ワルキューレ3
「先日捕らえた捕虜と機体ですが、捕虜二人は現在監禁中、機体は再整備の後、 我々で使用する予定です」 秘書らしき女性が、手に持ったバインダーに挟まれている報告書を読むと、目の 前の机に報告書をおく。 その机に備え付けられている椅子に座る一人の女性が、置かれた報告書を目で読む。 興味が引かれるように報告書を取り上げると、 「まぁ妥当な判断でしょう。で、その捕虜は実験には使えないのですね」 そういって丹念に報告書を見ながら話す。 「はい、すでに我々の実験データに基づいた適性年齢を上回っております」 「分かりました。彼らを今後どうするか決めるのは後にしましょう。 まず、今回の実戦テストの報告をまとめてください。 その後、彼女達の軍への納入が決まるでしょう」 「しかし、実験をはじめてから数ヶ月の即席部隊です。いつ、精神異常を起こ して暴走するか分かりません。時期尚早かと思うのですが・・・・」 不安げにはなす秘書。 「そうですねぇ・・・ー言いたい事はわからなくもないですが、軍からの催促もあり ますので、何かあった時はその時に考えます。納期まで後1週間もありませんので、 各員に準備をさせてくださいな」 そういうとニッと微笑む。 「・・・・わかりました。」 そう言うと静かに部屋を後にする。 その頃317は、ハンガーデッキにあるシールドを見つめていた。
「やっぱりご主人様が居なくて寂しんだねぇー。・・・・よし!!」 何かを決断した317は、足早にデッキを後にする。 向かった先にあるのは留置所だった。 「あ、いたいた。やっほー元気にしてましたかー。」 鉄格子越しに聞こえる彼女の明るい声に、反応して起きあがる者がいた。 ラッドだ。 「あのなぁ、こんな所にいて元気に見えるか?それに何しに来たんだよ」 不思議に思いながら少し飽きれた物言いをする。 「えーとね、君のシールド君が君に会えなくて寂しがってるんだよ。 でね、会わせてあげようと思ってきたんだけど」 いつも見せる笑顔がなんとなくまぶしく見えた。 どうしてか不思議に思ったが、指して気にせず話を進める。 「・・・・あのなぁ、気持ちは嬉しいが俺はここから出られないんだ。 それを分かっていってるんか?」 「へへーこれなんだと思う?」 そういってにこにこ顔で手にもっている物を見せる。 「!!そんな事をしたらおまえが捕まるぞ?やめとけ」 彼女の手にある鍵を見て慌てるラッド。 「えー、せっかくいい案だと思ったのになぁ」 ほっぺを膨らませてぶーぶーいっている。 「気持ちだけもらっとく、だから帰れ。ここで長居してるとまずいだろ」 そういって早々に追い帰そうとする。 逃げ出したいのは山々だったが、逃げた後の彼女の心配が先に立った。 「せっかく来たんだし、ちょっとお話しよっか。よいしょっ」 そう言うとその場に座り込む。 人の気持ちなぞつゆしらず、相変わらずの毎ペースぶりだった。 「人の話聞いてねぇよ・・・。そう言えばおまえなんて名前なんだ? この間登録番号で読んでただろ。」 以前、彼女達の会話で名前を呼ばず、番号で呼び合っていたのを思いだして聞 いてみたのだ。 「???わたしの名前は317だよ。それ以外に何もないよ」 ラッドの言葉に上目で何かを考えたあと、そう答えた。 「なんだよそりゃ?」 彼女の言っている事がいまいち理解できなかった。 (番号が名前って事は・・・・わ、分からん) ない頭を絞るが答えは見つからなかった。 すると彼女の方からその事について話始める。 「えーとね、ここで生まれた317番目に生まれた子って言う意味なんだよ。 わたし、ここだと落ちこぼれだからみんなに迷惑かけてるんだよ。てへ」 舌を出して苦笑する。 その彼女の言葉に驚き、動揺を隠せないラッド。 「そ、そうなのかー、でもなんか番号ってなんか味気ないよな。じゃあ俺が考えてやるよ」 平静さを装って話をするが、どこかギクシャクして見える。 (な、なんか、変な方に話がいっちゃったけど、な、名前かー普通他人に名前 をつけるなんてないだけになんてつければ・・・やっぱ番号に愛着とかあるだ ろうから関連付けたほうがいいだろうし・・・・。) いつの間にか真剣に考え込むラッド。 ふと目線を彼女にやると、期待感で目を輝かせてこちらを見ている。 (や、やばい!!むちゃくちゃ期待してやがる・・・・!!ど、どうするオレ!? 317なんだから単純にミナとかのほうがいいのかなぁ・・・・ミイナでもい いかも・・・・。どうせだったら・・・・。) 「えーと、ミーナってのどうだろ?」 「・・・・。」 「や、やっぱ駄目かなぁ・・・・」 冷や汗をだらだら掻きながら言う。なんとなく目線もあわせずらい。 「とっても言い名前だよ。嬉しいなぁ」 そう言うと満面の笑みを見せる。 「う・・・・。」 その笑顔見てうめくラッド。 「どうしたの?」 不思議そうに顔を覗きこむ。 「い、嫌なにも。そ、それより手に持ったままのかぎ鍵をさっさとしまえよ」 顔を赤くしながら話をそらす。 「うん、わかったよ」 そう言うと手にもった鍵をポケットにしまおうとする。 バッ 「??」 ポケットにしまわれる寸前に彼女の手を、クルツがつかんだ。 「大尉!?何をする気ですか!?」 「決まっている、ここから出るんだ。どうやらとんでもない所に連れてこられ た様だからな。それに貴様と違ってここでのほほんと嬢ちゃんとじゃれてるわ けにもいかんのでな。さっきからおまえらの話を聞いてると、ジンマシンが出るぜ。」 そういって悪態を吐くクルツ。 「なっ!?」 クルツの言葉に赤くなる。 その間にクルツは、彼女から鍵を奪って牢獄から出る。 「さぁて嬢ちゃん、格納庫の場所を案内してもらえるかい?」 「うーん、あなたも一緒に来るんならかまわないよ」 そう言ってラッドのほうに目を向ける。 「・・・・分かったよ、こうなった以上は付いていくよ」 そう言いながら思い腰を上げる。 「ラッド、おまえはこの嬢ちゃんをちゃんと格納庫まで守ってやる事が任務だ。 そっから先も守ってやるかはおまえの考え次第。じゃあいくか」 そう言うと入り口へと向かう。 「いくよー。」 楽しそうにラッドの手を引いて後についていくミーナ。 (なんか振りまわされっぱなしなのは気のせいか?) 彼女の先導で誰にも遭うことなく格納庫につく。 先ほどまで作業していた整備員は休憩か何かでいない。 整然と並べられたツェルベルクが5機、新型機であるクライジェンシーRが4 機あった。その脇にシールドライガーも置かれていた。 「むやみに突撃はしたくなかったからラッキーだったぜ。ラッド、おまえは敵 の機体のどれかに乗れ、俺はおまえの機体のに乗る。そのまま逃げ切ってどこ かで田舎暮らしでもしてろ。いいな」 辺りを警戒しつつ、物影に隠れながら前進する。 「そ、それはどういう・・・・」 「おまえは西エウロペ政府に嫌気が差して逃亡したようだが、北に行っても軍 を抜け出した逃亡兵でしかないんだよ。向こうで捕まってみろ、それは死を意 味する。分かるか?」 「分かります。でも俺のシールドじゃあここの連中とやりあうのは・・・・」 「心配するな、おれはあいつらとの相性が一番いいんでな。ゼロにだって負け やしない。じゃ、幸運を祈ってるぜ」 そう言うと一気にシールドのもとへと走りぬける。 取り残された二人はそれをぽかんと見ている。 「ええと、そういうことだ。俺も行くわ」 「ええー行っちゃうのー?」 幼子が駄々をこねるように言う。 「なんだったら・・・・・おまえも一緒に来るか?」 「だめだよー。わたし一人で付いて行けないよ」 困った表情をしながらいう。 「そ、そうか・・・。」 彼女の言葉を聞いて、がっくりとした自分自身が不思議に思えた。 「ルーイも一緒じゃないとわたしここから離れられないよ」 その言葉にパァと明るくなるラッド。 「心配ない、ルーイにのって逃げるから。だから大丈夫だ」 「ならいっしょに行くよ♪」 そう言うとにこにこ顔でラッドの腕にしがみつく。 「お、おう、じゃあルーイのもとまで案内してくれ」 「うん」 うなずくと彼女の先導でルーイの足もとにつく。 搭乗用のエレベーターに乗りこむ。 「おまえ何してる!!」 遠くの方で声が聞こえる。 ラッドが声のする方を見ると、シールドに乗りこもうとしたクルツが中にいた 整備員と揉みあいになっていた。 「チッ、ほんとついてないことばかりだ・・・ぜっ!!」 思いっきり整備員の頭を蹴り上げる。 脳震盪(のうしんとう)を起こした整備委員は、ふらふらと搭乗エレベータの 上で倒れる。 「ほぅ、結局嬢ちゃんと一緒に逃げるのかよ」 二人で乗りこむ姿を見てそうつぶやく。 そしてシールドを起動すると格納庫の扉をビーム砲で破壊する。
さすがにけたたましい破壊音に気づいたらしく、警報が鳴り響く。 「なんだこの警報は!?」 この研究所の防衛を任されていたアルアタ・クラウンは、突然の警報に戸惑い を隠せずにいた。 「捕虜が格納庫の機体を奪って脱走した様です」 通信兵がそう報告すると怒りをあらわにして目の前の壁を殴る。 「なんて有り様だ。ワルキューレを追撃に向かわせろ」 「しかし、部隊を動かすには所長の許可が・・・・」 「かまわん、向こうはツェルベルクを1機奪ってるんだ。この研究所に配備され ているG・リーフ4機で足を止めれるかどうか分かったもんじゃない。許可は 後で俺が取っておく」 G・リーフを過小評価しているアルアタは、彼らでは無理と判断したのだ。 「わ、分かりました」 そう言うと慌てて館内放送をかける。 出撃命令の下ったワルキューレ部隊のメンバーは格納庫に姿をあらわす。 「317はどうしました?」 174は、目の前に整列する隊員の中に317がいない事に気付く。 「見つかりません。おそらく彼らについていったものと」 淡々とした答えが帰ってくる。 「なんだと!?」 221が声を荒げる。 「彼女らしい行動ですね。」 ポニーテールをした女性がくすくす笑いながら言う。 「奪われたツェルベルクが彼女の機体と言う報告もあります。あの子のこと ですから間違いないでしょう。079、221とわたしで出撃します。 他の者はバックアップとして後方で待機です」 『了解。』 声をそろえて返答するとそれぞれの愛機へと走る。 ピーピー コクピットないに警告音が鳴り響く。 「げっ、もう来やがった」 「あ、174さんたちのティガーちゃんたちだ。やっほー」 モニター越しに手を振る317。 「あのなぁ・・・・向こうは捕まえる為に追いかけて来てるんだけど・・・・」 「ん?何か言った?」 あどけない表情がこちらを見る。 「いや、なんでもない」 諦め口調で言うと、スロットルを前回にして後方のティガーを突放しにかかる。 『よぉし、おまえはそのまま全力で逃げ切れよ。後ろのやつらには借りがある んでな、寄り道して行くわ。くれぐれもついてくんなよ。もし来やがったらこ のオレ自らおまえの相手をしてやる。分かったな?』 クルツの声が聞こえたかと思うと、追走していたシールドが足を止めて3機の ティガーに向けて走り出した。 「大尉・・・・」 クルツの形相と野太い声にびびるラッド。 「怖い顔だったねー。」 楽しげに言う317。 ラッドは彼の決意を察して止める気にはなれなかった。 遠くから聞こえる爆音。 そして後方から追尾する機体を警告するアラーム。 その音を聞きつつ、彼はひたすら北へと向かった。 自由を求めて。
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