決着
ミラルダはクレセアを連れて地下にあるシェルターへと避難しようとしていた が、途中でレイナを連れたサラと合流して時がすぎるのをじっと待っていた。 このシェルターは元々、フェレス湖に流れ込むルワナ川が雨季に氾濫を起こす 事があり、それを避けるために作られたものだった。 しかしここ5年の間は、戦争から市民を守るシェルターとして使われる事が多 く、本来の目的の為に使われる事はほとんどなかった。 暗闇で不安にかられる事なく、はしゃぐレイナの横でクレセアがその様子をじ っとみつめている。 「あの子が気になる?」 ミラルダの言葉に慌てて首を横に振るクレセア。 「そんなに首を振ると首をいためちゃうよ。」 そう言って笑みを見せる。 その言葉を聞くと、少し頬を赤くして頭を下に向ける。 「あの子はね・・・・私とアルの大切な娘なの。」 その言葉を聞いて悲しげな目をするクレセア。 「あなたにとってあの人はとても大事な人なのよね。だから彼をあなたから取 り上げるような事はしたくないわ。だから・・・・。」 「もしあの人がアルだったら・・・・。」 なかなか言葉にしたい事が口からでない。 サラがその様子をじれったそうに見ている。 「だから・・・・あなたは私にとっても大切な妹になのよ。」 何とかその言葉を口にすることが出来たミラルダ。 その言葉にふと見上げるクレセア。 目の前には笑みを浮かべたミラルダがいる。 「・・・・。」 その笑顔を見ているとアダールと同じ安らぎを感じる自分がいた。
議事堂前で2機のゾイドが交戦している。 同じ虎型ゾイドのクライジェンシーとタンデロイガだ。 もともと旧軍政府が高性能なクライジェンシーに目をつけ、そのデータを元に 製作したのがタンデロイガだった。 いわば兄弟機といえる2機の戦い。 性能はほぼ互角で、後はパイロットの腕とゾイドとの相性に左右される。 この2機のパイロットの腕も相性もほぼ同じであるがために、その時々の運が この決着を左右していた。 左前足のストライクレーザークローをかわすクライジェンシー。 すかさず懐に飛び込んでのヘッドバットを仕掛ける。 だがその事を予測していたガデニーはイオンブースターで素早くその場を離れる。 クライジェンシーの真後ろに着地すると、そのままの後ろ足でクライジェンシ ーを蹴り上げる。 蹴り上げられたクライジェンシーは空中で回転して機体の体制を立て直して着地する。 「!?」 そこにそのチャンスを待っていたとばかりにタンデロイガが突進してくる。 両脇に装備されていた爪は、長時間の戦闘で使い物になら無くなっており、頼 れるのはおのが牙と爪だけであった。 再びレザークローをしかけるタンデロイガ。 クライジェンシーはその攻撃を避けると思いきやタンデロイガが迫ってくるのを待つ。 そして今まさに振り下ろされようとするタイミングで体を回転させて後ろ足で 地面を蹴り上げる。 と同時に舞い上がる土が、タンデロイガの視界をさえぎる。 「なっ!?」 土ぼこりによって前が見えなくなり、焦るガデニー。 振り下ろした前足は、何の手応えも無く地面につく。 「クソ、人をコケにする気か。」 悪態を突きながら360度神経を張り巡らして敵の攻撃に備える。 「!!」 右後方になにかを感じたガデニーはその方向に2連装衝撃砲を放つ。 だが何の手応えもない。 「・・・・。」 視界がもとに戻る前、上空になにかを感じでその場を離れる。 タンデロイガが離れて数秒後にクライジェンシーが爪を立てた状態で落ちてきた。 着地すると威嚇するようにこちらを見て睨みつける。 「なかなかの腕だ・・・・。」 感心するように言うアダール。 「これだけいろいろとしかけてくるとは・・・・さすが帝国の元エリートパイロットだ。 今まで戦ってきた連邦のパイロットとは比べ物になら無いほどの腕だ。」 ガデニーも今までクライジェンシーが繰り出す攻撃に感嘆の言葉を口にする。 「だが・・・・その腕すら凌駕して見せる!!」 そう言って再びクライジェンシーに向かって突撃するガデニー。 身構えるクライジェンシー。 そこにもう1機のタンデロイガが現れる。 「隊長!!」 フリーズをなんとか解除して戦線に復帰したアズの機体だ。 「邪魔だ!!」 そういってアズのタンデロイガを踏み倒してクライジェンシーに襲いかかる。
踏まれたアズ機は、なんとか踏ん張ってガデニーのタンデロイガーの後ろにつく。 ガデニーのタンデロイガはクライジェンシーをそのまま飛び越える。 アダールがガデニーの機体に、目をそらしている隙をついて正面からアズのタ ンデロイガが、ブレードを展開して突撃してくる。 「今度こそ!!」 正面に目をやると目の前に迫るアズのタンデロイガ。 とっさにジャンプしてアズのタンデロイガを飛び越える。 「なに!!」 すれ違いざまにタンデロイガの尻に蹴りを入れる。 蹴られてバランスを崩すタンデロイガ。 目の前にはガデニーのタンデロイガが現れる。 「えっ?」 アズの口から思わず拍子抜けした声が出る。 勢いを止めることが出来ずにそのまま突っ切る。 ガデニーはとっさにジャンプして避けるが間に合わず、右前足を切断されてしまう。 そこに間を置かずしてアズのタンデロイガにクライジェンシーが飛び掛る。 喉元に牙がめり込む。 コクピットのあちらこちらでスパークが起きて炎が充満する。 「うわぁーーーーーー!!」 ガデニーの元にはアズの断末魔がスピーカーから聞こえてくる。 「くそぉ!!やってくれたな!!」 なかなか立ち上がれない機体を強引に起き上がらせようとするガデニー。 「そうなってはまともに戦えないだろう。降伏を勧告する・・・・。」 アダールはそう言って機体を近づける。 三本の足で器用に立つと駆け出す。 「どんな状態でも必ず貴様にかって見せる!!」 そう言って飛び掛るタンデロイガ。 だがその勢いは弱い。 クライジェンシーはその攻撃をしゃがんで避けると、小さくジャンプしてタン デロイガのわき腹に噛み付く。
バランスを崩したタンデロイガは急降下して地面に叩きつけられる。 わき腹に噛みついたクライジェンシーの右肩に噛みつくタンデロイガ。 そのもまま機体を回転させながら取っ組み合いを始める。 だが機体がビルに激突すると二機機は離れる。 ゆっくりと立つクライジェンシー。 右肩のダメージはほとんど走破するのに影響が無い。 一方のタンデロイガは沈黙を守ったままだった。 しばらく動かない事を確認すると、基地のある方向へと向かうのだった。 「現状報告を。」 司令室には入ったジャルクが副官にたずねる。 「現在、基地と議事堂に近い場所での戦闘が行なわれています。」 「議事堂近くまで入られたのか?」 「はい、現在DMX04(クライジェンシープロトタイプの事)1機が、2機 のタンデロイガと交戦中です。」 「DMX04・・・・地下格納庫のあれか?」 驚いた様子でたずねるジャルク。 「こちらで確認している識別コードはその機体のようです。パイロットはアダールという傭兵です。」 報告書を淡々と読み上げる副官。 「・・・・やはり彼か。」 そう言って眉をひそめる。 「彼の戦火は目を見張る物があります。出撃と同時にフランカーとブロックス ゾイドの一群を、たいした時間をかけずに撃退しております。」 「もし彼がアルフレッドであればそれぐらいの戦火は当たり前なのだろうな。」 「そうなのですか?」 不思議そうに尋ねる副官。 「人伝えに聞いた話だとな。」 「後もう一つ報告が。」 そう言ってもう一つのファイルを取り出す。 「なんだ?」 「ザーメストに向かったはずの輸送艦タスマニアが、行方知れずとなっています。」 「何?」 副官の報告を聞いてマックナンの言葉を思い出す。 「まさかっ!?」 そう言って司令室を走って出るジャルク。 周りの士官はしばらく唖然とし、慌ててその後を追うのだった。
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