戦火の果てにあるもの
朝靄(あさもや)のかかるシビーリ。 3日前の騒動で基地機能の大半を失ったシビーリベースでは、兵士やゾイドが 慌しく動き回っていた。 「そっちの瓦礫(がれき)は本国の部隊の邪魔にならんように、L23に固め て置け。それからゴドスワーカーが足りない、何でもかまわんから使えるゾイドを 引っ張って来い!!」 現場監督と思われる下士官が部下に命令する。 そこに一人の年老いた士官がゆっくりと近づく。 「これはカルベルマン中佐。こんな所まで来ていただいて恐縮です」 近づく士官に気づいた下士官は、そう言って敬礼をする。 「どうだね。状況は?」 「はっ、今の所順調に進んでおります。本国の部隊が到着する明後日までには 片付けて見せます」 「こんな結果となってしまったが、君達兵士諸君の本国への復職は、この私の 命に代えてもさせて見せるよ」 「いえ、我々はコクン准将の理想を信じて自らついてきたのです。それなりの 覚悟は出来ております。ですから戻ったあと事などは気にしないでくさい」 そういうと笑みを見せる下士官。 「君の一言で救われた気分だ」 そういうと笑って見せるカルベルマン。 「いえ、そんなもったいないお言葉。照れてしまいますよ。おっと、では作業 に戻ります」 そういうと大きく敬礼をして部下の元へと急ぐ。 「准将、彼らのような兵士を無駄死にさせてはなりませんな」 そう言って空を見上げると、亡き指導者と心を通わせようとするカルベルマン。 スッと差し込んできた太陽の眩しさに我に返ると、その場を立ち去る。 数日前の暗殺事件で、コクン亡き後を継いだカルベルマンは、各都市に駐留する 自軍の動揺を見て、戦闘を継続できるものではないとの判断を下し、徹底抗戦を 唱える一部強硬派を抑えて、本国との停戦に踏み切った。 まだこちら側に少しでも優位な時に停戦を進めれば、同行してきた兵士達の罪 を不問にして復職できる可能性があると考えたからだ。 実際にそうなるかどうかは今後の交渉次第だが、命がけでやって見せるとカル ベルマンは心に誓った。 2日後、本国の部隊が到着。 同盟軍に対する主権移譲や今回の反乱による処罰対象者などの話し合いが行わ れた。 さらに5日経って難航していた交渉がまとまり、同盟軍がシビーリに入城。 部隊に元シビーリ都市国家軍がいた為、大きな歓声と拍手に出迎えられる。 同日、同盟軍最高責任者である、ファタ・ベニアス、トルエ・バィゼン、サラ・ ミランが入る。 この日は、翌日に行われる予定の将来的なエウロペ大陸の政治的枠組みに関する 会議に出席する為、ガイロス帝国からの特使も到着する。 この話し合いでは、北エウロペ大陸での共和国軍の駐留を認めるかわりに、ヘリ ック共和国またはその同盟国であるガイロス帝国が西、南エウロペ大陸への政治的 干渉しない事や、その後の国家体制関する話し合いが行われた。 国の構成は、ディーベルト連邦のような連邦制ではなく、都市国家体制に戻す事とし、 エウロペ大陸全ての国家方針などは共同体組織が運営する。 この中にはヘリック共和国も含まれるが、共同体の方針に左右される事はない。 結局は名ばかりの参加である。 ネオゼネバス帝国に関しては各国共通の敵であり、各都市国家はネオゼネバスと戦う 共和国に、一定の支援を行う事を約束させられる事となった。 これらの話は、以前から行われていて即日合意がされたが、内容は共和国側の都合の 良いように決められていた。 シビーリでの暗殺騒動から数週間後、西エウロペ大陸の中央にある高地地帯。 その上空を2機の大型輸送船が飛来すると、まず1機が徐々に高度を下げて着陸体制 に入る。 ズゥゥゥン・・・・・と地鳴りが響くと、巨体を沈めるように着地する。 続けて残りの1機も着陸体制に入る。 ズゥゥゥン・・・・・ 再び鳴り響く地鳴り。 ウォォォォォン・・・・・・・・・ そして唸りを上げていたエンジンが段々と静かになっていく。 「予定地に到着。周囲に動きは見当たりません」 副官らしき男が腕組をした男に報告をする。 「ああ、後は連中が来るのを待つだけだな」 「アルバン隊長」 そう言って副官を努めるルバーニが手を上げる。 「なんだ?ルバーニ」 「もしもの事を考えて部隊を展開させてはいかがかと思います」 「確かに。向こうにしたら裏切りの出戻りだからな。なにかしら考えてしか けてくるかもな」 「では各部隊に外での待機命令を出します」 「そうしてくれや。あと新型機の待機も忘れるな。今回は俺様、直々に出向かえる からゴジュラスを用意しておけ。各部隊の配置は相手には見えないよう気をつけろ」 「はっ」 そう答えて一礼をすると、すぐさま通信機を手に指示を出す。 と同時に各部署が慌しくなる。 その様子を気にする事もなく、ブリッジを出て格納庫へと向かうアルバン。 シビーリを逃げ出したアルバンは、ここである相手と会う約束となっていた。 だが追われている身であるため、足がつかないように見つかりやすい日中の移 動を避け、夜間飛行のみでこの場所にたどり着いたのだ。 「ん?なんだこの匂いは・・・・」 格納庫からいつもと違った匂いに気づくアルバン。 「だれだ!!こんな狭い格納庫内で塗装した奴は??」 あまりの異臭に思わず怒鳴り声を上げる。 「すいませーん!!カルベルツァに塗装をしていたものですから!!」 奥のデッキから響き渡る整備兵の声。 そしてすぐに走ってアルバンの所へやってくる。 まだ歳の若い兵士だ。 「そんな作業、後にしろ!!」
「しかし、この機体の装甲はまだ完成していませんので、せめて見つかりにく い塗装を施してやらなければ」 「なら戦利品として持ってきたツェルベルクの装甲をつければいい。規格はあ うはずだ。あと、カルベルツァなんて覚えにくい名前はやめてフランカーに変 えとけ、いいな!!」 「は、はい!!」 そう言うと慌てて元いた場所へと戻る。 「ったくそれぐらいの判断もできねえのかよ」 苛立ちを見せつつ愛機のゴジュラスへと向かう。 『ハッチ開放!風に飛ばされてくる浮遊物などに注意せよ!!』 そんなアナウンスがあると同時に格納庫のハッチが開く。 気圧の違いでわずかな隙間ができた途端、ビュウビュウと音を立てて風が入り 込んでくる。だがそんな音はすぐに止み、外の景色が広がる。 『上陸開始!!各担当の場所につけ!!』 コクピット内に響く副官の命令。 各部隊のゾイドがそれぞれの任務につくために格納庫を出て行く。 しばらく間を置いて満を持して格納庫から出るカルベルツァもといフランカー。
その後方には、無人BLOXのクライと、巨砲を搭載した見なれない新型のBL OX、ダンバーが続く。 「新型はなかなか使えそうだな。さぁて向こうがくるのが楽しみだな・・・・」 そう言うとゴジュラスを起動させる。 その巨体がゆっくりと前進し始める。動くたびに格納庫内に大きな振動が起き、 ゴジュラスが格納庫の外へ出るまで続いた。 外に出たゴジュラスを待ち構えていたかの様に、ピッタリとゴジュラスの後ろに つく3機のクライと1機のダンバー。 外に出ると先程出て行ったはずの部隊が、忙しそうに物影に隠れる準備をしていた。 「チッ、あんなのろまな事をして見つかったらどうする」 そう悪態をつくとホエールカイザーの前方へとまわる。 着陸したもう1機のホエールカイザーを見ると、戦闘ゾイド数機が格納庫ハッチ 脇で様子をうかがう様に待機していた。 『大型輸送機接近。機種ネオタートルシップ』 短い報告とともに現れる大きな浮遊物体。 「きたか」 短い言葉を発すると、目でネオタートルシップを追う。 『アルバン、君みたいな男が先に到着しているとは珍しいな』 通信の呼び出し音にに気づき、スイッチを入れると同時に男の声が聞こえる。 「けっ、たまに早くくると嫌味かよ。それよりフォスター、早く降りて来い」 男の言葉に悪態をつく。 アルバンの言葉に応じるように、上空のネオタートルシップがアルバン達の前に 着陸する。 それを見て近づくアルバン。 『おっとそこで止まってもらう』 近づくアルバンのゴジュラスを見て制止するフォスター。 「!?」 モニターの向こうでスッと手があるのと同時に周囲に現れるゾイド部隊。 いつの間にか囲まれている。 「裏切る気か!?」 『今回の件が世間に出まわるのはよくないと、アイゼント大将が言われてね。 我々も君の功績を何度も上申したのだが、聞き入れてもらえなかったのだよ。 今回の軍復帰の事は諦めて我々のために死んでくれ』 その言葉を皮切りにアルバン隊への攻撃が開始される。 「全機応戦!!包囲網を破ってとっととここからおさらばするぞ!!」 その命令より先に各部隊が応戦を始めていた。 アルバンもすぐに味方と合流を図る。 そこに襲ってくるプテラスボマー。ミサイルを連続発射して急上昇する。 だがそれらをかわし、ゴジュラスに追随するダンバーに対空砲撃を行わせて 撃墜する。 「こっちを普通のゴジュラスだと思うなよ」 続けざまにスナイプマスター3機と、ケーニッヒウルフが行く手を阻む。 4機は巧みに連携して、ゴジュラスの隙をついて近づいてくる。 前に踊り出た2機のスナイプマスターが注意を引きつけている間に、ケー ニッヒが後ろから飛び込む。 だが、大きく振り上げられた尾が機体を直撃する。
衝撃で吹き飛ぶケーニッヒ。すぐさま体を振るわせながら起き上がる。 「さすがこのクラスになると、小型と違って簡単にはフリーズしたりしないか」 そこに1機のスナイプマスターが、離れた所から狙撃する。 さすがに油断していた為にゴジュラスの腹部を直撃。 「チッ、こんな所でやられてたまるか」 そういうとクライを前面に出してスナイプマスターと対峙させる。 その隙に離れた場所に居たスナイプマスターを血祭りに上げてその場を離れる。 見なれぬ2機のゾイドに警戒するスナイプマスター。 無人機であるクライは、何のためらいもなく突撃を行う。 突如として向かってきたクライを見て、砲撃で応戦する2機。 だが2機のクライは、避ける事もせずわき目も振らずに目の前の獲物に向かって走る。 その動きに動揺し、避ける間もなく血祭りにされる。 「あとは弱ったケーニッヒだけか?」 ケーニッヒに視線を向けると、ダンバーの支援砲撃を巧みに避けてエレクトロンフ ァングをお見舞いしていた。 「ち、あのデカブツじゃあ勝負にならないか」 そういうとクライをケーニッヒに差し向けて、自分は部隊へと合流する。 アルバンが戻ってきた事を確認すると、1機のホエールカイザーのエンジンが 唸りを上げて浮上を開始する。 だがその事を察知した共和国部隊がエンジン部分に、集中砲火をかける。 数発のビームがエンジンを直撃し、出力の低下とともに地面に落下、と同時に 起きる砂煙。 煙と風によって一瞬戦闘が中断する。 風がおさまってもう一度カイザーを見ると、各所に火が回っているようで、 機体の爆発も時間の問題であった。 乗員が慌てて逃げ出しているのが遠目でも見える。 機体を爆発させて巻き込まれたくない共和国軍は、アルバン隊への攻撃が鈍る。 その隙をついて部隊を集合させるアルバン隊。 もう1隻のホエールクルーザーも乗員が退避している。 「ち、さすがにあのデカブツは放棄するしかないな・・・・」 クルーザーを横目に突撃してきたディバイソンを尾の一撃で叩き伏せる。 そこに通信の入った事を知らせるアラームが鳴り響く。 『包囲の薄いS3方向を確保しました。長くに持ちこたえられるか分かりません のでお早く!』 副官からの通信がはいる。 「了解、フランカー付属の無人ゾイドを前面にしてトンズラするぞ!!」 そう叫ぶとS3方面へと急ぐ。 そしてS3地点に到着したアルバンは目の前の光景に我を忘れる。 破ったと聞いたはずの包囲網が今だ破られていたなかったのだ。 その上、副官のルバーニ配下の部隊が、フォスターの部隊とともにしている。 「・・・・・・・・てめぇら!!」 自然と奥歯に力が入り、怒りの表情が現れる。 そこに通信モニターが映し出される。 『アルバン隊長、残念ですがこういう事なのです』 「てめぇ、フォスターなんかに尻尾を振りやがって・・・・!!」 『その言葉は違いますね。我々は元々あなたの部下ではなく、元々彼の部下 だったのです。裏切るといわれる筋合いなどありませんよ」 そういうとふっと笑みを浮かべる。 「・・・・そう言えば西方大陸戦争開戦前は、あいつのフォスターの師団に いたんだっけな。うかつだったぜ。だが、俺はこんな所では絶対に死なん!!」 そう言うと自分に付き従うものを引きつれて包囲網突破を試みる。 だが、壁は厚く次々にやられていく。 『そろそろ諦めていただきたいものですな』 「ちっ・・・・。」 『その男に死なれては困るのだよ・・・・』 唐突に入った通信に驚愕するアルバンとルバーニ。 声の主を探している間に包囲網部隊に対して砲撃が加えられ、混乱が生じた。 さらに岩陰から現れる1機のゾイド。 両脇に自由に動く爪を装備したタンデロイガ。 『ガデニーか!?』 ルバーニの言葉を無視しながら、ガデニーの機体が包囲していた部隊を次々に 蹴散らして行く。
「今だ!!」 ガデニーの言葉に誘われるように、アルバンと数十名の部下の乗るゾイドは、 包囲網をつき進む。 そして包囲網を脱出。 「ちっ!!逃がしてはならん!!」 怒号のように叫ぶルバーニ。 だが彼らの追撃を防ぐべく、クライ数機が行く手を阻む。 仕方なく上空のプテラスに追撃をさせるが、途中で見失ってしまう。 数時間後、足の遅い機体が乗り捨てられていた以外は発見できず、この大失態 の報告を受けて共和国上層部は、不安の色が隠せなかった。 そしてアルバン追撃と指名手配書が各地にばら撒かれ、必要に追いかける事となる。 これが数年間に渡るアルバンと、共和国の追撃劇が始まりであった。
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