総 力 戦
山脈の峠に設置されたレーダサイトからの敵発見の報告。戦闘はそこから開始された。
この報告は、周辺の守備隊に伝わり一気に緊張が走る。
「正面よりコマ犬確認、後方にはゴドスの群れが見える。正攻法の正面突破だよ」
監視委員からの愚痴交じりの報告と同時に、グレートサーベルとヘルキャットの群れが彼らを飛び越えて前線へと向かう。
そしてワンタイミングおいてサイカーチスが上空を通過していく。
「こちら203支援砲撃隊、詳しい敵座標を送れ」
山全体を要塞化することによって建設されたこの基地は、周囲5kmに渡り、弾薬補給や防衛拠点用の通路が掘られており、
生半可な攻撃では攻略できない基地であった。そこに共和国の群れが押し寄せたのである。日々劣勢に立たされ、
今では補給も滞りがちの帝国軍守備隊
は、その数に気圧されることなく各々任務に従事した。この基地が突破されれば、共和国領内に進駐している
何万人もの同志が取り残されてしまうことになるのだ。
だが共和国も同じで、現在山脈中央に飛び地となって孤立する味方がおり、この基地攻略の成功はその味方への最大の支援となる。
互いの総力戦はまだ始まったばかりだった。
基地に近い山の麓に陣取った帝国軍守備部隊と、侵攻する共和国軍前線部隊の戦闘は、帝国軍の抵抗が予想以上に激しかった為に、
共和国軍の進軍が大幅に遅れていた。数日経って、応援要請により飛来したプテラスが、帝国軍の頭上に爆弾の雨を降らせていく。
その中の数発はバンカーバスターであり、いくつかが坑道を突き破って破壊する。
堪らず地上に出てくる帝国兵を狙い撃つ共和国兵。空軍の支援を受けて、確実に帝国軍に対してダメージを与えていく。
「弾が足りないぞっ!!」
必死の形相で訴える一人の兵士。
「B15ルートが使えず補給が・・・・」
「ち、うちの空軍連中は何やってんだ」
坑道の入り口付近に掘られた塹壕の中でぼやく兵士。その場にいる兵士全員の意見でもあった。
退却するプテラスの群れと入れ替わりに、新たなプテラスの群れが飛来する。間髪入れない爆撃に、兵士達の疲労はピークに達していた。
共和国軍は、次第に攻撃が弱まってゆくのを好機と捉えて、点々とする小さな陣地をつぶしながら前進を開始する。
「よしっ!!GO、GO、GO!!」
その言葉に一気に走り出す共和国兵。だが、共和国部隊を一条の光が襲った。
一瞬にして惨劇に見舞われた共和国軍前線部隊は混乱をきたす。
「なんだいまのは!?」
上空にいるプテラスは、真下で発生した状況に戸惑いを隠せない様子で、しばらくその場で滞空しつづける。
そこへ本国から飛来したレドラー、シュトルヒの混合大隊が側面から攻撃を仕掛ける。
地上に気を取られていたプテラス隊は、接近する敵機を見て慌ててその場を去る。
再び地上の共和国軍を光が襲う。前線部隊の大半が消滅し、上空からの支援もなくなった共和国軍は撤退するしかなかった。
その状況を見て歓喜する帝国軍。
「こちらスラマー1。粒子残量ゼロ、機体をポイント5へ移動させる」
そう報告すると、パイロットは自機を森林伝いに次のポイントへと移動させる。
森林の中をうごめく赤い機体。それは動く要塞の異名を持つレッドホーンだ。
その背中には巨大な構造物が装備されており、両脇の砲塔が鈍い光を放つ。
背中の巨大な構造物は、最強兵器“荷電粒子砲”を撃つためのものであり、装置内に吸引した荷電粒子砲に連射性を持たせた機体だ。
姿を見せずに砲撃した為か、共和国軍ではデスザウラーの出現の可能性を危惧していた。いくら大群で攻めたとしても
山上から荷電粒子砲を放たれれば、前衛どころか後方の部隊も巻き込まれて全滅するのは確実だった。そのため共和国軍は、
ひっきりなしに偵察機を飛ばして情報収集に努めた。そしてあくる日の午後、共和国軍による定例爆撃が開始され、
それに呼応するように近くの基地より飛来したシュトルヒ部隊との空中戦が繰り広げられる。それと同時に再び侵攻を開始した
共和国軍は、帝国軍前線守備隊本陣へと足を進めていく。そこへ再び放たれるスラマーホーンの荷電粒子砲。とっさに岩陰へと
隠れる共和国軍のゴドス部隊。岩陰を盾にし、徐々に進撃する共和国軍は、帝国軍前衛陣地まで残り数キロまで迫りつつあった。
「第3射発射準備OK。いつでも撃てます」
スラマーホーンのパイロットが指揮車に搭乗する上官へと報告する。モニター越しの上官は、別の画面を見つめながら
一言唸るとこちらを向く。
『現在照準目標を精査中、しばらくそのままで待機』
「了解」
ふぅと息をつくと正面で輝く光を見つめる。その先には数体のゴドスが見えるが、前日のような不用意な突撃を仕掛ける事はなかった。
彼の乗る機体に装備された荷電粒子砲が、抑止力として効果をあげているからだろう。戦闘は終わりのない持久戦へと突入して
いるように見えるのだった。
岩と岩の隙間からザットンがその頭部を出して、麓の戦闘を見下ろしている。
「戦闘開始から3時間・・・攻めあぐねているのか作戦なのか・・・気味が悪いぜ」
そう言いながら眼下で行われている戦闘を見ながらぼやくと、頭部を引っ込めて機体を安全な場所へと戻す。
すぐ近くにある洞窟の入口へと入り、時折炸裂するミサイルの音と同時に響く振動に、身を竦ませながら洞窟内の奥へと歩く。
「ったく、穴倉に入ったままお陀仏は勘弁願いたいが、命令もなしに動くわけにいかんしなぁ」
そう言って洞窟の奥に隠されている機体を見上げる。
鼻先に付いたドリルが特徴のサイ型ゾイド、ブラックライモスだ。その隣では鼻先のドリルを使って今も掘削作業を行う同僚の
機体が見える。この洞窟はまだ掘られて間がないために拡張工事中なのだ。しかもどういう目的で掘られているのかは
知らされていない。戦闘が開始され、中止命令が出るものと思いきや、急ぎ残工事を進めたしとの命令が司令部から届き、肩を落とした。
「そんなにドンパチしたいのなら、今から転属命令願いを出してあの最前線に行くかい?」
彼の言葉を聞きつけて話し掛けてくる男。
「冗談、死に急ぎたいわけじゃねーよ。ただ、同じ場所にいてあそことここの違いってなんだろうなと思っただけさ」
「なるほどね、でお二方はそうやってここでサボってるわけだ」
二人の正面に両手を腰に当てて憤った様子を見せる少女の姿が見えた。
「マニー、そんなに怒ってるとしわが増えるぞ?なぁ、フューズ」
声を殺し、笑いをこらえるフューズ。
「・・・・!!中尉、私まだそんな歳じゃありませんっ!!!!」
そういって怒りを爆発させるマニー。
その姿を見て再びこみ上げてくる笑いを抑えるのに必死の二人。
「いいかげんにしておけ」
妙に低い声に誰もが顔色を変え、真剣な顔つきで声の主を見ると敬礼をする。
「戦闘が始まっているのに、ピクニック気分でおられると迷惑だ。少しは周りを見て行動しろっ。
バルザック、連中と交代だ。いけっ」
そういって掘削作業現場を右手の親指でさす。ふと見渡すと、こちらを注視する監視兵や整備兵が見え、注目の的である事に
恥ずかしさを覚える。気を紛らわすかのように親指の先を見ると、コクピットから降りてくる同僚達の姿が見えた。
「アンダーソン大尉、バルザック・アルテイト、フューズ・マクドレン、マニティ・ウェイク以上3名は
直ちに作業に入りますっ」
バルザックがそう告げると足早にその場を去る。麓での戦闘は、開始から7時間を過ぎる頃になると、数で押す共和国軍が徐々に
優勢となりつつあった。帝国軍守備隊は、雨のように降りつづけるミサイルと航空爆撃で、まともに動き回る事もできないまま
駆逐されていく。
「ちっ、あれからもう4時間近く掘らされてるよ、意地が悪いにも・・・・・」
バルザックが愚痴をこぼしながら作業にあたっていると、ドリルが一気に壁にめり込む。
思わずバランスを崩しそうになるとともに、周辺の壁が一気に崩壊する。
「バルザック大丈夫か!!」
「一応・・・直に掘っていたら確実に死んでたぜ・・・!?」
土埃が舞い上がる先に何かの気配を感じ、その先を凝視する。再び岩が崩れる音がしたかと思うと、目の前に現れたのは
共和国軍所属のゴドス。強化ガラス越しに驚いたパイロットの姿が見え、こちらもギョッとする。
「・・・・・なんでゴドスが・・・!!」
おそらくゴドスのパイロットも、同じ事を言っているに違いないと思いながら機体を起こす。
呼応するようにゴドスも起き上がり、右手に装備した大型のドリルをこちらに突きつける。
「おいおい、作業用の機体でやりあおうってか?」
『・・・どうした!?』
味方の通信が矢継ぎ早に入るが、それに応答することなく目の前のゴドスに集中する。
鈍い爆発音と共に、ゴドスの右手に装備された大型ドリルがこちらに向けて発射される。
「そんな飛び道具ありかよっ!?」
そうぼやきながら慌てて避ける。そして再び前を向くと、跳躍するゴドスが目の前にいた。
落下の勢いを利用して組んだ両手を、ライモスのコクピットにヒットさせる。
浮きあがったライモスに、息をつく間もなく繰り出されたゴドスキックが頭部に炸裂。
鼻のドリルを折り、分厚い装甲に覆われた頭部コクピットにめり込む。その場に沈み込むライモス。
ゴドスのパイロットは、それを見て勝利を確信したのかそのまま後方に下がろうとする。
「残念だが掘削作業は背中の方がやりやすくてねっ!!」
そう叫びながら、両脇に装備されたビームキャノンをゴドスに叩き込む。両足をビームで損傷し、その場に倒れこむゴドス。
機体を起き上がらせていると、ゴドスの後方から数機のゴドスがビーム砲を放ちながらこちらを牽制してくる。
「ちっ、せっかく敵を生け捕りに出来ると思ったのに・・・・」
『その前におまえが生け捕られそうだなバルザック』
笑い混じりの通信が入ると同時に、後方から2機のライモスが現れて頬に装備されたビーム砲で敵を牽制し、バルザック機の確保に回る。
敵も同じような行動を取り、被弾したゴドスのパイロットを救出した後、機体を破棄してその場を離れていった。
しばらくして開いた穴の前で両軍が睨み合いを続ける。互いに顔が見えるのではないかと思えるほどの近さで対峙する事は
今までなかっただけに、いやおなしに緊張が走る。
「バルザック機から回収したレコーダーを解析した結果、敵は基地中枢へ向けて穴を掘り進めていた模様です。
映像が不鮮明な為に確定とはいえませんが、我々が予定している掘削予定地点までの掘削は終えているようです」
オペレーターからの報告が終了すると、暗がりだった部屋が明るくなる。
「と、いうわけだ。予測はついていると思うが今後我々の主任務は穴掘りから敵の駆逐へと変更される。現
在のところ敵の主力はゴドスと思われるが、こちらの存在を知ってしまった以上、増援は確実にあるだろう。
こちらも1個中隊が向かっている。持久戦になることは明らかである。各員、第一戦闘体制のまま待機してもらう。
また、本作戦は麓の戦況に応じて早急に行われる可能性があるので、各員注意するように。
但し、バルザック機は先の戦闘で頭部コクピットを損傷した為、後方待機だ。質問は認めん以上だ」
その言葉にバルザックは、心の中で舌打ちする。そしてようやくこの坑道の意味を知るのだった。
一定の距離まで詰め寄った共和国軍は、引く事をせずに戦線の維持を続け、再び後方から発射されるミサイルや空爆で、
戦力を削ぐ作戦に移した。気が付けば日は落ち、あたりは暗闇が支配しており、麓ではオレンジ色の光が飛び交う光景だけが見えた。
「こちらスラマー1、ナイトビジョンシステムへ移行するため、一時後退する」
『了解、第37支援砲撃隊は前に出ろ。11歩兵連隊は周囲の警戒を怠るな。
ライラック、おまえは出ずっぱなんだから今の内に外の空気でも吸っておけ、いいな』
「了解」
そう返答すると、機体を少し離れたところに設置された臨時整備施設へと向ける。
スラマーは、その背中に背負った荷電粒子砲発射装置の制御の為に、必要最小限の設備をコクピットに搭載するのみで、
夜間戦闘をする為には一部システムの変更しなければならない。
その上、機体はまだ試験機の域を脱していない事もあり、常に各部のチェックが必要となっていた。
この施設はそのための物である。数時間ぶりにコクピットハッチが開き、冷たい外気が流れ込んでくる。
その空気に新鮮さを覚えながら、脇につけられたタラップに乗り込む。
「順調のようですね」
乗り込んだタラップにいた白衣の男性が笑みを見せながら声をかけてきた。その声に振り向くと彼が手にした食料キットを渡される。
彼はこのシステムを開発した技術者の一人で、実戦投入されるスラマーの監督責任者でもあった。
「そうでないと困るのは君らだろ?」
そう言いながら、渡されたキットの封を開け、付属のスプーンで中の物をかき出して食べる。
「そうではありますが、この成功は我々だけでなく帝国の明日への希望となるものですから」
そう言って空を見上げる。普段なら闇夜に光る星々が見えが、今は立ち昇る煙がそれを遮っていた。
「技術屋の言葉だな」
「はは、お気に召しませんか」
苦笑しつつライラックを見る。
「気に入るとかではなく、世界感の違いを感じただけだよ」
二人の会話に割って入るように少し離れた麓の守備隊陣地付近で爆発が起こり、周囲を明るく照らしたかと思うと、
遅れて爆風が彼等を吹き付ける。
「・・・・・」
何も語ろうとせず、戦闘を見つめる二人。そこへ無線が入ったことを知らせるアラームがなる。
右手でヘッドギアタイプのインカムのパッドを抑えながら、応答する技師。
「機体整備完了の知らせがきました。ご武運を・・・」
「ありがとな」
そう言うと再び愛機へ乗り込む。ハッチは閉めず、機体を起動させるとゆっくりと前進させる。少し離れた所に
待機しているタラップの上にいる技師に向けて敬礼すると、彼もまた敬礼で返す。
「こちらスラマー1、準備完了、これより戦闘体制に入ります」
『了解、支援砲撃隊と合流後、ポイント774へ移動せよ』
「了解・・・・第37支援砲撃部隊、現在位置と状況を送れ」
『・・・・』
いくら戦闘中でも近距離にいるはずの部隊との連絡が取れないことはあまりないことだ。いぶかしげに思いながら、
何度も呼びかける。だが、いくら待っても砂嵐の音しか聞こえない。
一瞬、モニターが明るく光った。瞬時にその方向を見やると、画像補正でかろうじて見える味方機の残骸が見えた。
再び辺りを明るく照らす何かが見え、それと同時に機体に衝撃が走る。
「なっ・・・・!?」
突然の事に動揺しつつ、見落としがないようにモニターを注視する。危険を知らせるアラームがコクピット内に響き渡り、
接近した敵機を確認する。モニターには“ゴドス”、“ガイサック”の文字が見え、その足元には何人もの歩兵が
うごめいているのが見えた。
「た、隊長!!敵が現れました!!応援を要請しますっ!!」
前衛陣地が近いこの場所で、敵に遭遇する事を想定していなかったライラックは、悲鳴をあげるように助けを求める。
必死に敵の攻撃を避けながら通信を続けるが、何の反応も返ってこない。
さっきまで、普通に会話していた上官の声が聞こえる事を必死に願うが、帰ってくる事はなかった。
「くそぉっ!」
一人になってしまったという恐怖感が彼を襲う。それを目の前の敵に集中する事で忘れようと必死になる。
前方の二機に気を取られているうちに、隠れていたと思われるアロザウラーが突然姿を現して、スラマーに体当たりを仕掛けてきた。
不意を突かれて思わずよろけるスラマー。そこに歩兵隊から発射される対ゾイド用ミサイルランチャーが何発も発射され、
次々に命中していく。コクピット内は、機体損傷を告げるメッセージとアラームが鳴る。動きが鈍ったスラマーに群がろうとする歩兵。
「近づかせるかっ」
あご下に装備された対人用の機関砲を歩兵部隊に向けて放つ。次々に倒れていく共和国兵士。
「おまえらごときにこの機体をやられて・・・・うぁ!?」
歩兵の相手をしている隙に、再びゴドスとアロザウラーが、突撃をかけて腹部に損傷を追う。
格闘用武器を持たないスラマーと状況にパニックを起こしかけているパイロットには酷な状況だった。
殆んど嬲(なぶ)られる様に成すすべもなくスラマーは沈黙した。
帝国の守りの要であったスラマーの沈黙を確認すると、共和国軍の主力部隊が帝国軍前衛陣地に押し寄せてきた。
それを見て、陣地の奥から大型キャノン砲を装備した改造マルダー“デファイアント”が這い出てきた。
3機のデファイアントが横一列に並び終えると、一斉砲撃を開始する。その砲撃を見ても共和国軍は怯むことなく前進し、
後方に待機していたカノントータスが応戦、激しい撃ち合いが始まった。
数時間後、前衛で戦っていた帝国軍主力ゾイド、ハンマーロックとヘルキャットが鉄屑となった姿をさらしていた。
そして、それを踏み荒らすように3機のアロザウラーが現れ、周囲を確認しながら前進していく。
「麓の戦況が思わしくありません。これ以上は持ちそうになく、第2防衛計画の発動を・・・」
ゆっくりと指令に近寄った副官が、耳元に手をあてて小声で話す。
「そろそろ限界か・・・アンダーソンの部隊に急げと命じろ。作業予定はこの際無視してかまわないと」
「はっ」
小さく敬礼すると脇にあるタラップを降り、目の前に座るオペレーターに指示を出す。
「了解いたしました。現在の状況で何処までの効果を得られるか分かりませんがやってみます」
『頼む』
そう言うとモニターの副官の顔が消える。
「予定を早める。まずは壁の向こうの連中を黙らせろ」
『了解・・・・さぁておっぱじめようかっ♪』
「そう言う言葉は無線を切ってからにしろっ」
フューズの威勢のいい声に、思わず苦言を呈すアンダーソン。その通信を不機嫌な顔で聞くバルザック。
せっかくの戦闘に参加出来ないでいる状況に、苛立ちを覚える。だが前へ飛び出すことはなかった。
それは自分がまいた種であることが、彼に自制を促す結果となった。そんな彼の足元を
何人もの兵士が忙しそうに行き来している。今まで掘ったトンネルの地面や天井を掘っては埋める作業を繰り返していた。
2機のブラックライモスが突撃をかけるのを合図に、両軍が坑道の中で激突する。決して広くない道内で、
格闘能力のみで繰り広げられる戦闘。増援でやってきたイグアン部隊はよく敵ゴドス部隊を抑え、作戦は順調にすすむ。
業を煮やした共和国軍は、掘削作業用に投入したであろうベアファイターを差し向ける。さすがにこれはイグアンでは無理だろうと、
フューズ、マニティの寮機が対峙する。互いに睨み合う重戦闘機怪獣。
先手を取ったベアファイターが距離を詰めると、腰を浮かせて前足で殴りかかろうとする。身を引いてかわすと、
フューズは頬のビームを放つ。コクピットを狙った一撃をあっさり外し、逆に体当たりを喰らう。
「くっ・・・・!!」
思わずうめくフューズ。ただ、そのお陰で一定の距離を置く事ができ、再び睨み合う。
『いやぁっ・・・・!!』
不意に入る無線に周囲を見渡すフューズ。少し前の方で戦っていたマニティのブラックライモスが、
戦闘不能状態にされているのが見えた。
「き、きさまらっ!!」
そう言いつつも、すぐに助け出そうとする心を抑えて目の前の敵に集中しようとする。
だがその事がより一層、彼の周囲に対する警戒を緩める事となってしまった。
突然足元で起きる爆発。何事かと思い足元を見ると数人の共和国兵士が、ランチャーを持ってこちらに照準を合わせていた。
「貴様らがマニィを・・・・!?」
足の元に気を取られた一瞬を狙って、ベアファイター2機が襲い掛かってきた。初めの一機は何とかかわす事に成功したが、
もう一機がのしかかって彼の機体をその場に沈黙させる。ギシギシと金属音がきしむ音がコクピット内に響き始める。
死という絶望が目の前に迫っている事を実感した彼は、思わず発狂したくなる衝動に駆られる。だが、それをぐっと堪えて
必死に抵抗してみせるが、2機のベアファイターに押さえつけられた体は、どうあがいても動く気配を見せない。
『登山は終えた、繰り返す、登山は終えた・・・』
暗号通信を聞いて何かを悟ったような顔をするフューズ。
「こうなれば・・・・・」
そうつぶやくと、普段触る事のないDANGERと書かれたボタンを思いっきりカバーごと叩き押す。
モニターに表示される数字。脇には自爆まで・・・と表示されていた。
「まさかこんな事になるなんてなぁ・・・・」
ブラックライモスは2機のベアファイターを道連れにその場で爆発する。吹き飛ぶベア。
それに呼応するように坑道内のいたるところで爆発が起き、坑道全体を揺るがしはじめた。低いうなりが続いたかと思うと、
一気に崩れていく道内。脱出用の穴から顔を出した帝国兵が、先ほどまでいたであろう山を見る。
大きく揺れると共に中腹辺りから一気に山の形が崩れてゆき、なだれとなった土砂が麓にいる共和国軍を飲み込んでいく。
「やったぞっ!!」
その状況を見て思わず叫ぶ下士官。しかし、その後に続く歓声はなかった。今、麓に残存する味方部隊ともども
生き埋めにした罪悪感にさいなまれている者がほとんどだったのかもしれない。その様子をじっと見つめる男が一人。
その場に仲間を、愛機を捨ててきた事への憤りでいっぱいだった。おまえ達の死を無駄にはさせない・・・・そう心で呟くと、硬く心に誓った。
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