戦場の思い
ZAC2102年末、中央大陸で行われた共和国軍の反抗作戦は失敗に終わった。 敗走した部隊は分散し、中央山脈などに身を隠して時を待つ事となった頃。 西エウロペ大陸でのコクン准将は、弱体化し始めた共和国軍に見切りをつけて、 離反することを宣言した。 「本国をあのような物達に蹂躙させるような無能な現上層部に見切りをつけ、 君達の知恵と勇気をこの場でいかそうではないか!!」 こうたからかに宣言するものの、本土でのネオゼネバス帝国建国宣言による衝 撃によって共和国内部では急な事態と受け取られなかった。 そして上層部は、内輪のごたごたで戦力を割かれることを嫌い、放置する事を 考える。 しかし、事実上の離反宣言を重く受け止めたロブ・ハーマンは、今こそ力を結集 する時だと訴え、西エウロペ大陸に駐屯する部隊に帰還命令を出した。 その呼びかけに答えたのは3割強。そして宣言を聞いてコクンのもとに集まる 者が1割弱。 戦力的には不利なはずのコクン側ではあるが、旧ディーベルト軍や地元勢力の 取り込み、本国の命令を無視して行われた軍備増強と味方同士の戦いに対する 正規軍の躊躇などにより、開戦数週間後には本国の前線基地となっているフォ ルナ地区を制圧するにまでいたった。 しかし、開戦から数週間後に発表された共和国本国とエウロペ同盟との停戦、 和平条約によりこの攻勢も一転する。 この発表に元ディーベルト軍の将校達はこぞってエウロペ同盟に味方した。 エウロペ同盟は、強力な後ろ盾を手に入れて各地で進軍を開始。 (これ以降共和国正規軍は、後方支援、特殊部隊による撹乱を主に行う。) そして彼らを後押しするように、軍政府勢力圏内での反乱組織による抵抗。 本国と同盟軍が手を結ぶ事を思っていなかった為に、じりじりと後退し始める 西エウロペ軍政府軍。 一進一退の攻防は大陸中央付近にある都市、クレスフォルタ付近で膠着状態と なる。 そして5ヶ月が過ぎたある日。 一人の男がバーでテーブルに足を載せて新聞を読んでいた。 その脇にはすでに飲み干されたジョッキが見える。 新聞は軍政府が発行しているものだ。 内容は、現在の戦況がいかに自分達が優位であるかを書き並べられていた。 「嘘もたいがいにしろってね。」 そう言うと新聞をテーブルに向けて放り投げる。 投げた新聞はテーブルに載らずに床にバサッと音を立てて落ちる。 そして胸にしまっている煙草を取り出すと火をつけて吸い始めた。 ボーっと何をするわけでもなく天井を眺める。 「ラーティス大尉、やはりここでしたか」 自分の名を呼ばれて入り口の方を見る。 見知った顔だった。 「ディレス、俺はガンスナ以外には乗らんと言っているだろう。なんだあの角 の長いゾイドは?あれでオールマイティーに戦えるのかよ」 「G・リーフのことですか?あれはとても良い機体なんですがー・・・・って 違います。ってお酒飲んでますね」 一生懸命に否定するディレス。 「一杯ぐらいかまわんだろ。で、機種変更の話じゃなかったらなんだよ」 くわえたタバコの火をテーブルにおいてある灰皿で消す。 「機種変更のじゃなく部隊の移動です」 「なんだそりゃ。」 「クレスフォルタが陥落したそうで、この周辺一帯の部隊はルーサリエントま で撤退せよとのことです。後1時間もしないうちにクレスフォルタに駐留して いた部隊がここに到着する様です」 「せっかくの長期休暇もこれパアだな。下手したらしんがりをやらされるかも な・・・・」 「し、しんがりですか!?」 「そうでないことをいのってな。おやじ、酒代ここに置いとくわ」 「へい」 カウンターの置くにいた店主がラーティスの方をチラッと見ると、すぐに目の 前のたるを片付け始める。 店主のそっけない態度を見届けるとバーを後にする。 彼、ラーティス・ブランディットは、西エウロペ軍政府に所属しているパイロ ットの一人だ。 ロブ・ハーマンの帰還命令が出た際、゛向こうに行ってもあんまり面白くなさ そうだからこっちに残るわ。もし反逆罪で捕まりそうになったら命懸けで逃げ 切って見せるさ゛そう友人に話して現在に至る。 実際には他に理由があるのだが、あえてそう言い張った。 友人らもその辺りを知っていて何も言わず去っていった。 愛機であるガンスナイパーに乗ったラーティスは、通信パネルのスイッチを押す。 「さぁてクレスフォルタの残存部隊が来る前に移動するぞ」 『いいんですか?』 「部隊が到着するまでここにいろとは聞いてない。こういう時はさっさとこの 場を去るのが妥当だなんだよ。一応後方を警戒しつつ、ルーサリエントに向かう」 ルーサリエントは、彼らのいた町からゾイドで半日もかからない所にある大き な都市だ。 西エウロペ軍政府、南部地帯の重要拠点の一つでもあった。 「さーて、なにはともあれ数ヶ月ぶりに帰れるわけか。また文句言われそうだ けどな」 そう苦笑しながら通信パネルの横に貼られている写真を見る。 そこにはたくさんの子供の姿が見えた。 元々彼らの部隊は、このルーサリエントから派遣されている部隊だった。 その為、今回の帰還命令により久しぶりに我が家に帰れるわけである。 「そんなこともないでしょう、きっと大喜びしますよエルアサちゃん」 にこにこしながらディレスが言う。 「いやあいつなら必ず飛び込んだ拍子に膝蹴りぐらい入れてきそうだ」 ため息混じりに言うラーティス。 「一体どういう関係ですか!?あなた方は」 思わず突っ伏しそうだったが、何とかこらえている。 「はは、面白いだろう」 そう言うと機体をルーサリエントへ向けて歩かせる。 移動し始めて数時間、平穏無事に移動していたが突然の砲撃にあう。 砲撃をまともに食らって随伴のS・ディールが大破し、その場に倒れる。 「こんな道の真中でか?」 レーダーには反応がない、どうもゾイドなどの類ではないようだ。
「兵隊さんは生身の姿を見せるだけでなく、レーダーにもめったに反応がでな いだけに厄介過ぎるぜ」 四方から自分を狙ってミサイルが飛ぶ。 しかし先ほどのようなビーム砲ではなかったのであっさりとかわしていく。 そして腕に装備されたバルカンであたり一帯を掃射する。 ピーッ、ピーッと、またしても耳障りな警告音が鳴り響く。 「今度はなんだ!?」 そう叫びつつモニターを見る。 突如として現れる二つの点。どうやら塹壕の中で身を潜めていたゲリラの機体のようだ。 「本命のお出ましかよ?それにしてもなんだあの機体は?敵の新型か」 2速歩行の恐竜型ゾイド。 機体は灰色と白のツートン、尾はピンと張られていてその先には銃口が見える。 前足の詰めは大きく、なんでも簡単に引き裂けそうだった。 彼らの目の前にいる機体、それはガンスナイパーの発展型として開発されたス ナイプマスターだった。
まだ実験的に中央大陸に配備されいるだけで、遠いエウロペ大陸に駐留する各 部隊へのデータ登録はされていかった為、彼には分からなかったのだ。 共和国軍同士の戦い、それはあってはならないこと。 しかし、そんなことで躊躇していては、自分があの世へに行ってしまう。 それは、彼にとってどうしても避けなければならない事。 スナイプマスターは、すばやい動きでラーティスの部隊に近づく。 2機のスナイプは、後方にいたディレスが乗るガンスナイパーともう一人のパイロ ットの乗るS・ディールに攻撃を仕掛ける。 身構える間もなくS・ディールの首をその鋭い前足で切り落とす。 ディレス機はあっという間に尾を切られ、S・ディールを倒したもう1機が 踏みつけて行った為にシステムフリーズをおこして戦闘不能に陥る。 行動不能に陥った2機を少しの間眺めると、すぐさまラーティスの乗るガンス ナイパーに目標を切りかえる。
「ち、動きが素早するぎるぜ」 そう言っている間に1機のスナイプがガンスナパーの脇をすり抜ける。 と、同時に背中装備されているワイルドヴィーゼルユニットのレーダーがドス ンと言う音とともに地面にめり込む。 「なんて奴だ。クッ・・・・」 間髪入れずにもう1機が襲ってくる。 しかし、うまく間合いをとって尾っぽを振り上げで一撃を加える。 攻撃をされることを予想していなかった為か、まともに地面にたたきつけられ るスナイプ。 起き上がる一瞬の隙をついて腕のバルカン砲の玉をぶち込む。 蜂の巣にされたスナイプは、その場にうなだれて動かなくなった。 バシュッ 少しの振動が機体を揺るがす。 「!?」 ガクンッとひざをつくガンスナイパー。 よく見ると右足に大きな穴が開いていた。 「もう1機のほうか!!」 目の前のスナイプマスターに気を取られている間に先ほどすり抜けて行ったス ナイプマスターが反転してガンスナイパーに砲撃を加えたのだ。 思うように動きの取れないガンスナイパーに向けて、何発ものライフル弾が撃 ちこまれる。 何発か受けたワイルドヴィーゼルユニットが爆発をおこし、ガンスナイパーを 地に這わす。 「さっきの爆発で気をうしなわんとは運が良いんだか悪いんだか・・・・」 そうぼやきながら敵の位置を確認する。 ガンスナイパーのシステムもかろうじて生きていた。 「チッ、こっちのようすを見てやがるぜ。それにしても奴のいる方向にあるの がガンスナのスナイプだけとは・・・・」 怪訝そうに言いう。 実を言うとスナイピングをしたことがない。なぜなら彼の射撃の腕はあまり良 くないのだ。 実際、部下であるディレスと射的で賭けをしたことがあったが、完敗した苦い経 験を持つ。 そのせいか戦場ではバルカンとミサイルなどを多用して相手にうまく近づいて仕留める。 そんな戦法をとっていた。 しかし、今の状況ではそんなことも言ってられない。 ぼやきつつも、スナイピングの体制にはいる。 じわじわと近づくスナイプマスター。 あせりを感じながらも慎重に照準を合わせるラーティス。 「今だ!!」 叫び声と同時に尾の先から手甲弾が放たれる。 「!!」 弾は僅かにそれて虚空の彼方へと過ぎ去って行く。 「まだ生きてたのか!?」 突如と放たれた弾に驚きを隠しつつパイロットは、まだ生きていると分かった ガンスナイパーに止めを刺しに走り出す。 「くそったれがっ!!」 かろうじて動くガンスナを反転させてミサイルを放つ。 しかしスナイプマスターは、それを難なく避けて突き進む。 動きの鈍いガンスナイパーを目の前に捕らえると、前足の鋭い爪を振り上げる。 「・・・・これならどうだ!!」 いつも叩くように押すボタンとは違うボタンを叩きつけるように押す。 と同時に背中かあら2発の弾が発射される。 それと同時にミサイルに向けてバルカンを放つラーティス。 バルカン砲の弾を受けて至近距離で爆発する。 と、同時に二つの先行が彼らの前にあら割れ目をくらます。 「照明弾だと!?」 光でモニターが焼きつく。 「装甲キャノピーが命取りだったな!!」 いつの間にかかけたサングラスで相手の位置を確認しながら飛び込む。 目をくらまされて動きの鈍ったスナイプは避けることすらままならず、ガンス ナイパーの一撃を受けざるえなかった。 しかし、飛びついてきたガンスナに向けて、最後の力を振り絞って前足の爪を 機体にめり込ませる。 爪がガンスナイパーをがっちりと固定して身動きをとれなくする。 「や、野郎!?なんてことを・・・・!!」 もがくガンスナイパー。 しかし、すでにガンスナ自体にも力は残されておらず、抜け出す事は出来ない。 もがくガンスナイパーをよそにスナイプマスターが爆発を起こす。 自爆にも思えたが、何かがきっかけとなってスナイプの弾が暴発した様だった。 あたり一帯に飛び散る残骸と爆音が空しく響く。
数分後、意識を取り戻したディレスは、目の前に広がる残骸と黒煙を見る。 「少尉!!!」 涙を浮かべながら大声で叫ぶのだった。 2週間後、共和国、エウロペ同盟軍は、ルーサリエントを無血占領した。 これはルーサリエントを防衛する部隊が、共和国への帰属を条件に降伏した為 だった。 そしてディレスの姿は病院にあった。 手に花を持ち、後ろには数人の子供を連れている。 彼の胸にはヘリック共和国正規軍のマークが縫い付けられている。 しばらく廊下を歩いたあと、T字路正面にある病室にはいる。 「今日はやけに賑やかだな。」 病室のカーテンごしに声が聞こえる。 「ええ、今日はどうしてもと言われて7人ほど・・・・」 「ついてきたよー。」 「・・・・おまえらもう少しおとなしくできんのか!?」 その日一日は、にぎやかな声が病室一杯にこだました。
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