明日への戦い
ZAC2105年冬、中央山脈にある共和国軍の秘密基地に攻め入った部隊が壊滅した。 その報告の中には共和国軍の新型ゾイドと交戦の上とかかれていて、 この一文が建国して間もないネオゼネバス帝国、上層部を振るえ上がらせた。 この新型ゾイドにはジャミングウェーブも効果がなく、部隊の中核だったダークスパイナー、 デススティンガーが全て倒されたという事である。 それは今までにない強力なゾイドが出現した知らせであった。 すぐさまこのゾイドの破壊を命じたものの、冬の猛吹雪の中に 消えた共和国軍基地を見つける事はかなわなかった。 彼らがこの冬将軍を利用して、新型ゾイドの量産を行なう事は明白であり、 何の対策も出せない事に焦る上層部。 その中の一人がこう言う。 「新型ゾイドに恐れおののきながら冬を過ごし、やつらの軍門に下るのか、 それともそれに対抗できるゾイドを完成させて見返すか、あなた方はどちらを選びますか?」 その言葉にその場の将校達がハッとした顔をする。 その将校は交戦記録から相手の大まかなデータは予想がつく。 ならばそれを超えるゾイドをこの冬の間に作ってしまえといいたいのだ。 「・・・・そう簡単ではないだろう。」 進言をする将校の脇にいた将校が眉をひそめて異論を唱える。 「人間やればできるものです。冬中とはいかないでしょうが、攻めて彼らの 反抗作戦が始まる前、もしくは勢いづくまでに完成させれば問題ありません」 「やらないよりましだな。皇帝にはこの事を含めて新型ゾイドの件を私から申し立てておこう」 一人の老将がそいうと会議は終了した。 そしてZAC2106年春、予想通りに共和国軍の反抗作戦が開始された。 あの新型ゾイド、ゴジュラスギガを旗頭(はたがしら)にして。 その勢いは留まる事を知らず、あっという間にクック基地を占領して拠点とする。 この事変に旧共和国国民は沸きあがり、ヘリック共和国が復活する日も遠くないと多いに喜んだ。 それから3ヶ月後、事態は急変する事となった。 共和国軍重要拠点の一つであるクック基地に向けて、海上から一筋の光が放たれ、 一瞬にして壊滅してしまったのだ。 生き残った兵士達も突然の事にパニックをおこす。 そこにネオゼネバス帝国の地上部隊が基地に襲いかかる。 これといった抵抗も出来ずに、またたく間に制圧されて行く基地。 頼みの綱のゴジュラスギガも海からの閃光により消滅していた。 しばらく経って、壊滅したクック基地に海からゆっくりと侵入する首長竜型ゾイド。 その場で捕虜となっていた共和国兵士達がその巨体を見て唖然とする。 とてつもなく長い首と尾、そして全身を覆うようなビーム砲の数。 それはあのウルトラザウルスよりも長く、ゾイド史上最長の機体といえた。 初冬に開発命令が下り、たった半年で完成したネオゼネバス帝国の対ゴジュラスギガ用ゾイド、 それがこのセイスモサウルスだった。 近接戦闘を得意とするゴジュラスギガを、凌駕するゾイドの開発は短期間では難しい。 そこで対極に位置する超長距離からの一撃必殺のアウトレンジ攻撃により、 その動きを止めてしまおうと言うのがこのセイスモの狙いであった。 一方的に相手を駆逐してしまう所に一部将校から異論は出たが、背に腹は 変えられられない現状では、その異論はすぐにかき消えていく。 ゆっくりと入城するセイスモサウルスの脇で陸上側の入り口からスティルアーマーを先頭に、 新型のキメラゾイドが基地に入場する。 これによりクック基地は、再びネオゼネバス帝国の管理下に置かれる事となった。 この究極とも言えるアウトレンジ戦法は、勢いづいていた共和国軍を一気に沈黙させていく。 ZAC2106年秋、大陸の南にあるミバーロスを最後の拠点として抵抗を続ける共和国軍の姿があった。 そのミバーロスを攻撃すべく、ネオゼネバス軍が進攻を開始する。 基地から遠く離れた場所を移動するセイスモサウルスの姿があった。ミバーロスを攻略する為である。 山間(やまあい)の中をゆっくりと進んでいくセイスモ。 周囲にはスティルアーマー、シザーストーム、レーザーストームを中心としたキメラゾイドの護衛部隊がつく。 それらの行動を、塹壕に隠れながら双眼鏡でじっと見つめる一人の兵士。 後ろを振り向くとサッと手を上げて後ろの兵士に指示を出す。 指示を受けた兵士は塹壕の脇にある岩陰からロケットランチャーをシザーストームに向けて放つ。 見事に命中し動きを止めるシザーストーム。 それを合図に十数機の共和国ゾイドが姿をあらわし、一斉に 襲いかかる。 コマンドストライカーが前衛にいたスティルアーマーのわき腹にソードを刺し、ゼロ距離射撃を行なって沈黙させる。 「なんだ!?」 スティルアーマーのパイロットが状況に把握できずに慌てふためく。 予期していなかった奇襲作戦に帝国ゾイドは次々に倒されて行く。 そして混乱する戦場を数機のレオストライカーが、セイスモを守ように立ちはだかるキメラゾイドに襲いかかる。 「クソ、こんな小型ゾイドの群れごときに・・・・!!」 状況をやっと把握できたセイスモのパイロットは、足元をちょろちょろと動き回る 共和国ゾイドに向けて連装ビームを放って応戦する。 「ちょこまかと動きやがって!!」 動き回る共和国ゾイドに小ばかにされたような気がし、怒りに任せて攻撃を加えるセイスモのパイロット。 そこに地面の中から巨大なゾイドが姿をあらわす。 あたり一帯に立ち込める砂煙。 その中から2発の弾が現れ、セイスモの胴体部分に直撃する。 よろめくセイスモ。 その隙を狙い、砂煙を隠れ蓑(かくれみの)にして一気にセイスモへと近づく巨大ゾイド。 セイスモに突撃するゾイドの脇を、2基の長身の大砲が地面に転げ落ちる。 巨大ゾイドは間合いを詰めると、セイスモの腹部を蹴り上げる。 クォォォォォン さすがのセイスモも泣き叫びながら倒れこむ。 「なんだ!?」 突然の攻撃に焦りながらも、機体を起き上がらせようとするパイロット。 そんな中、晴れつつある砂煙の中からゴジュラスギガが姿をあらわす。 「こんな所にギガだと!?」
驚愕するパイロット。そしてあることに気がつく。 「!?さっきの攻撃で供給のファンが・・・・!!」 先ほどのゴジュラスギガの攻撃により、ゼネバス砲を発射する為の荷電粒子供給ファンが 破壊されてしまったのだ。 「これでご自慢のゼネバス砲は撃てなくなったな。」 ギガのコクピットでうれしそうに語るのはルッセルフだった。 「あとは修理すらできなくなるまで叩き潰してやるよ。」 そう言いながら追撃モードに機体を変形させると、一気に間合いを詰める。 功を焦ったのかセイスモの尾の動きに気づかず、ギガの体をセイスモのティルスラッシュが襲う。 「これぐらいのことで・・・・!!」 一撃を食らいながらも何とか踏み留まり、掴みかかろうとする。 だが、ひるんだ一瞬にセイスモの全砲門からギガに向けて一斉にビームが放たれる。 慌ててEシールドをはるが、ほとんどの攻撃を受けてその場にふさぎこむ。 「く、くそ・・・・。」 ゼロ距離射撃と言っていいほどの距離で受けた攻撃は、ギガの戦闘能力を極端に低下させた。 「出だしはよかったみたいだが、ざまあないな。これからきっちりととどめを刺してやる。」 優越感に浸りながら言うセイスモのパイロット。 大きな被害を受けてなお起き上がるギガ。 その間に近くにいたスティルアーマーと合体するセイスモ。 近接戦闘タイプのベルセルクセイスモとなって、ギガに向かってくる。 そこに何処からともなく現れたバスターイーグルが、セイスモに襲いかかる。 背中のバスターキャノンが火を噴く度に、セイスモの巨体から煙が上がる。 だが、数機のシザーストームが、低空にまで下りてきたバスターに向けてビームバルカンを放つ。 緊急回避を繰り返しながら攻撃をかわすバスター。 「少佐!!」 『こっちの心配をしているひまがあるなら、気がそれているセイスモをさっさと倒せ』 アルデニッヒの声がコクピット内にこだまする。 アルデニッヒは、光学迷彩と特殊ステルス機能を装備したバスターで上空待機していたのだ。 「言われるまでもなく・・・・!!」 そう言ってルッセルフは、バスターに気が向いている隙にセイスモの長い首に噛み付く。 牙がミシミシと音を立てながらめり込んでいく。 噛み付いて動きの取れないギガをセイスモのレールガンや連装砲が襲う。 「ここで放せるか!!」 そのルッセルフの必死の思いに応えるかのように攻撃に耐え抜くギガ。 そこにもう1機のスティルアーマーが、共和国ゾイドを蹴散らしながら 鼻先の角をギガの腹部に突き刺す。 懐に入ったスティルアーマーを足で蹴り倒そうとして追い払う。 そして牙をセイスモの首から放すと、ティルスラッシュをセイスモに加える。 攻撃を受けたセイスモはその場に膝を突く。
「これで終わりにしてやる!!」 そう叫ぶとセイスモの腹部にあるファン周辺を噛みちぎり、巨大な足で尻尾を踏みつける。 痙攣(けいれん)を起こして動く気配を見せないセイスモ。 「これで多少の時間稼ぎは・・・・」 セイスモを見つめながら愚痴のように言う。 ピピッ!! 警告音とともにスティルアーマーが襲いかかってくる。 スティルアーマーの攻撃を何とかかわして攻撃体勢に入る。 スティルアーマーが現れた方向に、もう一機のセイスモサウルスが見えた。 別働隊の援軍だ。 「チッ、1機仕留めるのに時間がかかりすぎた・・・・」 襲いかかるスティルアーマーを相手にしながら周りを見渡すと、 ほとんどの味方ゾイドは破壊されて動けるものは少なかった。 「当初の目的は達成された、全軍撤退せよ。」 ルッセルフはそう通信機で告げると、もう1機のセイスモと対峙する。 すでに機体はボロボロで対等に戦える状況ではなかったが、 彼らを逃がす為にも基地の為にも、戦いを避けられない状態だった。 大きな咆哮を上げると追撃モードに変形して突撃するギガ。 そこにスティルアーマーが行く手を阻む。 その間にセイスモはレーザーストーム、シザーストームの2機と合体して アルティメットセイスモに姿を変える。 「・・・・くそ、いい気になるな!!」 スティルアーマーを突き倒すと同時に、セイスモの懐に入ろうと一気に距離を詰める。 だが懐に入る前に、アルティメットセイスモの全砲門一斉射がゴジュラスギガを包む。 まともに受けて倒れるギガ。 「ううう・・・・」 遠のいてゆくルッセルフの意識。 ギガもすでに戦闘不能状態に陥っていり、あのセイスモを止める手段はない。 だが薄れいく意識の中である事が彼の頭をよぎる。 32門コア砲。 それはゴジュラスギガ最後の攻撃手段。 攻撃と同時にギガ自身のコアも砕かれて死ぬ、相討ち攻撃。 だがそれを撃てるほどの力が自分にもギガにもあるのだろうか。 それ以前に自らの死を選んでまで、セイスモを倒そうとギガが思ってくれているのだろうか。 そんな事を思いながら必死に意識を保ちつづけて操縦桿を握る。 「すまないギガ、基地にいるみんなの為にも・・・・!!」 そういうと32門コア砲のスイッチを押す。 だがギガは反応しない。 (やはりだめなのか・・・・) 不穏な動きを見せるゴジュラスギガを見て、セイスモがとどめを刺そうと近づいてきた。 目の前をゆっくりと向かってくるセイスモを見ながら意識を失う。 セイスモがとどめを刺そうとゴジュラスギガの目の前まで来た時、 セイスモは背中に衝撃を受ける。 「やらせん!!」 アルデニッヒのバスターイーグルが、バスターキャノンで攻撃を仕掛けて来たのだ。 セイスモは、バスターイーグルに向けて全砲門を開く。 それに加えて周囲にいたレーザーストームやシザーストームの 対空砲が雨のように飛んでくる。 「くっ!!」 巧みな技術で砲弾を交わしていくアルデニッヒ。 砲弾の雨を避けながら地上を見ると怪しく光る機体が一つ。 と同時に襲いかかる一筋の閃光。 セイスモのゼネバス砲だ。 直撃は免れたものの、機体にダメージを受ける。 しかし、そんな状態のまま機体をギガに向けて降下させる。 動けなくなったギガをつれて帰ろうというのだ。 儀がめがけて降下するバスターイーグルに向けて、放たれる対空砲火。 降下するバスターを貫いていく砲弾。 降下体勢に入っているために避け切れなかったのだ。 数百発の砲弾を受けて、機体のあちらこちらから火を噴き、制御不能に陥るバスター。 「不覚・・・・!!」 墜落する前に大爆発を起こすバスターイーグル。 「敵の排除を確認、これより作戦に戻る。負傷者は後続に任せる。」 セイスモのパイロットが本部への報告を行ない、機体を南に向ける。 その瞬間を待っていたかのように、突然起き上がるゴジュラスギガ。 そして背びれが怪しく光を放ち始め、それは徐々に膨らんでいく。
「ば、馬鹿な・・・・!!」 次の瞬間背中から放たれた32の光りは、セイスモと周辺にいた帝国ゾイドを包み、 近くの山ごと消し飛ばしてしまった。 光を放ったゴジュラスギガは、そのままの体制でゆっくりと石化していく。 それはゾイドの死を意味していた。 数週間後、セイスモのゼネバス砲がミバーロスの町を襲う。 閃光が通りすぎたあとには、風圧で飛ばされた家や燃え盛る建物が広がっていく。 しばらくしてミバーロスに攻め入るネオゼネバス軍。 ほとんど抵抗らしい抵抗を受けずに制圧は完了した。 しかし、彼らの目的である共和国軍の姿はどこにもなかった。 帝国軍がミバーロスに攻撃を開始するまでに、主力部隊はすでに 中央大陸を脱出してその身を洋上に移していた。 ルッセルフ達の作戦が功を奏したのかは定かでないが、彼らが撤退するだけの時間が 与えられたのはたしかだった。 目指す場所は東方大陸、これはゾイテックの招きによるものだ。 さすがのネオゼネバスも東方大陸にまで手は出せない。 それを利用してセイスモに対抗する為のゾイドの開発と、反抗作戦を練るのである。 再び共和国軍が中央大陸に戻るには2年近くの歳月を要するのだった。
後書き バトストMENUに戻る 次の話へ行く