屈辱の中で
 ZAC2102年、暗黒大陸で行われていた第2次大陸間戦争は、プロイツェンの反乱と 同時に行われたネオゼネバス帝国の建国宣言。 それにともなうヘリック、ガイロス両国の戦争終結宣言と同盟の締結。 そしてプロイツェン自らを犠牲にして敢行された首都ヴァルハラでの自爆。 これによって両軍ともに大きく戦力が削がれ、戦闘不能となった。 だが戦火は絶える事なく、再び中央大陸で繰り広げられる事となった。 ネオゼネバス帝国第2代皇帝となったヴォルフ・ムローアがアイゼンドラグーン師団を 率いて中央大陸へ上陸したのだ。 彼らにとっては懐かしの故郷への帰還。 だがそんな郷愁に浸ることもなく前進を続ける。 目標は、ヘリック共和国首都ヘリックシティ。 主力部隊を大陸間戦争に投入していた共和国軍は、僅かな守備隊でこれに対抗するが アイゼンドラグーンの新型ゾイドと新兵器に対して有効な対抗策を講じる事が 出来ないまま次々に壊滅していく。 最後まで戦闘の指揮をとっていたルイーズ大統領も、首都攻防の際に行方不明となった。 このニュースは各地で必死の抵抗を続ける共和国軍の士気をおおいに落とす。 それから間を置かずに、残存部隊をまとめて再編成を果たしたヘリック共和国軍主力部隊が上陸。 首都奪回の為に一気に進軍する共和国軍。 中央大陸の各地の守備隊と合流しながら進軍した為に、ヘリックシティに 到着する頃にはアイゼンドラグーンをゆうに上回る数になっていた。 そしてその動きを察知したネオゼネバスは、シティ周辺に防衛網を張り、 共和国軍の進軍に備えはじめる。 ヘリックシティから数十キロはなれた所にある基地で主力部隊が待機していた。 大所帯となっているために、ところせましとゾイドが並べられている。 その下では何倍もの兵士がうごめいていた。 その間を縫う様に一人の男が歩く。 「こんなにたくさん呼んで町ごと消すつもりかよ」 男のパイロットスーツはすすだらけで所々やぶけていた。 彼が見上げる先には、ディバイソンの超硬角やガンブラスターの ハイパーローリングキャノンの砲塔が太陽の光を浴びて輝いている。 さらに上空ではレイノスやストームソーダなど空軍部隊が、 しきりに基地周辺の警戒飛行を行っていた。 しばらく歩いていると、その脇を集団で歩いて行くゾイド達が目に入る。 ヘリックシティへ向かう先遣隊だ。 「先遣隊の連中かよ。とっと陣取ってこいってんだ」 そう言うと胸ポケットから煙草を取り出す。
「おいラスタニアン、ちゃんと拾ってけ」 「そこのみすばらしいの!!こんな火器がたくさんある所でタバコなんて吸うんじゃねぇ!!」 ひとしきり大きい声がその場にこだまする。 と同時に駆け寄ってくる年老いた整備士。 「何だよ、人の楽しみを奪うきかよ!それにみすぼらしいのって何だ!?」 「そのまんまいってやっただけなんだがね。言われたくなかったらいいかげん新しいのに着替えな。」 そう言って格納庫の脇に積まれた真新しいスーツを脇目で見る整備士。 「後、タバコなら喫煙室で吸いな、おまえさん一人の勝手でみんなが迷惑するんだ。」 そう言って睨みつける。 「へいへい。」 そういうとくわえたタバコを地面に落とし て足で火を消す。 その場を去ろうとするラスタニアンを捕まえるとそういう。 「ちぇっ、喫煙者には心休まる所はないのかよ。」 「だから喫煙室があるんだろ、くだらないこと言ってないで、とっとと行きな」 「そういうわけにもいかないんでね」 そう言いながらタバコを拾うと、格納庫の奥へと向かう。 格納庫の奥で整備を受けている1機のゾイド、ケーニッヒウルフの姿があった。 機体は灰色に近い白を基調とした塗装がほど越されている。 この最新鋭ゾイドは、生産が開始されたばかりで配備数も少なく、主に特殊部隊や 各重要拠点などに配備されていた。 最近ではマッドサンダー建造工場での活躍が記憶に新しい。 だが目の前にいるケーニッヒはあちらこちら傷つき、ボロボロになっていた。 脇に置かれたデュアルスナイパーライフルも砲身が曲がっている。 「よう、捨て去りラスティ」 にやにやした顔をして声をかける整備士。 その言葉に顔をゆがませる。 捨て去りラスティ、この基地でのラスタニアンのあだ名だった。 彼は転属などではなく、首都でネオゼネバスの攻撃を受けて壊滅した部隊の生き残りの 一人としてこの基地に撤退してきたのだ。 彼ら生き残った者に対してつけられたこのあだ名は、゛首都を捨ててきた奴ら゛という レッテルに他ならない。 汚名を返上したい一心で再び戦場に赴いた者もいたが、帰ってきた者はいなかった。 ラスタニアンもそのように思っていた時期もあったが、機体の状態が悪すぎた為に それすら出きなかった。 「そのあだなはやめな」 そう言って奥から整備士の服を着たがたいのいい男が現れる。 「は、はい」 小さくなりながらそういうと居心地が悪くなったせいかその場からはなれる。 「すまんな、あとでいいかせておく」 そう言うと頭を下げる。 「いや、気にしなくて言いさ。それでおれになにか用なのか?」 そう言って応えるラスタニアン。 「おまえのケーニッヒのことだ。あのケーニッヒ、少しわがまま過ぎるないか? 昨日から修理をしているんだが、さわるたんびにごねてなかなかすすまなねぇ」 困った表情を見せて、お手上げだと言いたげに軽く両手を天に向けてあげる。 「悪いな、こいつは自分が気に入らない事をされるのが嫌なんだ。 だから様子を見ながら修理をしてやってくれよ」 頭をかきながら苦笑するラスタニアン。 「そりゃそうしてやりたいが、今はそんな悠長なことも言ってられないだろう。 先遣隊の連中を見たか?」 そう言うともの思いにふけるように格納庫の外に目を向ける。 遠くの見果てぬ戦場を見るように。 「ああ、見たよ。今晩中にも移動命令が出てもおかしくはないだろうな」 「ならこんな状態で戦場に行きたくはないだろう?」 そう言われて自分の愛機を見る。 数日前から行なわれているわりには、まだ所々目につく装甲のめくれが見える。 「分かった、説得してやるよ。頼みたいこともあるしな。」 そういうと整備士とともにケーニッヒの元へと向かう。 2日後、集合の合図とともに部隊が次々に基地を離れていく。 いよいよヘリックシティを奪還する作戦が発動されたのだ。 格納庫の脇にはケーニッヒが完全な状態で待機していた。 整備士達が徹夜で作業してくれたおかげだった。 そして彼のケーニッヒの前には同型のケーニッヒが何機も並んでいる。 部隊が壊滅したラスタニアンは、再編成の際にケーニッヒを集中運用する部隊に配属されていた。 昨日までとは違い辺り一帯の空気が張り詰めている。 決戦は間近に迫っていた。 『おい、この間みたいに逃げ出すんじゃねえぞ』 ふいに入ってきた通信モニターには、こちらを下げずむように見ながらニヤニヤした男が映っている。 「ドゥキ、そんなくだらん事を言いに通信を使うな。」 苛立ちを隠せないラスタニアン。 「けっ、敵前逃亡するような奴が何をえらそうに!!」 そう言うと通信を一方的にきるドゥキ。 「くそ・・・・!」 そういって悪態をつくが、心の中では気持ちを切り替えようとする。 数分後、各部隊に出撃命令が下されて一斉にヘリックシティへ向けて走り出す。 ゼネバス側のレーダーには正確な数が分からないぐらいのレーダー反応があっただろう。 数の少ないアイゼンドラグーン師団は、新型ゾイドダークスパイナーを中心に展開する。 前衛部隊が先手必勝とばかりに、アイゼンドラグーン師団に向けて砲撃が開始。 対するアイゼンドラグーン師団は、ダークスパイナーを守ようにバーサークフューラーを 主力とする部隊が前面に展開して行く。 前衛部隊同士の衝突が開始された。 さまざまな場所で、激しい戦闘が繰り返される だが数で有利な共和国軍が、勢いに任せてアイゼンドラグーンを押している。 そこにタイミングを見計らって、数十機のダークスパイナーが姿を現す。 進撃する共和国軍に向けて、必殺のジャミングウェーブが放つ。 ダークスパイナーから放たれる電波を受けた共和国ゾイドは、次々にコントロールを 失って同士討ちを始める。 また動けなくなった機体に群がる小型ゾイドも見える。
ラスタニアンの部隊もウェーブの圏内に入っていたために、各所で同士討ちをはじまっていた。 「ケーニッヒ、こらえろ!!」 先日の修理の際に対電波対策を施していたのだが、かなり強力な電波らしく全てを防ぎ切ることはできなかった。 ラスタニアンのケーニッヒは、ウェーブを受けてコントロールされそうになるのを必死に抵抗する。 ふと前を見ると目の前にダークスパイナーがいるのを発見する。 余裕を見せながらじわりじわりとこちらに向けて近づきながらウェーブの照射をしているのが見えた。 その姿を見てヘリックシティでの戦闘を思い出す。 次々に倒れて行く仲間達の姿が頭をよぎる。 「くっ!!」 こいつを倒して一矢報いたい。そんなラスタニアンの気持ちとケーニッヒの気持ちは同じだった。 操られそうになりながらも必死にダークスパイナーに接近する。 あまり近づきすぎると、さらに強力なウェーブを受ける可能性があったために ある程度近づいた段階でスナイパーライフルとミサイルポッドで敵の動きを封じにかかる。 全体の戦況が共和国軍の不利な方へと傾いていたが、気にせずに目の前の ダークスパイナーに集中した。 「こいつ、まだ落ちないのか!?」 ダークスパイナーのパイロットはジャミングウェーブを受けながらも攻撃をしてくる ケーニッヒを見て驚きを隠せない。 ジャミングウェーブを照射している時は、前傾姿勢をとっている為に機敏な動きができない。 「ちっ、こうなれば・・・・・!!」 ケーニッヒの攻撃をかわすために照射体制を解く。 そして続けざまにマシンガンを放って牽制するダークスパイナー。 ウェーブの照射が無くなり、ケーニッヒにかかっていた負荷が一気に消える。 「今だケーニッヒ!!」 彼の言葉に応えるようにダークスパイナーに飛び掛るケーニッヒ。 レザークローがダークスパイナーの背びれを引き裂く。
「くそ、ジャミングウェーブが・・・!!キラードームはどこだ!?」 そう言って周辺にダークスパイナーの支援ゾイドであるキラードームを探すパイロット。 「合体なんてさせるかよ!!」 首都での戦闘でキラードームとダークスパイナーが合体する事を見知っていたラスタニアンは、背中のスナイパーライフルでとどめを指しにかかる。 だが放った銃弾はことごとく赤い盾が防いだ。 「あれは!?」 シュトゥルムユニットを装着したバーサークフューラーがケーニッヒの前に立ちはだかる。 「くそ!!」 悔しがっている間に、また機体に負荷がかかる。 ケーニッヒに向けて、再びジャミングウェーブ照射がされたのだ。 「なに!?どこから・・・・」 よく見ると、ヘリックシティの方からやってくる新たなダークスパイナーの姿が見える。 そこに通信が入る。 『全軍につ・・・・戦闘をち・・・・・・りだ・・・・・よ』 と切れ途切れに聞こえる通信内容は、なんとなく把握できた。 よく見るとまわりで戦っていた味方機の姿はほとんどなく、無残な屍をさらしていた。 「撤退って言ってもこの状況で、どうしろっていうんだか・・・・」 徐々に囲まれつつある状況下に焦りの色を隠せない。 こちらの思いなどお構いなくキラードームと合体したダークスパイナーがビームを放つ。 ジャミングウェーブの影響でおもうように動けずにビームを数発食らう。 「さっきの礼だ!!」 そう叫びながら攻撃してくるスパイナーのパイロット。 ミサイルなどで動きをカバーするが、うまくいかない。 (仇も討てずにこんなところで・・・・・・。) 絶望感に襲われるラスタニアン。 「ちぃぃ!!」 そう叫びながら突撃するラスタニアン。 だがそんなやけくそな攻撃をまともに受けるものはいない。 多連装ビームを受けてあっさりとその場に倒れこむケーニッヒ。
薄れていく意識の中でキラースパイナーが近づくのが見えた。 (結局願いかなわずか・・・。) そう思いながら意識が薄れて行く。 ボンっという音ともに急激なGが体にかかり揺さぶられる。 見開いた目の先には空と大地が現れる。 「!?」 コクピットの緊急脱出装置が作動したのだ。 下を見るとラスタニアンを排出したケーニッヒが、近づいて来たダークスパイナーの 喉元にかみついているのが見えた。 彼を逃がす為に必死の抵抗をするケーニッヒ。 そのままスパイナーの首付近の装甲を引きちぎって再起不能にした。 だが間髪入れずにフューラーが現れ、スピードを活かした体当たりでケーニッヒの動きを封じ込める。 動きが止まったところでもう一機のダークスパイナーとともに集中砲火を浴びせる。
まともに攻撃を受けたケーニッヒは爆発炎上した。 なお立ち上がろうとするが、再び倒れこんで二度と立ちあがる事はなかった。 それらの一部始終を落下傘で降りながら見つめるラスタニアン。 そして最後に胸元で十字を切って愛機の冥福をいのった。 着地してしばらくすると味方の救援部隊に拾われて難を逃れた。 この戦闘で大敗したヘリック共和国軍は、急激にその勢力を弱めていく。 この事により、中央大陸での勢力分布図が一気に様変わりした。  数ヶ月後、旧ゼネバスシティにネオゼネバス帝国二代皇帝ヴォルフ・ムローアが遷都を行ない、 帝国を既成事実化させる。 その後も抵抗を続ける共和国軍は、中央山脈へ立てこもり、反撃のチャンスをうかがう事となった。 中央山脈の秘密基地で眼下の平野を見つめるラスタニアン。 「いつか必ず・・・・・・」 そう小声でつぶやくと目の前に建造中の大型ゾイドに向けて歩き出す。 その巨体は今後の共和国の運命を握るものだった・・・・。
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