守るもの
モニターをボーッと据える。 何かが近づいてきているがぼやけて見えない。 頭がぼやけて何も考えられない。自分が何者であるかすら。 (死ぬのか・・・・。) ただその実感だけはあった。 作戦を遂行できずに死を迎える。 情けない、腹立たしい、いろんな感情が湧いては消えていく。 偉く弱気だな・・・・。 霧がかかって霞んでいた過去の記憶が脳裏を走る。 「偉く弱気だな、何時もは何の気もなしにこなしてしまうのに。」 傍らにいる男がそう言った。 「君やまわりに認められているのはうれしいが、ほとんど実戦もなしに一部隊 の隊長を任せられるんだぞ?しかも皇帝直属部隊だ。 私のようなものに何が出来るか・・・・。」 「だから俺がサポートのためにおまえの部隊のは配下に入るんだろ。」 「・・・・ならなおさら君に隊長を任せるべきではないのか?アダール。」 そう目の前の男に向かって言う。 その言葉を聞いてアダールはやれやれといった表情を見せる。 そして肩をつかんでこう言い放つ。 「いいか、今おまえがその立場になれたのは偶然でも何でもない。 おまえの実力が正しく評価された上でのことなんだ。だから胸を張っていけば いい。慣れないことは少しずつ憶えていけばいい。俺はその為にいるんだ。 俺やエド先生を失望させるようなことはするなよ。アル。」 そう言うとアダールは楽しそうにヘッドロックをかけてくる。 「あんたら軍人になってもかわんないね。」 部屋にひょっこり現れた女性がおかしそうに言う。 「うるせぇクリス、からだけ色気づいていい加減アルに・・・・・・・・おわっ!?」 アダールの頬をクリスのパンチがかすめる。 「なにか・・・・言った??」 笑顔で言いうクリス。だが、目は笑っていない上、パンチは壁にめり込んでいる。 「クリス、自分に何か言うことが?」 「えっ!?いやなんもないよ・・・・。」 そう言うと顔を赤らめて部屋を出ていく。 その姿をただじっと見つめる。 「おまえは鈍すぎる・・・・この手に関してはオール1だな。」 あきれた表情を見せて“かわいそうに“と一言つぶやく。 「何を訳の分からないことを・・・・。」 不思議そうにつぶやくアル。 「気にするな。後はおまえ次第だからな。」 そう言ってヘッドロックを解く。 「それじゃあ明日からよろしく頼むぜ、アルフレッド隊長。」 そう言って部屋を去るアダール。 去っていくアダールの周りに炎が出現し彼を包む。 「ア・・・・ル。」 負傷したアダールが、消え去りそうな声でこちらに助けを求める。 必死に手を伸ばすが届かない。 いつの間にかアダールは消え、目の前に赤い恐竜型ゾイドが現れる。 「アルフレッド、貴様だけはっ!!」 そう叫んで近づいてくるゾイドをいつのまにか乗っていたクライジェンシーの ストライクレーザークローで相手の胸部を引き裂く。 引き裂かれた胸部にあったコックピットの中のパイロットが、ゆっくりと姿を あらわす。 「おまえだけは・・・・おまえだけは・・・・!!」 血まみれになった姿で、恨みつらみのの思いを乗せた言葉が彼を襲う。 「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 思わず叫ぶ。 大丈夫・・・・。 その言葉と共に自分を包み込む何かを感じる。 顔を上げてみると見知った女性がいた。 だから・・・・帰ってきて・・・・。 そこではっと気づく。 「・・・・またミラルダに助けられるとは。アルフレッド・イオハルも情けな い男になったものだ。」 そう言って自嘲すると目の前に接近しつつあるゴジュラスギガを見る。 周りを見渡すと、先ほど進入するために使った格納庫穴を見るとギガの真後ろ にある。 そして通信装置をいじると1人の男を呼び出す。 「ジャルク、船体に空いた穴は見えるか?」 『何を言って・・・・こっちは戦闘でそんなものを確認する暇などない。』
『さっき進入した穴だな。』 ベイターが二人の会話に割って入る。 「そうだ。二人ともその付近で待機していてくれ。必要ならば声をかける。」 『おい、それはどう・・・・。』 文句を言ってくるジャルクをよそに通信を切ると、近づいてくるギガに集中する。 ゆっくりとギガの左手がクライジェンシーをつかもうと近づく。 そこに急に起き上がったクライジェンシーが、右爪を輝かせてギガの胸に向か って振り下ろす。 4つの筋がギガの胸に刻まれ、叫び声を上げのけぞる。 その隙に脇を抜けてギガの後方へと回るクライジェンシー。 「ちっ!!」 舌打ちして機体を反転させると、クライジェンシーに襲い掛かる。 クライジェンシーも憶さずにスピードを上げて突撃をかける。 目の前に来ると同時に巨大な口が開いてクライジェンシーに襲いかかるギガ。 寸でで交わすと、足元に飛び込んできたギガの頭を後ろ足で頭を蹴り上げる。 「うぉ!?」 振動がギガのコックピットを揺らし、思わずうめくアルバン。 さすがのギガも攻撃を受けて後ろへとよろめく。 「ベイター火炎放射を、ジャルク、ミサイルをギガに。タイミングは任せる。」 『了解!』 二人から同時に返ってきた返答がコックピットにこだまするのと同時に、格納 庫の穴付近にサラマンダーが姿をあらわし、火炎放射を口から放つ。 炎を確認すると瞬時にその場を離れ、格納庫の奥へと避難するクライジェンシー。 放たれた炎は格納庫に進入し、入り口付近にあったものを一気に飲み込んでいく。
そしてその熱に耐え切れなかった可燃物が、所々で爆発を起こしてギガを襲う。 「こんな子供だましの攻撃でギガが倒せるとでも・・・・。」 そこにジャルクの乗ったファルゲンがミサイルをはなつ。 精密とも思えるぐらいにミサイルは格納庫に入り、ギガの背中を直撃する。 「うわぁぁぁ・・・・・・・・・・・・!!」 ギュオォォォォォォォォ・・・・・・・・ 爆発と共にアルバンとギガの断末魔のような叫びが格納庫に響く。 「・・・・やったか?」 小声でつぶやくアルフレッド。 あたり一帯を煙が立ち込めているため、撃破の確認がとれずに緊張が走る。 ずぅぅん!! 船体を揺らしながらギガが立ち込めた煙の中からはいでてくる。 そしてきっとクライジェンシーを睨みつける。 「さすがだ、だが・・・・!!」 その姿を見てギガに向けて駆け出すクライジェンシー。 その姿を見ると同時にギガは咆哮を上げて威嚇し、追撃モードに変形すると自 らも走り出す。 ただダメージがあるせいかスピードが上がらない。 そしてクライジェンシーはひるむことなくかけると、ギガと鉢合わせる手前で ジャンプしてギガに飛び掛かる。 ギガもそれを見て体を反らそうとするとが、やはり先ほどのダメージが大きく、 思うように動けずに首筋に噛みつかれてしまう。 クライジェンシーの牙がミシミシと音をたてながら食い込んでいく。 振りほどこうと必死に体を左右に振るギガ。 しかし、クライジェンシーも振りほどかれまいと必死にしがみつきながら牙を たてる。 今度はギガの両腕の爪がクライジェンシー体をつかむと、首筋から強引に引き 剥がして目の前に叩きつける。 そして大きく振り上げた右足がクライジェンシーを捕らえて格納庫の壁に激突 させる。 だがそれほど大きなダメージはなく、ゆっくりと体を起こすクライジェンシー。 背中に受けたミサイルと、首過ぎの傷が相当影響しているように思えた。 ギガが確実に弱っていることを確信したアルフレッドは再びギガに飛び掛かる。 ギガも飛び掛かるクライジェンシーを捕まえようとするが、うまくすり抜けら れて懐に入られ、コア近くの装甲に牙に引き裂かれる。 間を置かず懐から脱出して背中に飛び乗ると、右前足の爪を立ててギガの飛ぶ 付近を狙う。 傷を負った状態で背中に乗られてはさすがのギガもなすすべもない。
「これ以上の戦闘を止めて投降されたし。」 そう告げてまもなく、ある事に気づく。 コックピット付近の強化ガラスや装甲が所々砕けている。 裂け目から見えるパイロットに動く気配が感じられず、付近には血のりも確認 できた。 コックピット周辺は熱で生きているかどうか分からないが、状況から生きてい ることはまずないように見えた。 クライジェンシーが背中から離れると、前のめりに倒れるギガ。 コックピットの破損状況からミサイルを受けた際にコックピット付近に何らか の被害があり、その時にパイロットは死んでいたのだろう。 つまり煙の中から出てきたギガは、その闘争本能だけで戦っていたことになる。 技術者から見れば暴走と思える行動だが、ゾイドは生きた金属、金属生命体だ。 パイロットとが死んでも尚戦い続けたのは、パイロットとの意志を感じたからかもしれない。 「・・・・すまないが、私にもやるべき事がある。弔いは出来んが安らかに眠 ってくれ。」 そう言ってギガを見つめながら祈りをささげる。 「いくぞ、クライジェンシー。」 アルフレッドがそう言ってきたいを動かそうとするが、クライジェンシーは動 こうとしない。 それどころかその場にへたるように座り込んでしまう。 「・・・・分かった、私がこの間を制圧して一段落するまでは、おまえはここ にいればいい。」 そう言うとコックピットハッチを開けて近くにあったソルディスを使って移動する。 「やはりあれだけの大型ゾイドとの戦闘の後は動けなくなって当然か・・・・。」 そう一言つぶやくと、メインブリッジとつながっている隔壁へとむかってい く・・・・。
後書き2033 バトストMENUに戻る 前の話へ行く 次の話へ行く