急襲
ZAC2053年、共和国首都ヘリックシティを奪還した共和国軍は、大平原に取り残された帝国軍を 一蹴し、いよいよゼネバス帝国本土へと進撃を開始した。 主力はマッドサンダーを軸にしたマッドサンダー師団。 それを護衛師団が付き添うように動く。 対デスザウラー用のゾイドとして建造されたマッドサンダーは、現在最強のゾイドである。 ゼネバス帝国は、マッドサンダーを討つべくさまざまな計画が立案し実行に移そうとしていた。 やはり唯一対抗する事の出来るのはデスザウラーしかなく、次々にデスザウラーの強化案が計画書とし て持ち上がっていた。 「みんな必死なのは分かるがデスザウラーに頼り過ぎだ。相手はマッドサンダーだけではないというのに。 奴等の主力であるゴジュラスやシールドライガーなどの主力部隊をどうにかするのが先決というのが分からないのか。 それにデスザウラーの数はそんなにはないというのに・・・・」 計画案を見てつぶやく男。 「君の言う事も分かるが、それだけデスザウラーが我々の心の支えになっている証拠でもある。察してやれ」 上官の言葉に奇麗事で事が片付くなら苦労しないと思った。 「だがこれらの改造デスザウラーを竣工させるにはそれなりに時間が必要だ」 「あれを貸していただけるのであれば、共和国軍の前衛部隊の足を止める事が出来るかもしれませんが」 「・・・・よかろうフラブ中尉、だが私個人の判断では許可できかねる。 皇帝の判断あおがねばなるまい。少し時間をくれ」 「了解いたしました」 そういうと再び計画書を見つめるのだった。 全中央山脈を占領してからのゼネバス帝国軍の反撃は凄まじかったが、目的を達する事は出来なかった。 敵地に取り残された駐留軍を救い出せるほどの勢いはなく、共和国のわずかな隙を狙って行なわれるホエー ルカイザーでの救出作戦のみだった。 その救出作戦も困難を極め、しばらくして駐留軍も降伏した。 共和国領内での戦闘を終えた共和国軍の目は帝国領内に向けられ、いつ進撃するのか戦々恐々としている帝 国兵も多くみられた。 大平原を共和国の部隊が進む。 既に帝国軍領内に入って1時間近くになる。 出てこない敵に臆病だ、腰抜けだと笑いながら言う兵士達もいる。 すでにここが敵地であるという事を彼らの頭の中からは忘れていた。 これまでの戦いは共和国領土内での戦闘であり、地の利も利けば協力者も多くいた。 だが、敵本土ではそれがほとんどない。いつ敵に襲われるか分からないのだ。 談笑している兵士達の列が丘を越えた時、突然の砲火と爆音が響く。 吹き飛ぶ兵士達。 さっきまで近くを歩いていた仲間が、跡形も無くその場から姿を消す。 助かった兵士達は、その状況におびえながら辺りを見回す。 兵士達の後ろをゆっくり移動していたグスタフから、アロザウラーを中心とした部隊が荷台から降りる。 周囲を警戒しながら砲撃のあった方向へとゆっくりと歩み出す。 しかし敵の姿は確認できず、焦りを覚える。 慎重に丘を進み始めた時、再び砲火が彼らを襲う。 そして土の中から現れるツインホーン。 長い角が不意をつかれて戸惑うアロザウラーの胸元を貫く。 倒れるアロザウラー。
SOS信号を受けて駆けつけたコマンドウルフの部隊が、救出に向かう。 ウルフの援護で体制を整えたアロザウラー隊は、次々にツインホーンを撃退していく。 「こんな不意打ちばっかりやってくるんじゃないだろうな」 つぶやくウルフのパイロット。 ピーッ 敵機の接近を知らせる警告音がコクピットに鳴り響く。 「こちらの会話が筒抜けに感じるぜ…」 耳障りな警告音を聞き、そう言いながら向かってくる方向に目をやる。 彼が警告音を聞いてまだ間も無いというのに、丘のさらに向こうにあった反応は、いつの間にか丘にいる アロザウラー部隊と同位置で点滅していた。 そしてアロザウラーをそのスピードで翻弄している。 「野郎……なんて速さだ、噂に聞く新型か?」 驚愕しつつも、全速力で援護にはいる。 しかし、彼が丘につく頃には援護すべき味方機は壊滅し、1機のゾイドがこちらを見ていた。 帝国軍の特徴的カラーである赤、黒、銀のトリコロールを纏った4足歩行のゾイド。 頭部に長い鬣(たてがみ)が見えた。 「こいつはライガータイプなのか……?」 彼の疑問をよそに、むき出した牙がこちらを向く。 後ろを取られまいと機体を動かす。 だが相手も同じように動き、俊敏に動く素の機体はあっさりとウルフの後ろをとり、襲いかかってきた。 「くそぉっ!!」 悪態を吐きながらそれをかわす。 だがかわし切れずに左の装甲がき裂かれた。 そんな事を気にも止めず、目の前に踊りで敵機をチャンスとばかりに背中のビーム砲で撃ちぬこうと発射 ボタンを押す。 しかし、飛び跳ねるようにしてそれらをかわすと、今度は正面から襲いかかってくる。 「うわぁぁぁぁぁぁぁ……!!」
彼の悲鳴とともにコマンドウルフは沈黙した。 前衛部隊を壊滅させたその機体は、しばらくしてやってきた帝国軍部隊が生き残った共和国軍を拿捕するのを 見届けると足早に去って行った。 数週間が経ち、一向に進展しない戦況にようやく事の重大さに気づいた軍司令部が、本隊の一部をこの地区 に派遣した。 この地区に本腰を入れてまで部隊を派遣するのには訳がある。 この大きな街道はヘリック領から続く路で、ゼネバスシティにまで繋がっている重要な商業路の一つだ。 この様な道はいくつもあり、マッド師団はこれらの街道に数機に分散して進撃する事となっていた。 師団の集中運用は不測の事態があった時に最悪の結果をもたらすためである。 このルートを通るマッドサンダーは5機。 他のルートからの進撃も考えられるが遠回りとなってしまい、何より予定しているゼネバスシティ攻略戦に、 マッド師団の数がそろわない事になる。 彼らにとってそれが一番の最悪の事態なのだ。 「完全に手玉に取られているな」 そういって唸る将校。 彼は前衛部隊を任されていたのだが、この事態に頭を悩ませていた。 「敵はウルフ以上の性能を持った新型ゾイドのようです。機数は分かりませんが、それ相応の数が必要とさ れると思われます。そのため、我が隊の高速機の数だけでは……」 そういって語尾を弱める下士官。 「やはり高速ゾイド部隊には、高速ゾイド部隊をあてがう他ないか。 第7軍のグッフェ少佐に至急、協力要請を」 「はっ」 敬礼とともに下士官が走る。 果たしてこんな場当たり的な考えで、敵を追い払えるのかと自問自答視ながら空を見つめる。 「成果は上々のようだな。君の作戦のおかげで、敵にライジャーに対する畏怖感情を植え付ける事ができた。 敵が手間取っている今、デスザウラー改造計画も順調に進むだろう」 そういって満面の笑みでフラブの肩を叩く将校。 「いえ、祖国の為に当然の事をしたまでであります」 「しかし……次は彼らとて本腰を入れてくるだろう。そこでグレートサーベルを新たに君の作戦に加える事 とした。次も確実に奴等の足を止めてくれ」 「はっ」 かかとを鳴らして敬礼をするフラブ。 去り行く将校の背を見ながら思う。おそらくその次はないのであろうと。 再び街道沿いに姿を現す共和国部隊。 当初の部隊内容とは違い、主力と思しきベアファイターやコマンドウルフを中心とした高速部隊が、常時警 戒しながら進撃していた。 「予定進撃ポイントまで後わずかか。さすがに今回は出てこないか?」 本隊からかなり離れたところに配置された後方護衛部隊のアロザウラー隊のパイロットがつぶやく。 出撃以来、気を休める事も出来ず、常に緊張感を強いられるこの状況にも飽きてきていた。 しばらくして、前方の方からズンという鈍い音ともに煙が濛々と上がっているのを確認する。 「始まったか?」 慌てる様子もなく随伴のグスタフに設置された通信担当オペレーターに問い合わせる。 『前衛部隊が地雷原に入ったようです。現在、地雷撤去作業に入っています』 「了解、作業終了まで周囲の警戒にあたる」 そう言いながら足をコンソールに投げ出す。 その間も前方のほうでは爆音とともに無数の煙が立ち昇る。 今ごろ前衛部隊は地雷撤去に躍起になっているのだろうと思いながら、緊張続きで疲れていた体を休める。 ビーーッ アラームに慌てて操縦幹を握る。 と同時に何機もの機体がキャノピー越しに飛び越えて行くのが見えた。 「ちっ、命拾いしちまったぜ。全部隊に警告!!敵が後方部隊を飛び越えて前衛本隊に向かっている模様、以上」 慌てて敵部隊を追いかける。 相手は上空を悠々と飛び、彼らを置き去りにして行った。 必死に追いかける彼らの後方から再び何者かが襲いかかってくる。 間髪その攻撃をよける事に成功したが、反転したその機体は異常な速度でこちらに向かってくる。 見慣れない機体だと思いながら、対抗すべくビームを放って応戦するアロ。 だが敵はスピードをほとんど落とさないまま、ビームを避けて行く。 そしてすれ違いざまに放たれたビームが、足にあたり、数回転した後に前方を見るとすでに敵の姿は遠くの 方にあった。 あわてて機体を起こそうとするが、さっきの攻撃で思うように動かず、前進を断念するパイロット。 「くそっあれが例の新型か。こうもスピードが違うと、まともにやっても勝てねえな」 無念そうにつぶやく。 前衛本隊に数機のサイカーチスが接近すると、地上にいる部隊に向けて攻撃を開始する。 連絡を受けていたとはいえ、十分な対応を取る事ができずに慌てふためく各部隊。 最初はされるがまま攻撃を受ける共和国部隊だったが、しばらくして反撃に転じる。 数で少ないサイカーチスは、次々に撃墜されて行った。 そこにグスタフからの敵接近の知らせが続く。 1機のゾイドが驚異的スピードで本体を貫くように駆けて行く。 その後を必死に追いかけるウルフ隊。 だが、直線でのスピードの違いに離されて行く。 「なんて奴だ……!!」 悪態を吐くウルフのパイロット。そこに両脇の丘から飛び出る黒い機体。 帝国軍のグレートサーベルだ。 完全に不意をつかれたウルフはあっという間に餌食にされていく。 ウルフだけでは足りぬと本体のベアファイター隊に牙を向ける。 しかし、ベアの後方から無数のビーム砲が、グレートサーベルに向けて放たれる。 「なんだ!?」 慌てるパイロット。
はるか後方から、20機を超えるコマンドウルフMK−2を従えて砲撃しながらやってくる数機のシールドラ イガーMK−2の姿が見えた。 その上空を無数のダブルソーダが飛ぶ。 「MK−U部隊所属の機動大隊か!?」 ライジャーのパイロット、フラブがうなる。 あの機動力に砲撃能力が加わったシールドライガーMK−2や機動性重視のノーマルタイプも見受けられる。 そして多数のウルフが勝ち目のない戦いである事を示唆していた。 ライジャーの最高速度を持ってすれば、振り切れる可能性はある。 だがグレートサーベルは違う。 スピードではMK−2と同等、ノーマルタイプより劣る。 俊敏姓を持って逃げおおせる可能性もあるが、上空のダブルソーダが確実にこちらの位置を相手に教える。 逃げ切れる物ではない。 『ツイスト1からガーベラへ。貴君の脱出の援護をする』 「……!!」 驚きの色を隠せない彼を置き去りに、2機のグレートサーベルは敵部隊へと突撃する。 16連ミサイルが共和国部隊に襲いかかる。 『何をしている!!我が帝国のために生き延びてく……』 通信が途絶えるとともに遠くで大きな爆発音が聞こえる。 それを合図とするかのようにゼネバスシティに繋がる道を走るライジャー。 その動きを察知してダブルソーダが追撃に入ろうとする。 そこへグレートサーベルから放たれた無数のマイクロミサイルが、次々に命中して行く。 「勝手にやったと思われても困るんだなぁ」
そう言ってまともに動けない機体を無理やりに起こす。 『大丈夫か?』 「ああ、グレートサーベルの真価を見せつけてやらねば」 そう言うと、近くにいたコマンドウルフに飛び掛かる。 牙をたて、装甲をえぐるグレートサーベル。 そこにシールドライガーMK−2が、グレートサーベルの背後から砲撃を行う。油断していたグレートサーベ ルの高速機動ユニットに直撃し、その場に倒れ込む。 そこへ起き上がろうとする彼を、数機のウルフが飛び掛かって引き裂いていく。 新型機を逃し、たった2機のグレートサーベルに大損害を受けて戦闘は終了した。 この戦闘終了後、予定ポイントに到達した本隊は駐屯基地を設置。 これ以後、この街道で帝国軍の襲撃は行われなくなった。 それから数日後、死竜との決戦に向けて巨体を揺らしながら進撃する一団がいた。 パイロットは周辺に散らばるゾイドの残骸に敵味方区別なく敬礼すると、足を速めて西へと行くのであった。
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