記憶
フィルバンドルに朝日が昇り、建物を照らす。 砂漠が近いフィルバンドルの朝は冷え込み、日中との気温差が激しい。 赤い目をしたピンクの髪の少女がその朝日をじっと見つめる。 手には丸いボールのような物が抱えられていた。 「ここにいたのか。」 少女の後ろから声をかけるサングラスをかけた男性。 「・・・・・。」 声をかけられた少女は無表情のまま振り向く。 「君の出番はまだだ、体が冷えぬうちに中に入りたまえ。」 そう言うと建物の中へ促がす。 少女は男に言われるまま、中へと入るのだった。 「ほぅ、ここがフィルバンドルか。エウロペの地方都市にしてはやけに華やかだな。」 30代半ばの男が町中を歩きながらそんなことをつぶやく。 「ガデニー大尉、ここは旧エウロペ同盟代表のサラ・ミランが代表であるとと もに実質的な現同盟軍の本拠地ですから、にぎやかにもなるでしょう。」 その脇にいた歳若い男がフォローするかのように述べる。 「あいつらの情報だとこっちに来ているらしいがその辺りの情報は掴んでいるか。」 ガデニーの言うあいつらとはマードックとオディフェルトのことだ。 彼らから“それらしい奴がフィルバンドルに向かった。”という連絡を受けてこ こへやってきた。 アルバンからもこの町で作戦を行なうから待機してくれとの連絡があったが、 彼にとっては二の次だ。 彼らは喫茶店の一番置くの席で話を続ける。 「さきほど、ベセルトサーベルが1機、入城したとの情報を得ていますので確 実ではかと。」 「アズ、もう少し確定した情報がほしいものだな。」 「アルバンの部下の何人かが、基地内にも潜伏中です。なにかあればこちらに 入ってくる予定です。不確定情報ですが、彼らは例の研究所の連中とコンタク トを取ったようです。数日前に南の高地で取引を行なったとか・・・・。」 「・・・・・・。」 彼の報告をじっと黙って聞きながら目は彼の後ろを見ていた。 そこには普通の格好をした男が二人、話をしている。 時々こちらに視線を送っているようにも見えた。 「気づかれましたか?」 「のようだな。撒くか、片付けるか向こうの態度次第だな。」 そう言うと席を立って店を出る。 あとにつづくアズ。 しばらく間を置いてガデニーが見ていた二人も立ち上がって店を出る。 店を出るとともに足早にガデニーたちの後ろにつく。 ガデニー達がが細い路地に入ると男達は路地へと急ぐ。 「うっ・・・・!?」 路地に入ると同時に口と手を拘束される二人。 手で口を抑えつけられ話す事さえままならず、背中には拳銃が突きつけられている。 「エウロペの諜報機関は間抜けばかりだな。こういうのはよくある話だろ?」 そういって拳銃の引き金を引くガデニー。 「がぁ・・・・。」 心臓を撃ちぬかれて膝を突くと前のめりに倒れる。 もう一人も有無を言わさず始末するとその場を離れた。 「あんな奴らごときが俺を捕まえようとは片腹痛い・・・・。」 そう言うと町の郊外へと向かうのだった。 フィルバンドルに入城したアダールはクレセアとともに基地内の宿舎で一晩を 明かし、朝から基地内の軍上層部と任務について話をする。 クレセアには部屋で待つ様にいっていたのだが、強引についてきた。 ただ話し合いの場に入させるわけには行かないため、いつものように部屋の外 で待たせる。 「・・・・では夕方からの警備につくということで。」 「お願いします。」 士官とアダールが握手をする。 その脇にいた下士官が名にやら悩んだ顔をしていた。 「・・・・失礼ですが以前どこかでお見かけしませんでしたか?」 思いきったように言う下士官。 「・・・・いや私には記憶はありませんな。おそらく貴殿の勘違いでしょう。」 「そうですか。失礼致しました。」 そういうと頭をさげる。 「いえ、では失礼します。」 アダールが部屋を出ると同時に士官と下士官が小声で話す。 「間違いありません、上に報告された方がよろしいかと思います。」 「分かった、だが事が事なだけに慎重に行動する必要がある。もう一度素性調 査をさせろ。言いな。」 「分かりました。」 そう言うと下士官は電話をとって何やら指示を出す。 アダールが部屋を出るとその脇で座り込んで寝ているクレセアがいた。 朝はやくから昼近くまでの話だった為に待ち疲れた様だ。 おこそうとするが起きる気配を見せなかったので、長い廊下を背負って歩く羽 目になった。 数人の兵士や下士官がその姿をいぶかしげに見る。 (まぁ・・・・しかたあるまい。) 少し気恥ずかしい気持ちになったが諦めて廊下を歩く。 そこに前から数人の男性とともに歩く少女がやってくる。 すれ違うとともに歩みを止めてこちらを見る少女。 アダールも何かしら感じて歩みを止める。 「何か?」 アダールは驚いたような表情の少女に問いかける。 「い、いえ別に・・・・。」 「サラ様、どうされましたか?」 脇にいた秘書らしき男が少女に声をかける。 「何でもないわ、い、行きましょう。」 そう言うとまた歩き始める。声から明らかに動揺しているのがわかった。 「・・・・。」 去って行くサラをしばらく見つめると再び歩き出すのだった。 そろそろ日が傾こうかという頃、町は突然砂煙に覆われた。 基地のすぐそばを警備していたコングが突如暴走したのだ。 止めに入ったG・リーフを片手で持ち上げると、基地に向けて放り投げる。 着地とともに上がる火柱。大量の煙も上がり人々をさらにパニックにさせる。 勝利の雄叫びを上げるコング。 基地では突然の事に兵士達が右往左往していた。 ちょうど夕方からの警備の為にベセルトのそばにいたアダールは、すぐに愛機 を起動させて格納庫を出る。 コクピットの中の揺れとともに後ろの後部座席から腕が出る。 「・・・・!?」 その事に驚いて後ろを振り向くと、眠そうな目をこすりながら起き上がるクレ セアの姿が見える。 「クレセア、いたのか・・・・。」 「・・・・??」 ぽかんとした顔でアダールを見るクレセア。 「これから戦闘に入る。シートべるとだけはつけてくれ。」 そう言うと近づく戦場の方に目を向ける。クレセアは寝ぼけながらシートベル トをつけるのだった。 「何だ、このコングは??」 「コングってあんなに機動性が良かったか?」 コングを遠巻きに包囲する部隊のパイロット達が口々に言う。 彼らの目の前にいるコングは、通常では考えられないような動きをして、守備 隊を翻弄していた。 コングは、戸惑う守備隊をあざ笑うかのように蹴散らしはじめた。 次々に倒されてゾイド。 そこに1機のゾイドがコングの背中を蹴る。 その場にドウッと倒れるコング。 その前に着地した黄土色の機体、アダールの乗るベセルトサーベルだ。
突然の蹴りを受けてまだ置き上がれずにいるコングに向けて一気に駈ける。 これ以上暴れないうちにとどめをさそうというのだ。 だがなんとか置き上がった近づくベセルトサーベルに向けて右腕を振る。 ブースターの逆噴射で危機を回避するベセルト。 そこに立ち上がったコングが、ベセルトに向けて両手を組んで振り下ろす。 その攻撃も横にジャンプしてかわす。 ズン!! 大きな音とともに地面にめり込むコングの手。 そのめり込んだ手をそのままの状態で横に振る。 地面を削りながら一気に振ると、コングの腕が悲鳴にも似た音を響かせる。 ついにコングの左腕が限界を超えて引きちぎれる。 だがそのまま右腕がベセルトに襲い下かり予想しえない攻撃に、かわすタイミ ングが遅れて右前足にコングのパンチがめり込む。 体制を崩すベセルト。だが何とか踏みとどまる。 ふと見ると右腕は振りきられて胴ががら空きだった。 チャンスとばかりに痛めた右前足を使わず駆け出すベセルト。 さすがにスピードは落ちるものの体制を元に戻そうというコングの右足の装甲 を引き裂く。 バランスを失ってその場に座り込むコング。 スライディングで素早く反転したベセルトは、ビーム砲を右足の間接めがけて放つ。 関節部分は装甲が薄いために簡単に破壊される。 様子を伺うために近づくベセルト。 「これでうごけまい・・・・!?」 動きを封じたと思っていたコングが突然動きだし、近づいていたベセルトを右 腕で吹き飛ばす。 建物に激突してその場で沈黙するベセルト。 コクピットの中ではコンバットシステムのフリーズを知らせる音と気絶したア ダールの姿があった。 そこにとどめを刺そうと微妙なバランスを保ちながら近づくコング。 その状況をじっと見詰めるクレセアがいた。 振り上げられるこぶし。 おもむろに目を閉じ、手を合わせる。 一瞬ベセルトが光を放つと、フリーズしていたコンバットシステムが起動して 起き上がる。 そしてパイロットがいないままコングの攻撃をかわす。 かわされたコングはその場に倒れこむ。 咆哮を上げてコングを威嚇する。 その叫びを聞いて目を覚ますアダール。 「気を失っていたのか・・・・。」 ぼやけた頭を叩いて正気を促がす。 目の前には起き上がってきたコングが、ちぐはぐな動きをしながらこちらへと 向かってくる。 その姿を見て一気にコングの懐に入ると、左足の間接を引きちぎる。 両足に傷を追ったコングはさすがに立てなくなってその場に倒れる。
しばらくもが入ていたが力尽きたのか動きが止まる。 「少し手間どったな、しかし気絶していた間何があったんだ・・・・。」 数分後遅れて到着した守備隊がコングのパイロットを拘束するためにコクピッ ト内に入る。 だがそこには誰もいなかった。 その様子を遠巻きで見つめる少女と黒服にサングラスの男。 少女の手に持つボールのような物が弱い光を放っている。 「ほぼ実験結果と同じような動きができているようだなアルスフィ。」 「・・・・・・・・。」 満足げな男に対して少女は無言でじっと戦場を見つめる。 「しかし、あの光りは・・・・。」 少女はなにも応えず、見知ったような表情を浮かべてベセルトを見つめていた。 男はしばらく考え込んだ後、アルスフィとともに姿をくらます。 現場は次々に到着する消化班並びに救護班で慌しくなっていく。 一方、コングを鎮圧したアダールは右足の修理の為に基地内のドックへと向かう。 少し奥まった所にある為に足をいためたベセルトにはつらいらしく、到着する のに時間がかかった。 それを必死に追う一人の女性がいた。 そんな事に気づかないまま、ようやくドックに機体を入れると、アダールはコ クピットから飛び降りる。 汗を拭くためにサングラスを外して袖で拭く。 ふと少し離れた所に一人の女性がこちらをじっと見つめながらたっていた。 ずっとベセルトを追い駈けていたせいか息が荒い。 そして目を潤ませながらこちらにやってくるとアダールに抱きつく。 「アル!!」 女性はアダールを見てそう叫んだ。 一瞬何が起きたかわからなかった。 「・・・・君は誰なんだ。」 突然の事にアダールはそう言う。 その言葉を聞いて驚く女性。 その様子をコクピットから悲しい表情を見せながらじっと見つめるクレセアがいた。
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