迫る恐怖
西エウロペの上空を北上する一機のホエールキング。 メインブリッジ窓から外の景色を眺める男がいた。 「まったく、何でこんなデカブツが空に浮くのかいまだに分からん。」 外の景色を楽しむわけでもなく、男が乗艦しているゾイドに対しての愚痴る。 「アルバン隊長。」 「何だ?」 「フィルバンドルの部隊より連絡あり。ガデニーのタンデロイガを含め、町に 展開していた味方部隊ほぼ壊滅。基地撹乱は続行中。 また、この艦のことはフィルバンドル上層部の耳に入った模様との事です。」 手にしたメモを見ながら報告をする通信兵。 「やっと気づいたか。まぁいまさら気づいたところで、臨戦態勢のこいつがそう 簡単に落ちないだろうけどな。」 そういって笑みを浮かべるアルバン。 「さぁ、最後の一花を咲かせる。町に隠れている奴等には撤退の命令を出せ。 周囲の索敵を怠るなとレーダー班にもいっておけ。」 「了解しました!」 そういって通信兵は慌てて持ち場へと戻る。 「だが格納庫にあったあれを使えないのは、もったいない気がするなぁ。」 そういって近くのテーブルにあったカップをとると口に運ぶ。 中に注がれた茶を一気に飲み干すアルバン。 「ふむ、たまには茶を楽しむのもいいな。」 そう言うと大きな笑い声を上げる。 「まだ発見できないのか。」 苛立ちを隠さずに目の前でレーダーと向かい合っている兵士に尋ねるジャルク。 「はい、広範囲用のレーダーサイトを破壊されていて、近くに来るまでは発見 できないかと。その上、基地での戦闘がいまだに続いており、偵察部隊の派遣 もままなりません。」 「ちっ!!やけに粘ると思ったがそのためか。」 「共和国のタートルシップのレーダーは使えないか打診してくれ。」 「タートルシップは元々輸送用の上、今回のものは外交用のものですから、そ れほどいい目は積んでいない様です。」 「肝心な時に役に立たないとは・・・・!!しかたない、隠し格納庫にあるフ ァルゲンを使う。 数は少ないがこのままただ黙って死を迎えるわけにはいかん!!パイロットを集めろ。 それと、近辺で大気中のホエール級輸送艦があれば招集しておけ。 もしもの時に備えて今から市民をそちらに移す。基地と地下格納庫のクルーザ ーは、時間稼ぎのための戦闘に回すからそのまま発進体制のまま待機させておけ。」 「はっ!!」 ジャルクの脇で控えていた仕官が命令を受けて走る。 それを見届けるとジャルクもその場を後にする。 基地では、いつのまにかゾンビゾイドはいなくなり、替わりに通常のゾイドが ブライツ達を襲う。 「さっきの奴等と違って戦いやすいが・・・・いつのまにこいつら湧いたんだ??」 愚痴りながら目の前にいたツェルベルクを、頭突きで倒しながら愚痴るブライツ。 「大方その辺で隠れてたんだろ?さっきの変なゾイドは味方だとしても気持ち 悪くて近づきたくないだろうからな。」 「へっ、根性なしばっかりかよ。」 「ほほう、おまえはあれが仲間だったとしたら、一緒に行動することが出来ると?」 「・・・・・・・・。」 ワジョの言葉に何かを想像して押し黙るブライツ。 「・・・・だまるなよ。」 ワジョの厳しい突っ込みが入る。 そこに2機のブレードライガーが迫ってくる。 応戦体制に入るブライツとワジョ。 しかし、迫る2機のブレードに襲い掛かる機体。 2機のブレードも突然の思わぬ方向からの攻撃を受けて沈黙する。
「!?あれは・・・・。」 機体を見て驚くワジョ。 見覚えのある機体が目の前に立つ。 クライジェンシーティガー。しかし、目の前のクライジェンシーは量産型では なく、今はほとんど見ることが出来ない試作型だ。 そしてワジョにはその機体に覚えのあった。 「・・・・まさかこんな形で会うなんてな。」 機体を見ると同時にあの時のことが脳裏によぎり、操縦幹を握る手は汗ばむ。 そんな彼の心境を知らずに、さらに現れた敵と交戦するクライジェンシー。 迫る敵を十分に引き付けて懐に潜り込むと、一気に相手の首に牙を立てて息の 根を止める。 その動きを見て戸惑う他の機体をビームで牽制すると、敵機の横を駆け抜ける。 クライジェンシーが駆け抜けたのと同時に倒れる2機のゾイド。 2機の体には、すれ違いざまに放たれたストライクレーザークローの跡が、機 体に残る。 「・・・・・。」 ゆっくりとクライジェンシーが振り向く。 「な、なんだよこいつは・・・・。」 目の前に現れた強敵に畏怖するパイロット。 「目くらましで逃げるぞ。こんなところで無駄死にをする必要はない。」 もう一機のパイロットがそういうと、閃光弾を放って目くらましをかける。 「!!」 突然の光にとっさに目を隠すアダール。 アルバン隊の生き残りは、隙をついて反転して町の外へ向かって逃げ出す。 サングラスをかけていたために目をやられなかったが、あえて逃げる敵を追う ことをやめた。 その戦い振りに唖然とするブライツ。 「何だよ、あのクライジェンシーは・・・・。」 自分にはとても真似の出来ない動きをみて思わずつぶやく。 「・・・・間違いない。」 クライジェンシーの動きを見たワジョは、確認するように言う。 『全機に警告、敵の目的はホエールキングによる町の破壊であることが判明。 町の残敵をせん滅しつつ警戒せよ。なお飛行ゾイドを操縦できる者がいれば基 地司令部に集合されたし。』 「また無茶な無線が入ったな・・・・しかしこれから迎撃しに出て間に合うのか?」 「さぁな、だが撃墜してもらわなければ我々の命もここまでだからな。」 二人は事の重大さを認識しながらも、慌てることなく会話を続ける。 その二人を尻目にクライジェンシーが基地司令部に急ぐ。 『共和国軍ネオタートルシップより司令、町の南東部にて敵残存部隊を発見、 ヘイト隊はこれをせん滅されたし。ロゥ隊は議事堂の警護に回れ、以上。』 「ヘイト隊、了解。さぁて上空の厄介なものは、地元の方々にお任せして地上 のハエを叩くぞ。」 「安心して任せて戦え・・・・ないなぁ。」 「俺もそうだ、だが今おれたちにはそれを阻止する力はない。だからやれるこ とをやるまでだ。いいな?」 「了解。」 しぶしぶ納得したように返答するブライツ。 その返事を聞いて指示されたほうへと向かうワジョのヘイトグラウラー。 カルベルツァもそれに続く。 一方、基地司令部に向かったアダールは機体を降りて、司令部室にいた。 「その数で索敵するのはいいと思うが、発見した所で全機、撃ち落されるのが 関の山だ、他に対策を立てるべきじゃないのか?」 ジャルクを前に作戦の不備を指摘するアダール。 「なかなか痛い所をついてくるな。その辺のごろつき傭兵にしては良く分かっ てるじゃないか。だが現状を見て他にどんな作戦が?」 「高々度を飛行できてなおかつ大型ゾイドを輸送できるゾイドはないのか?」 「高々度を飛べるかどうかは分からんが、共和国軍が支援物資の輸送用にサラ マンダーを連れてきていたはずだ。」 そういって共和国軍から提出されたネオタートルシップの積載物の資料を見る。 「提出された資料では分からん。詳しいことは、直接向こうに聞かなければだめだな。」 そういって資料を机に投げ置く。 「スペックを知りたい、向こうと連絡を。」 ジャルクが投げ置いた資料を手に取ると、目を走らせながら言う。 「本当にただの傭兵だったらこんなぶしつけな願いを聞かないが・・・・。」 そういって通信兵にネオタートルシップとのコンタクトをとらせる。 フィルバンドルから西へ数百キロ先の上空を一機のファルゲンが飛行していた。 「くそっ、こっちじゃないのか・・・・。」 レーダーと目視で警戒するが、一向に目的のものは見つからなかった。 ふとパネルに表示された燃料の残量を見る。 急いで出撃したために燃料を満タンにする余裕もなく出撃したために、見るか らに心もとないほど少なくなっていた。 (これ以上の捜索は無理か・・・・。) そう思って機体を大きく旋回させて機首をフィルバンドルの方向へと向ける。 「こちらDF所属、ベイター・ワルツマン中尉、燃料不足のため一旦引き返す。 後続の監視部隊との交代を乞う。」 『こちらフィルバンドル管制塔、了解した。すぐさま引き返されたし。』 「ラジャー。」 そう言って通信をきる。 「ん?」 正面の雲の中で何かが光ったことに気づく。 次の瞬間、機体に向けて無数の対空砲が飛んできた。 「ちっ!!」 舌打ちしながらとっさに緊急回避するベイター。 対空砲火をかいくぐりながら町に向かう。 ピーーッ!! 警告音と共に後方から接近する数機のゾイドが表示される。 「ザバットとはまた厄介なのが・・・・。」 ザバットは無人のゾイドであるために、みずからを犠牲にしてでもターゲット をしとめる、そんな機体だ。
だが複雑な命令には対応できないために攻撃がいたって単調になりやすいのが欠点だ。 後方から接近するザバットに向けて背中の機関砲が火を噴く。 数発受けたザバットが火を噴いて高度を下げていく。 だが追ってくるザバット全てを落とす前に弾が切れるのは必至だった。 「数減らしにも限界があるし、こうなれば何がなんでも逃げまくってやる。」 ベイターはそう言うと操縦幹を握り直して敵の追撃を振り切りにかかるのだった。
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