邂逅2
 
 
 
命令通達から一週間後

 

エントランス湾基地の滑走路に、ディーベルト軍の輸送艦ゾイド「ホエールクルーザー」が着陸した。
そのブリッジから、精悍な体格の将校が悠然と姿を現す。
「ディーベルト連邦国防軍所属、『アルフレッド・I・リヴィル』準将です。我が部隊に配属される人員を迎えに来ました」
青年の様に若々しい風貌のアルフレッドは、数名の護衛と共に敬礼した。
「遠路はるばるご苦労様です。ガイロス帝国軍エントランス湾基地司令、ヒィル・オクラ・ゴースン準将であります」
見慣れた禿頭の司令官が、素早く敬礼する。
「同じく帝国軍特務隊、ユーリ・イグニス少尉。同所属、チェルシー・イグニス準尉。本日よりディーベルト連邦軍に転属致します」
続いてユーリとチェルシーも敬礼を返した。
「まさかディーベルトの司令官やってるとはな……隊長さんも人が悪いぜ、何で今まで教えてくれなかったんだ?」
執務室に客人を通したヒィル準将は、目の前に立つアルフレッドを旧友の様に見据えた。
「すまなかったな、ヒィル。こちらも世界も当時はまだゴタゴタが絶えなかったから、つい話せなかった……だが、久しぶりだな!」
アルフレッドはその顔を微かに綻ばせると……そのままヒィルをしっかり抱き寄せた。
「全くだ。あんたが生きててくれるとは、アダールの野郎もあの世で喜んでるぜ」
今はいない戦友の名を呟きながら、ヒィルは豪快に笑った。
ドル・ツェストの巨体が、灰色のホエールクルーザーに収納されていく。
程なくして、黒い竜は褐色の竜−ジェノサイド−の側に固定された。
「兄様〜〜」
格納庫で機体収納を見ていたユーリ。チェルシーは、表情を伺えない兄とは対照的にコロコロと表情を変えて話していた。
「ね、ディーベルトってどんな国なのかな?」
天真爛漫な妹がそんな事を言ったのは、サロンに通じる廊下の中だった。
「………ディーベルト連邦は、西エウロペ地方の大半を統括する都市国家だ。
ZAC2100年、現在の首都『シビーリ』を中心に発足して、ときの進攻国だったガイロス、
ヘリックに対抗した……一時期は共和国準将『コクン・クゥラ』の軍事介入で解体されたが、
彼が暗殺されて勃発した『アルバンの反乱』終息後に再興。現在はエウロペ大陸における我が国最大の友好国となっている……
中心都市は首都シビーリに加え、フォッケナウ、ルーサリエント、そして僕達の配属先となるフィルバンドル…………そういう国だ」
辞書をそのまま引用したみたいにスラスラ項目を言い上げていくユーリ。
「ほへ〜〜………兄様って物知りだ〜〜………」
詳細な説明に、チェルシーはポカンと口を開けて立ち尽くすしている(こんな兄だから無理ないのだが)。
「ふふっ、大正解………と言いたい処ですが、惜しいですね♪」
途端に、背後から声がした。
「この艦の乗員か……?」
ユーリは微細にも表情を変えず、ゆっくり振り返る。
そこにいたのは、ディーベルト連邦の女子軍服を着た女性だった。
まだ幼さの残る顔立ち。長身のユーリに比べると一回り小柄な背丈。
何よりくりくりした双眸と薄紫の髪が映える容姿は、少女と形容しても遜色ないものだった。
「貴方達ですね?準将が申していた帝国からの派遣隊は……確か、ユーリ・イグニス少尉と
チェルシー・イグニス準尉……でしたっけ?」
穏やかな顔立ちの少女は、兄妹を身ながらにっこり笑い掛けていた。
「名答だ……ユーリ・イグニス少尉。本日よりフィルバンドル駐留基地に配属されます」
少女の問いに対して、ユーリはいつも通り抑揚のない声色で応えた。
ジロッ
一歩下がった彼は、そのまま横目でチェルシーを睨む。
「あわ、ボ・ボクはチェルシー・イグニス!兄様と一緒にお世話になりますです!!」
兄の無言の意志を感じ取った妹は……緊張してしまったのか、やや上擦った声で少女に返していた。
「2人ともありがとうございます……あ、申し遅れました。
私はディーベルト連邦国防軍所属、クレセア・I・リヴィル準尉です!」
一瞬にして真剣な表情になると、少女は無駄のない動きで敬礼していた。
「以後、よしなに……準尉」
クレセアの様子を伺ったユーリは、そのまま敬礼を返していた。
同時刻、ディーベルト連邦首都『シビーリ』
「アルフレッドってば、上手くいってるかしら………」
議事堂の執務室で、彼女は窓の外に映る空を眺めていた。
幼く見える姿形の彼女だが、重きを背負う気概が時折見え隠れしている。
サラ・ミラン
フィルバンドル地区より選出された、現ディーベルト最高評議会の議長である。
かつて国が発足して以来、穏健派の筆頭として尽力してきた敏腕の政治家で、同時にアルフレッドのよき理解者の1人でもある。
一時期混乱の渦中にあった国も安定に向かう中でも、彼女の日常にさして変化はない。
「議長、お時間です。リヴィル評議員以下、既に全員到着されておりますよ」
気がつくと、見慣れた専属護衛官が彼女を呼びに現れていた。
「あ、ジン君ごめんね。今支度するから待ってて〜〜〜」
サラは無条件に微笑むと、外していたボタンとスカーフを手早く締め直す。そして上着を豪快に羽織ると、
執務室から颯爽と出ていった。
 
 
 
 
 
バトストMENUに戻る
次の話へ行く