第十一話 悲しき殺戮者

 
東方大陸 アルファシティ、Zi−ARMS本社
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「そうですか……やっぱりやられましたね。まぁ、あのフランカーだけでは戦闘なんて無理でしょう。解ってた事です……」
[そんな悠長に言ってられるものか!やられたのは貴殿等の所有する無人ブロックスと実験機だぞ、
あれだけ量産するのに我が社が幾ら使ったと―――]
白衣の男は、電話の向こうから聞こえるヒステリックな声を軽く受け流し続けている。
 
「しかし何と言いますか……
こちらの微調整がまだだというのに強引に実験をさせたのは貴方達でしょう?邪魔なんて想定もせず………
それでいて、いざ失敗したら帳尻を丸投げするなんて、それはあんまりですよ。
どうしてもやれと言うなら、それなりの見返りが無いとね……」
穏やかな口調の裏にチラチラと見える殺気。電話の向こうで猛っていた声は、途端になりをひそめてしまった。
 
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「思った通り、文句つけに来やがったな」
電話が切れると同時に、部屋に別の声がした。
「ええ。全くウンザリですよ」
電話をしていた男は吐き捨てる様にそう言うと、窓から広がる港湾都市を見下ろした。
 
 
「とはいえ、こんな事でアルスフィの手を煩わせたくはありません。
Mr.ガデニー………Mr.クルツと共同で、一仕事頼まれてくれませんか?」
 
もう一人の痩せこけた男は、不気味な笑みを浮かべて首を縦に振った。
「俺のタンデロイガ………もう出せるんだろ?」
「無論……シールドライガーのコアをベースにした新型タイガーも、最終調整は済んでいます。
Mr.クルツにはそれに乗っていただきます―――『死を呼ぶ鎌』の復活を期待しますよ」
 
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西エウロペ大陸 フィルバンドル郊外、ディーベルト連邦軍駐留基地
 
「ねぇ、お姉ちゃん………こっちの人達は誰?」
見慣れないガイロス帝国軍の服を纏った2人を見て、レイナは思わず首を傾げた。
「あ、レイナちゃんは初めてでしたね」
それがユーリとチェルシーの事だと気付いたクレセアは、走ってくるチェルシーの手を取った。
 
「この子はチェルシー・イグニス準尉。ガイロス帝国からのお客さんなのです。
あっちはお兄さんのユーリ・イグニス少尉。2人ともエリカちゃんやリンちゃんと同じお客さんですよ〜〜」
「へぇ〜〜、リンちゃん達と同じなんだ………」
レイナは、こちらに向かってきた2人を興味津々に眺めた。
 
「あ、初めまして。レイナ・リヴィルって言います。姉がお世話になってます♪」
そして、初対面の客人に向かって礼をした。
「こっちこそ初めまして〜〜、ボクはチェルシー・イグニス。チェルシーでいいからね〜〜」
チェルシーは早速順応し始めたらしい。フランクな態度でレイナに挨拶を返した。
「あ、ほらユーリ少尉も早く……」
一方、ユーリにはルチアが取り付いて皆の輪に引っ張っていく。
程なくして、ユーリはレイナの前に引き出されていた。
 
「……ユーリ・イグニス。帝国から君の父上に雇われた人間だ……以後、よしなに」
 
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「やれやれ……全く、レイナにも困ったものだ」
報告を受け取ったアルフレッドは、執務室の安楽椅子に背中を預けた。
「悪い事ではないがな……しかし、健気過ぎるのも確かに考え物だ」
セイロンは、手元の資料を片付けながら相槌を打つ。
 
「『シェヘラザード』の事は重要機密だ。
今のところ内情を知ってるのは、関係者以外にはサラ議長とミラルダ、クリス、それにアザレア先生とヒィルくらいしか知らん。
流石にあいつに明かすわけにはいかないんだ………」
「それは指揮官としてか………それとも、父親として…か………」
ふと、セイロンがそう呟くのがわかった。
 
 
「……どちらも同じだろうな…………」
アルフレッドは誰に聞かせるわけでもない様にポツリと言った。
 
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「ん〜〜〜」
クレセアは、レイナから貰った弁当に舌鼓を打っていた。
「お・お姉ちゃん……どぅ?」
傍で見ているレイナは、固唾を呑んで姉の様子を見守っている。
 
「……バッチグーッですよ、レイナちゃん」
どうやら心配は杞憂に終わったらしい。クレセアは満面の笑みで妹を迎えていた。
「わは〜〜♪♪」
一方、レイナは目を輝かせて姉にしがみついていた。
 
「相変わらず仲良しだね〜〜」
一部始終を見ていたルチアは、ニヤニヤした表情でその光景を眺めている。
「クレセアやレイナには、やはりあんな顔が似合う……見てると自分も惹かれていく気がするよ」
「うんうん、それボクもスッゴくわかるよ!」
先程まで苛立っていたエリカ、途中から割り込んできたチェルシーも、いつの間にか微笑を浮かべてそれを見つめていた。
 
しかし……
 
 
「……先に戻る」
ユーリだけは、ただ無表情に踵を返していた。
 
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「あれ?ユーリ少尉どこ行っちゃったんでしょう??」(クレセア)
「さぁな……ま、あいつの事はいいんじゃないか?」(エリカ)
 
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まだ小さい頃……祖母と母と妹と一緒に、1度だけ軍の基地に来た。そこで、僕は軍人としての父を初めて知った………
 
 
父は国を守るため、これから海の向こうの大陸で戦う……そのために、いと強くあり続けるのだと聞かされた………
 
たまに帰って来ると、どんな忙しくても時間を作って接してくれる父……誰よりも優しい父………
 
僕には、機械油と汗に塗れてゾイドと語り合う父が凄く眩しく、誇らしげで……
それでいて、どこか遠くに感じてしまっていた……
 
何なのかわからなかったけど………まるで、もう2度と会えなくなるみたいに……
そんな不安が少しだけ、幼心の中に燻っていた………………
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でも、3年後………帝国軍が暗黒大陸を旅立って2年を経たある日、僕は現実を突き付けられた………
 
難攻不落と言われたニクシー基地からの帝国軍撤退の知らせ……そして、帰ってきた父を見て………………
 
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2年振りに再会した父は、白い布に包まれた小さな箱だった………
母と祖母、かつての部下の人達が、それを見てうっ、うっと呻くのを、僕と妹は無言で見守るしか出来なかった………
 
どれだけ泣いても、戻ってきてと叫んでも、もう父は何も言ってくれない………その時、
僕達は『人が死ぬ』という事の意味を初めて知った………
 
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しかし、世界は僕達に優しくはない。
間もなく、暗黒大陸はかつてない動乱に飲み込まれていったから…………
 
 
プロイツェンと、鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)を筆頭としたネオゼネバス帝国による大陸の蹂躙。
僕達の住むヴァルハラも戦禍に曝され、たくさんの人が死んだ……
 
祖母が開放してくれたシェルターも瞬く間に発見され、先に避難してた人達の多くが犠牲になった……
僕や妹と同じくらいの子供や友達、赤ちゃん、年寄りも例外じゃなかった…………
 
そして……大好きだった、あの子も………
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皆を先導していたために逃げ遅れた祖母や母、入りきれなかった人達は奇跡的に助かったけど、
真っ先に中に入ってた僕達は………
 
目の前で繰り広げられる阿鼻叫喚を記憶に焼き付けてしまったんだ………………
 
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僕達一家は4人とも欠けずにいられた。けど、気付いた時には帝国は負けていた…………
 
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そして、たくさんいた友達も多くが消えてしまっていた…………
 
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戦争は憎い。何もかも破壊し、何もかも奪っていくから………
 
だから許してはいけない……
戦争も、戦争に群がる亡者達も……何より、戦争を齎す奴らも…………!
 
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「あ、さっきの人!」
背後からの声が、ユーリ・イグニスの意識を覚醒させる。
「お前は……レイナ・リヴィルか………」
 
振り向くと、そこにいたのは学生服を着こなした黒髪の少女だった。
 
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「こんな所で1人でいて……お姉ちゃんのトコにいなくて良いの?」
無言で夜空を見上げるユーリに対して、レイナは訝し気に言った。
「姦しい環境は好きじゃない。それだけだ」
ユーリは、何の抑揚もない声で切り返す。
「ふ〜〜ん………ま、私はいいけどね…………」
しかし……レイナは立ち去るどころか、逆にユーリの側に寄ってきていた。
 
「でも…貴方、何だか放っとけない気がするよ………」
「可笑しなガキだ………」
 
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(はわわわわ………何でユーリ少尉とレイナちゃんが〜〜〜〜)
リンは、ふと見えた光景を見て驚いていた。
来客であるレイナが、あのユーリと一緒にいるのだ。知らない人が見たら逢い引きと思われかねない。
 
レイナの事は少し知っていた。
控え目なクレセアより積極的で、尚且つ天真爛漫である事も………
しかし、隣にいるのはユーリである。
あの終始冷たい雰囲気を崩さない男(ひと)だと、下手すりゃ傷付けられるのでは……?そんな懸念を抱かずにはいられない。
 
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「……で、ベルリッティ軍曹。いつまでもコソコソしてるのはいただけんな………」
「うなっ!?」
途端に、ユーリはふと振り向いて言った。
 
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「あ・あはは………バレちゃった??」(リン)
「……僕が気付いてないと思ったか?先刻から気配が丸見えだ」(ユーリ)
「あ、リンちゃんだーー。やっほ〜〜〜」
唯1人、レイナだけはユーリ達の心中を気にする事もなく呑気に手を振っていた。
 
 
 
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