希 望
ZAC2106年春、町のいたるところで花が咲き誇り人々の心をなごます。 だが中央大陸では、春の訪れとともに中央山脈北部から共和国軍が一大反抗作戦を開始された。 以前から予想されていた事とはいえ、アロザウラーの格闘能力、そしてジャミングウェーブを 無効化する事に成功したゴルヘックスの力により、ネオゼネバス帝国軍守備部隊は苦戦を強いられる。 共和国軍の目的は北の海に面した港町クック。 旧共和国軍の最大の北港で、近くには野生ゾイドが多く住む地域も近い重要拠点であった。 その共和国軍の前に進行を阻止すべく攻撃をかけるネオゼネバスの部隊。 先頭には最強の名をほしいままにするダークスパイナーが立つ。 ダークスパイナーに装備されたジャミングウェーブは相手の機器に影響を狂わすことのできる機体。 しかし、ジャミングウェーブはほぼ無効化されその能力は発揮する事はできない。 それでも個々の潜在能力は非常に高く、キラードームと合体したキラースパイナーの戦闘力には目を見張る物がある。 さすがの共和国軍もその姿を見て動きが鈍る。 たじろぐ共和国軍の後方から現れる1機の巨大ゾイド。 青と明灰色のツートンカラーに包まれたゴジュラスギガが姿をあらわす。 これこそ共和国軍の切り札、そして希望であった。 装甲にはジャミングウェーブを無効化する古代チタニウムが使用されている以上、2機の対決はその格闘能力にゆだねられる。 スピードを活かして懐に近づこうとするダークスパイナー。 だがゴジュラスギガは体を前のめりにすると、その巨体に似合わぬスピードで、ダークスパイナーに近づく。 その事に驚いたスパイナーのパイロットは、ゴジュラスギガの巨大なバイトファングの餌食となった。
その一部始終を見ていた一般兵達が歓声を上げる。 勢いに任せてクックへと進攻を再開する主力部隊。 同時刻、本隊以外に山脈の東側からも共和国軍は平野部へとなだれ込んだ。 先頭を歩くのはゴジュラスギガ1機、他は後方にジャミングウェーブを遮断する為のゴルヘックスが1、 前衛とゴルヘックス護衛の為のスナイプマスターとウネンラギアが9という本隊とはかけ離れた陣容の部隊だった。 数が少ない上、戦力といえるのはゴジュラスギガのみ。 「ったく俺はいつからこんな扱いをされる様になったんだ?」 そう言って愚痴をこぼすギガのパイロット。 『ルッセルフ・ドルマン少尉、私語を慎みたまえ。我々はあくまで・・・・』 通信モニターの男が言う。 「わかってますよ。アルデニッヒ少佐。少佐も空でこちらを伺わずに降りて餌撒きでもしませんか?」 「せっかくのお誘いだが、そんな気は毛頭ないな」 「ちぇ」 不満そうな顔で舌打ちをする。 これは散り散りになっていた部隊を各地域の本隊と合流させる事と、山脈付近の移動ルートを確保する為の囮として彼らは平野部へ下ったのだ。 だが通常のゾイドでは敵を誘う事はできない。 その為にゴジュラスギガというおいしいえさを撒く必要があった。 ルッセルフは、1ヶ月ほど前にゴジュラスギガのパイロットとして任命され大いに喜んだのだが、数週間前にこの作戦への参加を知らされ、上層部に対して腹を立てていた。 「せっかくの機体が敵に渡ったらどうするつもりなんです?」 『そうならないと見込んで君が任命されたのだ、ぜがひでもクックへ持ち帰るんだな』 (チッ、他人事みたいに言いやがって・・・・!!) そんな事を心の中で思う。 『2時の方向から敵部隊接近、距離二十。数は三十。内大型と思われるのは2機』 「了解、さーて、うさ晴らしに行きますか」 ルッセルフの言葉に呼応してギガが叫びを上げながら追撃モードへと変形する。 ダッと走り出すギガに6機のウネンラギアとスナイプマスターが続く。 「機種はいまだ不明か、もうすぐすれば分かるか」 接近しながら敵の機種を確認するルッセルフ。次第に機体の判別がつき始めるとモニターに次々と表示される。 ロードゲイル1、他は陸戦型のキメラゾイドだ。 だがモニターには少し離れた所に大きな反応があり、遅れて機体識別名が表示される。 「・・・・おいおい、とんでもないのがいないか?」 モニターに表示された海さそり型ゾイドに冷や汗を流す。 真オーガノイドシステムを搭載する最凶のゾイド、デススティンガーである。 間を置かずにデススティンガーに光りが収束していく。 「やばい!!各機散開!!」 その言葉に反応してウネンラギアとスナイプマスターが、その場を離れて行く。
足を止め戦闘モードに入ると、ゴジュラスギガはEシールドを展開する。 と同時に放たれるデススティンガーの荷電粒子砲が、ギガのEシールドを直撃する。 荷電粒子砲を耐えきるとすぐさま追撃モードに変形し、巨体を揺らしながら100kmを越えるスピードで詰めよる。 近づくギガに攻撃を仕掛けてくるキメラゾイド。 しかし相手にならず、ギガは次々に蹴散らして行く。 そこにロードゲイルがスピアをギガの頭部に向けて突きつけてくる。 「そう簡単に・・・・!!」 そう叫ぶと同時に機体を回転させてテイルスマッシャーの一撃を加える。 「ちっ!!思った以上に動きやがる・・・。」 ロードゲイルパイロットが舌打ちする。 攻撃を避けきれなかったロードゲイルは、右腕と翼を失ったために一時後退する。 そこへチャンスとばかりにウネンラギア群れが襲いかかる。 飛び掛るウネンラギアに、スピアを突きつけて応戦するロードゲイル。
そこにフライシザースが現れてロードゲイルと合体する。 復元される右腕と翼。 復元された翼を広げると仰ぎ始める。 機体が中に浮きウネンラギアの攻撃をかわす。 よろめくウネンラギアに胴体にスピアを突きつけて串刺しにする。 間を置かず攻撃してくるウネンラギアを、今度は右腕のエクスシーザスで捕まえると、そのまま真っ二つに引きちぎる。 「こんなやつらに!!」 ロードゲイルのパイロットがうめく。 そこに新たに数体のキメラが現れて、ウネンラギアと格闘戦に持ちこむ。 その中をデススティンガーが巨大な爪を振りまわしてゴジュラスギガに襲いかかる。 飛びついて動きを封じようとするデススティンガーを尻尾で跳ね除ける。 「そんな単調な攻撃が通用するとでも・・・・」 そこで言葉がさえぎられる。 大きく揺れる地面の中から巨大な爪がゴジュラスギガを襲う。 「なんだ!?」 唐突の事に左腕をその爪に持っていかれ、悲鳴を上げるギガ。
2機目のデススティガーが姿をあらわす。 「新型だからってそう簡単にデススティンガーに勝てると思うなよ!!」 愛機の能力を信じているのであろう、自信に満ちたパイロットの声が響く。 そこにもう1機のデススティンガーがとどめを刺そうとゴジュラスギガに向けて荷電粒子砲を放とうとする。 だがそうはさせまいとすぐに起き上がったゴジュラスギガが、逆に発射体制のデススティンガーに襲いかかる。 「なんだと!?」
思った以上の運動性に驚くパイロット。 短い右腕でデススティガーの尻尾を持つと、砲身を握りつぶす。 そして尻尾を持ったまま、右足でデススティンガーの右腕を数回踏みつける。 悲鳴を上げるデススティンガー。 そこにもう1機が助けようと2機の間に入ってくる。 素早くその場を離れるギガ。 踏みつけられていたデススティンガーの右腕はひしゃげて使い物にならなくなる。 割って入ったデススティンガーが、ギガの方を向いて身構えようとした一瞬の隙を突いて素早く近づいたゴジュラスギガが、デススティンガーの尾をその巨大な口で食いちぎる。 器用にスティンガーの体を抑えると、先ほどと同じく背中を巨大な足が踏みつける。 踏みつけるたびに鳴り響く地鳴り。 装甲が厚く頑丈で有名なデススティンガーだが、この攻撃には耐えられずに装甲はきしみはじめもがき苦しむ。 「アスト中尉!!くそっ、このゴジュラスもどきが!!」 右腕をやられたデススティンガーがビームを放って牽制する。 その事に気づいたルッセルフは、足元のデススティンガーが動かない事を確認して追撃モードに変形してもう1機の右腕を失ったデススティンガーに襲いかかる。 再び巨大な口をあけてデスティンガーを噛み砕こうとすると、残った左腕でそれを阻止するデススティンガー。 だがゴジュラスギガの牙は、その腕を噛み砕く。噛み砕かれてのけぞるスティンガー。
その隙を突いて、デススティンガーを蹴り上げて横転させる。 お腹を見せてその場で力尽きるデススティンガー。戦闘力は失われたように見えた。 動きを見せないデススティンガーを尻目に、もう一機のデススティンガーの方に目をやると、何とか復活して地面から這い上がっていた。 その生命力に驚きはしたものの、足は震えて今にも倒れそうだった。 『これ以上の戦闘は無意味である。降伏を・・・・』 その状態を見て降伏勧告を行なっている時、上空からロードゲイルがゴジュラスギガに襲いかかる。 油断していたルッセルフは、その攻撃に対処することができずに近づくロードゲイルを見ていた。 千載一遇のチャンスを逃さないとばかりにフルスピードでギガのコクピットめがける。 ピ―!ピー! ロードゲイルのコクピット内に鳴り響く警告音。 「な、なんだ!?」 動揺するパイロット。 ドンという音とともに機体が大きく揺れ、制御不能に陥る。軌道をそれたロードゲイルはそのままの体制で墜落する。 そこに起き上がったデススティンガーが、ビームを放ちながら近づいてくる。 真オーガノイドシステムを搭載したデススティンガーの回復能力は思ったより高く、先ほどまで瀕死の状態だったと思えない素早い動きを見せて、ゴジュラスギガの懐まで接近する。 「・・・・・・絶対に倒す!!」 バイトシーザスを胸に向けて突きつける。 「このぉぉぉぉ!!」
思わす叫びながら、素早く体を回転させてテイルスマッシャーをデススティンガーに浴びせる。 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 デススティンガーのパイロットの叫びとともに、尾の一撃を受けて吹き飛ぶデススティンガー。 地面に叩きつけられたデススティンガーは、しばらく痙攣を起こした後、動かなくなって沈黙する。 それを見届けたルッセルフは上空を見る。 そこにはアルデニッヒの乗るレイノスが翼を羽ばたかせていた。 「ゾイド乗りとしてはまだまだだが、ギガが導いてくれるだろう。」 上空で旋回しつつ、眼下のゴジュラスギガを見ながらそうつぶやいた。 それから数時間後、クック基地ではブラッティデスザウラーとゴジュラスギガの死闘が繰り広げられていた。 アロザウラーの助けを得たギガは、ブラッティを倒して勝利の雄叫びを上げる。 と同時にまわりにいた一般兵からも歓声が沸き上がる。 その脇をすり抜けて基地へと突入するケーニッヒウルフ。 「ここからは俺達の出番だ。期待に応える働きをしなきゃならんぞ。分かってるな、ラスタニアン。」 『心得ていますよ隊長、ギガのパイロットばかりにいいかっこうさせられませんからね、へまなんてできませんよ。』 そう言いつつ前に出るラスタニアン。 「あいつ、全然分かってないじゃないか。」 そういいながら笑みをこぼす部隊長。そのまま格納庫に突入するケーニッヒ部隊。 そこに物影に隠れていたキラースパイナーが襲いかかる。 狭い格納庫での戦闘の為に動きが制限されながらも迎撃するケーニッヒ達。 キラースパイナーの多連装ビームがケーニッヒ達を襲う。 そこに1機のケーニッヒが背中のデュアルスナイパーライフルとスコープを展開し、ダークスパイナーとキラードームの連結部分を狙撃する。 命中とともに吹き飛ぶキラードーム。
ダークスパイナーもその衝撃でその場に倒れる。 すかさずもう一機のケーニッヒとラスタニアン機が襲いかかる。 起き上がろうとするダークスパイナーに飛び掛るラスタニアンのケーニッヒ。 メキメキと音をたてながらスパイナーの首筋にケーニッヒの牙がめり込む。 と同時に動きを止めるダークスパイナー。 「良い連係プレイだ、次もそんな感じで願いたいものだ」 『了解。』 ラスタニアンからの応答が返ってくる。 「よし、次に行くぞ」 隊長がそう言ってその場を離れると、そのあとをラスタニアン達のケーニッヒが続く。 数時間後、突入した各部隊からの制圧連絡が相次いで入り、クック基地の制圧に成功する。 ヘリック共和国の旗が基地に掲げられ、その脇を堂々と入城するゴジュラスギガ。 それを見つめるラスタニアンの姿があった。 「まさに希望の星って奴だな」 彼の心をあのヘリックシティでの戦闘と敗戦がよぎる。 そこから始まった屈辱の日々。 ゴジュラスギガの登場は、数年間耐え忍んだ彼の心を救ってくれた気がした。 それは彼一人の気持ちだけでなく、その場にいた兵士全ての気持ちであっただろう。 共和国軍の兵士達は、新しい希望を持って戦いを続けていくのだった。
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