外伝2 ニクス4
遠くに見える黒く小さな機体が放ったたった一発の砲撃で、上空にいた共和国空軍 を黒い光が包み込み、光の走った周辺のゾイドは瞬く間にひしゃげ、または押しつ ぶされて爆発していった。 「なに、いまのっ!?」 あまりの惨状に驚愕するルキャナ。 「前方の敵軍からの攻撃です・・・・・!!」 「前の連中は飾りじゃなかったのかよ!!」 ジェンの報告にゴートが怒鳴る。 「・・・・・とにかく、ジェンは前方の敵の様子を随時報告。ゴートは周辺の敵を 蹴散らしながらこのまま前進。私はジェンを護衛しながら支援するわ。相手の動き 次第で待避するから報告は早くね!!」 『はい!!』 ルキャナの命令を受けてすぐさま敵の様子を監視する。 「黒いゾイドの数を調べろ!!その数によっては撤退もありうる!!」 司令艦のホバーカーゴにいるナトゥは、その姿を見て平静さを装いながら指揮をし ていたが、内心はそうではなかった。 過去に見た事のある機体。命中すればあのデスザウラーをも倒す事が出来た黒い光。 「まさかデッド・ボーターの復活に成功していたとは・・・・・。」 そう小声つぶやいた。 「ジョン、相手がこちらの数に気づく前にある程度叩く、発射までどれくらいだ?」 「残り30秒、照準は敵地上部隊でよろしいですか。」 臨時に増設された火器システム専用のコックピットに座るジョンが報告する。 「ああ、敵の空軍はあっさり引き上げてくれたからな。」 そういって遠くの空へと引き返していく共和国空軍部隊を見る。 「チャージ終了、二射目いけます。」 「このまま一気に片をつけてくれる!!」 そう叫ぶと地上の主力部隊に向けて砲撃するルーン。 「敵がこちらに向きを変えています!!」 「右に待避!!」 デッド・ボーターの動きを聞いて待避勧告をするルキャナ。 彼女達が待避すると間をおかずに黒い光が、彼らが先ほどとおっていた大地を削る。 と同時に後方で爆発音が響く。 『旗艦中破・・・・・前衛の部隊は全力で黒いゾイドを撃破せよ、相手は一機であ る・・・・・。』 「・・・・・ということらしいわ。突っ込むから覚悟してよ。」 「まじかよ!?あんなの俺達じゃ荷が重いぜ?」 不満で一杯とばかりに声を上げるゴート。 「命令は命令、他の部隊も向かってるはずだから私たちだけじゃないわ。」 とはいえ、削られた土や石で視界が悪くなって敵の動きが見えない。 そして周囲の戦況もほとんど入ってこないためほとんど孤立状態になっていた。 だがここにとどまっていても相手の餌食にされるだけである。 しばらく考えたルキャナは、ある事に気づいて決意すると二人を連れて前進する。 「こんな砂煙の中をこのまま行って大丈夫なのかよ、曹長さんよ。」 「砂煙の中だからよ、それにさっきの砲撃で砲撃された周辺の磁場がおかしくなっ てるわ。恐らく向こうからもこちらの位置は特定できないはずよ。」 「・・・・・なかなか考えてるじゃねえか。」 そう言って感心するゴート。 えぐれた大地を3機のゾイドが突き進む中、ルーンはホバーカーゴに止めの一撃を 加えるために照準を合わせる。 「次発どれくらいだ。」 「後9分少々・・・・・短時間での連続発射で、砲身の冷却に時間がかかります。」 「仕方ない敵の攻撃を受ける前に位置を変える。」 そういって機体を別の位置へと移動させながら常に照準をホバーカーゴに合わせる。 発射可能時間までひたすら待ち続ける。 丘上から敵の動向と戦闘の状況を確認するルーン。 「どうやらこちらが気になって目の前の敵に集中できないらしいな。」 デッド・ボーターのG−カノンは、確実に敵を混乱させて味方を有利にしていた。 徐々にではあるがガイロス軍が押し始めている。 かたや共和国軍は旗艦の損傷やデッド・ボーターからの攻撃があるのではないかと 右往左往しながら戦っている。 「チャージ完了。いつでもどうぞ。」 ジョンから発射体制が整ったとの報告を受けて、ふたたび狙いを定める。 「・・・・・沈め!!」 「させない!!」 ルーンの言葉を否定するように、ルキャナが叫ぶと同時にベアファイターがデッ ド・ボーターに体当たりをかける。 「なんだ!?」 体当たりを受けたデッドは体勢を崩してG−カノンを空に向けて発射する。 「ジョン!!どういう事だ!!」 「申し訳ありません!!どうやらG−カノン発射による磁場に狂いが生じてレーダ ーに敵が映らなかった可能性が・・・・・。」 「ちっ、やはりG−カノンのシステムを完璧に作り上げる事が出来ていなかった か・・・・・。」 そう言って悔しがるルーン。 その間にようやく丘に上がったガンスナイパーが、多連装ミサイルをデッドに向け てはなつ。 「そんなもので・・・!!」 そういって腹部に装備された小型ビームで撃ち落していく。 「俺もいるんだがな!!」 そう言って現れたのはゴートのベア。 足につかみ掛かると自慢の力で押し倒そうとする。 だが、デッドもベアにつかみ掛かると肩に噛みついてそのまま火炎放射を放つ。 うぉぉぉぉぉん!! 悲鳴を上げるベア。その痛みにつかみ掛かる力が弱くなる。 「離しなさい!!」 駆け寄りながらビーム砲で牽制するルキャナ。 接近するルキャナ機に気づいて、ぐったりするゴート機をルキャナ機に向けて放り投げる。 「!?」 放り投げられたゴート機を、足を止めてキャッチする。 それを狙ってデッドがかける。 デッドの接近に気づいて、ゴート機をかばうように立ちふさがるルキャナのベアファイター。 「負傷した味方を抱えて、このデッド・ボーターと戦えると思っているのか!!」 そう叫ぶとすばやくルキャナ機につかみ掛かると背中のビーム砲を引き千切る。 「きゃぁ!!」 「隊長!!」 そう叫んでジェンが思わず駆け寄る。 「ガンスナごとき、相手にもならんよ!!」 ルキャナ機をその場に捨て置いて、ジェンのガンスナに向けて走り出そうとする。 しかし、その足をがっしりつかんで離さないルキャナのベア。 「今よ!!フルバーストでこいつを!!」 「し、しかし隊長のベアに当たる可能性が・・・・・!!」 「そんな事言ってられる状況じゃないでしょ!!迷わないで!!」 「うわぁぁぁぁぁぁ!!」 叫びながら全火器の照準をデッドに合わせて発射する。 無数の砲弾がデッドに向けて放たれていく。 数分間続いた砲弾の雨により、デッドのいた場所は爆発と炎が燃え盛っている。 「た、隊長・・・・・。」 恐る恐る近づくジェン。 そこにはボロボロになったベアファイターとデッド・ボーターの姿があった。 「た、隊長!」 ベアファイターに駆け寄るジェン。 しかし、その隙を突いて怪しく目を光らせたデッド・ボーターが、突然起き上がっ てガンスナーパーをつかみ地面に叩きつけてそのまま押え込む。 「くっ、こんな小物ごときに・・・・・。」 そう言いながら額から流れる血をぬぐうルーン。 その後ろではジョンがぐったりとした状態でいる。 「そういう侮りがあなたを追い込むのよ!!」 そういってそばに倒れていたベアファイターが、起き上がって体当たりをかける。 よろめくデッド。 解放されたガンスナイパーはその場で動く事はなかった。 「・・・こいつ!!」 体制を直したばかりのデッドに再びベアが襲い掛かる。 激しい損傷を受けたデッドとベアファイターでは分が悪いと判断したルーンは、 つかみ掛かろうとするルキャナ機を必死で避ける。 振り向いて吠えるベア。 それに呼応してデッドも咆哮をあげる。 にらみ合う両機。 そこに彼らを驚愕させる通信が周辺一帯に流れた。 『・・・・・こちらヘリック、ガイロス両本部より通達・・・両軍ともに停戦せよ、 今、この時をもってガイロス、ヘリックの両軍は同盟を結ぶ事となった。 ・ ・・・直ちに戦闘を中止し、その場に武器を置け・・・・新たな敵を迎えるため ・ に・・・・・。』 聞きなれた幼い皇帝と聞きなれない男の声が通信機から聞こえる。 「同盟?新たな敵?一体どういうことだ!?」 虚空に訴えるルーン。 「ど、どういう事??」 ルキャナも放送を聞いて困惑を隠せない。 それは戦場にいる誰もがそうだった。 「・・・・・一度振り上げたこぶしをそう簡単に収められるものか!!」 そういってベアファイターに近づく。 「休戦をやぶるの!?」 そう言いながら体をかがめて、不用意に近づいたデッドの懐に入り、ガタがきつつ ある両後ろ足を使って右前足で大きく頭部を叩きつける。 「うぉあ!?」 大きくよろめくとその場に突っ伏すするデッドボーター。 「こ、これで動けないはず・・・・・。」 ルキャナの乗るベアも最後の力を使い果たしたらしくその場にへたり込んで動かなくなる。 機体が動かない事を確認すると、キャノピーを開けてゴートとジェンの機体を確認する。 ジェンがゴートを助け出す様子が遠目で確認すると、意を決意して銃を取り出すと、 デッドボーターへと近づく。 コックピット付近まで近づくと、キャノピーが大きく持ち上がり、コックピット内が見える。 パイロットは生きている。そう確信すると額を一筋の汗が流れる。 そして慎重にコックピットに近づく。 「うごかないで!!」 そう叫ぶと共にコックピットにいるパイロットに銃を向ける。 パァァァァン 乾いた銃声が当たりに響く。 と同時にルキャナ頬を一筋の血が流れ、ふわりと浮かんだ数本の髪がゆっくりと地面に落ちる。 彼女の構えた銃の銃口の先に見えるのは、血を流しながらも懸命に銃をむけるパイロットの姿だった。 「おやめなさい、戦いは終わったのだから・・・・・!!」 悲しそうな表情をして見つめるルキャナ。 「くっ・・・・・。」 銃すらまともに撃てない自分への不甲斐なさと、共和国兵士の言葉に先ほど通信機 から聞こえた幼き皇帝の言葉が浮かび、涙を浮かべて体を震わせる。 「だ、だいじょうぶですか!?」 慌てて駆け寄るルキャナ。 腰に提げているボックスの中から応急手当に必要の物を取り出すと、ルーンの手当 てを始める。 「・・・なぜ助ける・・・・・・私はガイロスの兵士だぞ?」 「怪我人にヘリックもガイロスもありませんよ。」 手当てを続けながらそういうルキャナ。 「まさか、この私が女パイロットにしてやられるとは。」 そういって自嘲する。 「あれはまぐれみたいなものです、あの放送でかなり取り乱していたみたいですから。 でなければ最終的に私の負けでしたでしょうね。」 その言葉を聞いて完敗だと心中でつぶやいた。 「私はそれほど重傷ではない、それより後ろのジョンを・・・・・。」 そう言われて初めてもう一人の存在に気づくルキャナ。 ぐったりしたジョンを見ようとする。 タァァァァン 彼女が向かおうとすると同時に銃声が響く。 その音にまだ言う事を効かない体を無理やり、後部座席のほうへと向ける。 彼の目の前には、肩から血を流すルキャナを羽交い締めにして銃を突き付けるジョンの姿だった。
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