森林の防人
シビーリから数百キロ西に行ったと頃に、大型ゾイドもすっぽりと隠してしま う巨大な背丈の森林地帯があった。 ここは西エウロペ大陸で使用されているクライジェンシーやタンデロイガなど の野生体が住む場所である。 西、南エウロペ大陸にはこのような巨大な森林地帯がいくつか存在し、虎型だ けでなく森林を主に住みかするや正たいが多く住む。 各所で捕獲した野生体は戦闘ゾイドへの改造や資源確保の為の養殖所へと送ら れる。 最近ではここ数年間行われた戦争による乱獲がたたり、各野生体の個体数の激 減したことと、ガイロス帝国から流れて来たオーガノイドシステムの応用によ る個体分裂法に切り替わっているために、野生体の捕獲をするという行為自体 が少なくなりつつある。 だが養殖や個体分裂では野生体の溢れる生命力には劣る為、エースパイロット などの専用機用に捕獲されることがあった。 この日もそのエースパイロットように野生体を捕獲する作戦が発令され、巨大 な森林地帯を見上げる男たちがいた。 彼らの後ろには捕獲の為の様々な機械をつんだゾイド達が見え、上空には数機 のダブルソーダが待機している。 「毎度ながらでかい森だよなぁ。」 一人の男がぽかんと口をあけてつぶやく用に言う。 「そりゃあ大型ゾイド達が身を隠したり、根倉にしたりするような森だ。 でかくないと困るだろ。さっさと行くぞ。」 もう一人の男がそういうと自分の機体へと足を運ぶ。 それを合図に他の男達も機体に乗りこむと、次々に森へと入って行く。 森林に入ってから数時間が経ったが、一向にお目当ての虎型野生体が見つから なかった。 「チッ、今日は不作だぜ。」 なかなか見つからない事に苛立ちを覚える。 そこに上空で森の監視をしていたダブルソーダからお目当ての物と思われる反 応があるとの連絡が入る。 一気に雰囲気が明るくなり、作戦終了後の話しなどがあちらこちらから聞かれる。 「目標付近に到達、お目当ての姿はないがどうなっている?」 『目標の位置は依然変わらず。α隊の正面数百メートル。』 「数百メートル??どこにも見当たらんぞ。」 ダブルソーダのパイロットからの報告にそう言って首をかしげる。 目の前の視界には生い茂る木があるだけだったからだ。 グォォォォォォン・・・・ 辺りに響き渡る低い遠吠え。 バサッバサッ まわりにいた鳥達が翼をばたつかせながら急いでその場を離れて行く。 「な、なん・・・・・だ?」 突然の遠吠えに畏怖するパイロット。 ズシャァ!! 唐突に鳴り響く音。 音のする方を見ると、仲間の機体が一機のゾイドに押し倒され、再起不能とな っていた。 グルルル・・・・ 未確認のゾイドから聞こえる唸り声。 「お目当ての奴か!?」 そう言って目を凝らす。 「こいつは・・・・全機この場から離れろ!!一時撤退する!!」 そう言うと機体を反転して森の外へと向かう。 『アゼスタは!?』 「拾っているひまなどあるか!!」 そう言うと通信を乱暴に切る。 (なんでこんな所にクライジェンシーがいるんだ!!) 心の中で叫ぶ隊長。 彼らの乗るゾイドは野生体を捕獲する為の機体で、戦闘用ゾイドとの格闘にた えられない。 その為、隊長は即撤退を指示したのだ。 『隊長、奴が追ってきます!!』 「なんだと!?とにかく振りきれ!森林を出たら味方の戦闘用ゾイドも待機し ている!!」 『りょうか・・・・グシャァ!!!』 モニターが砂嵐になったとたんに聞こえてきた金属のひしゃげる音。 あまりに音が大きい為にパイロットの断末魔もかき消えていた。
「くそ!!」 悪態をつきつつも全速で機体を走らせる。 その後も巧みに木々を避けなけながら足の遅い機体が次々にやられていく。 森を抜けた頃には8機あった機体は3機までに減っていた。 彼らが森を抜けると同時にツェルベルクなどの護衛ゾイドが前に出る。 森を抜けて安堵した隊長は、恐る恐る後ろに目をやる。 クライジェンシーは森の中におり、木々の間からこちらの様子をうかがってい るようだった。 しばらくして立ち去るクライジェンシー。 「な、なんだったんだあれは・・・・。」 立ち去るクライジェンシーを見つめながらそう言葉を漏らすのだった。 この事件は各町のメディアや新聞で紹介され大騒ぎとなった。 紙面には森の守護神や悪魔などと面白おかしく活字が踊る。 改めて調査隊を森に派遣するが出会う事なく終わった。 この事件を書いた記事と写真を見て真剣な目で見つめる女性が一人。 「これって・・・・。」 そう言うと言葉に詰まる。 町の喫茶店でこの記事を見つけたクリスは、すぐさま店を出て愛機バーサーク のもとへと走る。 慌てて飛び乗ると記事の書かれている森へと機体を向けた。 彼女が今いる町は事件の有った森に近かった為にすぐに丸1日で着くことができた。 「こんな森が存在していいのもんなのかなぁ。」 問題の森を見上げてそうつぶやくクリス。 ニクス(暗黒)大陸にはこれほどの巨木が群生する森は少ない上、エウロペに 来てからも都市などで行動する事く、見かけても遠くから見る程度で今回よう に間近で見るのは初めてだった。 「あんまりほおけててもしょうがないし、中に入るか。」 とは言っても森を囲むように同盟軍の部隊が展開していて、中には入れない様 になっていた。
少し離れた所に機体を隠していたが、すでに同盟軍側にはキャッチされている 様で、こちらの動きをしきりに気にしている。 「あんなのいちいち相手にしてらんないわねぇ・・・・でもめーつけられるし 強行で言っても問題ないか、後始末はサラにさせればいいし♪」 そういうと操縦桿にを握り、機体を前進させる。 「そこのゾイド!!ここは立ち入り禁止になっている!!速やかに退去せよ!!」 外部スピーカーで警告しながらパトランプをつけたアロザウラーがやってくる。 「行くよフューラー!!」 彼女の言葉に反応してバーサークがほえる。 クリスがペダルを思いっきり踏み込むと、バーサークは一気にスピードを上げ て同盟軍の部隊に突入する。 アロザウラーは猛スピードで近づいてくるバーサークになすすべもなく吹き飛 ばされる。 その様子を見て他のゾイド達が慌てて身構える。 「う、撃てー!!」 警告をしても無駄と判断したのか、突然の状況に慌てたためか部隊長が最終警 告もなしに発砲を指示する。 一斉に発射されるビーム。 しかしクリスは高速移動をしながらバスタークローを展開、Eシールドを張っ てかわす。 そのままシールドアタックを敢行し、アロザウラー達を吹き飛ばす。
「そこで寝てなさいな♪」 いたずらっぽく言うと機体を森の中へと突っ込む。 入ると同時に、辺りの視界が一気に悪くなる。 巨大な木が日差しをさえぎっている為だ。 「ちょっと・・・・いくらなんでも暗すぎない?」 何かにおびえるようにつぶやくクリス。 フューラーは静かに森の中を歩いているとふと、立ち止まって辺りを警戒し始める。 「ちょ、ちょっとフューラーなにとまってんのよ?何かいたの??」 しばらくしてまた歩き出すフューラー。 しばらくその行動を繰り返す。 「・・・・あんたさっきから怖がってるうちをからかってない?」 ブシュ 不意にフューラーが吹く。 「やっぱからかってたなぁ!!」 怒りが爆発するクリス。 スッと後方に機体を向けるフューラー。 ジーと何かを見据えていたが首をかしげるような行動を見せると、また前進し 始める。 「こいついつまでからかう気よ・・・・。」 からかわれているとしか思っていないクリスはそうつぶやく。 フューラーがその場を離れてからしばらくすると地面を何かが歩く音が静かに響く。 グルルル・・・・ 低く唸る声と同時に黒い影がまた木々の中へと消えていく。 森には言って数時間、レーダーには何の反応もなかった。 普通なら野生ゾイドと出くわす事もあるはずなのに何事もなく前進する。 それどころか鳥達の声も聞こえない。 聞こえるのはフューラーが地面を踏みしめる音のみだった。 「ほんっとに静かすぎるわね・・・・。」 緊張した面持ちで辺りを警戒するクリス。先ほど森に入ったばかりの時とはう って変わって真剣なまなざしだ。 しばらしくしてまたフューラーの足が止まる。 レーダーには何の反応もないが何かを感じている様だ。 その行動に対してクリスも黙って様子を見る。 グォォォォォォォォォォォン・・・・・・・・ 突如として響く遠吠え。 と同時に上空から襲いかかる影。 「フューラー!!」 キシャァァァァァ!! クリスの叫びに反応して飛び掛ってくる影に向けてバスタークローの突きをあ びせる。 しかし影はそのバスタークローの一撃を背中のブースターを使ってかわす。 だがフューラーに対する直接攻撃を回避する事ができた。 影はそのままフューラーをまたぐ形で目の前に着地する。 「・・・・クライジェンシー・・・ティガー。」 目の前に現れたゾイドを見てそうつぶやくクリス。 「パイロットは誰!?答えな!!」 外部スピーカーで叫ぶクリス。 しかしクライジェンシーからの反応はない。 逆に叫び声の返礼とばかりに近距離ビームが放たれる。 「どうしてもやる気!?」 そう言いながら機体を横滑りさせてかわす。 ドン 何かにぶつかった音とともに機体に衝撃が走る。 「なに!?」 よく見ると巨木が目の前にある。暗い為に周りの木々の間合いが取れずに体当 たりをしていたのだ。
グォォォォォン!! 叫び声が聞こえて振り向くクリス。 目の前にはクライジェンシーが手に装備されたストライクレーザークローを振 り下ろそうとしていた。
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