中央山脈
その日の朝は、爆音とともに訪れた。 「帝国軍が総攻撃をかけてきたぞ!!」 「いつまでも寝ている!!さっさと銃をとれ!!」 建物のあちらこちらで響く兵士の声。 皆、蜂の巣をつついたように慌てふためく。 寝巻きのままヘルメットをかぶって、そのままでていく者もいた。 たたき起こされ、自室を出た兵士の目の前には、轟音と煙、そして巨大なキャノン砲を装 備した黒い機体が遠くに見えた。 「グ、グレートサー・・・・・・・」 目の前に見える機体の名を叫ぶのを防ぐように、彼の近くで砲弾が爆発し、彼を跡形もな く吹き飛ばした。 中央大陸の大動脈である中央山脈。 2048年8月、まわりをゼネバス帝国軍に囲まれ、突き出たヘリック共和国占領地の付 け根を東西から挟撃し、共和国の大部隊を袋のねずみにする大作戦が開始された。 この作戦は、ゼネバス帝国最高指導者であるゼネバス皇帝自ら指揮していることもあり、 各軍の指揮は高く、各地で次々と共和国軍を撃破していった。 だが作戦開始から数時間後、その歯車が少し狂い始める。 時間がたつにつれて、共和国軍の抵抗が強くなっていくのだ。 とりわけ帝国軍を悩ませたのが一機のウルトラザウルスだった。 ウルトラの正確無比な射撃によって、帝国ゾイドは次々と鉄くずに変えられてく。 「よし、ここが最後の砦だ。援軍がくるまで持ちこたえるのだ!!」 意気揚々とした共和国軍の指揮官の声が、あたりにこだまする。 ウルトラを起点として体勢を立て直し、反撃に転じる共和国軍。 ゴジュラスMK―Uの支援砲撃、そしてディバイソンの突撃。 帝国軍の進撃は思うように進まなくなっていた。 守りきれる!!そう共和国軍兵士達が思いはじめた時、轟音とともに巨大な爆発があたり 一帯にこだまする。 「な、なんだ!?」 突然の爆発音に驚きながら、今も響く音の方へと目やる兵士。 驚愕とともに目を疑った。 先ほどまで健在だったウルトラが姿を消し、爆発と炎が一帯を包んでいた。 「ああ・・・・・・」 炎上するウルトラを見上げる共和国軍兵士達。 上官の撤退命令も耳に入ることもなく、ただ呆然と見上げていた。 数時間後、帝国軍の作戦は成功した。 ゼネバス帝国軍は、ヘリック共和国内部に持つ領土に対して、北部と南部の補給ルートを 確保した。 そして、中央大陸北部に駐屯する共和国山岳軍は、風前の灯となる。 それから1ヶ月たった中央山脈北部の共和国軍陣地。 周りの状況とは裏腹に比較的静かな日々が続いていた。 「ランディット、今日もアロの手入れとは感心だね」 格納庫に並べられたアロザウラーのメンテをする一人の兵士に話し掛ける。 「あ、リネス中尉。ぼくら整備兵はこれが仕事ですからね〜」 そう言いながら端末キーを叩く。 「私らパイロットは、あんたたちのおかげで安心してこの子らに乗れるよ」 そう言うと目の前のアロザウラーに目をやる。 「そう言っていただけると整備のしがいがあります」 リネスに顔を向けるとニッと笑みを見せる。 数日後、これまで小競り合いが続いていた国境地帯を、帝国軍が一気に越えてきた。 取り囲まれている共和国軍は、援軍の期待もできずに空しい抵抗を続ける。 日に日に追い詰められていく共和国軍。 「ここを占領されては今までにない数の帝国軍が、共和国領内の帝国陣地になだれ込んで しまいます!!早急な手立てを!!」 陸軍将校が声を荒げる。 中央山脈における切迫した事態に、共和国軍総司令部では緊急会議が招集されていた。 「そうです、新型ゾイドを中央山脈に派遣して、帝国軍を国境のかなたにたたき出しましょう」 落ち着いた雰囲気の陸軍将校が、そう言うと手元にあった反撃作戦要項を提出する。 この作戦には、空海両軍の将校たちもうなずく。 そして最高指導者であるヘリック2世共和国大統領の顔を静かに見守る。 しかし、決断を求める彼らを制するように白いガウンを着た年配の男が、こう切り出した。 「無理です。新型ゾイド、“マッドサンダー”は、山岳専用ゾイドではありません。 共和国首都で、デスザウラーを叩き伏せるために作られた兵器です。中央山脈に派遣して も、十分な働きはできないでしょう」 彼はウルトラザウルス、そして最新型ゾイド、マッドサンダーを開発したハーバード・リ ー・チェスター教授である。 不満をもらす各将校達。 そんな雰囲気の中、ヘリック大統領はゆっくりとした口ぶりで切り出す。 「現在、共和国内に駐屯する敵の主力は、中央山脈に移動している。共和国首都の敵もそ の数を減らしているだろう。 首都を取り戻す絶好の機会だ。マッドサンダーを首都に向けて進撃させよ」 「では、中央山脈で苦戦する山岳部隊は見殺しにするのですか?」 静かにそして怒りを最大限に抑えながら言う陸軍将校。 だが彼の問いに、ヘリックは強く首を振る。 「空軍は全力を挙げて、中央山脈の敵を攻撃せよ。同時に包囲された山岳部隊に、武器、 弾薬、食料、燃料、必要な補給物資を空輸し続けるのだ」 そして厳しい顔で空軍将校に命令する。 「よいか、共和国中の飛行ゾイドを中央山脈に向かわせるのだ」 こうして共和国軍を二つに分ける危険な両面作戦が開始された。 この決定に呼応するように、最前線地域では共和国軍の必死の抵抗が繰り広げられていた。 ハンマーロックを中心とした帝国軍部隊が、山脈中心にある共和国軍基地へと向けて進軍する。 現在山脈の各地には、洞窟がたくさん掘られている。 帝国軍の進撃に対して抵抗を続けるために、ここ数週間の間に突貫工事で掘られたものだ。 そこから進軍する帝国軍部隊を眺める機体がある。 ヘリック共和国軍のベアファイターだ。 「向こうは気づいていません、襲うなら今です」 物陰から帝国軍の様子をうかがっていた兵士が通信を送る。 『了解』 その応答とともに3機のベアファイターが帝国軍を襲う。 突然の攻撃に帝国軍部隊は混乱に陥る。 それに乗じて次々にハンマーロックを撃破する。 「共和国軍が出現しました!!応援を・・・!!」 通信兵が通信機に向けて必死に叫ぶ。 数分後、急いで駆けつけたサーベルタイガーが、ベアファイターを蹴散らしにかかる。 それを見てさしたる抵抗もせずにさっさと山奥に逃げ込んでいく。
各山脈の登山道などでは同じような光景が見られた。 しかし、勢いに乗る帝国軍は、じりじりと山頂へ向けて進撃をはじめる。 先ほどのような散発的な攻撃ではちょっとした時間稼ぎでしかなかった。 だが、共和国軍にとって今は体制を立てなおす時間と、空軍の援助が来るまでは、少ない 戦力でこのような攻撃をするしか方法がなかった。 帝国軍が進撃を開始して数日、いまだ頼みの綱の空軍からの援護はない。 祈るような気持ちで待つ共和国軍兵士をよそに帝国軍は、意気揚々と登ってくる。 ゆっくりと進む帝国ゾイドの上空をサイカーチスの編隊が先行して行く。 「ここで散開する。各機5分ごとに状況報告だ。いいな」 『了解』 散開したサイカーチスは、しばらく上空を旋回しながら敵基地発見に全力をあげる。 そして1機のサイカーチスが3回目の旋回に入ろうとした時、地上で何かが光る。 「ん?」 いぶかしげに近づくと、建物のような物が見えた。 うまく迷彩を施してわからなくしていたが、角度を変えると影が見えてはっきり分かる。 それを確認するとすぐさま通信機を取る。 「こちらスペクター2、スペクター1、聞こえますか?」 『スペクター1、どうした?』 「D7825地点に敵基地と思われる構造物を発見。至急部隊の派遣をこう。 ただし敵戦力などは一切不明。」 『了解、引き続き敵を警戒しつつ他の場所の捜索をしろ』 「了解」 そこに噴煙を上げながらミサイルがこちらに向かってくる。 「!!チッ、撃って来やがった!!うわぁっ!!」 回避する間もなくサイカーチスにミサイルが命中する。 「敵に発見された!!全機出撃だ。急げ!!」 その言葉で、今まで格納庫内の温和な雰囲気が、一気に緊張感高まるものとなる。 パイロットスーツに着替えた戦士達が、次々にコクピットの中へと入る。 その中にリネス・カンハレットの姿もあった。 「リネス中尉、この時期なると冷え込みがきつくなる時があります。 そうなるとアロの動きも極端に・・・・ッた!?」 ランディットの言葉をさえぎるように右手の甲を彼の顔に当てる。 「あのねランディット、わたしゃこいつとの付き合いもそこそこだし、あんたが軍に入る 前からこの山脈で激戦をくぐりぬけて来たんだよ。今更そんな事を言われる筋合いはない よ。それに防寒対策もしてるんでしょ?」 「ええ、それなりにですが・・・・」 「ならあんたはわたしの腕を信じて戦場に送り出せばいい。わかった?」 そういうとニッと笑みを見せてコンソールを操作する。 その笑みを見てボーっとする。 「ほおけてないで下がりな。出るよ」 「は、はい」 リネスの言葉でハッと気がつくと、慌てて機体から離れる。 『敵機進入!!数5、超小型ゾイドと思われる』 「なっ、ちょっとはや過ぎないかい?」 通信機から聞こえてきた言葉に、驚きを隠せないリネス。 「それにしても小さいのが相手だとてこずるねぇ・・・・」 彼女の乗るアロザウラーが10mに対し、この24シリーズは最大4mという小型ゾイドである。 この大きさの違いは、戦闘をより困難とするからだ。 特にこのゴーレムという機体は、アロより機敏かつ俊敏に動くという厄介な機体であった。 下手をすればコクピット近くに飛び移られて銃弾を直接喰らう事だってある。 「願わくはお猿さんが出てこない事を祈るよ」
そうつぶやきながら格納庫から出る。 目の前には共和国軍の24ゾイド、メガトプロスが3機、バトルローバーが6機先陣をき って突入しようとしていた。 『お前さんらの出番はないから、安心してそこで他のゾイドとたむろってな。』 ふいに聞こえてきた通信を送ってきたのは、メガトプロスを操縦するブンター大尉だ。 いつも悪ふざけをして回りを笑わせてばかりいる士官で、部隊の面倒見もよい男だった。 『敵ゾイドを確認。デスピオンとゴーレムが各1機、ロードスキッパーが3機だ。 これより迎撃する。』 威勢のよいブンターの声が聞こえてくる。 戦闘が始まった事を確認すると、リネスはカバーにはいる。 味方のほうが数で勝っているとはいえ敵は特殊部隊である。 油断はできないからだ。 彼女の心配する脇で、3機のロードスキッパーが牽制しながらバトルローバーの注意をひ きつけると、その脇からデスピオンのビームがバトルローバーに叩きこまれる。 「野郎!!」 それを見て、ブンターの乗るメガトプロスが仕返しとばかりに、背中に装備された二連速 射砲をロードスキッパーに叩き込む。 メガトプロスの一撃を受けて、吹き飛ぶロードスキッパー。 しかしそうしている間に少し離れたところでは、もう一機のメガトプロスの攻撃を軽くか わしながらガトリングを叩き込むゴーレムの姿が見える。 鉄くずと化したメガトプロスを一瞥もせずに、すぐさま脇にいたバトルローバーに目をや って襲い掛かる。 バトルローバーの攻撃を飛び跳ねるようにりに上げる。 『大尉、デニット隊が・・・!!』 「何!?」 通信を聞いて、デニット隊のいる方角を見ると、味方の残骸があるのみだった。 「ちっ!!あのさる野郎の仕業か!!」 目の前で裏返しにされじたばたするデスピオンに止めを刺すと、ゴーレムを探し始める。 『後ろ!!』 コクピット内にリネスの声がこだまする。 「こいつはそんな機敏に動ける機体じゃあ・・・・」 次の瞬間、メガトプロスに火花が走る。
「くっ!」 後部から火を噴くメガトプロス。 「動けよ!!」 必死にで操縦桿を動かすブンター。 ついにコンソールパネルからも火が出る。 彼がそれを確認するまもなく、メガトプロスが爆発、炎上する。 「まったく・・・・やってくれるよ!!」 そう叫びながらゴーレムに攻撃を仕掛ける。 しかし、彼女の攻撃すら軽がるとかわす。 「!!」 すり抜けるゴーレムの動きを確認しようと後ろを振り向くが、なかなか動きをとらえきれ ずに逆にゴーレムのバルカンを腕に受ける。 吹き飛ぶアロの腕。 「他の連中はなにやってんのさ」 ゴーレムを牽制しつつぼやくリネス。 『守備陣営について動いてくれないですよ』 生き残っているメガトプロスから通信が入る。 「仲間を見殺しかい。後で全員怒鳴り散らしてやる!!」 怒り心頭のリネス。 リネスが通信機に気を取られている間に、ゴーレムは正面に回りこんで大きくジャンプする。 「!?しまっ・・・・・」 コクピットに向けられた銃口の恐怖するリネス。 バルカンが発射されるまでの間が、とても長く感じられる。 思わず目をつぶる。 だが、来るはずの銃弾も爆発もおきない。 不思議に思って目を開けると、ゴーレムに飛びつく一機のバトルローバーが見えた。 それに乗っている顔にはとても憶えがあった。 ふいをつかれてゴーレムは地面に叩きつけられる。 バトルローバーも地面を転がる。 「ランディット!!」 思わず叫ぶ。 「この白ゴリラがいきがって・・・・!!」 そう叫びつつ、起き上がろうとするゴーレムを噛み付くと、そのまま一気に噛み砕く。 あたり一帯に金属のひしゃげる音が木霊する。 『リネス中尉、大丈夫でしたか?』
ふいに聞こえてきたランディットの声に我に帰る。 「あんた、なんでこんな所に・・・・」 『いえ、中尉が危なかったので、無我夢中で近くにあったゾイドに乗って・・・・後はあ んまり覚えてないです。はは・・・』 苦笑するランディット。 「あんたってやつは・・・・。」 そう言うと笑みをこぼすリネス。 そんななごやかな雰囲気を壊す轟音が、突如として木霊する。 空にそびえ立つ山を削り、光の塊が基地の上空を通過していく。 「今のは・・・・・・まさか奴が来たのかい?」 こんな事ができるのはただ一機、荷電粒子砲を持つデスザウラー以外考えられなかった。 荷電粒子砲が放たれてから、1分も経 たないうちにシンカーによる爆撃が開始された。 この状況に基地にいる上層部は、たまらず撤退の命令を出す。 「ランディット、その機体もうだめだろう。私の機体に乗りなよ」 「えっ!?よろしいのですか?」 「いつもこいつの世話をしてもらってる上、助けてもらったからね。それとも何?私の誘いは 受けれないって言うわけ?」 「いえ!!そんな事ないです!!喜んで乗らせていただきます!!」 そう言うと慌てながらアロのコクピットに乗る。 「うーんちょっと狭いけど、それぐらいは我慢できるよねぇ。男なんだし」 「いや、収納ボックスって人が入るところではないですし、こういうのは男とか女とかい う問題では・・・・」 「なんかいったかい?」 「言えなにも・・・・」 慌てて即答するランディット 「よし、じゃあ撤退しますか」 そう言うと機体を山脈の奥深くへと向ける。 彼ら共和国山岳部隊が帝国の包囲網を突破するのは、まだ数ヶ月先のことである。
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