を把握するために望遠機能を使用している。 よく見るとホエールキングの操縦は自動設定されているためか、操縦幹を握る ものは見当たらなかった。 またザバットのコンバットシステムをコントロールするオペレーターの姿もない。 真ん中のレーダーオペレーティングシステムの台を盾に5,6人がこちらを見ていた。 状況把握を終えるとすぐさま左ポケットからあるものを取り出して向こう側に 投げつける。 それを見て慌てるオルメットとクルー。 だが彼らの所にたどり着く前にそれは破裂して閃光を放つ。 「うわぁ!?」 突然起きた光に目を隠すクルー達。 その隙を突いてアルフレッドが残っていたクルーを気絶させていく。 そしてオルメットに目をやるとこちらに向けてコンバットナイフを振り下ろそ うとしていた。 「くっ!!」 うめきながらとっさによけるアルフレッド。 だがアルフレッドの額の一部を切り裂く。 振り下ろされたナイフはすぐさま振り上げられるが、それも何とか交わして間 合いを取る。 どっとあふれた血はアルフレッドの顔の右半分を真っ赤に染め、血で片目の視 界がさえぎられてしまう。 チャンスとばかりにオルメットが仕掛ける。 突き付けられたナイフを寸でで交わすとその腕を両手で片目、膝蹴りをオルメ ットの腕に当てる。 「ぐぁ!?」 傷みに耐え切れずナイフを落とす。 「くそっ!!」 片足と固められた腕を軸にして蹴りを放つ。 しかしそれすらもよけられてしまい、逆に軸足を蹴られてその場に倒れる。 ガンという音と共に少しうめいた後、その場で気を失うオルメット。 頭を強く打ちつけて脳震盪(のうしんとう)を起こしたようだ。 動かないことを確認すると、気絶したクルー全員を縛りつける。 そして入り口付近にトラップを仕掛け、侵入できないようにした。 「これで進路を変更して不時着させれば任務完了だな。」 そういうと操縦席に腰を下ろして目の前の操縦幹を握る。 試しに動かしてみたものの、やはり機体は何の反応も見せなかった。 自動操縦システムを切ってマニュアルにしなければならいないようだ。 近くにあったコンソールのキーボードを叩いてマニュアルに切り換えようとす るがシステムが拒否する。 「・・・・!?」 焦るアルフレッド。 「残念だったな。」 その言葉に後ろを振り返るアルフレッド。 そこには気がついたオルメットの姿があった。 「墜落は、このゾイドそのものの意識に植えつけている。 だからマニュアルには切りかわることはない!!」 そういって手足の縄を解いてアルフレッドに向かってくる。 とっさのことによけるまもなくオルメットの蹴りを脇に受ける。 同時に脇に激痛が走ってうめくアルフレッド。 そこは以前、戦いで深い傷を負った場所、昔の古傷が彼を苦しめる。 「傭兵ごときがいい気になりやがって・・・・!!」 うずくまるアルフレッドにもう一度蹴りを入れるオルメット。 「貴様も我々の推考なる目的の成就を、死を持って見届けろ・・・・。」 そういって笑みを見せるオルメット。 余裕を見せてアルフレッドに近づくと、彼の足払いがオルメットを襲う。 予期していなかったことに再び体を地面に叩き付ける。 「きさまぁ!!」 そう叫ぶと、隠し持っていた小型ナイフを取り出して再び、アルフレッドに襲 い掛かる。 それを見て振り下ろされた手を両手で防ぐ。 だが脇の傷みに力が入らずじりじりと押される。 「傷みで思うように動けんとは傭兵としては三流だな・・・・。」 そう言いながらさらに力を入れるオルメット。 額に脂汗を浮かべつつ必死に抵抗するアルフレッド。 ナイフの先が彼の顔のすぐ側まで来た時、体をひねって蹴りをオルメットの体 に浴びせる。 「うごっ。」 蹴りを受けて力が抜けたその瞬間に相手の手をひねってナイフの先をオルメッ トに向けて押し込む。 押し込まれたナイフは見事にオルメットの体を突き、うめきをもらしたオルメ ットはその場でしばらくのた打ち回った後、絶命する。 「・・・・。」 絶命したオルメットを尻目に再び操縦幹を握り、コンソール画面に向かう。 絶命したその男の言葉を信じるならば、町への墜落はゾイド自身の意志だという。 ならばそれに訴えかけるしかなかった。 「どうすれば・・・・!!」 その言葉はホエールキングではなく、遠くはなれた少女に届く。 アルフレッドの言葉を感じたクレセアは、待避していた議事堂の司令部から外 へ向かおうとする。 それを見て制止しようとするミラルダ達を振り切って議事堂の屋上へとたどり着く。 息を切らしながら上空を見つめるクレセア。 空には所々で発生した煙が対流し、視界が悪くなっていた。 だが、その空の向こうにいるホエールキングは彼女の目にしっかりと映っていた。 少しずつ呼吸を整え、胸に手を当ててゆっくりと目を閉じる。 自身に秘められた力を祈りによって自らの解放すると空だが光り輝く。 輝く光と共に過去のさまざまな記憶が脳裏を走るが、今は彼の手助けをしたい、 その一念だった。 ダン!! コンソール思いっきり叩くアルフレッド。 「・・・・・これほどまでに無力だったとは・・・・。」 やれる事全てをやり尽くして吐く絶望の言葉。 ふと目の前を見ると全包囲方位モニターに所々煙と炎を上げている町が見えた。 愛するものたちのいる町、救えると思った町、だが己の無力さを感じながら共 に運命を共にする。 ふとそれも悪くないかもしれないと思った。 (・・・・私が必ず・・・・。) ふとそんな言葉がどこからとも無く聞こえた。 あたりを見回すが誰もいない。聞き覚えのある声に混乱し、思考が一時的に停止する。 キュィィィィィィン・・・・ ホエールカイザーが上げる鳴き声。 その声を聞いてはっとするアルフレッド。おもむろに目の前の再び操縦幹を握る。 「・・・・まさかな。」 そういって操縦幹を引く。 するとホエールキングは機首を上げ始めた。 「やはり・・・・クレセアの・・・・。」 そうつぶやくとそれに応えるように“そうだよ”とクレセアの声が聞こえた。 「帰ったら礼を言わなければな・・・・。」 そういって笑みを浮かべる。 町へと下降していた船体は、ゆっくりと降下角度を変えてゆっくりと町の北側 にある湖へと進路をとる。
少し間を置いてアルフレッドから作戦阻止成功の報告ともに、船体の湖への着 水の支援要請を受けて、対峙していた艦隊がホエールキングに寄り添うように 艦隊が飛ぶ。 10分後、町の上空をすれすれに通って無事着水したホエールキングの姿があった。 その後、船体や散りじりになっていたアルバンの残党もほどなく鎮圧され、事 件は一様の解決を見るのだった。
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