本土防衛1
ZAC2103年、ヘリック共和国と同盟を結んだガイロス帝国は、中央大陸での争いをよそに比較的平和な状態が続いていた。 しかし、2年前に行なわれた本土決戦で受けた傷は深く、軍の戦力は著しく衰退し、大陸に点在する町や基地も、戦争の傷跡が癒えてはいなかった。 ルドルフ皇帝の元、彼らは必死に元の生活に戻る為に町の復興に努めていた。 だがそんな彼らを脅かす存在があった。 中央大陸で覇権を握ったネオゼネバス帝国である。 同盟国であるヘリック共和国を崩壊させ、次はガイロス本土へと来るのではないかと戦々恐々であった。 とはいえ、それはネオゼネバスも同じであった。 中央山脈に立てこもる共和国残党や元共和国国民の不満への対策。 国内でやる事は山のようにある。 この様な状態の時にガイロスに攻め込まれたくはない。 彼らを最後の希望と考えているであろう共和国残党を勢いづかせてしまう。 両国の思惑が互いを牽制しあう日々が続き、仮そめの平和をもたらしていた。 ガイロス帝国のあるニクス(暗黒)大陸では、短い夏が終り、秋を感じさせないまま長い冬が訪れようとしていた。 青くどこまでも続くような空の海を2機のレドラーが南へと飛んでいく。 その先には空海ゾイドを寄せつけない魔の海域、トライアングダラスがある。
「間もなく危険空域だ。エーゲ2、アンノンは見えたか?」 平行して飛行するレドラー2号機に尋ねる。 『いや、姿形も見えない。魔の海域が近いせいでレーダーもおかしい』 「燃料の事もあるので、しばらく警戒したら引き上げるか」 『了解。』 返答とともに機体を左に傾けて旋廻する。 「大体こんな所から敵が来る事なんて・・・・」 エーゲ1が愚痴をこぼしかけた時、耳鳴りのような音が聞こえたかと思うと、右の翼をビームがかすめる。 「うぉ!?」 唐突に受けたビーム砲に、機体のバランスを崩してジグザグに飛ぶエーゲ1。 ゆれる機体を制御しつつ、辺りを見回す。 そこに現れた影。 「!?こ、こいつは・・・・」 『エーゲ1大丈夫か!?』 「これがゼネバスのキメラドラゴンか・・・・」 エーゲ2への返答も忘れて上空を飛ぶゾイドを見上げながらつぶやく。
何とか機体の制御に成功したエーゲ1は、低空を飛ぶ。 エーゲ2はキメラドラゴンの後方につこうとしていた。 「本土へ通報した後、このまま追跡する。」 『りょうか・・・・ん!? うぁ!?』 通信機から聞こえる悲鳴。 「どうしたルフェスト!?」 思わず名前で呼ぶ。上空を見上げると、もう1機のキメラドラゴンがルフェストのレドラーを串刺しにしていた。機体にスパークが走ると炎を上げ、煙を引いて落下していく。 「くっ、こんな無人機ごときに・・・・・・」 落下する機体を操作しながら、必死に海面との激突を避けようとするエーゲ2。 そうしている間にコクピット内に火がつく。 「消化剤を・・・」 その言葉を打ち消すように次の瞬間、機体全体が爆発する。 四散したレドラーの破片が海上の波を荒立てる。 「ルフェスト・・・・!!」 「くそっ!!エントラス、エントランス、こちらエーゲ1」 『コチ・・エント・・・ス基地、ど・・・ぞ』 「アンノンをキメラドラゴンと確認、機数は不明。ですが我々の領空を侵犯するだけでなく、我が軍への攻撃も確認しました。 その際エーゲ2を失いました。至急、臨戦態勢と援軍を請う。 エーゲ1はこのまま追跡を続行予定。以上。」 口早に報告すると上空を見る。 「なっ!?」 いつのまにか急降下してきたキメラドラゴンがエーゲ1に襲いかかろうとする。矢継ぎ早に放たれる砲弾。 何発かはプロペラントを撃ち抜く。 撃ち抜かれた箇所から漏れる燃料。 「くっ・・・・」 慌ててプロペラントを切り離すエーゲ1。
プロペラントは、切り離してしばらくすると爆発を起こす。 その爆発を盾に何とか砲弾の雨の中をくぐり抜け、さらに後方に移動して距離を置く。 するとキメラは気にするそぶりを見せずに悠々と北に向けて進路を取り始めた。 再び襲撃してこないか警戒しつつ、辺りを見渡す。 周りを飛んでいるのは2機のキメラドラゴンと、随伴と思われるフライシザースが4機確認できた。 再びエントランス基地へ報告を送る。 「プロペラントをやられた以上、派手な行動は出来ないな」 悔しそうにいう。 しばらくすると遠くのほうに大陸がかすかに見える。暗黒大陸だ。 「敵(かたき)はみんながとってくれる・・・・」 やられた仲間の事を思いながら、自分に言い聞かすようにつぶやく。 『こちらアーミー1、キメラ退治は我々が引き受けた。エーゲ1は基地へと進路をとれ』 ぽっかりと浮く雲を背にした飛行隊を確認する。 「了解」 後ろ髪を引かれつつ、基地へと進路をとるエーゲ1。 5機のレドラーBCが次々とキメラドラゴンに襲いかかる。 フライシザースが応戦する為に機首を上に向ける。 瞬く間に繰り広げられる空中戦。 そのタイミングを待っていたかのように海上から無数の砲弾が、キメラドラゴンを襲う。 海上で待機していたブラキオス艦隊が対空砲火を浴びせたのだ。 そのうち1機のキメラドラゴンの胴体と翼に砲弾が命中し、バランスを崩して墜落する。 凄まじい音と高く舞い上げられた海水が水柱を作り、辺り一帯に水しぶきが舞う。 「やったか?」 「油断するな、海上のブラキオス艦隊と海中のウォデックに確認させろ。」 海中に沈んだキメラドラゴンを捜索するガイロス海軍。 一方もう1機のキメラドラゴンは悠々と大陸に向けて飛び続ける。 頼みの綱のアーミー隊は、フライシザースにてこずっている。 増援部隊は滑走路付近で慌ただしく発進準備をしていた。 「あいつらなにやってんだ・・・・」 味方の手際の悪さにぼやく。 エントランス基地の滑走路にある誘導灯を確認しながら、戦闘空域を見つめる。 それを見ていると苛立ちが募るばかりだ。 苛立ちが限界に達し、瞬時に機体をキメラドラゴンの方へと向ける。 『エーゲ1どうした!?』 「あれをあのまま大陸に入れさせるわけには行かないでしょう?」 そう言ってキメラドラゴンに攻撃を仕掛ける。 翼に装備されたビーム砲を連射する。命中する前にはじかれるビーム。 「生意気にシールドとは・・・・」 キメラドラゴンは何事も無かった様に悠然と飛び続ける。 「それならば・・・・!!」 気に食わないとばかりにスロットルを全開にし、限界速度ギリギリまで上げる。 翼を大きく広げ、そのままキメラドラゴンに突っ込む。 キメラドラゴンは再びシールドを張ると、レドラーの進行方向に機首を向ける。
それを見たエーゲ1は、一旦機体を降下させて突き上げるように上昇する。 懐に入ると同時にレドラーの切断翼が、キメラドラゴンの翼を引き裂く。 引き裂かれたキメラドラゴンはエントランス基地近くの海岸線に向けて墜落していく。 そこにはあらかじめ待機していた地上部隊が、てぐすね引いて待っているはずだ。 もう自分に出番はない。 そう思うと張り詰めていた気持ちがすっと抜け、通信機の向こうから聞こえる上官の命令違 反という言葉が耳に入る。 やれる事はやった。どうにでもしてくれと思いながら、滑走路へと向かうのであった。
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