必殺の一撃
Zac2048年、共和国と帝国の戦闘は激しさを増していた。 特に中央大陸の背骨と呼ばれる中央山脈では、孤立した領土に駐屯する共和国軍に対して、 帝国軍による包囲網作戦が続いていた。 一方、空からの支援で、この包囲網を打破しようと必死の支援を行う共和国空軍。 今日も中央山脈の空をサラマンダーとプテラスの編隊が山脈の帝国領を越えようと進入していく。 「こちらナイト1、これより帝国領へ進入する。各機、高度を15000まで上昇、周囲の警戒をより密にせよ」 『了解』 命令に応えるように各機が暗闇の中を上昇していく。しばらくして、足元で空気を震わせて 爆音と煙が次々に起きる。さらに下には対空砲と思われる火花も見受けられるが、 それらが彼等の下に届く事はなかった。その内、対空砲が黙り始めるが、かわりに接近する機影をレーダーが捉える。 「所属不明の機影を敵レドラーと確認」 「かまうな、この高度ではやつらお得意の格闘戦は難しいはずだ。それよりも目的地へ荷物を運ぶ事だけを考えろ」 「了解」 部隊長にそう言われても、彼の心を不安感が支配する。だがその不安も隊長の言うとおり、 レドラーはサラマンダーの編隊を見上げるように追尾してくる姿を見て安心感へと変わる。 そうなれば、目標に向けて集中するのみである。 「2時の方向より3機編隊確認。機種シンカー」 レーダー担当からの報告を聞いてその方向へ目をやるが、まだ機影は見えない。 シンカーでは、この高度どころかレドラーよりもさらに低い高度しか飛べないはずだ。 そんな事を思いながら、敵の動向を探る。耳障りな音とともに急速に接近するそれは、 彼の乗るサラマンダーの機体をかすめていった。 「なっ!?」 3機のシンカーの背中に設置された2連装の対空5インチ砲が次々に火を吹き、サラマンダーの編隊を襲う。 「プテラス隊、下方のエイを頼む」 部隊長の救援無線に呼応して、プテラスの編隊がシンカーに襲い掛かる。 重い武装を背中に背負っているシンカーでは、プテラスの相手になるはずもなかったが、 彼らを守るように先ほどから後方についていたレドラーが、逆にプテラスに襲い掛かってきた。 「接近戦に持ち込まれるな、距離をおいて空対空ミサイルで確実に・・・・うわっ!!」 プテラス部隊の隊長が指揮途中で撃墜される。その事に足並みを乱すプテラス部隊。 このチャンスをレドラー部隊が逃すはずもなく、次々にプテラスを撃墜していく。 そこへ高度を下げてきたサラマンダーがレドラーの上方から、火炎放射器を放って牽制する。 突然の行動にレドラーは慌てて回避行動に移るが、その隙を狙って背中に装備されたミサイルが レドラーの腹部へと吸い込まれる。爆散するレドラー。機体を縦に振って礼を言うプテラス。 しかし、対空戦闘のために高度を下げた事が仇となった。再び上昇しようとした際に、 シンカーが放った5インチ砲弾が機体を貫通していく。数発喰らった後、火を噴いて徐々に高度を下げていくサラマンダー。 最後には地上からの対空ミサイルの餌食となった。 「3号機が・・・!!」  
「構うな、奴の死を無駄にしたくなければこの高度のまま飛び続けろ」 「りょ、了解・・・・」 言葉に詰まりながら返答すると、悔しそうな顔をして操縦桿を握り締める。 数分後、多大な損害を出しつつも、帝国領を越えて自国領内に入ったのだった。 このような共和国空軍の決死の作戦により、戦況は徐々に共和国軍に傾きつつあった。 帝国軍も、包囲中の共和国軍に対して、帝国本土の軍を送り込んで一気に殲滅する作戦を立案。 それと平行して、北と南に存在する共和国領駐屯部隊への補給ルートの安全確保に力を注ぐ。 だが、このルートに対する共和国軍からのプレッシャーは激しく、一進一退の攻防が続く。 そのためにさまざまな改造ゾイドが投入され、戦場はさながら実験場と化していた。 「何だよ、このデカブツは?こんな物を背負って歩いてたら、見つけてくださいっていっているようなもんだろ?」 レッドホーンの背中に装備された武装を見てぼやく男が一人。よく見れば鼻先のクラッシャーホーンも、 電子部品で固めた角に換えられていてえらく不細工だ。 「パウエル中尉、お気に召さないようですが、これが今回の作戦のキーとなる武装です。 我慢して頂きますし、何より頼もしい武装である事は保証いたします」 ぼやくパウエルをなだめつつ、意気揚々と言う一人の技術仕官。 「もっとコンパクトには出来なかったか?」 「それはこれからの作業です。何せまだ実験段階の物をここに持ち込んでいるわけですから」 「無傷で返す保証はないが、それで構わないよな」 「この際、出来るだけと言わせて頂きましょうか。ですがそのような心配はないと思っておりますから」 「上手い事を言っておだてやがって・・・努力はするがまぁ期待はするな」 そう言ってコクピットへと向かう。その姿を敬礼で送る技術仕官。その敬礼に応えるように、 乗り込んだパウエルは、機体を技術仕官の方へ一瞬だけ向けてその場を後にする。 山脈の麓(ふもと)近くにある研究所から数時間、あたりには山頂に万年雪をかぶる山々と、 針葉樹の森が広がっていた。前方を行く指揮車から、森へ入れという合図が送られてくる。 それを見ておもむろに森の中へと入っていくレッドホーン。予定ポイントに着くと、周囲にいた 兵士達やロードスキッパーが慌しく動き回る。 「粒子チャージを開始する。扇風機の調子はいいようだ」 『了解』 パウエルの言葉に無線から応答が帰ってくる。 1時間が経過した頃、いつ来るとも分からない共和国の奴らを、じっと耐え忍ぶ事ほど 忍耐のいる作業はないなと思った。特に1000M級を越える山々が多い中央山脈北部。 山岳地帯の麓ではまだ秋だというのに、真冬並の外気温が彼らを襲う。 レッドホーンの周囲にいる兵士達のヘルメットには、うっすら白い物が覆っていた。 彼等の士気も下がりそうになった時、お目当ての編隊が来る合図が反対の山側に待機する 味方機から光信号で送られてくる。にわかに活気だつ現場。 パウエルもようやくの獲物に操縦桿を握りなおし、姿が現れるのを待つ。 「ちっ、予定より遠いじゃないかっ」 そうぼやきつつも、ぼやけて移るサラマンダーの編隊に照準をあわせる。 「発射準備完了・・・・・・・・発射っ!!」 そう言うと、操縦桿に新しく用意されたスイッチを押す。それと同時に、機体を横揺れの振動が襲う 。砲撃の威力で機体が数センチほど後ろへと下がり、足元に居た兵士達が慌ててその場を離れる。 放たれた粒子砲は、一直線にサラマンダーの編隊を突き抜けていく。突然の攻撃に避ける事も出来ず、 荷電粒子砲を受けたサラマンダー部隊は、3機の内2機が大破、周囲に居た数機のプテラスは 原形を留めない形に変形して墜落する。その巨体をいまだ維持するサラマンダーは、 ゆっくりと高度を下げていった。高度がある程度下がってきた段階で、別位置に待機していた迎撃隊が 落ちてくるサラマンダーにありったけの対空砲をお見舞いして撃墜した。生き残ったサラマンダーは 来た道を引き返す。  
「やったぞっ!!」 一気に湧き上がる歓声。作戦の成功に誰もが歓喜の声をあげる。 そんな中、重要な任務を無事終えたパウエルだけは、深い安堵の息を漏らす。 翌朝、新しい情報をもとに移動を開始し、配備が完了してから半日が経った。 待ち構えてから少したった頃に、味方部隊からの通信で別方向から進入する敵部隊を捕捉との情報を得た。 その情報に部隊が活気だったが、こちらを通らないルートだと判明した為に別部隊に迎撃命令が下された。 そして十数分後には部隊が壊滅したとの報告が入る。この状況が続く不幸を呪うのか、死なずに済んだと 己の運が良かったと捉えるか。そんな判断すらも凍てつく寒さとともにどこかへ吹き飛んでいく。 更に2時間が経過し、ようやくお待ちかねの敵部隊の反応が現れる。サラマンダーとプテラスの編隊を確認する。 予定通りだ。その報告とともに部隊は一気に緊張感が増す。 『周囲に敵影なし。どうやらこの辺を警戒する敵飛行ゾイドは発見できず。 まぁこの高度では太刀打ちできないでしょうからね』 『軽口を叩いている場合か。やつらも必死だから何してくるかわからんぞ』 そう言いつつも、嘲笑しているのが伝わる。こんな通信が、オープン回線を使って行われていた。 敵国領内でオープン回線とは、舐めてくれると憤りを覚えながら照準をセットする。 全ての照準がセットされると、一呼吸おいて発射ボタンを押す。 4つ砲身から同時に放たれたエネルギーが天高く昇っていく。 レッドホーンの周囲は先ほどまでの寒さを吹き飛ばすような熱風が吹きすさむ。 「ん!?熱源下方から!!」 「なにっ!?」 一機のサラマンダーが、その言葉に反応して退避行動に移る。だがその前に天高く舞った高エネルギー体は、 一瞬にしてサラマンダーの胴体を貫く。胴体から火と煙を撒きあがると同時に爆発した。 「もう少し左を通れば2機目もある程度のダメージがあったのに・・・・」 見事命中した事よりも、効率良くダメージを与えられなかった事を悔やむパウエル。 敵の確認のために急降下するプテラス。と同時に、森の中から無数のミサイルがプテラスに向かって襲い掛かる。 「この程度のミサイルで・・・・」 飛来するミサイルを回避、又は迎撃していくプテラス隊。そこへ両脇にそびえる山間から 、新たなミサイル群がこちらに向かってくる。 さすがに避けきれない数機のプテラスがミサイルの餌食となり、生き残ったプテラスも爆風と煙で 、周囲が確認しずらい状況におかれてその場で足を止める。そこへ突如として現れたシュトルヒが、 プテラスの背後を取って銃弾を撃ち込む。 煙を噴きながら次々に墜落するプテラスの群れ。荒れる上空の状況を物ともせず、レッドホーンが二射目を発射する。 再び放たれた光の矢は、生き残っていたサラマンダー2機の内1機の翼を捉える。 翼をもがれて徐々に降下していくサラマンダー。それを見てもう1機のサラマンダーが、 墜落しそうな味方機の背中を掴み、降下速度を遅らせる。徐々に高度が下がらなくなったところで、 自国領内へと機体を向けて戦場を離脱する。撤退するサラマンダーを、かろうじて生き残った2機の プテラスがシュトルヒを牽制しながら後に続く。シュトルヒもあえて追わずに周囲を警戒する。 『ポイント移動通知有り。RD1はすぐさまビーコンある地点へ向かえ』 「了解、これよりポイントα5Qへ移動を開始する。ちょっと上手くいけばすぐこれだ。まったく人使いが荒くて困るぜ・・・」 ぼやきながら周囲の部隊に移動ポイントを通知すると、機体を街道の方へと向ける。 その時、ゴォォォという無気味な音とともに上空を飛んでいたシュトルヒが、炎を挙げて墜落してきた。 爆発の際に四散した機体の破片が、地上にいる兵士達に降り注ぐ。 「うわぁぁぁ!!」 「退避!!」 逃げ惑う兵士達の悲鳴と断末魔が辺り一帯を支配する。 ピーッというレーダーの反応音を聞いて、周囲を見渡すパウエル。 『前方の山間からサラマンダーが低空で進入中!!迎撃体制をっ・・・・』 味方の通信でようやく敵を視認するが、望遠で見ているせいか映像が妙な形に見える。 不思議に思いながら荷電粒子の吸入作業に入るが、先の戦闘で残留粒子が少なく、接近されるまでに 一発撃てるかどうか分からなかった。焦りながら、接近するサラマンダーを見据える。 ようやく見えたサラマンダーの姿はいびつすぎた。 先の程のサラマンダーが足に掴んだ寮機を そのままに飛来してきたのだ。そして大破したサラマンダーを帝国軍にめがけて投げつける。 放たれたサラマンダーは空中で分解し、帝国軍部隊を襲う。 「くっ・・・・・!!」 ようやくチャージの終えた粒子砲を、落下するサラマンダーに向けて撃ち放つ。 荷電粒子砲は、サラマンダーを捉えると一瞬にして蒸発させた。 落としきれない細かいパーツが部隊を襲うが、部隊への被害は軽微で済んだ。 ほっと胸をなでおろす間もなく、先ほどのサラマンダーが旋回して再び向かってくる。 背中の荷電粒子砲が使えない為に、頭部に装備された対空ビーム砲で牽制する。 しかし、サラマンダーは怯むことなくレッドホーンに接近し、大きく開いた口から火炎放射を放つ。 急激な温度上昇により、まず角に装備された電子機器がオーバーヒートで爆発。 それと同時にコクピット内をサウナ風呂状態にし、パウエルの意識を朦朧(もうろう)とさせる。 そんな中で放った対空ビームが、サラマンダーの翼をかすめる。一瞬、機体を浮揚させていた磁場が狂い、 よろめくように傾くサラマンダー。目の前にふわりと下りてきたところに突撃するレッドホーン。 突撃兵器であるクラッシャーホーンは、センサーホーンに変更されているために、 相手に対して体当たりをかけて弾き飛ばす。バランスを崩して地上に落下するサラマンダー。 ゆっくりと立ち上ると、再び浮上しようとするが必要に絡んでくるレッドホーンに翻弄されてなかなか飛び立てない。 「しつこいっ・・・!!」 鬱陶(うっとう)しそうに言いながら、腹部に装備されていたビーム砲を発射して間合いを 取るサラマンダーのパイロット。そのビームで怯んだレッドホーンに向けて火炎放射器で牽制をかけ、 炎を吐きながら浮上するサラマンダー。そこへようやく援護にきたハンマーロックが、 サラマンダーに飛びかかり足に捉まるが、逆にその体をレッドホーンに装備された荷電粒子発射装置に 叩きつけられ、地面に転がるハンマーロック。その衝撃で右舷側の砲塔がひしゃげて脱落する。 最後の仕上げとばかりに、サラマンダーが巨大な足の爪を尖らせて急降下してくる。いいようにやられて 頭にきていたパウエルが、機体を思いっきりジャンプさせた。 「このっ!!」 突然のジャンプを予測していなかったサラマンダーは、体当たりを喰らってそのまま地面に押しつぶされた。  
痙攣し、ピクピクと体を震わせるサラマンダーの脇を転がるようにして起き上がるレッドホーン。 その姿を見てようやくほっと一息つき、機体のダメージチェックを行う。 「・・・・・作戦は続行しがたい状況だな」 そうつぶやくと、警戒しながら一般兵が群がっているサラマンダーを見下ろす。敵ながら大した奴だと思った時、 サラマンダーの機体が強い光を放つ。 次の瞬間、巻き起こった爆風と炎で周囲にいた部隊もろとも吹き飛ばされるレッドホーン。 数時間後、救助隊に担架で担がれているところで意識を取り戻したパウエルは、山の向こう側で悠悠自適に 飛ぶサラマンダーとプテラスの群れを見た。本来ならあの部隊をやる予定だったのに・・・あそこで油断しなければと 心の中でつぶやく。己の未熟さを悔みつつ、麓(ふもと)の基地内にある野戦病院へと運ばれるのだった。
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