再び3
西エウロペ大陸の西海岸沿いの小さな町。 普段は漁業や交易を中心とした町で、今までこれと言った戦火にまきこまれる ことなく時が過ぎていた。 だが、今この町には数機のゾイドが見える。 まわりには炎と逃げ惑う人々の姿。 そのゾイドの脇には激しい戦闘の末、無念にも敗れたゾイドの姿が見える。 そこから少し離れた所に我関せずと言った風にたたずむ機体が一つ。 旧共和国軍政府で開発された虎型ゾイド、タンデロイガだ。 背中には異様かつ巨大なはさみのような物がついている。 この機体に乗るのはただ一人、ガデニーだ。 彼は、コクン反乱後は軍に戻る事はせず、傭兵の仕事をしていた。 今日は未だに軍に対して反乱行為を行っているアルバンからの依頼だった。 彼が軍から離れ、賊や反乱行為に手を貸しているのは一機のゾイドの存在があ るからだ。 西エウロペ戦役でのシビーリ攻防戦にて彼の前に立ちはだかったゾイドとその パイロットを探し出す事だ。 当時コンビを組んでいたワジョとともに子供扱いされ、機体失った屈辱の日。 彼にとっては不名誉であり忌まわしき過去。 数年経った今でもその時の屈辱が忘れられず、そのパイロットと戦うことだけ を夢見て、今もこうしてパイロットを探しつづけている。 そんな彼が今まで捜しつづけて分かった事といえば、アルフレッド・イオハル というパイロットの名前だけだった。 詳しい素性は、エウロペ同盟や共和国軍のデータバンクの中には一切書かれて おらず、旧ディーベルト連邦のデータに軍事顧問、訓練学校の講師、そして現 在は行方不明としかかれていなかった。 アルフレッドは元々ガイロス帝国軍所属のパイロットであるから、ディーベル トにくる前のデータがないのは当然である。 そしてガデニーとの戦闘を行ったシビーリ攻防戦後行方不明となっているので まったく足所がつかめなかった。 だがあれほどの腕をもった人間がそう簡単に死ぬはずはない、必ず生きている と思い、その為に遠回りの人探しが続く。 今日もお目当てのアルフレッドを見つけることもできず、また骨のない連中ば かりの町の守備隊に肩をおとしていた。 腕を組んでコンソールの上に足を投げ出し、遠くのほうで食料や軍事物資の強 奪をしているアルバンの部下達の様子を見ていた。 そこにもう一機別のタンデロイガがガデニーの機体に近づくと同時に通信が入る。 『大尉、上空から接近する物があります。機種はファルゲン、エウロペ同盟軍の様です。』 「わかった、あそこで馬鹿騒ぎしているやつらをおとなしくさせてくれ。俺は 逃げ道の確保に向かう。」 『了解。』 通信を終えると同時にもう1機のタンデロイガが町の中心で暴れているゾイド のほうへと向かう。 町のそとへの移動中、町から少し離れた所にそびえ立つ岩山を見つける。 「あの岩山なら低空で進入して来た敵でもやれそうだな。」 そういうと岩山のほうへと走り出す。 「そらからの客を出迎えるのにいい場所を見つけた。そこの連中はほって置い てお前は適当な場所に隠れて支援しろ。」 『いいんですか?』 「向こうも的がなけりゃこないだろが。」 そう言って笑みをこぼし、機体を岩山の山頂に上げて身を隠す。 しばらくして上空で耳鳴りのようなかん高い音が近づいてくる。 ブォォォォン!! 2機のファルゲンが一気にガデニーの上を通りすぎると、町の上空を旋回し始める。 どうやら町にいるゾイドの機数と町の被害状況を確認しているようだ。 「な、なんだ!?」 「同盟軍本部の連中に見つかったぞ!!」 突然現れたファルゲンを見て慌てるアルバンの部下達。 同様を隠せずにいろいろな事を口走る。 「所詮は烏合の衆だな。目先のことばかりにとらわれて最終的に作戦を駄目する。」 そういうと旋回中のファルゲンが大きくそれてこちらに近づく。 それをチャンスと見たガデニーは、機体を起こして山頂を走ると一気にジャンプする。 イオンブースターを推進機代わりにファルゲンへと近づく。 突然上空に現れた物体にファルゲンのパイロットは、驚愕するのみでタンデロ イガの体当たりをまともに食らう。
揚力を失ったファルゲンは一気に下降し、また体当たりしたタンデロイガもフ ァルゲンにとどめをさす為に、しっかりとファルゲンをつかんで首筋に一撃を 加える。 着地寸前にファルゲンをジャンプ台代わりにして落下の速度を和らげる。 機体が大地を踏みしめると同時すさまじい衝撃が走る。 期待の各所に起こるスパーク。そしてアラームの鳴り響くコクピット。 そんな事を無視してガデニーは、もう一機のファルゲンに対して牽制のビームを放つ。 だがファルゲンはそんなビームを気にせずに悠々と上空を飛んでいる。 そこに対空ミサイルが無数に上空に飛来する。 さすがにそれを見たファルゲンのパイロットは、回避運動に入る。 相当の腕をもっているようで、全弾かわしきる。 しばらくして元来た空へと戻るファルゲン。 状況的に不利と判断した様だ。 『撤退を始めます。』 「ああ、やってくれ。」 そう言うと機体を町の外へと向けるのだった。 一人の女性が窓から外を伺う。 外には大粒の雨が降りしきり、昼にもかかわらず空も真っ暗となっていた。 部屋の中には叩きつける雨の音と静かに呼吸する寝息が聞こえる。 女性の脇にあるベットには小さな子供が寝かしつけられていた。 ときたま笑顔でやさしい目を子供に向ける。 静かに眠る子供の頭をそっとなでてやるとふわふわした髪がなびく。 その事に反応してか体を動かすと小さな手が彼女の手に触りそっと握り締めてきた。 それに気づいた女性はそのまま手を動かさずにいた。 「入るわよー。」 声と共にドアのノックが響き渡るとドアが開き、一人の女性が姿をあらわす。 「あ、寝てたんだ。ひょっとして起きた?」 やばっと言った表情を見せる。 その顔を見て子供のほうに顔を向けると、何事もなかったかのように寝ている。 「ん、大丈夫みたい。」 そう言うと自分の手を握り締める小さな手をそっと放してやる。 「となりではなそっか。」 「だね。」 そう言うと二人はとなりにある別室に移る。 「お茶出すからちょっとまってて。」 そう言うとすぐ脇にある台所へと向かう。 「気にしなくていいよー。」 そういいながらソファーに腰掛ける。 「おまたせ。」 そういいながら手際よく用意された紅茶がテーブルに置かれる。 「あ、ありがと。」 「さっき彼女から連絡があったんだけど・・・・。」 「それで?」 その言葉を聞いて目の色が変わり食い入るように聞く。 「やっぱデマだったみたい。」 「そう・・・・。」 落胆の色を隠せない女性。 「そろそろクリスに探すをの止めてこちらに戻るように言ってもらえない? 何かあったらって思うと心配で・・・・。」 不安そうな顔をして見つめる。 「ミラルダ、私やあんたが何を言ったってクリスはアルを見つける間では帰っ てこないよ。」 そういうと紅茶をすする。 「・・・・・・・・。」 黙り込んでしまうミラルダ。 「彼女もミラルダやあの子の事を考えて自主的にやってる事だからね。情報が なくならない限りは戻ってこないと思うよ。」 「サラもういいのよ、もし生きているなら連絡ぐらいあるはずです。戦闘が終 わってから数年、何の連絡が無いんだもの。あのひとはもう・・・・・。」 目を細めてこみ上げてくるものをぐっとこらえる。 「そういった事は言わない!いまはあの子の事だけ考えてればいいの!アルの 事とかはぜーんぶわたしらがやってあげるんだから!!」 思わず大声を出すサラ。 「ふぇ?うーーん、お母さん?」 部屋の置くから間抜けな声が聞こえてきた。 「レイナ、起きた?」 そう言って子供のいる部屋へと戻る。 「あーまたやっちゃった。」 そういうとミラルダのあとを追う。 この言葉からすでに何度か自分の声で起こした事があるようだ。 そこに呼び出し音がなる。 「ん?何、こんな時に。」 少し苛立った声でポケットの中から携帯電話をとる。 「私だけど・・・・・わかりました。それではすぐに向かいます。」 「お仕事大変そうね。」 そういいながらレイナを抱き上げる。 「まあね、また何か入ったら言うわ、じゃあ。」 そういうと気まずそうな顔をしつつ、突然の呼び出しをラッキーと言わんばか りにでていく。 そんな姿を楽しげに見送るレイナとミラルダ。 「いっぱい寝たわね、今度は何かして遊ぶ?」 そういいながら部屋の奥へとむかう。 数日後、先日襲われた町に子供連れの男が姿をあらわす。 背後には白い虎型ゾイドの姿が見える。 男は子供を連れて町のはずれに置かれた基地へと向かうと基地の入り口前に立つ。 その姿を見て詰所から数人の兵士らしき男達がやってくる。 「傭兵を募集していると聞いてやってきた。話しを聞きたいので中に入れてく れないか。」 「わざわざこんなへき地まで来てもらえるとは嬉しいな。とりあえず名前を聞 こうか。」 「アダールだ。この子は妹のクレセアという。よろしく頼む。」 そう言うと自分の後ろに隠れているクレセアを前に出して挨拶を促がす。 はすかしそうに頭を下げるクレセア。 「妹連れとは珍しいな。預ける事の出来る肉親や親戚はいないのかい?」 「ああ、他にも問題はあるがこの子がどうしても私のそばを離れたがらないく てね。」 「なるほどね。しばらくそこの詰所で待っていてくれ。こんな所でもそれなり の手続きが必要なんでね。」 「わかった。」 そう言うと男はクレセアを詰所へと向かった。
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