蒼き虎7
町の外で行なわれていたネベットとアズの戦いが終わる頃、町中ではワジョと ブライツの戦いが続いていた。 「あんたみたいな人なら俺の気持ちぐらい分かるだろが・・・・!!」 『・・・・』 そう訴えるものの、ワジョからはなんの返答もない。 「くそっ」 そう言うと、両脇のブレードに装備されている小型ビームを放って牽制しつつ、 詰め寄って行くブライツ。 機体はボロボロで、まともに戦える余地はなかったが、どんな事をしてでも目の 前のタンデロイガを抜く。 今の彼の頭にあるのは、それだけだった。 ワジョはビームをかわすと、次にくるブライツの攻撃を待つ。 高速ゾイド同士の戦いでは、多くの者がスピードと旋回能力などを駆使して戦う。 だがそれを覆す敵がいた。 前から突撃してくるブライツ機を見て、その事を思い出す。 そして自分の機体をあの機体と重ね合わせ、タイミングを見計らう。 「・・・・俺もガデニーの事はいえんな」 そうつぶやくと、目の前に迫ってきたタンデロイガのクレーザークローを、体を 少し引く事によってかわし、タイミングを計って頭を出す。 突き出された頭で、弾かれるブライツの機体。 「はは、まさかこうもうまく出きるとは思わなかったぞ。」 なんとも言えない笑みを見せるワジョ。
「てててて・・・・。あんな攻撃の仕方ってありか!?」 頭を押さえながら言うブライツ。 「こうなったら何度でも突っ込んでやる!!」 冷静さを欠いたまま、突撃を繰り返すブライツ。 だが突撃する度に地面を這いずり回る。 「くそ、何とかして抜ける手は・・・・」 何か利用できる物は無いかと辺り一帯を見渡す。 しかし使えそうな物は何もない。ただ戦闘で崩れかけた家やビルがあるのみだ。 「!!よくある手だがこれで行くか」 そう言うと素早く機体を起こして身構える。 「次こそ絶対に抜いて見せるぜ!!」 通信モニターに人差し指を向けながら大きく叫ぶと、再び突撃をする。 「あいつ、何処からあんな自信が湧くんだ??」 通信機から聞こえる自信ありげなブライツの声に、さすがに首を傾げたくなるワジョ。 そんな事を考えている間に、ブライツの機体が迫る。 返り討ちにしようと身構えるワジョ。 身構えたワジョのタンデロイガに向けて放たれるビームの雨。 ワジョは今までどおり避ける。 そして体制を崩した所へブライツが大きくジャンプする。 先ほどまでと同じ攻撃パターンだ。 しかし、大きくジャンプしたブライツの機体は、ワジョのタンデロイガではな く、脇にある大きなビルへと向かっていた。 そして連射されるビーム。と同時に崩れるビル。 「!?」 ビームを受けてワジョの乗るタンデロイガの上に、ガレキの山が次々に振ってくる。 「しまった、奴の単調な行動にしてやられた!!」 何度も繰り返されるブライツの行動にすっかり裏をかかれた形となる。 突如として振ってくるガレキを必死にかわすワジョ。 『もらった!!』 その声を聞いてガレキを避けながら辺りを見まわす。 しかし、周囲にはブライツの機体が見あたらない。 続けざまに上空を見た時、瓦礫とともに振ってくる青いタンデロイガの機体が見えた。 「なんだと!?」
とっさにかわそうと機体を引く。 ガッ 妙な音とともに機体のバランスが崩れる。 「ガレキが・・・・」 ブライツの攻撃をかわそうとして、辺り一帯に落ちているガレキに足を取られて しまったのだ。 体制を崩した所へブライツの攻撃が襲ってきた。 瞬時にビーム砲の引き金を引く。 狙いの定まらないビームは、タンデロイガの機体から大きくそれていく。 次の瞬間、ワジョの機体の後ろ足装甲が弾ける。と同時に地面に転げるブライツの機体。 どうやら着地に失敗したらしい。 「なかなかやってくれるなぁこいつは」 冷や汗を浮かべながら、彼の行動を笑って賞賛する。 機体の各部のチェックを済ませると、すぐさま起き上がって身構える。 ブライツの青いタンデロイガもよろけながら起き上がってきた。 「奴の機体は、すでに限界を超えてるな・・・・。そろそろ引き上げの指示を・・・・」 そう言ってレーダーに目をやると異変に気づく。 先ほどまであったネベット機の反応がない。 それどころかガデニーの機体の反応もない。 アズの機体の反応のみ、郊外を動いている事だけが見てとれる。 「何かあったのか??」 状況を把握しかねるワジョは、少し考えた後、意を決意する。 「ブライツ、引き上げるぞ。この続きは帰った後、ゆっくりやってやる」 『えっ!?なんでまた急に・・・・』 「帰る気が無いなら置いて行くぞ。」 そう言うと、スッと反転して町の外へと向かう。 それを見て慌てて後について行くブライツ。 「もし他の連中がやられたのなら、帰りがやばくなるな・・・・」 そうつぶやくとレーダーで敵の位置を確認しながら町を走る。 ブライツも遅れまいと後について行くが、機体がいう事をきかず、ついて行く のやっとだった。 『敵の裏をかく、基地がある方に向けて走れ』 ワジョの命令に振りまわされながらもついて行くブライツ。 その頃、急激に姿を見せなくなった敵機を探しまわるルーサリエント守備隊。 いぶかしげに思いながら、徐々に各ブロックを制圧していく各部隊。 司令部でも急に反応が消えたり、撤退する敵部隊を妙に感じながらも、各部隊に 追撃の命令を出した。 次々と基地周辺の警備を切り上げて出撃して行く部隊。 どの機体も傷だらけで無事な機体は一機もなかったが、乗るパイロット達の怒 りが追撃へと向かわせる。 一方、初期の攻撃で身動きが取れなくなった女性パイロットは、回りの動きと は無関係にじっと時が満ちるのを待つ。 辺りが静かになった頃、そのチャンスは突然に訪れた。 割れたキャノピーの向こうに2機のタンデロイガが現れる。 一機は素早い動きで駆け抜けて行った。 しかし、もう一機は動きに繊細な動きを感じない。 肩のミサイルランチャーの射程内だが、当てる自身はなかった。 機体が大破した際、照準システムなど全て使えなくなっており、ミサイルも発 射出来ない状態だった。 それを何とか配線をつないで発射のみ可能となった。 姿勢もまともにとれない上、ミサイルが正常に発射されるか疑わしい。 コングのすぐ近くで爆発する可能性もある。全て運と感覚のみが頼りだった。 「いまだっ!!」 そう言って運命のリード線をつなぐ。 と同時に機体に襲いかかる反動。その反動に機体が耐えられなくなって右腕が ちぎれ飛ぶ。 そしてコクピット内にいる彼女も大きく吹き飛ばされた。 ピーッピーッ 突然鳴り響く警告音。 「なんだ!?」 慌てて周りを見渡すワジョ。 そして自分達に向かってくるミサイルを発見する。 「ブライツ退避だ!!」 そう叫びつつ回避運動に入るワジョ。 が、ブライツの機体は一向にうごかない。 ワジョの動きを見てようやく危険を察知する。 「えっ?何処に敵が・・・・」 ブライツのその言葉と同時に、機体の前で爆発するミサイル。
「ブライツ!!」 まともに爆発を受けたブライツの機体は、四散しながら町の外へと吹き飛んで行く。 「くそっ!!」 悪態をつくと、すぐにブライツの機体が飛んで行った方向へと走る。 と同時に辺りにいた敵機に発見され、攻撃を受ける。 「早々かまってられるか・・・・!!」 そう言うと両脇に装備されたブレードに装備されている小型ビームを後方から 追いかけてくる敵に向けて連射。 だが牽制にもならなかったらしく、逆に追撃する敵を増やす結果となった。 「しつこすぎる」 そういうとコンソールのあるボタンを押す。 と同時に放たれる一つの筒。 だが爆発する事もなく地面に転がる。 ワジョの機体が通過してすぐに辺り一帯に煙を吐き出す たちこめる黒い煙。 「!?」 「煙幕か?」 追撃していた部隊は突然の事に足を止め煙の中をさまよいはじめる。 「しゃくだが他の部隊に応援要請を出せ、逃がしてたまるか・・・・!」 口惜しそうな隊長の声が、スピーカー越しに辺り一帯に響いた。 何とか追撃をまいたワジョは、ブライツの機体が墜落した方へと急ぐ。 機体から立ち上る煙が肉眼で確認でき、比較的時間がかからず目的の場所へと たどり着いた。 辺り一帯にはくすぶる炎と煙が立ち込め、その中心にブライツの青いタンデロ イガが見えた。 機体を近くで止め、いくつかの機材を持って素早く降りると、ブライツの機体 へと駆け寄る。 機体は胴体と頭部以外の部分が消し飛んでおり、残った部分も熱で変形したり、 爆風で一部の装甲が吹き飛んでいた。 「生きてろよ・・・・」 そうつぶやくと、コクピットのある頭部をよじ登っていく。 パイロットスーツ越しに装甲の熱がじわじわ伝わる。 滴(したた)る汗も蒸発するほどだ。 コクピットハッチのある場所にたどり着くと、外部からハッチを開こうとするが、 全ての回路が使用不可能だった。 意を決してハッチに手をかけて、持ち上げようとするがびくともしない。 「こうなれば・・・・」 そう言うと、持参した火薬をコクピットハッチの周りに撒きはじめる。 一通りまき終わると、少し離れて引っ張ってきたリード線の先についたスイッチを押す。 バシュッ・・・・ 爆発と同時に風圧がワジョを襲う。 間をおいてコクピットハッチの前に立つと、再びハッチに手をかけて持ち上げようとする。 先ほどの爆発のショックでびくともしなかったハッチが少し持ち上がる。 いけると思ったワジョは、力一杯持ち上げようとする。 だが大きく開く事はなく、なんとか人一人が入れるぐらいの隙間が出来ただけだった。 やっとの事で出来た隙間に、腰元にぶら下げていたジャッキを当てて持ち上げようとするが、 やはり動かなかった。 「贅沢は言ってられないな」 そう言うとジャッキを固定して、強引にその隙間からコクピットの中へと入って行った。 暗闇を歩服前進で進んで行くと、広い空間に出る。 あらかじめ口にくわえていたライトをつけ、コクピット内部が照らされる。 そしてブライツを発見すると、室内に入ってブライツに怪我が無いか確かめる。 破損した機材であちらこちら傷ついてはいるものの、比較的大丈夫そうだった。 「おい、起きろ。こんな所で寝ている場合じゃないだろ」 そう言って頬を叩くが反応がない。 「手間をかけさせる・・・・」 そう不満を漏らしながらブライツを縛りつけている安全ベルトを外す。 そしてハッチとコクピットの隙間に担ぎ上げると、自身も上がって引きずるよ うにしてブライツを外に連れ出す。 「やっと外か・・・・」 そう言って汗だくの顔をパイロットスーツの袖でぬぐう。 一呼吸おいてまだ意識の戻らないブライツを担ぐと、自分の機体へと急いだ。 キュンッ!! 足元を何かが弾いた音が木霊する。 それに気付いて機体へと急ぐ。 彼が走り出したと同時に先ほどまでいた場所に銃弾の雨が注がれる。 何とか機体の足元へとたどり着いたが、そこからはのぼる事も逃げる事も出来 なかった。 ここは敵陣の中である。 ふと目を横にやると脇にビルの入り口が見える。 足元にいたのでは何処から狙われるのか分からないと判断したワジョは、迷わ ずそこに飛び込む。 「持久戦か・・・・」 そうつぶやいてブライツを下ろすと、腰に据えてある銃を取り出し、セイフテ ィーロックを解除すると身構える。 ゆっくりと顔を上げて外の様子を見ると、何十人という兵士がこちらを取り囲んでいた。
「無駄弾は使えんな・・・・」 ゾイドのパイロットは普段、ゾイド同士の戦いしかしない為に、こういった生身 の人同士の撃ち合いには、ほとんどでくわす事がない。 その為、こういった銃撃戦のような事になると、射撃訓練を受けているとはいえ 素人も同じだった。 生身の兵士を相手にしているという、普段なれない緊張感が彼を襲う。 そこに二人の兵士がこちらへと走ってくるのが見えた。 辺り一帯に緊張が走る。 二人の兵士がビルの中へ飛び込んでくる瞬間、銃を連射するワジョ。 銃弾を受けて倒れこむ兵士達。 倒れる二人を見てようやく引き金を引くのを止めた。 「・・・・こう言う戦闘は気分が重た過ぎる」 そう言うと二人が持っている機銃を奪う。 「すまんが俺達も生きなきゃならんのでな」 そう言うと息絶えた兵士に哀れみの目を向ける。 外では帰ってこない二人に動揺が走る。 「へたに突撃して死人を増やすな。揺さぶりをかけてじっくり殺(や)れ」 そう言って突撃した二人に続こうとする兵士達を隊長が諭(さと)す。 「向こうも持久戦で来てくれたか」 バシュッ 「!!・・・・RGBかよ!!」 そう叫ぶとブライツの上に被さと同時に建物が大きく揺れる。 狙いが外れたらしく、建物自体に命中した様だった。 間を置かずにワジョ達がいるビルに向けて銃が乱射される。 「持久戦のつもりなしか・・・・」 ため息混じりに言うと応戦する。 ビシュッ ワジョの腕に何かが弾いた音がすると、その部分のパイロットスーツが弾け、 そこから血が滲み出す。 「なれない事をやらすなよ・・・・!!」 愚痴をこぼしながら止血をする。 「この状態で押しかけられたらしゃれにならんな」 一方、勇んで出てきたラーマ達だったが、肝心の敵ゾイドが撤退し、相手を失って基 地へと向かっていた。 そんな時、味方の通信量が急に増えている事に気づく。 聞き耳を立ててみると、どうやら基地近くの方で敵兵士との銃撃戦が始まったらしい。 「何か向こうの方が騒がしいな。行ってみるか?」 『ああ。』 そんな会話を交わすとすぐさま現場へと向かった。 到着すると、ビルを盾にした銃撃戦が繰り広げられていた。 脇には今回侵入して来た2機のゾイドが見える。 一機は大破しているがもう一機はまだ動きそうだ。 そしてよくよく見ると、銃撃をしているのは味方兵士ばかりで、相手からの銃 撃はほとんどない。 「おい、あれだけの人数がいながら相手にてこずっているのか?どう見ても二、 三人程度だろう?」 『ったくまともに戦った事が無いとこれかよ』 情けない味方の兵士を見てホイスが愚痴る。 「相手の様子を見ると投降に応じるかもしれん。射撃を止めさせてくれ」 『ああ』 返事をすると、銃撃戦の真中に機体を入れる。 突然、目の前をふさぐように現れたツェルベルクに動揺する歩兵部隊。 『おまえら何やってる!?隊長は誰だ??出てこい!!』 スピカーを使って部隊長に呼びかける。 すると一人の兵士が前に出てくる。 「そっちこそ何をしている!!敵を逃がす気か!?」 突然割りこんできたホイスに向けて不満を漏らす。 「こちらで説得するからおまえらは下がってろ。手負いの敵ほど厄介な物は無 いんだからな。全滅する覚悟があるなら俺達の方が引いてやってもかまわんが」 「クッ・・・・。撤退するぞ!!」 口惜しそうにその場を離れる隊長。部隊もそれに続く。 「こっちは片付いた」 『了解。』 返事をするとコクピットハッチを開いて身を乗り出す。 「という訳で聞いてのとおりだ、投降してくれれば何もしない」 だが何の返事もない。 「疑うのはわかるが信用してくれ。自己紹介がまだだったな。私はラーマ・カ ルク共和国軍大尉だ」 その名を聞いてハッとするワジョ。 「君も共和国兵士だろう?素直にでてきては・・・・」 スッとビルの中から人影が現れた事に気付くと言葉を止める。 「お久しぶりですね。たしかロブ基地以来でしょうか・・・・」 そういって現れたワジョの顔を見て驚きを隠せないラーマ。 「君だったのか」 「中にどうしても死なせたくない奴がいます。至急病院へ搬送していただけませんか?」 「分かった、すぐにでも手配する。」 『俺の方でしてやるからおまえはその怪我人を連れてこいや』 二人の会話を聞いていたホイスがスピカーでそう告げる。 「すまん」 そう言うとラーマはワジョと一緒にビルの中へと入って行った。
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