再び
2機のゾイドが荒野の上で、雄叫びを上げつつ睨みあう。 1機は共和国軍最大の肉食竜型ゾイド、ゴジュラス。もう一機は一回り以上小 さい丸い頭をした恐竜型ゾイド。 体格差は歴然である。 叫びあうと、ダッと駆け出したのは丸い頭のゾイド。 背中のビームで牽制しながら、頭を突き出すと一直線にゴジュラスに向けて走る。 牽制を気にせずに向かってくる恐竜型ゾイドをつかみにかかるゴジュラス。 だがそれを軽くかわす恐竜型ゾイド。格闘スピードに差がある為にゴジュラス では捕らえきれないのだ。 捕まえそこなったゴジュラスは、即座に近距離ビームを放つ。 さすがの恐竜型ゾイドもこれは完全に避けきれずにビームが装甲をかする。 間合いを取る為に全速力で距離をとる。 一旦離れた恐竜型ゾイドに向けて、腰にすえつけられた中近距離用のビームが放たれる。 反転した恐竜型ゾイドは迫ってくるビームをEシールドで弾く。 そしてEシールドを張ったままゴジュラスに向けて走り出す。 それを見て身構えるゴジュラス。 ズゥゥゥン・・・・・・・・ 衝撃音と地鳴りが辺り一帯に響く。
腹部で頭突きを受けとめたゴジュラスは、すさまじい衝撃で後ずさりする。 『シミュレート終了!!』 その声とともに2機のゾイドは離れる。 そこから少し離れた所にテントが張ってあり、周辺には色々な機材と配線が所 狭しとならんでいた。 「スピードも反応もいいな。そしてとどめの頭突きか。いい機体だ。元々電子 戦用に使うより、こう言う使い方の方があってるな」 一人の褐色肌の兵士が、モニターに表示された実験結果を見ながら楽しげに言う。 『そういう言葉は、衝突時に起きるコクピット内の揺れを克服してから言えよ!!』 兵士の見ているモニターの横にある通信機からパイロットの悲鳴が聞こえる。 「おまえ、上官の俺に対してそういう口の聞き方をするのか?」 『ワジョ大尉、そう言うんなら自分で試してくださいよ。俺の気持ちがよーく わかりますぜ?』 「・・・いやだ。はなからそういう風になる事を予想しておまえをたてたんだ。」 『き、きったねぇ!!この間の戦闘での決着、ここ・・・・』 ブチン!! 回線の落ちる音が響く。 「何かあるとすぐに決着だと言いやがる。少しは自分の腕を上げてから言えよ な・・・・」 不満げな顔で言うワジョ。 「大尉、ブライツ准尉とまた喧嘩ですか?」 そう言いながら歩いてくる若い女史。 「あいつ、意識回復してから以前に輪をかけて生意気になった。こんな事なら あのままコクピットの中に放りこんだままにしてすりゃあよかった」 「あらら、そんな事言うと准尉の彼女に何されるか分かりませんよ」 その言葉を聞いてワジョの顔が曇る。何か嫌な事を思い出した様だ。 「あいつの彼女、おとなしい娘かと思ったが、この間二人の喧嘩を見て 俺は引いたよ・・・・。普段おとなしいだけに怒った時が怖いんだろうな」 やれやれと言った表情で語るワジョ。 「そうなんですか」 そういうとくすくすと笑う。 「まったく似たもの同士って奴なんだろうな。軍人としてパイロット一筋で生 きてきた俺にはうらやましい限りだよ」 「あらら、ここにいるセニア・デトスではご不満ですか?」 にこにこしながら言う。 「あんたの冗談にはほとほと飽きた」 こちらは呆れ顔だ。 この二人の会話はいつも行われているようで、二人とも相手の出方がよく分か っているようだった。 ピー、ピー 警告音が響く。 「まだ駄目か?」 そう言ってモニターを見るワジョ。セニアも慌ててモニターを凝視する。 各部に異常知らせる赤い点が点滅する。 特にコクピットまわりに設置されているショックアムソーバーに多くの異常が 発生している。 「まだ強度が足りないってっか。計算上では問題無いはずなんだが・・・・」 「そのようですね。こうなると根本的にコクピットまわりの設計をやり直さな いと行けないわ」 「いい機体なだけに何とかしてやりたいもんだ」 くやしそうに言うワジョ。 「会社の技術部と相談してみます。でも共和国の開発局にも対応をお願いした 方がいいかもしれませんね。開発局の方がこういった技術は上でしょうから」 「こっちかから話しを通しておくよ」 「そう簡単にいくかしら?」 「なぁに、拳銃突きつけてでも承諾を得てくるさ」 「強引ねぇ」 そういうとくすくす笑うセニア。 笑うセニアを横に拡声器のマイクを取る。 「ブライツ、その機体の首が落ちる前にさっさと下りろ!!」 『了解でーす』 気の抜けた返事がかえってくる。 「ったく、今度根性を叩きなおしてくれる!!」 そう言うと拡声器のスイッチを入れたまま、マイクを投げつける。 ガシャ!! キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!! 拡声器から耳をつんざく音が響く。 「ほんと、似た者同士ね」 耳を押えながらそういって笑みをこぼすセニア。 コクンの反乱終結から数年が経ったZAC2105年、共和国の反乱分子とし て扱われているアルバンは今だ捕まっていないものの、西エウロペ大陸は比較 的平穏を保っていた。 だが、今だ中央大陸での戦闘は続いており、中央山脈に立てこもる共和国軍残 党が必死の抵抗を見せていた。 戦況を打開するために、軍上層部から新型ゾイドの開発の命令が下ったが、中 央大陸残党部隊は以前から新型のゴジュラスギガの開発をしているため、そち らを最優先に開発を進めている。 一方エウロペ大陸駐屯部隊の開発局は、ジャミングウェーブ対策のシステム開 発で手一杯だった。 そこでエウロペ同盟を結ぶ確国家に協力を依頼する事となり、西エウロペ大陸 の各メーカーが開発を担当すると事となり、こぞって開発を推し進めた。 彼らにとっては共和国軍に自社を売り込むチャンスで、もし正式採用されれば その後の大量受注による莫大な利益が待っているからだ。 今、ワジョ達が実験を行っているゾイドカルベルツァは、シェイカーと呼ばれ る企業が開発している機体だった。 元々共和国軍政府がシェイカーに開発させた機体で、無人のブロックスゾイド を運用する為のキーゾイドであったが、終戦後機体を共和国軍が接収。 共和国のブロックスゾイドは、全て有人機として運用が決定していた為に必要 性がなく、対した調査もせずに開発メーカーに送り返していた。 シェイカーは、エウロペ同盟軍に対して売り込みをしたものの、ブロックスゾ イドは平和利用でのみ使用するという規定が定められた為、こちらでも売り込 みに失敗して長年、メーカー所有の倉庫に放置されたままであった。 だが共和国中央政府からの命令で、小改造で使用できる可能性があったこの 機体に着目し、他の運用方法がないか実験を進めているのだった。 ワジョとブライツは、その為にエウロペ駐留の共和国軍開発局経由で派遣され ていたのだった。 翌日、休暇だったワジョは町へと出る事にした。 彼らのいる町は、都市国家フォッケナウを中心とした衛生都市で、大きな街道も 通っていて比較的にぎやかな所だった。 「相変わらずにぎやかだな」 そう言いうと、周りの景色を楽しみながら歩く。 そこに目の前を歩く少女が大きな袋をもってあるいている。 (ちょっと買い物のしすぎだろ?) そんな事を考えていると、案の定バランスを崩して少女が倒れそうになる。 それを見てとっさに買い物袋と体を支えるワジョ。 助けられた少女はその事に驚いた様子で目を丸くしている。 「自分で持てるだけの物を持つ様にしろ。でないとあぶなかっしくてしょうがない」 「・・・・・。」 少女はなにも言わずとにかく頭を下げている。 「いや、謝るのは言い、それよりこの重たい荷物を何処にもって行く気だ? もって行ってやるぞ」 「・・・・・」 少女は何も言わずに少し離れた所にある宿屋に指を指す。 「あそこに持っていけばいいんだな??」 ワジョの言葉にうなずく少女。 「せっかくの休みだっていうの子供のお守りとは」 ぼやきながら宿屋を目指す。 宿屋に着くまであれこれと話かけてみるが、一向に彼女は口を開かない。 うなずいたり、首を振ったりするだけだった。 ワジョは単に恥ずかしがっているだけなのだろうと思った。 「よし、ついたぞ」 そういうと入り口の脇に荷物を置く。 それを見て笑顔で頭を下げる少女。 「礼はいいが君、何故はなさ・・・・・」 「クレセアどうした?」 奥の部屋からサングラスをかけた青年が現れる。 額の右側に小さな傷跡が見えた。 彼から異様な雰囲気を感じとるワジョ。 (以前何処かで感じたような・・・・・) そんな事を思っていると、クレセアという少女はその男を見て、うれしそうに かけより、何やら言っているようだった。 しばらくして青年がこちらに向かってくる。 少し身構えるワジョ。 「いろいろ彼女を助けてくれたようですね。お礼を言います。本人もお礼を言 えたら言いのですが、あの子は言葉が話せないもので・・・・・」 そう言うとクレセアの方に目をやる。 その向こうでは笑みを見せているクレセアがいた。 「どうりで話さないおとなしい子だと思った」 そういうと笑みをこぼす。 「生まれつきなのか?」 「いえ、そうではないはずです。いつか話す事が出きる日がくる事を祈っています」 「そうだな。私も神に祈ろう。ではこれにて失礼させてもらうよ」 そういうと何か心の何処かにもやもやする感覚を覚えながら宿屋をあとにした。
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