第十四話 アラウンド(後編)

「ふむ……その様子からすると、君達が以前遭遇したのはこいつらの様だな」

 
困惑するエリカの顔を見たローレンは、やや真面目な表情に戻って言った。
.

 
「会長、ご存知だったのですか?」

 
アルフレッドとアイバースンも、息を呑んで彼を見つめる。唯1人、ユーリだけが表情を変えずに画面を凝視していた。

 
「集団戦、掃討戦を想定したスピノサウルス型無人ブロックス『クライ』。
砲撃、火力支援を目的とした重装型無人ブロックス『ダンバー』。
これが連中の正体だ………こいつは、単体のブロックスとしては高いスペックを持つ。
現代の技術を以てしても最高水準といって過言無い筈だ」

 
対するローレンは、まるで天気の話でもする様に気兼ね無く話している。
「しかし……君達が知りたいのは『こいつを誰が作り、何の目的で送り込んだか』だろう?欲をかいて言うなら、
かのアルバン・ドルエとの接点も暴きたいと見た……………よろしい。
ならば尚の事、こちらも知らせておきたい案件がある………」

 
ローレンは、モニターを切り替えながら話を元に戻した。

 
「こいつらを製造した連中の事でな………」

 
同時刻 フィルバンドル駐屯基地

 
パン!

 
乾いた破裂音と共に、人型の的に穴が空く。

 
指示の無い待機時間でも、こういった基礎訓練は進んで行う……ここ数日の間に、
それが隊員達の暗黙のルールとして定着していた。

 
(ん〜〜………左にコンマ8ずれてる。中々兄様みたいにいかないなぁ)

 
実際に撃てば間違いなく致命傷の位置だが、チェルシーは満足していない様子。

 
「チェルシーってば、撃った瞬間に手が左に飛ぶよね?若干右にずらして撃った方が当たるんじゃない?」

 
すると、後ろから声がする。

 
「ルチア?」

 
チェルシーが振り返ると、そこには同じ部隊のチームメイト……ルチア・ブリージュがこちらを見ていた。

 
「お、ちょーど良かった♪火力支援のエキスパートとして、ボクに君の知恵貸してくんない?」(チェルシー)

 
相手の姿を確認したチェルシーは、駆け足で来訪者の方に向かった。

 
「ここにいたんですか、チェルシー」

 
そんな時、ルチアの後ろから新たな珍客がひょっこり顔を覗かせた。

 
「あ、クレセアじゃん。今日は元気??」

 
チェルシーは、現れたクレセアに気付くと無邪気に手を振った。 

 
「おはよ〜〜」

 
その後ろから現れたのは、この場に似つかわしくない学生服の人影……

 
「あ、レイナちゃん〜〜〜〜!」

 
同時刻、東方大陸 Zi-ARMS本社

「あの痩せ狐を送ったって、本当かい?大将」

 
鋭い刃の様な雰囲気を纏う女性は、少女に問い掛けた。

 
「今回のミッションはあくまで様子見。こちらの切り札を過剰に曝す必要は無いわ………」

 
女性よりずっと年下である筈の少女は、彼女に対して淡々と答えた。

 
(ちっ……嫌な目だねぇ、あたし等の事何から何まで見透かしたみたいな面しやがって…………薄気味悪い小娘(ガキ)だよ)

 
「ユイニー・カルダント……貴女には他にやって欲しい事があるの。少々付き合ってくれないかしら?」

 
数時間後、女性―ユイニー・カルダント―は格納庫にやってきた。眼前には、整備を受けている紫色のゾイドがある。

 
「フン……この『鬼の爪』に小間使いを頼むなんて、いい度胸してるじゃないか。あの小娘」

 
紫色のゾイド……ジェノブレイカーに酷似したその機体は、主の到来を待ち侘びる様に静かに佇んでいた。

 
「まぁいいだろう………せいぜい盛り上げてやるさ」

 
同時刻 ディーベルト連邦所属都市国家コロラド、ヤルファルト重工本社ビル
「それは……つまり、かつてのアルバン・ドルエの乱に加担していたアンダーグラウンドな奴等がいた。
先日の無人ブロックスやフランカーは連中、もしくは息のかかった何者かによるものだ………と、
そういう事で良いのですか?」
ユーリは、内面を見せない静かな口調でローレンに問い掛けた。
「鋭いな、確かにそういう事になる………最も、彼等が介入していたのはそれ以前。
恐らく旧ディーベルトが確立する時期からと推測されるが………」
対するローレンは、不敵な顔でユーリに視線を送った。
「例えば、そうだな………リヴィル準将はよく知っているが、15年前、ベルン基地駐留軍による
フィルバンドル進攻の折に『あってはならない出来事』が起きた」

 
そして彼は、再びモニターを弄繰る。同時に室内が暗くなり、新たな映像が現れた。
「これは……旧大戦時のウルトラザウルス?」

現れたのは、とある湖に佇んでいたウルトラザウルスの姿。周囲には、帝国軍の機体がチラチラと見え隠れしている。
「フフ……まぁ見たまえ、面白い事になるぞ」
ローレンが意味深な事を言った時…………突然、奇妙な事が起こった。
湖岸に打ち捨てられていたウルトラ。その関節が、一瞬ギギッ…と動いた様に見えた。
「これは……ウルトラザウルスが動いてる!?」(エリカ)
エリカが声をあげた瞬間………スクラップ同然だったウルトラザウルスが、突然動き出したのだ。
その巨体は、全身から装甲の残骸を撒き散らしながらも周囲の帝国軍を駆逐していく。
帝国軍は明らかに尻込みしていたが、何機かはそれでも果敢に攻撃していた。
そのうち、胴体に受けた一発が致命傷になったのか、ウルトラは崩れ落ちていった。

 
(これは………!?)

 
だが、アルフレッドはその映像に何らかの既視感を覚えていた。

 
(このウルトラ、まさか………まさか……………!?)

 
「さて、更に面白いのはこれからだ。最も、閣下は存じているだろうがな………」

 
途端に、ローレンの呟きが彼の耳朶を打った。

 
それと同時に、湖底から巨大な白い影が起き上がっていた………!

「やはり……白いウルトラか」

 
アルフレッドはその正体を看破した様に呟く。

 
その巨人……白いウルトラザウルスは、浮足立った帝国軍に容赦なく砲撃を放っていく。
その様子は、もはや蹂躙といっても遜色無かった。

 
やがてウルトラは、逃げようとしていたホエールカイザーに狙いを定め……
次の瞬間には、それを火の玉への変えてしまっていた。

映像はここで途切れた。

「このウルトラは、その後ミプロス島でも確認された。捕獲作戦も敢行されたが、
結局失敗に終わったよ………だが、私はアルバン・ドルエの足跡を追ううちに、再び白いウルトラと再会した」
ローレンは、まだ湯気の立つ紅茶を飲み干しながら言った。
「正確には、それを造った連中と…だがな――――――――――
奴らは『アラウンド』。かつてこの西エウロペで活動していた極秘研究機関だ……

 
この十数年における不可解な出来事は、ほぼ連中とみて間違いないだろう」

太陽は真上に差し掛かる。その光を浴びながら、送迎車はコロラドを後にする。
尖塔の様にそびえるヤルファルト重工の本社ビルも、次第に小さくなっていった。

 
だが……車内に会話は無い。

 
無理もない。先刻ローレンから聞かされたのは、予想以上の内容だったからだ………

 
 
数時間前

 
「アラウンドは古代人、とりわけ大異変以前の資料を中心にゾイドコアの有する特性について研究を繰り返していた。

 
奇しくも、このエウロペには古代文明の遺跡がゴロゴロ眠っている。彼等が根を降ろすのに時間はかからなかった………

 
我々ヤルファルト重工も、元々は彼等に取り入って事業を拡大させた企業。究明の為に色々協力はしてきたものよ………」

空になったティーカップを弄びながら、ローレンは呟く。

「今、連中が何を企てているか……また、当面の目的は私にも解らん。だが、注意するに越した事はない。

 
アラウンドがどんな手を使ってくるか、いずれにせよ備えはしておくべきだよ……」

 
そして、一同を見渡していた。

 
現在
「我々の防衛予測プランも練り直した方が良いみたいだな………フィルバンドルに帰り次第、
パイロットとオペレーション要員全員を集めて討議しよう。今回はクリスにも参加して貰う」

 
アルフレッドは他の3人にも聞き取れる様にハッキリと呟いた。

 
……イグニス少尉?」

 
しかし……いつも冷静なユーリから返事が無い。ふと聞き返してしまう。

 
ユーリは、先程から窓の外を神妙な様子で眺めていた。

 
(アラウンド………か……………)

 
同時刻 ディーベルト連邦、都市国家クイエルディーニ

繁華街の酒場に、数名の女性が入ってくる。その視線の先にいるのは、スーツを纏う2人組の男だ。

 
「早かったな、174」

 
やや若い風貌の男が、一団のリーダー格とおぼしき女性に振り返った。

 
……その言い方、やめてって言った筈よ」

 
「いやぁ悪いねぇお嬢様(マドモアゼル)。俺は記憶に自信が無いもので」

 
女性に手厳しく指摘され、男は嘲る様に口元を歪める。

 
「茶化さないで。次言ったら今度こそ殺すわよ」

 
男の回答に、174と呼ばれた女性は殺気を顕に睨みつけた。

「おい、喧嘩なら外でやれ……で、そちらはどうなってる?」

 
ふと、静かな……しかし重苦しい声がする。逆隣にいた、痩せこけた男が声を発したのだ。

 
「少々問題があるわね………アルフレッド・I・リヴィルは、ヘリック、ガイロスと共同で自分達の機動隊を編成したわ。

 
通常の指揮系統に組み込まれない独立遊撃部隊……正規軍を相手するより厄介ね」

 
174と呼ばれた女性は、その痩せこけた男に向かって言う。先刻までの殺気はなりを潜めていた。

 
「そうか………あの男、随分豪胆な事をする」

 
アルフレッド・I・リヴィル……その名を聞いた瞬間、男の顔に微かに青筋が走った様に見えた。

 
「直ちにアラウンド本部に伝えろ、事は予定より遅らせ、今は様子見に徹するとな………」

 
やがて……男は、その場にいた一同に指示を出すとカウンターから立ち上がっていた。

 
夜の帳が降りた頃、クイエルディーニに程近いルーサリエント近郊の平原で数機の
フォックスやG-リーフが2機の大型ゾイドを取り囲んでいた。

 
恐らく野盗の類らしい。薄汚れた装甲や統一性のない動きから判別出来る。

 
取り囲まれているのは、いずれも大柄な哺乳類型ゾイド。片方は白い虎の様な風貌で、四肢に金色の鉤爪が煌めいている。

 
もう片方は虎とも獅子とも呼べる黄土色の機体で、側面に奇妙な爪(クロー)状の武器を装備していた。

 
「弱い奴ほど徒党を組みたがる……いつの時代もクソッタレはいるものだ」

 
黄土色の機体の中で、痩せこけた男……先程まで酒場にいた男は、呟いた。

 
その口元に異常なまでの侮蔑を浮かばせながら………

 
「面白いじゃないか……『死を呼ぶ鎌』が健在かどうか、こいつらで確かめてやろうぜ」

 
白い虎に乗る男も、舌なめずりを思わせる目で周囲のゾイド達を見た。

 
「甘い匂いに誘われて、まんまと釣られたマヌケ共が………
おいクルツ・イーセント、せいぜいその『新型』に傷を付けるなよ」

 
「この『ソウルタイガー』を侮ってんじゃねー。見た目は虎だがコアはシールドライガーのもの、
相性はバッチリだ―――あんたこそ調子こいて俺まで巻き添えは勘弁してくれよ」

 
白い虎―ソウルタイガー―を駆る男は、黄土色の機体―タンデロイガ―を操る男に勢いよく言い放った。
「えぇ?ガデニー・アルネデスさんよ!!」

それから数時間後……

そこには数多の残骸が転がっていた。

ある機体は鋭利な爪痕や弾痕を残したまま骸を曝し、またある機体は異常な力で
捕まったかの如く全身を引き千切られていた。

そして……それらは皆、コアとコックピットを原形も残らない程に叩き潰されていた。

ただ、それを行ったとされる機体は既にその場から消えていた………
 
 
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