大きなほら穴に数十機のゾイドが並び、各所では慌しく整備したちが動き回っている。 その奥に壁をくりぬいて作られた部屋があった。 『・・・・このような不安定な情勢を打破する為、エウロペ同盟に加盟する各 国家元首による直接対話を目的としたサミットを行なう事となりました。 場所はフィルバンドルで開催される事となり、今月下旬から・・・・・・・・。』 ソファーに座り、酒を片手に持ちながらテレビの画像を見る男が一人。 「会議のことをここまで詳しくニュースで言うとは、狙ってくれと言わんばか りだな。」 「しかたありませんアルバン中佐。我々や反政府組織の行動がなくなりつつあ るので、連中も会議を狙ったテロが無いと踏んでいるのでしょう。」 となりのソファーに座る下士官があきれながら漏らす。 「まー人手や装備が無くなりつつあるのは、たしかだからな・・・・。」 そう言って脇目でゾイドを見る。 2年前、彼らが祖国に裏切られて以来、共和国軍の輸送部隊や警備の手薄な国 家を狙って襲撃し、政治的アピールをしながら食いつないできた。 しかし、ここ半年ほどはほとんど動きがとれない。 当初、裏ルートから各企業による援助などもあり、武器、弾薬などの心配をせ ずに済んでいたのだが、最近はまったくと言っていいほどなくなってしまって い、ゾイドの稼動率も極端に低くなっていた。 「このままでは、じきに干上がります。」 「たしかに・・・・、だがこのまま干上がって死ぬくらいなら一層の事、派手 に花を咲かせて散ってみたいもんだな。」 そう言って目を細める。 「我々は軍には戻れませんからね、反乱者の烙印を押された以上は最後ま で・・・・ですか。」 そういうと言葉に詰まる下士官。 「そういう柄で無いと言いたそうだな。」 苦笑しつつ言うアルバン。 「いえ、私は覚悟ができて今すが、一部兵達にそこまでの覚悟があるかどうか ・・・・。」 「・・・・それはそうだな、人選は貴様に任す。来週はじめにはここを発つか らそれまでにやっておいてくれや。それと漏れた連中には絶対この事は言うな よ。あとあいつらにも声をかけとけ。役に立つからな。」 「はっ」 そう返答すると立ち上がって格納庫の方へと向かう。 「このままで終われると思うな、軍令部のばかども・・・・。」 そう悪態をつきながら酒を飲むのだった。 北にあるフィルバンドルを目指す一機の機体、アダールの乗るベセルトサーベルだ。 「あと1000KM以上もある、クレセアは・・・・。」 そう言って後ろを振り向くと小さな根行きをたててお休み中のクレセアが目に はいり、言葉を詰まらせる。 「・・・・おやすみ。」 そうやさしく声をかけると前を向くアダール。 クレセアを起こさないようにゆっくりと道なりをゆく。 それを遠くから双眼鏡で見つめる男がひとり。 「あんな失敗作でうろうろしている奴がいるとはな。」 そう言うとあざけ笑う双眼鏡の男。 「あんなのでもサーベル・シュミットやセイバーATよりかは旋回性能がいい らしい。そっち重視ってことなんだろう、なぁマードック?」 脇であぐらをかいて座っている男が言う。 「性能がいまいちってことで戦後、民間企業に大量に流れまくった機体だ、腕 はなくとも・・・・て奴も多い。やってみるか?」 双眼鏡を覗きこみながら言うマードック。 「見掛け倒しの機体だがそこそこの値段で売れる。目の前の宝をみすみす逃す 手はない。」 「決まりだ、いくぞオディフェルト!」 そう言うと走り出すマードック。 そのあとに続くオディフェルト。 彼らの向かう先にはツェルベルクとシャドーフォックスが並んでいる。 二人はそれらに飛び乗ると機体を起動させて一気に駈ける。
『なぁ、あれがあいつの言っていた機体だったらどうする?』 不意には入ってくるオディフェルトの通信。 「その時には優先的に教えてやっても言いが・・・・教える前に倒しちまって るかもな。」 そういうと笑みを見せる。 『はっはっはっ、そりゃいいや。それを聞いたら殺されそうだけどな。』 馬鹿笑いを上げた後笑いをこらえながら言うオディフェルト。 「逆に伝える間もなくおれたちが全滅ってこともあるがな。」 『・・・・早々俺達を倒せる奴が入てたまるかよ。』 さっきまでの馬鹿笑いとはちがって真剣な顔つきのオディフェルトが映っている。 「だな。」 そう言うと徐々に近づくベセルトに目を向ける。 急激に接近する1機をベセルトのレーダーが捕らえ、警告音を響かせる。 その音に飛び起きるクレセア。 「大丈夫だ、それよりしっかりつかまっていろ。」 アダールはそう言うと戦闘体制に入る。 「大型スピノ・・・・・ツェルベルクか?」 望遠レンズに映し出された機影を見てこぼすアダール。 まだ射程距離外の所からツェルベルクがビームを放つ。 ベセルトの周辺に着弾するビームが飛散し、地面が土煙を上げる。 「あの距離からにしてはやけに正確な射撃だ。腕はいいようだな・・・・。」 そう言うと砂埃の中から抜け出してツェルベルクとの距離をつめようとする。 背中のイオンブースターのスイッチを入れ加速するベセルトサーベル。 「火器を使わず一気に距離を詰めて格闘戦に・・・・か。単なる馬鹿か、本物 のティガー乗りだな。」 加速するベセルトを見て、つぶやくマードック。 そこに数発のビームが飛来して難なくかわす。 「こけおどしかよ。」 そういうと余裕の笑みを見せると、ベセルトの方に目をやる。 「!?」 そこにいるはずのベセルトの姿が無く驚愕するマードック。 ピーピー 上方からの接近を知らせる警告音が響く。 「っ!!」 反射的に機体を左に反らすマードック。
僅かな差でツェルベルクがいた場所に着地するベセルトサーベル。 「何だこいつの動きはっ!?」 牽制のビームを放ちながら間合いをとる。 だがビームをことごとくかわしながら近づいてくるベセルト。 「こいつっ!!」 そう叫びつつ、近づくベセルトに向けてミサイルを放つ。 かなり近い距離で爆発に巻き込まれそうだったが、体制を立て直す為にはそう は言っていられない。 「この距離でか・・・・!!」 そつぶやくとベセルトの動きを止めて機体を地面にはいつばらせるようにかがめる。 機体は前の方に砂煙を巻き上げながら滑べる。 その直後にミサイルがベセルトの脇を通過する。 その動きを見て驚きながらもチャンスとばかりに駆け出すマードックのツェルベルク。 ミサイルを避けた事を確認すると、右後ろ足にちからを入れて機体を回転させる。 左に90℃回転した所で走り出すベセルト。 そこに僅かに遅れて大きな口をあけたツェルベルクが姿をあらわす。 「くそ、逃げられた!!」 ベセルトが逃げた方向にビームを放って動きを止めにかかる。 ツェルベルク自身もそのまま追撃にかかる。 『あとは俺に任せな。』 追撃するマードックの耳にオディフェルトの声が入る。 と同時に少し距離を置いて逃げるベセルトを追う。 「?」 追撃の手が緩んだような気がして不思議に思うアダール。 しかしちょうど良い間合いだったので機体をスライデングさせて反転する。 「なっ!!」 その様子を見て驚いたパイロット姿がなんとなく見えた。 そしてツェルベルクに飛び掛ろうとした時、銃弾の嵐がベセルトを襲う。 慌てて回避するアダール。 銃撃された方向に目をやると、シャドーフォックスが大きく振りかざした前足 をこちらに向けて襲いかかってくるのが見えた。 「くっ・・・・!!」 うめきを漏らしながらもシャドーフォックスのストライクレーザークローをな んとかかわす。 ほっとする間もなく、ツェルベルクが怪しい光を帯びながら、大きな口をあけ てビームを放っている。 「!!」 その姿をみて回避行動に移る。 しかし、そうはさせないとシャドーフォックスがレーザーバルカンを放ちなが ら挑んでくる。 ふと後ろを見ると目をつぶりながらシートにしがみつくクレセアの姿が見える。 「・・・・。」 なにも言わずまた正面に入るツェルベルクを見る。 いつ荷電粒子砲が放たれてもおかしくない状態だ。 そこに動きの鈍ったベセルトを見て、チャンスとばかりに飛びかかりながらレ ーザークロー振りかざそうとするシャドーフォックスの姿が見える。 「やむえん・・・・!!」 そう言うとイオンブースターのスロットルを最大にして急加速する。 一気に体にGがかかる。 急加速したベセルトは、飛びかかっていたシャドーフォックスの懐に入るとそ のままヘッドバットをする。
「おわぁっ!?」 唐突のことにかわすとこもできず、大きく吹き飛ばされるオディフェルト。 「これでおしまいにしもらおう。」 そう言ってマードックが拡散式荷電粒子砲を放つ。 ベセルトに向けて無数の粒子砲が飛び交う。 急遽Eシールドを展開するが、間に合わずに何発か機体をかすめてダメージを負う。 荷電粒子砲が放たれた一帯は燃え上がる炎と煙が充満する。 「こ、ここまで追いこまれるは・・・・。」 そうつぶやくマードック。 息を切らしながら辺りを探索する。 ピー!! 突然鳴り響く警告音と振動。 「なんだと!!」 いつの間にかベセルトサーベルがツェルベルクの右腕に噛み付いていた。 振りほどこうと必死にもがくツェルベルク。 スラスターを使って大きく回転すると、ベセルトが離れる。 「こ、こいつは・・・・。」 もう一度挑みかかろうとするベセルトに数発のレーザーが動きを止めさせる。 『チッ、こいつなんて動きしやがるんだ。』 オディフェルトのぼやき声が通信機から聞こえる。 「こいつ並じゃない、ひょっとしたらガデニーが言っていた奴かもしれん。」 『だとしてもここまで俺達をてこずらせるとは・・・・。』 「しかたがない、一旦引くぞ。」 そう言うと、ベセルトに向けて閃光弾と煙幕弾を使って相手を撹乱している間 に逃走を図る。 その動きに合わせてシャドーフォックスもその場から離れた。 「!?」 閃光と煙が引いたあとには彼らの姿はなかった。 「・・・・いい引き方だ。」 そう一言つぶやくと彼らが去ったであろう方向を見つめるのだった。
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