強襲
 
2機のレドラーが中央山脈の空を飛ぶ。彼らが目指すポイントはもうすぐだ。 『敵部隊は北東から南へ侵攻中。そのまま横断するものと思われる』 近くの観測所からの情報。ありがたいと思いつつ、そこから急上昇して高度を上げていく。 5000・・・6000・・・高度計のメーターがぐるぐると回っていき、10000Mに到達したところで、 さらに上空を飛び続ける大型飛行ゾイドの一群がモニターに映し出された。 更にその下には数機の小型飛行ゾイド。ここ数週間、見飽きるほど見つづけてきたヘリック共和国の輸送編隊。 足は遅いものの、レドラーの性能では足元に飛んでいるプテラスを落とすのが精一杯で、高々度を飛ぶサラマンダーを 落とす事は困難だった。だからこそ、その翼には重いミサイルが詰まれている。 「こちらα1。奴ら、こちらを発見している筈なのに、無視する気のようだ。目に物見せてやろうぜ」 『了解』 寮機のα2から返答が帰ってくると同時に、ミサイルの照準をサラマンダーに合わせて発射ボタンを押す。 翼の下を走るように、煙を噴きながらミサイルが上昇していく。その姿を見て慌てて弾幕を張る共和国部隊。 サラマンダー2機の内、1機にミサイルが直撃するが片足を吹き飛ばしただけだった。再度攻撃をかけようと 接近すると、今度はプテラスがこちらの邪魔に入る。ドックファイトであれば、負ける事のない相手ではあるが、 こちらは重いミサイルを積んでしまっている為に、その性能差は大差の無い所まで落ちていた。そうなると数の 多いプテラスが有利になる。又、燃料の心配もあった為、仕方なく目の前のプテラスに照準を合わせると、 即座にミサイルを発射して反転する。α2もそれに続くが、反転中に接近していたプテラスと衝突してしまった。 2機は絡み合いながら落下していく。 「ネルソン!!」 思わずコードネームではなく、名前で呼ぶが応答はない。後ろ髪を引かれながらも全速でその場を退避する。 時折、後ろを振り返り敵の様子を探るが、追いかけてくる様子はなかった。 ゼネバス帝国では“南ルート”として呼称されている中央山脈南側の帝国領。 中央山脈中央部に飛び地となった共和国領を包囲する又は、共和国領内に駐屯する何万もの帝国軍兵士への 物資補給ルートとして最重要地域に指定されている。そのために、通常在りえないほどの間隔で基地や観測所を設け、 全領土を30分おきに偵察させている。だが、そのような厳戒態勢の中であっても共和国軍は、 包囲された味方への物資補給を空輸にて行い、支援し続けていた。 10月頃から開始された一大空輸作戦は、共和国大統領ヘリック二世の肝いりで行われており、 作戦成功の為に制空権確保に総力を挙げ、その動きに気付いた帝国軍も、空軍兵力を集中させている。 また地上においても、帝国軍の無力化も同時に行っている為、北部ルート、南部ルート共に 血みどろの戦いが続いていた。連日続く消耗戦により、10月後半になると帝国軍は劣勢に立たされ始めていた。 「ここも時期、共和国軍が押し寄せてくるんだろうな」 男がメンテ中の愛機を見ながら、呟く様にいう。銀色の装甲、四速歩行の機体は、次の戦いに備えて その巨大な爪を研いでいるように見えた。 「だろうな、そのときはしっかりと守ってくれよ?」 振り向く事もなく、メディカルシステムで機体状況をモニターで確認しながら言う整備兵の男。 「野郎の面倒を見るのは御免こうむりたいな」 そう言いながら片手に持ったドリンクを飲む。その言葉を聞いて整備兵の男がこちらを振り向く。 「グエン、整備して貰っている恩を忘れて・・・・」 眉をひそめつつ、不満をぶつけるようにいう。 「だな、はは・・・」 そういって苦笑する。 「イオハル中尉、隊長がお呼びです」 二人の会話に割って入ると、用件を伝えるパイロットスーツの男。 「わかった・・・・とまぁそういうことだ。続きはバーでしよう」 そういって片手を挙げてその場を去る。 「おまえの主人は良い奴なんだが、言葉が悪い」 整備兵は目の前のゾイドに語りかけるように言うのだった。 それから数時間も経たないうちに異変は起きる。10km先にある観測所からの通信が途絶したのだ。 基地指令は第1警戒態勢に入るように指示をだし、基地内は慌しく動く兵士達で一杯となった。 ウ―――――――――とけたたましく鳴るサイレン。 「敵機接近!!」 館内に鳴り響く放送に一段と緊張感が増す。 「シュトルヒ1、2号機射出します」 山間では広く取れない滑走路の代わりに建設されたカタパルト施設。1号機から4号機まであるうちの 1、2号機にシュトルヒが並ぶ。3、4号機にも遅れてシュトルヒが姿を見せつつあった。 「シュトルヒ射出ッ!!」 キュインッと耳鳴りのような音とともにシュトルヒが出撃する。
「こちらS1。安定飛行に入った。上空警戒に・・・・」 安定飛行に入った2機のシュトルヒは目の前に飛び込んできた4機のプテラスに一瞬言葉を失う。 突然の事に動きが鈍ったシュトルヒを撃ち落す事もなく、すり抜けて基地へと向かう。 「プテラスがそっちへいった!!警戒を!!」 一呼吸遅れてシュトルヒのパイロットが基地へ通信を送り、追撃へと移る。 その頃、3、4号射出機に並んだシュトルヒが出撃寸前の体制でいた。 「3号機発射・・・なにぃ!?」 目の前に突然現れたプテラスを見て驚愕するパイロット。それでもとっさに緊急発進を試みる。 そこへプテラスがミサイルを発射する。ミサイルをすり抜けるように何とか発進する3号機。 そして基地に向けられた数本のミサイルは、射出準備中の1、2号射出機に直撃して大爆発を起こす。 その爆風で背中を押されるような間隔を覚えながら、4号機がカタパルトの上を滑走する。 しかし、プテラスが放ったミサイルが上空で四散すると小型爆弾が辺り一帯にばら撒かれ、 シュトルヒ、そしてカタパルト施設もろとも吹き飛ばす。 「カタパルト施設が・・・!!」 愛機ヘルキャットとともに、格納庫の外に飛び出したイオハルは愕然する。 炎に包まれる航空空施設が目の前に広がっていたのだ。 上空に目をやると、こちらに向かってくるプテラスを発見。 即座に背中の対空砲で牽制する。上昇と共に反転した3号機は、攻撃を仕掛けてきたプテラスの群れを追いかける。 少し遅れて飛んでいたプテラスに目をつけると、 照準を合わせて叩くようにしてビーム砲の発射ボタンを押す。旋回してかわし続けるプテラス。 それを見て埒があかないと判断した3号機のパイロットは、背中のバードミサイルを発射する。 発射されたバードミサイルは、必死に回避し続けるプテラスに直撃する。炎に包まれたプテラスは、失速しつつ落下していく。 「よし、次は・・・!?」 撃墜を確認したパイロットが次の獲物を探そうと正面を見た時、こちらに向かってくる空対空ミサイルが見えた。 遅れて警告音が鳴り響く。 ミサイルはそのままシュトルヒに命中し、上空に黒鉛の花火が上がる。 シュトルヒを撃墜したプテラスは、そのまま高度を下げて基地施設に攻撃をかけるが、 そこに多数のマイクロミサイルが襲う。それを巧み回避していくプテラス。 最後のミサイルが過ぎると同時に、地上から厚く堅固な対空ビームが再びプテラスに襲いかかる。 さすがにかわしきれなかったプテラスは、蜂の巣となってそのまま基地内に墜落した。 先程追い抜かれた2機のシュトルヒが、生き残ったプテラスに攻撃を仕掛ける。 その攻撃を切り抜けると、そのまま撤退していくプテラス。 被害の甚大さに本格的な侵攻があると見た基地指令は、すぐさま指令本部へ救援を求めた。 上層部もこの事を重く見たらしく、翌日には支援部隊を送り込むという。 グエンは昼間の攻撃の中途半端さに違和感を覚えていた。本格的とも思える今回の空襲は、的確にこちらの施設を破壊していった。 特に航空施設への被害は甚大で、基地周辺の制空権は共和国にあったといって過言ではない。 しかし、重要施設への攻撃が終わると足早に共和国軍は去っていった。 その考えは基地司令も同じだったらしく、グエンら高速機動部隊に対して基地周辺に偵察命令を出したが、何事もなく夜となった。 それでも不安をぬぐいきれないグエンは、一人屋外へ出て白い息を吐きながら雪化粧をした山を見る。 月明かりでうっすらと見える白い雪が幻想的な雰囲気を醸し出し、大いに彼の心を慰めた。 同じ頃、闇夜を切り裂くように2機のサイカーチスが山間を縫いながら周囲をうかがうように飛行する。 昼間の攻撃で第2波の可能性を示唆したグエンの進言に基づく行動である。 「あのヘルキャット乗りの野郎、余計な仕事を増やしやがって」 『上層部に良い所を見せるチャンスだと張り切ってんだろ』 そう言いつつ、操縦桿を少し傾けて巧みに木々を避けて行く。 ピーッという異常検知を知らせる音がコクピット内に響き、機体に激しい振動が襲う。 「な!?」 機体損傷を知らせるメッセージと危険を知らせる赤色ランプが機体を包み、パイロットを慌てさせた 。動揺しつつ周囲を見渡すと、上空にダブルソーダの姿が捉える。 回避行動をする前に、ダブルソーダから放たれた数条のビームに機体を貫かれて爆発炎上、そのまま落下していった。 もう一機のサイカーチスも、基地への連絡をとるために必死に回避行動をとりながら逃げ回っていたが、 下方からの砲撃を受けてついに炎を上げ墜落。  
『こちらN1。引き続き偵察行動に移る』 『了解』 返答を聞いて、再び物陰に潜むように飛ぶダブルソーダ。 サイカーチスが連絡を絶ってから4時間が過ぎた。味方からの救援も来ない状況下、一つ判断を誤れば全滅と いう言葉が浮かんでくる。 そこへ第23レーダーサイトより、敵偵察機を捕捉したとの報告があった。ゆっくりとこちらに向かっているという。 「ただの戦果確認か?どちらにしろ迎撃体制を敷く必要はあるな」 そういって基地指令は全部隊に対して警戒態勢をとる様に指示をだす。基地周辺の警戒のためにマーダが基地を 飛び出して警戒にあたる。 「ん?」 一機のマーダが近くの山で定期的に光る物を見る。その光は一直線に基地へと向かっていた。 「不審な光を捕捉、注意されたし。・・・アレはいったい・・・!?」 突然機体が地面から突き上げられたかと思うと、何かが絡んでくる。 「な、なんだ!?」 怯えた声を上げるパイロット。正面に目をやると目の前のモニターに映るスネークスの機体。 頭部に装備されたマシンガンでコクピットを撃ち抜く。動かなくなったマーダを、投げ捨てるように地面に落として基地へと向かう。 一方、基地では近づきつつある光をどう判断すればいいものかと困惑していた。 「何かの罠と見るか」 「おそらく」 モニターで光を確認しながら、慎重に答える副司令官。最大望遠で見ているがなんなのかハッキリしない。 そこへ大きな振動が足元を揺らす。 「なんだ!?」 「北西部にある山の方から砲撃を確認」 「17観測所からの報告は!?」 「観測所からは一言も・・・」 そう言って口篭もる通信兵。 「こうも易々と入ってこられるとは・・・」 口惜しそうに呟く司令官。このやり取りをしている間にも、砲撃が基地を襲い続ける。 「第34飛行隊を山へ、アレを黙らせろ。高速機動部隊は待機。 主力部隊は基地周辺に展開し、随時状況を報告。 飛ぶ事の出来る飛行隊は全力で基地の空を守れ。全軍、最後の一兵となってもこの基地を死守せよ」 我ながら場当たり的で情けない指示だと思った。  
「私はレッドホーンで直接指揮を執る。副司令にはここをお願いする」 そう言うと有無を言わさず格納庫へと急ぐ。 「司令!我々に敵主力部隊討伐の先陣を切らせてください!!ご期待に添える活躍をして見せますっ!!」 そういって駆け寄るグエン以下高速機動部隊の面々。 「心意気は買うがおまえらのような若造が、むやみに敵に突入したところで何もかわらんわっ。 目先の事に捉われず、もっと大きな視野で物事を見ろ。そうすれば今何をすればいいのかが分かってくる」 司令はそう言って彼らを振り切るとレッドホーンに乗り込む。 「山岳地帯での戦闘に慣れてもいないのによく吼えるものだ。それが若さなのかもしれんが・・・」 そう言うと陣頭指揮を執りながら機体を前に出す。 「砲撃の度に山を移動するのは流石にめんどくさいんですけどね」 カノントータスのパイロットがぼやきながら機体を反転させる。 『その愚痴を聞かされる私の身にもなって貰いたいものだ』 上官からの反撃を受けて、カノントータスを誘導するように山道を移動するバトルローバーを見る。 搭乗するパイロットは、栗色の髪を短く切り込んだ女性だ。 「あの生意気な口がなければ・・・」 ズゥゥゥン・・・と激しい振動と、重く響く音が辺りに鳴り響く。その振動でカノントータスの足場が崩れ、 機体が転げ落ちると、大きな岩と激突して機体が大破する。そして何度呼びかけてもパイロットからの応答はなかった。 「戦闘中に邪念など持つからだ・・・。要のカノントータスを失った。我々はこのまま麓まで降りて攻略部隊と合流する」 そう言って暗闇の中をゆっくりと下山して行く。 同じ頃、麓で密かに待機していた共和国軍の攻略部隊が進撃を開始する。足場の悪い地形をもぞもぞと動き回る機体。 グランチュラだ。背中に装備した榴弾砲を基地向けて放ち、その脇を足早に駆け抜けていくアロザウラー。 駆け抜けるアロザウラーを見て機体の大きさの違いに感嘆するグランチュラのパイロット。 反対側からは、ディバイソンノンの放つ17門突撃砲が雨のように基地に降り注ぐ。 圧倒的物量に、帝国軍基地は手も足も出ない状況だった。クラッシャーホーンを突き立てて、 侵入するアロザウラーを葬り去るレッドホーン。 「物量の違いがこれほどまでとは・・・・・な。・・・やむえん、副指令、作戦をβに移行する」  
『了解、ご武運を』 抑揚のない返答を気にする事もなく、次の獲物が居ないか辺りを見る。 戦闘を開始して3時間が経とうとした頃、いまだ援軍は現れる気配を見せなかった。そこで司令は最後の決断を下す。 「基地に居る者は全て、B3格納庫へ集合せよ。最後の戦いだ」 管制塔に隣接するB3格納庫は先の戦闘で損傷を受けた場所だ。 そこを最後の砦にするという司令の命令に、皆動揺しつつも格納庫へと急ぐ。 「損傷したとは聞いていたが、報告で聞いていた程ではなさそうだ」 そう呟きながら、管制塔に居た職員を引き連れて格納庫内を移動する副指令。 そしてとある場所に到着すると、集まってきた兵士達を誘導し始めるのだった。 突然の集合命令に不満をもちながらB3格納庫へと向かうグエン。 その怒りをぶつけるかのように、目の前に現れた数機のグランチュラをけ散らし、奥にいたカノントータスを踏み潰す。 「グエン、その辺にしておけ。戦いに勝ちたいのなら早くこいっ」 「この状況下でどうやって勝つといわれるのですか!?」 隊長からの通信に異議を唱えつつ、足早にB3格納庫へと向かう。 周囲には防御陣形で構えるブラックライモスが数機。さらに周辺を小型ゾイドが奮戦していた。その先頭を行くレッドホーン。 「やっと来たか訊かん坊主め。さっさと中に入るんだ」 そう言って格納庫の外で出迎える基地司令。そのまま、司令配下の部隊以外の機体を格納庫へと誘導する。 その司令の姿を横目で見ながら入る兵士達。 『3番機、こっちだ』 目の前にシルバーコングに乗った副指令が現れ、誘導されるままに格納庫へと入る。それと同時に格納庫の扉が閉まる。 「何故閉める!?司令とその隷下の部隊はまだ外だぞ!!」 思わず声を荒げるグエン。 『これは作戦だ』 モニターに映し出される副指令の姿。 「しかし・・・」 『異議は認めん、貴様はそのままこっちへこい』 そう言うと有無を言わさず通信を切る。状況を把握できないまま、格納庫の奥へと移動する。 「?あれは・・・」 そこには、地下格納庫へ移動する為の大型エレベータがあった。 『よし、そのままヘルキャットをエレベータに載せろ』 指示どおりに機体をエレベータに載せると、エレベータは一度大きく揺れてゆっくりと下がっていく。 地下格納庫につくものと思っていたグエンの期待を裏切るように、さらに深い場所へと降りていった。 ガクンという音とともにエレベータは停止し、ゲートが開く。目の前には小型ゾイドがやっと通れる位の横穴が続いていた。 「これは・・・・・」 コクピット上部に装備されたライトで横穴を照らす。入口付近は人工的に作られた物だが、奥のほうは自然の横穴のように見えた。 「おまえはしんがりを勤めろ。来る事はないと思うが、敵を発見したらすぐに知らせろ」 「了解」 そう返答すると、バックモニターで監視を続けながら機体を前進させる。 『ポイントデルタまで到達』 「よし、さぁ最後の抵抗だ、やつらに我々の覚悟を見せてやれっ」 そういって司令は敵部隊へと突入していく。その後に続く司令隷下の部隊。 しばらくして基地を中心に大爆発が起きた。 その振動の激しさから近くの山が崩れ、土煙を吹き上げる。周辺にいた共和国軍は逃げる場を失い、 なすすべもなく土砂に埋もれていった。 山が静けさを取り戻した頃、土砂の中から必死に這い上がってきた共和国軍兵士の周りには先ほどまであった 帝国基地と味方部隊の姿かたちはなかった。部隊の壊滅と引き換えにこの土地を手に入れた共和国軍だったが、 この地に新しい陣地を敷く事はせず、数キロ先にある高台に観測兼、空軍補給所を設置した。 そのかわりにその場所には両軍兵士をたたえる石碑立つ事となったが、この戦闘に参加し、 生き残った元両軍兵士による慰霊祭が行われるようになったのは、2070年頃になってからだった。
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