プロローグ
 
 
ZAC2115年 西エウロペ大陸

 
かつて彼の地に混迷を齎した『アルバンの反乱』から10年。
数多の派閥の蹂躙に曝された都市国家『ディーベルト連邦』は、移り変わる歴史の中で未だ平穏を維持し続けていた。
大陸に進攻した大国からの独立…それをを夢見た人々の意志が形となったこの国は、かつての進攻国家であるガイロス帝国の後押しもあって、戦争の惨禍から次第に復興し始めていた。

 
 

フィルバンドル郊外
陸軍駐屯拠点
 

ドォン! 

地上を抉る砲火をかい潜り、青く煌めく四足歩行型ゾイドが疾走する。

ガイロス、旧ゼネバス両帝国で運用された『サーベルタイガー』を彷彿とさせる青い虎型ゾイドは、軽やかなステップで眼前の敵に迫る。

目の前を駆けてくるのは、一回り小振りな3機の白い機体…ヘルキャットを思わせる高速ゾイド『カットラス』だ。

 
……行って、サーベルシュミット!!」

コックピットに座るのは、セミロングの髪をサイドテールに纏めた少女。
彼女はモニター越しに近付いてくるカットラスを冷静に見つめると……やがてスロットルを噴かせた。

青い虎型ゾイド『サーベルシュミット』は、素早く大地を蹴って跳躍する。
同時に、背中に装備された翼状のヒートブレードが展開された。

そして、すれ違い様にカットラスの背中の武器を2機同時に切り落とす。

 (これで2機……後はっ!)

 真ん中にいたカットラスは、鋭い爪を閃かせて飛び掛かる。
しかし、青いサーベルシュミットはカウンターの如く頭突きを食らわして華奢な躯体を跳ね飛ばしていた。
「ふ〜〜ん、G‐リーフとS‐ディール2個小隊を蹴散らしたと思ぅたら、今度はカットラスを3機も……中々やるやんか、アルの娘(こ)も」
窓から模擬戦の様子を見下ろしていたポニーテールの女性は、獲物を見つけた猫の様に件のサーベルシュミットを見つめていた。
「しかも、ゾイドに致命傷を与えずパイロットも無力化させる……全く、あいつらしいな」
その側で見ているのは、ディーベルトの軍服をしっかり着こなした大人の男性。
刃の様に鋭利な双眸が苦笑した様に歪む。

「だが……いくら乗り慣れた機体でも『あいつ』は上手く制するかな………?」

 ディーベルト軍高速戦闘部隊指揮官『アルフレッド・I・リヴィル』准将と、
首都防衛隊隊長『クリスティ・D・カルダン』中佐。
彼等は今、シミュレーションを行っているサーベルシュミットを期待の眼差しで見つめていた。
(ま、勝敗の結果など瑣末なものだがな………)

(反応!?)

不意に鳴り響くセンサーに、少女は反応する。

「このプレッシャー、まさか!?」

思わず声を上げた瞬間、側面から黒い影が迫ってきた。

 「っ!!!」

とっさにサーベルシュミットは前足を回転させて、あたかも独楽の様に軌道変更する。

「BB(ブラックブレード)ライガー……セイロン副隊長!」

襲い掛かってきたのは、漆黒のカラーリングを施されたライオン型ゾイド……ブレードライガーだった。
少女はそれを確認した瞬間、バックステップの要領で機体を後ろに引かせる。
そのまま胸のショックカノンと肩の迎撃レーザーを撃った。
黒いブレードライガーは、間を置かずに鬣を展開。シールドで相殺する。
そして、そのままブースターキャノンで返撃した。
着地する直前のサーベルシュミットは急な動きが間に合わず、砲撃をまともに喰らってしまっていた。

「ふがっ!?」

 着地寸前で受けただけに四肢を踏ん張れず、二十メートルは吹っ飛ばされるサーベルシュミット。
辛うじて転倒はしなかったが、態勢を立て直した時には……

「チェックメイトだ」

ふと、抑揚の無い声が聞こえた。
少女が顔を向けると…サーベルシュミットの鼻面に、銀色の爪が突き出されていた。黒いブレードライガーのものだった。

「まだ、精進が足りんな」

同時刻、暗黒大陸ニクス

焦げ茶色のティラノサウルスに似た影が、イグアナに似た機体を踏み砕く。
同時に、手近にいた芋虫の様な機体を捕らえて大砲を噛み千切った。

「ば・莫迦な……たった1機で8機も!?」

「アイアンコングやレッドホーンまで、こんな……」

横倒しになったゾイドのパイロット達が、顔に恐怖を引き攣らせて言う。
彼等の視線の先にいたのは、かつてPK(プロイツェンナイツ)に少数配備された
改造型ジェノザウラー『ジェノサイド』だった。
カラーリングが本来のワインレッドから変更され、両足にサブウェポンポッドが
装備されてはいたが、確かにそれはジェノサイドに間違いない。
その機影−ジェノサイド−は、首を擡げて次の獲物……恐怖に駆られて後ずさるジェノザウラーに向けられた。

「残るはあれか……」

ジェノサイドのコックピットで、青年は獲物の姿を捉える。眼鏡の奥に伺える双眸は、
まるで路傍の木石を眺めているかの様に、冷たく無機質な光を湛えていた。
見ると、敵ジェノザウラーは覚悟を決めたのか荷電粒子砲を突き出している。
その口腔に、見る間に冒涜的な煌めきがちらつき始めた。

「莫迦な奴だ……」

しかしジェノサイドの青年は気に留める様子もなく冷静に照準を合わせ…素早くトリガーを引いた。
同時に、背中の右側に装備された2連装パルスレーザーが火を噴いた。そして……
上段の砲身から放たれた一撃が荷電粒子砲の砲口を直撃し、下段の砲身からの一撃は
コックピットとコアをピンポイントで貫いて蒸発させていた。
主とコアを喪失したジェノザウラーは瞬く間に目の輝きを失い、
前のめりに崩れ落ちて……同時に、破損した荷電粒子砲が誘爆して火だるまになってしまっていた。

「敵ゾイドの全機殲滅に成功、任務完了……残るは制圧班に任せる」

ジェノサイドを駆る青年は、冷たい響きのする口調で燃え盛る残骸を見下ろすと……
そのまま両足のスラスターを噴かして戦場から離脱した。
後には、徹底的に破壊された兵隊崩れのゾイド達が無残な骸を曝していた………
 
 
 
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