再び2
荒野の大地を1機の薄紫色のゾイドが、砂煙を上げながら南へと進む。 バーサークフューラー、それがゾイドの名前である。 赤茶けた大地に機体の色は妙に目立ち、何ごとかのトラブルを誘うかのようであった。 しばらくして大きな岩場を発見すると、パイロットはで足を止めて休息をとる。 パイロットはシートを倒して体を休める。 その様子を遠くから観察する数機のゾイド。 1機はガンスナイパー、そのまわりにはスピノサパーやヘルキャットがいる。 「ボス、なんか見なれない機体が、例の場所にいますぜ」 機体に装備された望遠レンズをとおして、岩場にいる機体を確認するガンスナ イパーのパイロット。 「珍しい機体だと?久しぶりの上物のようだな」 彼らの後方数キロという所にボスの乗るジェノザウラーの姿があった。 どこをどうやって入手したか分からないが、機体の色はオリジナルの物ではな く、迷彩を意識したのか茶色に染められている。 「向こうが動く前に一気に動きを抑えろ。その後とどめを指しに俺が出る」 そう言うと無線を切り、機体をゆっくりと動かせ、発見されないようにジェノ を近づける。 少しの間を置いてヘルキャットが岩場にいる機体に襲いかかる。 遅れてスピノサパーがチェーンソーを唸らせながらヘルキャットに続く。 突然のことにフューラーのパイロットは、慌てることなく体を起こして戦闘準備に入る。 グォォォォォン・・・・!! パイロットが操縦桿を握ると同時に響く声。 それは相手を威嚇するフューラーの遠吠えだった。 その遠吠えを聞いたヘルキャットの動きがパイロットの意思に反して鈍る。 ゾイド自身が本能的に悟る相手の強さにヘルキャットがたじろいだのだ。 その事を気にせず、ただ機体の不調と感じたヘルキャットのパイロット達は 攻撃を続ける。 2機が同時に攻撃をしかけるが、いとも簡単に避けられる。 だが彼らもそれを承知でそのまま駆け抜けて行く。 フューラーのパイロットの気が、そっちに向けられているチャンスを狙って、3機 のスピノサパーが背中のチェーンソーを振りかざしながら近づく。 「!?」 その事に気づいたパイロットは、すかさず背中に装備されたバスタークローを 振りかざしてスピノサパーの動きを止める。 さらにまた違った方向からビームがフューラーを襲う。 さすがに避けきれずに数発のビームを受ける。 「何重にもしかけられた罠はそう簡単に抜け出せはしない!!」 そう叫ぶヘルキャットのパイロット。 だがフューラーは平然とした顔で、近くにいたスピノサパーを左のバスターク ローで突き刺す。 「何ぃ!?」 何ごとも無かったかのように攻撃してくるフューラーを見て驚きを隠せないヘ ルキャットのパイロット。 驚愕している間に自機がそのバスタクローの餌食となる。 「な、なんてやつだ・・・・・」 驚きを隠せないまま散るヘルキャットのパイロット。 そこに上空から飛び掛る一機の黒い影。 その事に気づいたフューラーはすぐさまその場を離れる。 少し遅れてゾイドが着地すると、すぐさまフューラーに対してパルスレー ザーを放つ。
「ジェノ!?」 ジェノザウラーの姿を見たフューラーのパイロットがうめく。 逃げる際に舞い上がった砂が、煙幕の代わりになったのか2発のレーザーは機体 をかする程度だった。 一瞬怪訝そうな顔をするがすぐさま平静さを取り戻した顔に戻る。 それ所か笑みを浮かべているようにも見えた。 そこに休む間を与えるものかと2機のスピノサパーが、再びチェーンソーを振 りかざす。 煙たそうな顔をしながらも2機のスピノをあしらう。 そこにジェノザウラーが一気に近づいてくる。 と同時にフューラーから離れるスピノ。 足止めとばかりに離れた所からヘルキャットがビームによる牽制を行う。 仕方ないとばかりに、近づいてくるジェノに向けて、バスタークローの中に隠された ビーム砲で牽制する。 「何やら隠し武器で一杯の機体のようだな・・・・」 楽しげに言うジェノのパイロット。 勝利は目前と言わんばかりだ。 フューラーに接近したジェノは、キラーバイトファングを使って攻撃を仕掛ける。 すぐさま脇に逃れるフューラー。 そこに片足を軸に回転したジェノのテイルスマッシュが飛んでくる。 「!!」 連続技に驚きつつも、フューラーの機動性を活かしてなんとか後ろへと避ける。
後ろへと退避したフューラーを見てニッと笑みを見せるジェノのパイロット。 「今だ!!」 ジェノのパイロットの叫びとともにフューラーのいる一帯が爆発と砂煙が舞い上がる。 「なに!?」 地面が突然の爆発でへ込み、バランスを崩すフューラー。 そして機体を覆いかぶさる幾数ものネット。 動くとネット自身に流れている電気が機体に負荷をかけ、フューラーの動きを 封じ込める。 「これは・・・・・」 「旧軍政府で使っていたネットだ、切ることも逃げ出すこともできまい」 パイロットの問いに応えるように言うジェノのパイロット。 「さっさと、中のパイロットをやっちまいな」 その言葉にうながされるようにネットの電圧が上がる。 「パイロットさえいなければこいつは俺のもだ・・・・」 目の前にあるご馳走に目がくらんだような顔をしながらいうパイロット。 ゆっくりと近づくジェノ。 ジェノがバーサークの傍らに行こうかという時、バーサークを中心に爆発が起きる。 「なんだ!?機体が電圧に耐えられなくなったのか!?」 撒き上がる砂煙。 少し間を置いて起きる爆発が数回。 「もったいない事をしたもんだ」 残念そうに言うパイロット。 そこに数発のビームが機体を直撃する。 「なんだと!?」 足を貫かれたことによって自重を支えきれなくなって崩れるジェノザウラー。 「ま、まさか・・・・」 目の前に堂々と姿をあらわしたバーサークフューラーを見て信じられないとい った表情を見せるパイロット。 「残念だけど、この子はあの手の攻撃に備えて対電圧仕様に改造を受けてんのよ?」 「この子だと?まさかこれだけの機体のパイロットがよりによって女とは・・・」 悔しそうな顔をするジェノのパイロット。 倒れたジェノザウラーを見て駆け寄る数機のゾイド。 「それ以上近づくと、あんたらの頭の命が無くなるよ!?」 そう言ってバスタークローをコクピット付近に向ける。 その動きを見て動きを止める数機のゾイド。 「よし、それでいい」 そういうと笑みを見せる。 「命は助けてあげる・・・・でもその機体から離れな」 やさしい口調と激しい口調が入り混じった言葉に混乱しながらも、コクピット から出るパイロット。 それを確認した女性パイロットはコクピット付近を一気に貫いて乗る事が出来 ないようにした。 「ジェノには悪いけど、引っ張って行くわけにもいかないんでね」 そう言うと南に向かってフューラーを走らせる。 「あ、あいつは一体何者なんだ・・・・」 怪我をした脇腹を抑えながら、その場から去って行くバーサークを見つづけ るのだった。 それから数日経った頃、シビーリから数十キロ離れた所にある小さな町に、旅 人とおぼしき一人の女性の姿があった。 近くを通りかかった人に声をかけると、写真をみせて何かを尋ねているようだった。 呼びとめられた人はその写真を見て皆、首を横に振る。 その中で一人の男性が何かを指す。 女性は大きく頭を下げると男性が指差す方向へと歩き出す。 その先には大きな建物があり、看板にエルトーレ町役場と書かれていた。 それを確認すると女性は中へ入る。 そして先ほどと同じように役場の人に写真を見せて尋ねまわる。 「そうですか、ありがとうございます」 そう言って頭を下げると、その場を後にして町はずれに待機していたゾイドに向か って歩き出す。 風でフードが下がり、後ろで縛ったポニーテールが風にそよぐ。 「あんた、いつまで探させる気?」 写真の男を見てポツリとつぶやくと、ふと寂しそうな目をする。 脳裏によぎる写真の男、そして一人の女性。 「ミラルダの為にもはやく帰ってきなよ、でないとあたしもつらいじゃないの・・・・」 そう言うと写真を懐に入れて町の外に出る。 そこには愛機バーサークフューラーが待っていた。 「いくよ」 彼女の言葉に呼応して体をかがめると、コクピットハッチを開く。 開かれたコクピットに飛び乗るとハッチを閉め、また終わりの見えない人探し の旅に出るのだった。
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