ワルキューレ2
正面モニターに見えたシャドーフォックスが姿を消す。 パイロットは、それに動じずにすぐさまセンサーを切りかえる。 しかし、その一瞬の動作の間にフォックスが、自慢の徹甲レーザーバルカンを放つ。 相手の隙を狙った一撃は、確実にヒットするはずだった。 だが狙った敵、ツェルベルクは狙いすまされた一撃を紙一重で交わしす。 「な!?」 かわされるはずのない、いやかわしようのないタイミングで放った一撃をかわさ れて、驚愕するフォックスのパイロット。 しかし彼には驚愕している暇などなかった。 かわしたツェルベルクが、姿を消したフォックスに対して攻撃を仕掛けてくる。 「あいつには高性能熱センサーがついてるのかよ!?」 愚痴をこぼしながらビームをかわす。 『クルツ!!あいつら尋常じゃねぞ。』 味方機の通信が入る。かなりあせっているようすが声からもわかる。 「そりゃこっちも実感済みだって・・・!!」 そういいながら目の前にいるツェルベルクの攻撃をかわす。 「そうそう攻撃を受けてられるか。第一こっちのほうが、小回りがきくんだぞ。」 すると、突然モニターいっぱいにツェルベルクの尾が飛び込んできた。 「うがぁっ!!」 まともに尾の一撃を食らってフォックスの機体は吹き飛ばされる。 「く、くそぉ・・・・。」 全身に痛みが走ってからだが動かせない。 フォックスも一撃を食らって完全に沈黙してしまった。 ただ、通信機は生きているらしく、味方の交信が矢継ぎ早に聞こえてくる。 そこに一機のライガーゼロがこちらに向かってくる。 「ガナットの奴、なにしに・・・・。」 機体を見てつぶやく。 こちらに向かうゼロの脇に、さっきのツェルベルクが現れる。 「敵が後ろにいるぞぉ・・・・。」 敵の存在を知らせようとするがなかなか声が出せない。 ガナットが背後に近づいたツェルベルクに気づいた時には、数発のビーム砲がラ イガーを襲っていた。 一発が後ろ足に直撃して動きが鈍る。 『大丈夫か!?そろそろ撤退したほうがいい!!』 ガナットから通信がはいる。 その声を聞いて安堵感を覚える。 「おまえこそ大丈夫かよ・・・・。こっちは見てのとおり動けそうにない。 置いて行ってくれてかまわん。」 『・・・・分かった、ちゃんと生きてろよ!!』 後ろ髪を引かれつつ、ゼロがその場を離れる。 「あばよ・・・・。」 そういうとかろうじて動く右手を額に当てて敬礼をする。 そこで力尽きたクルツは意識を失った。 一方、ガナットのゼロは後ろ足片方を失ってたいしたスピードがでない。 「このままだと全滅だ・・・・早急に撤退しないと。」 「敵は逃がしてくれそうにないぜ、全く飛んだ所に配属されたもんだ・・・・・。」 もう一機のフォックスのパイロットがつぶやく。 目の前には二機のツェルベルクが蛇行しながら近づいてくる。 「くそ、余裕こいた動きをしやがって・・・・。」 しばらく蛇行していた二機のツェルベルクは、急左右に分かれる。 「!?左右からはさみ込むつもりかよ!!早々お前らの勝手には・・・・。」 そう言いつつ両側から来る攻撃に備える。 ビー!! 警告音がコクピット内に響く。 「なんだ!?うぉ!?」 真正面から近づきつつある四獣型ゾイドを見て、思わずうめきを上げる。
そして次の瞬間、フォックスの機体を引き裂いていた。 「ナクネスト!!こいつら新型を隠し持ってやがった。誰か近くの基地に状況を 報告しろ・・・・・うわっ!?」 通信に気をとられている間に彼の乗るライガーが敵の餌食になる。 「ちっ!!新手がきやがった!!ガナット、こいつらよってたかって・・・・・ ぎゃッ!!」 さらに現れた四獣型ゾイド2機が両脇から攻撃を仕掛けて仕留める。 「くそっ!!」 仲間達の断末魔にやり場のない怒りをコンソールにぶつける。 そして最後に生き残った彼の機体を2機のツェルベルクが取り囲む。 「くそ、おれもここまでかい。クルツの仇も取れずに・・・・。」 覚悟を決めたガナットは、一気に機体を走らせてツェルベルクに体当たりを試みる。 しかし、片足の使えないライガーのスピードではあっさりとかわされてしまう。 「くそぉ!!おわっ!?」 バランスを崩してその場に倒れ伏せる。そのショックでシートベルトが外れ、ガ ナットのからだがコクピット内を舞う。 『全機沈黙。生存者の確認後、帰還する。』 「りょうかいでーす。」 さっきまでの緊迫した空気を一蹴するほどの軽い返事。 そしてコクピットハッチを開けると、ひょこっと顔を覗かせて辺り一体の景色を 見る。 『317、あなたは何をしているのですか!?』 「え、生存者を探せっていったじゃないですか、174さん。」 『誰もコクピットハッチを開いて探せとはいっていません。センサーで探してく ださい。』 「了解しましたー。」 そういうとつまんなさそうにコクピットに戻るとセンサーを使って機体の残骸を 調査して行く。 ギュゥゥゥン・・・・ 「ん?どうしたの?」 ツェルベルクのうなりを聞いて、たずねる317。 するとツェルベルクは、戦場から離れて離れた所にある岩場に向かう。 「どうしたの、ルーイ?」 急に動き出したツェルベルクに慌てる317。 『317、あなたはまたわたしの命令を無視して・・・・。』 「あのーこれ、わたしがやってるんじゃないんですけど・・・・。」 困り果てた顔をしてシートに捕まりながら言う317。 「あ、あの子が近くにいるんだね。と言う事で174さん、ちょっと行って来ます。」 そういうとシートに座りなおして通信を切る。 『174、317が向かった方向に機体反応があります。多分、彼女のツェルベ ルクはそれに反応したかと。』 「了解しました。少し様子を見て研究所に連絡しますので、他の方は待機してい ていください。」 『了解。』 「げっ、何でこっちに来るんだ!?」 まっすぐこっちに向かってくるツェルベルクを見て慌てふためく。 近くまで来ると、ツェルベルクのコクピットハッチが開き、中から手を振る女性が 見える。317と呼ばれる少女だ。 「あいつ、緊張感無いんだなぁ・・・・。」 手を振る317を見て、顔をぽりぽりかきながらつぶやく。 コクピットをシールドのコクピットに近づけるとシールドに飛び乗る。 「ヤッホー、元気でしたかー。」 にこにこした表情からはさっきの戦闘を行っていたとはとても思えなかった。 「聞いてますかー、ちゃんと生きてますよねぇ?」 返事をしないラッドを見て不思議そうにたずねる。 彼女にそう言われて、はっと我に返ってコクピットハッチを開ける。 「あのな−、なんでここにいるのが分かったんだよ。 それに部隊行動中に勝手に抜けてきていいのかよ。」 とりあえず思った事をぶつけるラッド。 「うーんそんなにたくさんの事をいっぺんに聞かれてもねぇー。」 人差し指をこめかみに当てて困った表情をする。 (おれ、二つしか質問してないんだけど・・・・。) 困った表情をする713を見て心の中でつぶやく。 「動くな!!両手を上げよ。」 二人の会話に割ってはいる声。 突然の声に手を上げて振り向く二人。 拳銃を持った少女が、ラッドに拳銃を向けて睨みつける。 「あ、221さん。」 相手を見て安堵の表情を浮かべて手を下ろす。 「317は離れな。」 「えーでもー・・・・。」 「いいから離れな。」 怖い目つきを317に向けると、足早に自分の機体へと戻る。 (おいおいおい、今度はシリアスかよ・・・・なんとかしれくれ。) 「貴様、先ほどの部隊の連中とは違うな。ただの偵察部隊か?」 「この人は共和国から逃げてきた人なんですよ−。」 コクピットから顔を少し覗かせてボソッと言う。 「人聞きの悪い事を言うな!!西エウロペ政府の連中に嫌気がさしただけだ!!」 思わず叫ぶラッド。 「逃亡兵か。共和国は腰抜けばかりの様だ・・・・。」 その言葉を聞いてラッドはむっとした表情をする。 「おいおまえ、そこの岩に移動しろ。少しでも妙な動きをすると撃つからな。」 そう言うトラッドに向けて鋭い目つきを向ける。 「・・・・分かった。」 そう言うとおとなしく岩場に降り立つ。 それを見て221も岩場に移動する。 「317、おまえの機体でそこのシールドを後方のグスタフまで運べ。こいつは 他の捕虜とともに我々が運ぶ。」 「はーい。」 返事をするとシールドのコクピットの中に入る。 「心配しなくていいよ、怖い事なんてないから。ルーイはわたしの後についてき てね。」 そういうとシールドライガーを操縦してグスタフのいる方向へと向かう。 ツェルベルクはその後に付いて行く。
ラッドは手錠をつけられてそのまま連行されて、グスタフの小型コンテナの中へ と押し込まれる。 入る時に、背中を押された拍子に足を引っ掛けて豪快に転ぶ。 「なんださがわしい・・。」 声が聞こえてバッと起きあがるラッド。 部屋の片隅に頭に包帯をした男が座っていた。 「うわっ!?だ、誰だ!!」 目の前にいる人物を見て驚いて後ずさりする。 「まったく静かにしろ、ギャアギャア騒いでると敵より先に俺があの世に送るぞ。」 そういわれて口を抑える。よく見ると胸元に共和国のマークが見える。 (ま、まずいかな・・・・。) 軍から逃げている彼にとって、何か後ろめたいものを感じる。 「お前は別部隊のもんか?」 「え、は、はい、そうです。」 話し掛けられて慌てて返事をする。 「そいつは脱走兵だそうだ。まあ仲良くしてやんな。」 ラッドを放り込んだ221がボソッとつぶやく。 「だ、脱走兵っていうな!!俺はただ単に北エウロペに行きたかっただけだ!!」 「317に聞けば、追いかけてきた味方と戦ってたそうじゃないか。脱走兵じゃ なかったら一体なんなんだい。」 「ぐっ・・・・・・・。」 221の言葉に言いかえす言葉を失うラッド。 「脱走か、また思い切った事をする。」 つぶやくように言う男。 「まぁ同じ囚われの身になった以上、そういことは問わないでおいてやるよ。」 「はぁ。」 気のない返事をしつつも、彼の言葉に少しほっとするラッド。 「とりあえず何処の所属だったか教えろ。」 「は、はい、アルバン第117機動中隊所属でありました。」 「へっアルバンのところの新人士官部隊か。よっぽど教育指導がよかったんだな。」 皮肉を言って笑って見せる。しかし目は笑っていなかった。 「ラウルード隊、クルツ・イーセントだ。」 「ラウルードのクルツ大尉って言えばたしか死よぶ鎌を持つ男として有名な・・ ・・。」 「エウロペ戦争の時はな。今じゃ負け犬の隻眼野郎とでも呼んでくれや。」 そう言うとクルツは鼻で笑う。が、顔からは悔しさがにじみ出ていた。 戦いに負けた事、なすすべもなく全滅し、死んでいった仲間の事を思う。 「いえそんな・・・・・・。」 クルツの言葉を聞いて慌ててそう言う。 なんとなく彼の心情がわかる気がしたが、かける言葉が見つからなかった。
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