願い
町の北側に大きな湖に面した町。 所々に破壊されたゾイドが見えるが、そんな戦火の跡ですら一つの風景と化し ていた。 そんな中でひときわ目立つのが超大型の首長竜型のゾイド。 機体のあちらこちらに激戦を潜り抜けたのであろう跡が所々見受けられる。 ただ、歴戦の兵も完全に石化し、二度と立ち上がる事はない。 そのゾイドの脇には石碑が建っている。 まだ真新しい石碑のの前に子供を連れた女性がたっていた。 握り締めた手を胸にあて、じっと祈りを捧げている。 子供も状況を察して、母親と同じように胸にてを当てて祈るようなポーズをと っていた。 しばらくして目を閉じていた母親が、ゆっくりと目をあける。 「生きているかもしれないって分かったからも知れないけど・・・・また会え る気がするの。何故だか分からないけど、だから見守っていてね・・・・。」 そうつぶやくと母親は少女に目をやる。 「もうお祈りはいいのよ。」 母親は笑みをこぼしながらそう言うと、まだ目をつぶって祈りを捧げる格好を していた少女は、母の言葉を聞いて祈りを止めた少女はすがるように母親に抱きつく。 「どうしたの?」 やさしく声をかける。 「・・・・この子かわいそう。」 母の言葉に応える少女。 命を落とし、石化したゾイドを見て悲しそうな表情を見せる。 「・・・・そう、あなたにも分かるのね。」 そう言うと寂しげな表情を見せる母。 目の前の娘の顔が見知った顔とだぶる。 「・・・・フィリア。」 「どうしたの?」 「いえ、なんでもないわ、あのゾイドの事がわかるの?」 「うん」 無邪気に応える少女。 「その力は人やゾイドを幸せにも不幸にもする。だから他の人に話しては駄目よ。」 「お母さんが言うならそうするー。」 「いい子ね、じゃあ行きましょうか。」 そう言うと少女の手をつないで町の方へと向かう。 今、フィルバンドルの町は会議の為の防衛、警備などの強化のために町のあち らこちらにゾイドの姿が見える。 町を囲う城壁の入り口付近にもゾイドを配備するなど、厳戒体制がしかれていた。 そんな町をさらに各都市国家のロードが連れてきた護衛部隊などが町のはずれ にある基地の格納庫に並ぶ。 その格納庫にすらはいらずに格納庫周辺に鎮座するゾイド達。 「基地の収容能力を超えるぐらいの数のゾイドを連れて来いって誰が頼んだ?」 基地の状況を見ながら苛立ちを隠せない男が一人、少女と歩きながらぼやく。 「みんな自分の一のが大事なのよ、こんな辺境に来て死にたくはないものね。」 「サラ〜、その口の聞き方止めないといいかげん嫁の貰い手が無くなるぞ。」 「あら、あなたがもらってくれるって2年前に言ってくれたじゃない。」 クスっと笑いながら言うサラ。 「よく言うぜ、即答で却下しやがったくせに・・・・。」 「へーそうだったかしら。ジャルクの妄想じゃないの?」 目線をそらしてとぼけて見せる。 「たく、一生そのままいやがれ。」 「うわ、今の言葉はものすごく傷ついたわ。あとで慰謝料請求してやるから覚悟なさい。」 そう言うと目を細めて不気味な笑みを見せる。 「そんな事しなくてもこの町のロードのサラ様なら法的手段は無視だろうが。」 「あら、分かってるじゃない。お迎えが終わったらその足であなたの家を差し 押さえに行くわね。」 左手で銃を作って撃つようなしぐさをすると笑みを見せながらウインクする。 「こいつは・・・・。」 そいうと次の言葉がでない。 このジャルク・ド・ヒューマンは、元々フィルバンドルの高官の子息であった が、ディーベルト連邦建国後は軍に入り、数々の武勲を上げていた。 連邦崩壊後、軍政府に対抗すべく結成されたエウロペ同盟に身をよせ、その時 からサラ・ミランの護衛役としてついていた。 「はい、決定。ジャルクは今日から野宿ー。」 楽しげに言うサラ。 「あのなぁ・・・・!!」 「来たみたいよ。」 そう言うと先ほどまでと打って変わってきりっとした目で上空から飛来してく るゾイドを見上げる。 大型輸送機のネオタートルシップがゆっくりと降下しつつあった。
そのさらに上空では、レイノスやストームソードを中心とした部隊が展開して 上空警戒にあたっている。 着陸したネオタートルシップのハッチが開くと、数人の男達が降りてくる。 「共和国外交官どののおでましだな。」 そう言うとジャルクはうざったそうな顔をする。 「御客何だからしっかりした対応してよ。」 「へいへい。」 「マックナン外務官、フィルバンドルへようこそ。」 そう言って笑顔で手を差し出すサラ。 「これはサラ議長、議長自らのおで向かえ、痛み入ります。」 そう言ってサラと握手を交わすマックナン。 二言三言言葉を交わすとサラはマックナンを待機させていた車へと案内する。 「ほほう、バトルローバーに馬車を引かせるとは面白い。」 マックナンは、目の前で馬車に繋がれたバトルローバーを見て笑みを浮かべる。 「ここでは生活する中で人とゾイドの係わり合いを大事にしていますから、こ ういうのはあまり珍しくないのですよ。」 「係わり合いを大事にか・・・・、常に進歩を追い求めてきた我々がどこかに 忘れてきた言葉ですな。」 「・・・・どうぞ。」 馬車の方へと誘導するサラ。それに従うマックナン。 馬車は警護用のバトルローバーに囲まれて町中を進んで行く。 沿道の人々は馬車が見えると共和国とエウロペ同盟の旗を振って歓迎している。 「先ほどのサラ議長の言葉が相成ってか中央大陸とはちがってここは平和ですな。」 ポツリとつぶやくマックナン。 「ここは元々他国の人々を受け入れやすい土地柄で、ほとんどの人達は人種の 垣根を越えて暮らしています。そのせいですよ。」 「我々もそういう時代を迎えたいものだな・・・・。」 そう言うと目を細めて沿道の人々を見据える。 「そうですね・・・・。」 サラはそうマックナンの言葉に応えるのだった。 「おーおー、外務官様がご到着なさった様だぜ。」 沿道にある建物の2階から通りすぎる馬車を見て言う男、アルバンだ。 身を隠す為に一般人に変装している。 「あれはマックナンですね、外務官では指折りの一人ですよ。」 その脇で望遠鏡を覗きこんでいる副官がいう。 「ガフェスト、知っているのか?」 「昔、学校の同級生でしてね、よくつるんで悪さをしたものです。」 そう言うと昔の事を思い出したのか笑みをこぼす。 「という事は奴の事はよく知っているんだな。」 「ええ、それなりに。」 「なるほど、あとで色々聞かせろ、なにか使えるネタがあるかもしれんからな。」 そう言うと窓辺から離れる。 「他の連中はどうなっている?」 「うまく入り込んだ様です。警備を厳しくしているわりには、あっさりと偽造 通行許可書が使えましたよ。」 「所詮、この辺の国はすべて平和ボケしてるんだよ。」 「元々そう言う土地柄なのでしょう、だからあのような戦争が繰り返されても あっさりと他人を信用してしまう。我々のような人間が住み続けるには良いで しょうが。」 「たしかにな、それでは行動開始と行くか。」 やれやれといった風に部屋の入り口へと向かう。 「サー」 そう言って目の前を通りすぎるアルバンに向けて敬礼すると、そのあとに続く。 「やけに物々しいな。」 モニターごしに見える多数のゾイド群を見てつぶやくアダール。 町には華やかな飾りもされている為に戦闘ようゾイドとの組み合わせは異様だ。 クレセアはそんな事を気にする事も無く、町の方に興味を持ってうれしそうに している。 「この町はいつでも何かに巻き込まれているんだな。」 ふとそんな言葉が口に出る。 (・・・・やはりこの町は記憶を失う以前のわたしと関係が深い様だ。) 自分がふと発した言葉に記憶喪失前の自分を見出そうとする。 しかしなにも思い出せずにいた。 町を横目に町はずれの基地へと向かう。 『そこのベセルトタイガー、停止せよ!』 唐突に入る通信。 城壁付近で警備の為に立っていたG・リーフが警戒しながら近づいてくる。
『今この町では特別警戒体制を敷いている。通行許可書が無ければ入ることは できない。』 「ロードアリシアの依頼を受けて、警備に参加する事となったアダールだ。」 『少し待て、本部に問い合わせる。』 そう言うとパイロットが別画面で話をしている様子が見える。 『確認が取れました、このまま基地の方へと向かってください。ただ先ほど共 和国からの使者を迎えた後なので、しばらくは基地外での待機かもしれません が。その際は一度その場の担当者に問い合わせてください。』 「了解した。」 そう言うとパイロットが敬礼するのに合わせて敬礼をして通信を切る。 「やれやれ、これで制止も5回目か。同も末端への連絡がおざなりになってい るようだな・・・・。」 そう言うと少しうんざりしたような顔でその場をあとにする。 そんなアダールをよそにクレセアは遠のくG・リーフに向けて手を振っていた。
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