記憶2
先日のコング暴走事件により、町のあちらこちらで崩れかけた建物と瓦礫が見える。 瓦礫付近では軍の調査官らしき人々が事件の検証や被害の調査をしていた。 そのまわりを警備兵が厳重に警戒する。 「やはり暴走の証拠となるような物品は見つかりません。」 検査官を指揮している士官の脇にはジャルク・ド・ヒューマンがいた。 彼はフィルバンドル防衛隊の指揮を任されているため、今回の事件に関しても 自ら出向いている。 「コングの方も調べてはいるが・・・・。」 そこで話すのを止める。 「何もつかめずじまいですか。今回は単なる暴走なのでは・・・・。」 「まぁそう思いたいのだが、今は各同盟の高官達が来ている時だけにあらゆる 可能性を否定するわけにはいないんでね。おっとそろそろ戻らないと・・・・こ こは任せる。」 「了解致しました。」 そう言うと士官は敬礼をしてジャルクを見送る。 「それにしても・・・・何もこんな時に記憶がないまま帰ってくる事はないよなぁ。」 そう言いながらため息をつく。 先日の事件を受けて各機体のチェックでばたばたしている基地を横目に、議事 堂に入るととある部屋に入る。 「この国の警備は一体どうなっているんだね!?我々のような高官が多数集ま っている時にこのような事を起こして。しかも原因が不明だと?!ふざけた話 だ・・・・!!」 入ってきたばかりのジャルクに向かって苛立ちを隠さず怒りをぶつけるヘリッ ク共和国外務次官のマックナン。 「お怒りはごもっともです。深くお詫び致します。ですが・・・・。」 「なにかね?」 ジャルクの言葉に不機嫌そうに言う。 「今回のことは共和国を含むエウロペ同盟各国内はおろか外にも広く伝えてい るサミットです。何者かの謀略とも限りませんので・・・・。」 「ぼ、謀略だと!?まさかネオゼネバスの連中の・・・・。」 「可能性は有ります。その上この大陸にはあなた方を疎(うと)む勢力は数限 りなくありますから。」 元々このエウロペ大陸はヘリック共和国とガイロス帝国の戦争が起きるまでは、 平和な土地であった。 その平和な生活を乱した両国に対して、エウロペの各国家の独立を認めている 現在でも反感の念を持つ者はいまだ多い。 ジャルクはその事を言っているのだ。 「君は私達共和国を脅すきか?」 ジャルクの言葉に冷静かつ低い声で言うマックナン。 「そんなつもりは毛頭有りません。ただ現状をお知らせしているだけです。 昨日のことも考えて各国家の方々の住まわれる場所の周辺警護を強化しますの で、ご安心頂ければと思います。」 「・・・・とにかくこう言う事は二度とない様に願いたいものですな。」 「はい・・・・では。」 一礼するとジャルクは部屋をでた。 「これだから田舎国家は・・・・。」 ジャルクが出たあとも、マックナンは不満顔のまま口をこぼすのだった。 それから数日、会議は何事もなかったかのように滞りなく進む。 『明日で会議は最終日だっけ?』 通信室のモニターにポニーテールをした女性が映っている。クリスだ。 その画面の前にはサラ・ミランがいた。 「ええ、おかげさまで何事もなく進んでるわ。」 『で、あいつはどうなったの?記憶がないってほんとなの??』 「ええ、どうも嘘でもないらしくて苦慮してるわ。あれ以来ミラルダは落ち込 み気味だし・・・・。」 そう言うとため息をつくサラ。 『あんたみたいなのでもさすがに身内のことになるとナイーブな表情を見せるのねぇ。』 面白そうに言うクリス。 「あのね・・・・!!」 思わず立ち上がるサラ。 『まー怒らない怒らない。とりあえず機体の修理が終わったらすぐにでもそっ ちに駈けつけてあいつの頭をぶん殴ってやるから。』 「それで記憶が戻れば言う事ないんだけど。」 『・・・・早く行けるように何とかするわ。』 「お願い。」 「じゃ、また。」 そう言うと通信をきるサラ。 「さて・・・・明日はお仕事を一通り片したら一度会ってみよ。」 そう言うと部屋を出ていく。 アダールはあの一件以来、クレセアとともに議事堂近くにあるサラ・ミランの 邸宅に宿泊している。 クレセアは朝から一人で町にでていた。 手には会話用のノートブックの入った手提げ袋をぶら下げている。 見る物全てが初めてで、好奇心で一杯の目を輝かせながら町の様子を見てまわる。 目の前に市場が見える。それを発見すると同時に楽しそうに市場へと向かうのだった。 ノートブックでいろんな人と会話を楽しみつつ、なにかないか露店を見てまわる。 「どうもこういうにぎやかな所は目立っているきがしていやだね。」 不意に聞こえた声に目をやると黒のスーツをきた男と少女がいた。 「ん?」 クレセアの顔を見て何かに気づく男。 男に気づかれるのと同時にその場を走り出すクレセア。 少し走った所にある路地に隠れる。 全力で走ったためにその場で息切れを起こす。 「君は知り合いの顔を見たら走って逃げるのかね?」 後ろから聞こえる声。さっきの男が真後ろに立っていた。 その脇には先ほどの少女もいる。 おびえるクレセア。 「相変わらず無口だね、そうかしゃべれないんだったけか。これは失礼した。」 冗談めかした口調で話す男。 「そうか、先日のあれは君の仕業だったのか。どおり不可思議な現象だと思ったよ。」 前回の戦闘の事を思い出しながら語る。 「・・・・。」 男の話す声をじっと聞きつづけるクレセア。 「今は君一人なのか。君を研究所から逃がしたルシェフ・サンドラはいないの か?君達が出て行ったあとの研究所は大変だったんだ。礼の一つでも言わせて もらわないとなぁ。」 男の言葉をきっかけに過去の記憶がクレセアの頭の中を走る。 その中に母と呼んで慕っていた女性の笑顔と血まみれになった姿が浮かぶ。 「・・・・!!」 悲しみが彼女を支配し頭に痛みを覚えて抱える。 と同時に彼女の周りから溢れる光り。 「!?暴走か!!」 そう言うと男は瞬時にクレセアのみぞおちに一発入れ気絶させる。 次第に収まる光。 「なんだいまのは?」 路地での出来事に気づきはじめた町の人達が集まり始める。 『兵隊さんこっちに来てくれ。』 「ちっ!!」 舌打ちするとクレセアをその場に置いて少女を連れてその場を離れる。 「・・・・また。」 手を引かれながらクレセアの方を見てつぶやく少女。 駆けつけた兵士によってクレセアは保護され、屋敷へと送られるのだった。 アダールは部屋の窓から外の様子を見ながら考え事にふけっていた。 クレセアはそんな姿を見ながらドアの前に座っている。 町で何があったのかクレセアにたずねたが、何も言ってはくれなかった。 何かにおびえた目をしていて、何かしらあったのだろうが今は無理だと判断し て深く追求する事をやめた。 コンコン・・・・ 日も落ちかけてきた頃、ドアをノックする音がする。 その事に気づいたクレセアがドアを開ける。 開けた隙間から見た事のない女性の姿が見え、クレセアが不思議そうな顔する。 「こんにちは。」 「・・・・。」 女性のの挨拶に御辞儀をして答えるとアダールの元へ走ってそでを掴む。 それに気づいたアダールはドアの方へと目をやると、少し開いたドアの向こう に女性が立っているのが分かった。 「ロードミラン・・・・。」 「他人行儀な言葉ねぇ・・・・仕方ないけど。」 そう言って部屋の奥へと進む。 サラの言葉を聞いて眉をひそめるアダール。 「やはり過去の私とあなた方は関係があるようですね。」 「ぶっちゃければそうなんだけど、覚えてないんでしょ?」 「ええ。」 「なら何を言ってもしかたがないし、言った所で記憶が戻るわけでもないわ。 ただ・・・・。」 そこで何かに気づいて言葉を濁す。 アダールのそばでこちらをじっと見つめる少女。 「・・・・一つ聞いてもいいかしら?」 「なんでしょう。」 「その子はどうしたの?あなたはおそらく私達が考えている人なんでしょうけ ど、その人にはそんな女の子はいなかったわ。いつ知り合ったの?」 その質問にクレセアは顔色を変える。 「彼女は私の大切な肉親だ。」 「それは本当なの?」 「私が意識を取り戻した時からそばにいた。それだけで十分だろう。」 サラの質問に苛立ちを覚える。 「意識を取り戻した?・・・・なるほどね。」 何かに納得するとクレセアに視線を向ける。 「あなた、その子から記憶を失う以前の事を聞いた事がある?」 「以前、聞こうとしたがその話しになるとこの子は何かにおびえるようにして 何も語ろうとはしないのだ。」 「そういうことね。」 「何が言いたいいんですか?」 サラに対して怒りをぶつけるアダール。 クレセアはそんな姿をおろおろしながら見ている。 「やっぱわかる?そのこはあなたの過去を知っている。でも話してくれない。 それは・・・・。」 「だめよ!!」 話しにわって入ったのはミラルダだった。 「ミラルダ・・・・あんたねぇ・・・・。」 目を細めてうとましそうに見るサラ。 「あのままだと相手を怒らせる一方だって思わないの?」 「そんな気はした。でも話しが進まないでしょ。」 あっさりと言いきるサラ。 「いいです。」 そういいうとミラルダは前に出て、クレセアの前でしゃがみ目線を合わせる。 「ごめんなさい、何も話さなくても誰もあなたを攻めたりしないから・・・・ いつまででもこの人と一緒にいていいのよ・・・・。」 そう言うとスッと立ちあがってアダールの方を見る。 「・・・・・・・・私はたとえ記憶がなくてもあなたが生きていてくれただけ で・・・・。」 そこで言葉に詰まるミラルダ。 気丈な態度で終始しようとしていたが、いざ彼を目の前にすると思いがこみ上 げ、目が涙で潤む。 「い・・・や。」 小さくそしてか細い声がする。 誰もが聞き覚えのない声。 辺りを見まわす3人。 「わ・・・・・とら・・・・で・・・・・。」 「私から家族をとらないで・・・・・・・・!!!私を一人にしないで!!!!」 叫びとともに響き渡る声。少女が必死に訴えた言葉だった。 「クレセア・・・・。」 クレセアが言葉を話したこととその言葉に驚くアダール。 サラとミラルダは彼女の言葉にただ黙るだけだった。 ウーーーーーーーーーー・・・・・・・・。 けたたましく鳴り響く音。それは町のいたる所で響いていた。 「何?」 そう言って窓の外に目をやると火柱が一瞬見える。町は赤く染まっていた。 「・・・・爆発か。」
そう言うとクレセアを見る。 感情的になってどうして言いかわからず、ただ呆然泣きじゃくっている。 「すぐに帰ってくるからおとなしくしているんだ。いいね?」 その場でしゃがみこんでそう言うと、涙で濡れた頬をぬぐってやり、頭をなでて部屋を出ようとする。 「どこへ行くの!?」 「私はこの国に雇われた傭兵の一人だ。町があんなことになっている以上、放って置くわけにはいかない。」 「感心するほどの使命感だけど、あなたの機体はまだ修理中よ。どうやってあそこへ行くつもり?」 「足が一つ使えないだけだ。ベセルトなら問題はない。」 「えらく強気だけど、修理中のゾイドで出撃なんてさせれないわ。」 そう言うとドアの方へと足を運ぶ。 「ついて来て。ミラルダはその子をお願い。」 「・・・・クレセアを頼みます。守ってあげてください。」 そう言うとアダールはサラのあとについていく。 「・・・・はい。」 遅れてミラルダがそう口にする。 クレセアは、二人の会話に悲しい表情を浮かべて見ているだけだった。
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