第八話 ファースト・アラート
部隊結成の翌朝……
ユーリ達は、滑走路に立っていた。
背後には数体のゾイドが、まるで主の到着を待ちわびている様に待機している。
焦げ茶色のジェノサイド、その隣には、青い虎-サーベルシュミット-と黒い竜-ドル・ツェスト-、逆隣にも小柄な狼の様な影が佇んでいる。
「サーベルシュミットにドル・ツェスト……しかしコマンドウルフACまであるとは………」
少しちぐはぐな編成だが、理に適っているのは確かである。
(自分ならサーベルシュミットを突撃させ、コマンドウルフをそのサポートに……
そしてジェノサイドとドル・ツェストで後方から支援―――)
「あの……私のコマンドウルフに興味あるの?」
ふと、聞き覚えのあるソプラノが耳に響いた。
「ベルリッティ軍曹……貴官のウルフか」
先日顔合わせをした時に、ある程度のデータは叩き込んでいる。
それ故、この少女にしか見えない人物が実は「男」だというのも熟知していた。
「あ、はい。この子、私と凄く相性がいいんです♪」
「なるほどな……了解した」
リンのやや得意げな言葉に、ユーリは淡々と返事して振り返った。
向こうでは、クレセアとチェルシーが互いに機体の整備に勤しんでいる。
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「チェンヤン少尉はどうした?」
やがてユーリは、エリカの姿が見えない事に気付いた。
「エリカちゃんだったら、機体を取りに言ってます。多分そろそろ………あ、来ましたね♪」
しかし、その前にリンが何かに気付いて空を見上げた。
「あれは……?」
そしてユーリも、聞こえてくる微かなエンジン音を聞き付けていた。
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「それは本当か、カルル?」
アルフレッドは、情報部主任のカルル・レッデからの情報に目を丸くしていた。
「間違いありません。場所はグレイラストの北西、その一角にある古い遺跡群です」
「そこに確認されたか……規模は?」
アルフレッドは神妙な表情で先を促す。
「最低でも70は下らないですね。恐らく、何物かに飼い馴らされている可能性があります………」
「目的は一体………」
辺境の地に奇妙な熱反応が確認された……その知らせが届いたのは早朝の事だった。
これを受け、航空哨戒部隊を斥候にあたらせるが………
彼等が持ち帰った情報は、にわかには信じ難いものだった。
数十機近くのブロックスがそこに屯していたのだ。
照合した結果、かつて確認された2つのタイプに間違いない。しかも、まだ稼動出来る可能性すらある。
何より、これらに混じって正体不明の熱反応が確認されている事が不気味さを醸しだしていた。
「……どうやら、シェヘラザードの初陣になりそうですね………!!」
いずれにせよ、自然にこんなブロックスが集結するのはおかしい。
初期の人工コアブロックスは、定期的に調整しなければいけないのだ。
それが稼動状態のまま一カ所に集結しているとなると、誰かが何らかの目的のために集めた……
と考えるのが妥当である。
「直ちに『イフリート』の準備を。ブリーフィングに入る!」
その頃、滑走路には薄紫色の飛行ゾイドが着陸していた。
「『ファルゲン』か……このカラーリングは初めて見る」
「私の趣味だ。何か文句あるのか?」
ユーリの遜色ない指摘に、パイロット―エリカ・チェンヤン―は頬を膨らませて抗議する。
「いや……少々目立つが、別に文句はない。
空の機体で地上機並の迷彩をされたら怒鳴り付けてやるところだったがな」
「褒めてるのか貶しているのか解らん奴だな……」
エリカは、そんなユーリの答えに呆れた様に返した。
「うわぁ~~~」
チェルシーは、初めて見るサーベルシュミットのコックピットで、物珍しそうに周りを見渡していた。
「哺乳類型に乗るのは初めてだけど、こりゃ中々強そうだよ。よくこんなの乗ってるね~~~」
クレセアに向けられるチェルシーの目は、
まるで新しい玩具を見た子供の様に生き生きとしたものだった。
「ふふっ、チェルシーは本当に純真なのですね………お兄さんとは正反対ですよ」
そんなチェルシーを見ていると、クレセアも自然に破顔していく。それが少し心地好く感じられた。
「あらら……クレセアってば、随分嬉しそうじゃない?」
ふと真後ろから聞こえた声に、クレセアは思わず首を向けた。
「やっほ~~♪」
そこにいたのは、赤紫の瞳でこちらを見つめる少女だった。紺のストレートヘアがそよ風にフワフワ靡いている。
「あ、ルチアちゃん!」
クレセアは、その少女を見ると飛び付いて手を握っていた。
「あれ?その娘知り合い?」
チェルシーもそれに気付いて首を傾げる。
「ルチア・ブリージュ。本日付けで軍曹になり、配属されました。
これからはシェヘラザードのパイロットとして頑張っていきます♪」
一行の前に立つルチアは、ハキハキした動作で敬礼した。
「帝国軍、ユーリ・イグニス少尉だ。以後宜しく」
ユーリも年長者らしく、皆を代表して前に出た。
そんなルチアの背後には、青黒い大型の機体が佇んでいる。フルバックだ。
「フルバック……選抜メンバーか、おめでとう」
先日のラッドとミーナの会話を思い出し、ユーリは小さく呟いた。
「あ、覚えててくれましたか……光栄です、少尉♪」
その言葉に、ルチアも満面の笑みを返していた。
ピリリリリ………
全員の懐から電子音が聞こえてきたのは、その時だった。
『こちら、アルフレッド・I・リヴィルだ。パイロットは総員、ゾイドを連れて『イフリート』に搭乗せよ。繰り返す、パイロットは総員、ゾイドを連れて『イフリート』に搭乗せよ――!』
10分後……
濃紺に彩られたホエールキングの格納庫で、アルフレッドは6人のパイロットと向き合っていた。
「――以上が情報部、哨戒部隊から寄せられた報告だ」
彼等を前にして、アルフレッドは神妙な面持ちで報告を読み上げていく。
「君達の任務は、グレイラストに出撃して無人ブロックスを捕獲、または殲滅する事だ……
のっけから難しい仕事になるが、直ちに準備して欲しい!」
「……了解」
ユーリは、いつもの静かな口調で悠然と礼をした。
同時刻 東方大陸、アルファシティ
「……はい。『クライ』及び『ダンバー』と『フランカー』との連携テストは順調です」
紅い髪の少女は、電話越しにそう会話していた。
「………了解しました。直ちに然るべき人員を派遣致します」
「また経営陣ですか?」
白衣の男は、うんざりした口調で少女に話し掛ける。
「そうよ……偉そうに新しい指示を出してきたわ」
少女は、人形の様に無表情な顔でそれに応える。
「まぁ構わないわ……あちらはネオブロックスにかかりきり。
フランカーや無人ブロックスの事はこちらで対処するしかないものね………」
少女はふと、傍らのモニターを開く。
そこには、格納庫で整備を受ける数機の大型ゾイドが映っていた。
「……トッド、『タンデロイガ』と『ジェノサイドブレイカー』はどうなってる?」
そこには……共和国のライガーゼロに酷似した黄土色の機体、
そして、背中にブレイカーユニットを纏った紫色のジェノサイドが静かに佇んでいた………
同時刻 フィルバンドル駐留軍兵舎
兵舎の入口に、1台の送迎車が止まる。
そこから現れたのは、学生服を着こなした黒髪の少女だった。
「お姉ちゃん達、今日もいてくれるかなぁ………?」
手には何かを包んだ風呂敷を持っている。それを大事そうに抱えながら、少女は検問エリアに向かった。
「あれ?誰かと思ったらレイナちゃんじゃないですか」
検問をしていた士官がそれに気付き、快活そうに手を振る。
「あ、バーンズさん。お父さんとお姉ちゃんにお弁当持ってきたんです♪」
レイナと呼ばれた少女は、士官に言われてトテトテ駆け出した。
「生憎だが隊長もクレセアもいないぞ」
レイナを待っていたのは、基地にいたセイロンの言葉だった。
「えぇ~~~~!?」
客間に素っ頓狂な声が響き渡る。それを見て、セイロンはやれやれと溜息を尽いた。
「……クレセアの奴、言ってなかったのか。
今日は朝から遠方で『軍事演習』がある。客人連中と合同でそれに参加している筈だがな………」
本当は任務なのだが、一民間人に本当の事は明かせない。
それがクレセアの妹ならば尚更である。
(よもや無人ブロックス如きに手こずるとは思えんが、今はともかく待つしかない………)
何も知らずに父と姉を待つ少女を見ながら、セイロンは思った。
「あそこか……」
眼下に広がる銀砂……濃紺のホエールキングは、そこに進んでいた。
その銀の海を見ながら、エリカは目を細める……
ファルゲンに乗る彼女は、その片隅に映る異様さを見逃さなかった。
「あれが標的(ターゲット)か……!」
視線の先に蠢くのは、鈍い銀色に光る恐竜の様な影。それに、大砲を背負った影も見える。
[少尉、奴らの背後に何か見えるか?]
ふと、開きっ放しの回線から声がする。ユーリの声だ。
「お前に言われなくても見るさ」
エリカは皮肉めいた口調で返すと、センサーを切り替えて索敵を始めた。
「ちょっと待て、これは………?」
だが、索敵を始めた瞬間……エリカは何かに気付いた。
「おいイグニス少尉!奴らの後方に一際大きな熱反応が見えるぞ!!」
「熱紋照合……機種特定、カルベルツァ系統機です!」
ブリッジ管制官のレイシア・キアンティ中尉が鋭い声を上げる。
アルフレッドはそれを聞きながら、シートから立ち上がっていた。
「総員、直ちに出撃。着陸の後、各個に敵部隊を殲滅する……全機、発進せよ!」
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