艦隊戦
「クレセアはどこに消えたんだが・・・・これじゃあ探しようがないですねぇ。」 薄暗いシェルターの中を特殊なセンサーを使って周りにいる人々を見る。 だがその中にはクレセアの姿はなく落胆するトッド。 そのわきでアルスフィはじっと闇の中を見据えていた。 彼女にはクレセアの所在がつかめているようだった。 同じ研究所での実験体生活をしていた彼女達は、精神的何かがつながっている のかもしれない。そう思えた。 クレセアもアルスフィの存在が近くまで来ていることを感じていた。 アルスフィが近くにいるということはあの黒服の男もいるということになる。 背中に感じる視線と恐怖、体中に走る緊張感。 その事をミラルダ達に伝えたくとも伝えるすべがないクレセアは、見つからな い様に必死にミラルダにしがみついていた。 必死にしがみつくクレセアを見たミラルダは、彼女をおびえさせる何者かが近 くにいるのだと感じていた。 依然、彼女を襲った事件があっただけに心配は一層募る。 「今、警備兵に例の男と少女がいないか見張らせているから。」 小声でミラルダにつぶやくサラ。 「わかったわ・・・・。」 娘と震える少女を両脇に抱え、守り抜いてみせると誓う。 それはあの人のためなのだからと。 ズゥゥン・・・・・・・・ 重い何かが倒れた音と共に天井が揺れ、埃が落ちる。 「な、なにいまの・・・・。」 「爆発か?」 シェルターに非難する人々が口々に言う。 そんな中を1人の兵士がサラの側まで来る。 「サラ様、敵の目的が判明いたしました。ここで話せませんので、ミラルダ様 と司令部に。」 「わかりました。ミラルダ行くわよ。」 うなずいて答えたミラルダはクレセアとレイナの手を引いてその場を移動する。 「ん?あれは・・・・。」 スコープにシェルターの一番奥で、女性に手を引かれて歩くクレセアの姿が映 し出される。 すぐさまその場に行こうとするが人が多すぎる上、かなりの距離がある為にす ぐに追いつけない。 「こんな所で手間取るとは・・・・!!」 そう言って外壁を伝って彼女達が姿を消した方へと急ぐ。 その後をアルスフィがついていく。 彼女らが姿を消した先にはシェルターの出入り口と数人の兵士達。 こちらを見て身構えている。 「・・・・何か非常にまずいことになってますねぇ。」 そう言って後方に下がるトッド。 しかし後ろにも兵士が立っていた。 「てぃや!!」 大きく振り上げた足が、兵士の顔にまともに直撃する。 直撃を受けた兵士はその場に倒れ、その現場を見た市民は悲鳴を上げてその場 から逃げようとする。 ただでさえ、薄暗い部屋の中で恐怖と戦いながらじっと耐えていた人々には、 こういったちょっとした出来事で、パニックが部屋全体に広まっていく。 この混乱に乗じてトッドはアルスフィを連れてその場を離れる。 そして別のシェルターハッチから出て難を逃れる。 その後ろから数十人の人々が我を忘れて外に飛び出してきた。 「人間、訳が分からなくなると恐ろしいものですなぁ。」 錯乱状態になっている人々を見てつぶやくトッド。 「かといってこの状態では、クレセアを見つけることは無理そうだし・・・・。」 「いまここはやばいって・・・・。」 不意に聞こえた兵士の声に耳を傾けるトッド。 「ホエールキングがこの町に迫っている、そう時間もないだけに全体の住民の 避難は・・・・。」 その言葉を聞いて背筋に悪寒が走る。 「我々を使っておいた上、味方を巻き込み覚悟でホエールキングを・・・・で すか。決死の作戦といえば聞こえはいいですが・・・・相変わらず根性の腐っ たお方だ。」 「なんにせよここを離れる良い都合が出来ました・・・・行きますよ。」 そう言って近くに転がっていたゾイドを動かす。 「さぁ・・・・。」 そう言ってアルスフィに手を差し伸べて後部座席に乗せると町の外へと走らす。
その頃、一機のファルゲンがフラフラな状態で基地に戻ってきた。 着陸と同時に足の関節が外れ、その場で一回転して停止する。 消化班が慌てて消化器をもって集まるが、幸い火は出なかった。 そんな中整備士が持ってきたはしごがコックピットかけられる。 キャノピーが開くと中にいた男がやれやれといった顔ではしごを降りる。 そして正面に目線をやると、1人の将校がいることに気がつき、足を止める。 「ジャルク司令、ベイター・ワルツマン中尉ただいま帰還いたしました。」 ヘルメットを脱ぎ敬礼すると、目の前に立つジャルクに報告する。 「よく生きて帰ってきてくれた。帰ってきて早々で悪いがもう一つ仕事を頼みたい。」 「ハッ、何でありましょう。」 「なにちょっとした荷物運びだ、こちらに来てくれ。」 そう言われて奥の格納庫に促される。 「さっきのやつに逃げられはしたが、今さら場所がばれたぐらいどういう事もないだろう。」 モニターの地図を見ながら言うアルバン。 「数機のザバットが撃墜されましたが、我が艦の護衛には支障ありません。 元々護衛用に配備されていたザバットが丸々残っていますので。」 「この間の主要部分に工作員を忍ばせておいた甲斐があったな。」 ピーッ!! 「敵艦隊を確認。」 レーダー担当者からの報告がブリッジをかける。 「きたか。艦隊の数は?」 報告に疑問を持つアルバン。 「はい、ホエール・クルーザー級が5隻確認できました。」 「5隻で落とせると思っているのか。対艦、空戦用意だ。 後はオルメットに任せる空のことは分からん。」 「了解しました。ザバット発進準備!!主砲砲門開け!!5分後に発射と同時 にザバットを敵艦隊に波状攻撃をかけさせろ。 レドラー隊の発進はザバットの後だ。発進後は直ちに護衛だ。」 オルメットの指示が各オペレータに飛ぶ。 一方、ホエール・クルーザー艦隊では、各員が駆け回っていた。 旗艦ボーグのブリッジでは艦長らしき将校が、モニターを凝視していた。 「敵艦よりザバットの発進を確認しました。航空隊の指揮、お任せいたします。 ジャルク司令。」 『おう、任せな。そっちも作戦どおり行動してくれよ、ジュテポルデ中佐。』 「了解です。航空機体発進だ!!それまでは対空砲と護衛機で何とか食い止めろ。 ここで食い止めなければフィルバンドルは地図から消てしまうんだからな!!」 そう言って檄を飛ばすジュテポルデ。
まずホエールキング級タスマニアの主砲発射によって火蓋は切られた。 牽制の主砲を受けて少し陣形を崩すクルーザー艦隊。 タスマニアほどの大口径の主砲を有していないクルーザー艦隊は、一斉射撃と 集中砲火で応戦する。 「前に出るな!!主砲を食らうぞ!!取り囲め!!」 ジュテポルデの指示で艦隊は、横並びからタスマニアを取り囲もうとする。 しかし、ザバットがその邪魔をする。 逆にザバットに取り囲まれた3番艦が、身動きが取れなくなる。 そこにホエールキングの主砲が3番艦に向けて発射される。 直撃と同時に火柱が上がり、高度が徐々に下がっていく。 そして少し間を置いて大爆発を起こす。 「アスペランカ轟沈!!」 「あの主砲を何とかしなければ・・・・。」 苦虫を噛みつぶしたような顔をして口走るジュテポルデ。 「やはり火力の差は歴然としてるか。さすがにそろそろ限界だぞ・・・・。」 空戦中のジャルクが愚痴る。 その戦闘空域から更に後方数十キロ後ろに、一機のネオタートルシップが飛行していた。 前面カタパルトハッチが開かれて、発進準備が行われていた。 「各計器に異常なし。サラマンダー、発進準備完了。」 機器チェックを終えたベイターがモニターの向こうにいるオペレーターに報告する。 「いいですがアダールさん。」 『いつでも結構です。ワイツマン中尉。』 別の通信モニターに映ったアダールから返答がかえってくる。 「まー、確かに輸送任務なんだが・・・・物があれとはな・・・・。」 そう言って機体の下に目をやる。 そこには1機の虎型ゾイドがぶら下がっていた。 そして一つため息を吐くと、決心がついたらしく真剣な顔つきで操縦幹を握る。 「ベイター・ワイツマン、サラマンダー発進する。」 その掛け声と共に発進するサラマンダー。 その下に大きな荷物を抱えて飛び立つと、一気に高々度へ上昇して行く。 このサラマンダーは元々ゼロクラスのゾイドを空輸できるように出力アップさ れた機体で、クライジェンシーも悠々と運ぶことが出来た。 サラマンダーはしばらく高々度を飛ぶと目的地に到着する。 「眼下の戦闘と目標艦を確認。このまま降下して切り離します。」 「いや、ここで結構切り離してくれていい。」 「えっ!?しかしこの高度からだと・・・・。」 言葉に詰まるベイター。 「このまま2機で降下して集中砲火を受けるより、ここで切り離したほうが 二人とも死なずにすんで無難だろう。」 「・・・・了解。切り離しカウントダウン・・・・3、2、1、0!!」 と同時にサラマンダーとクライジェンシーをつないでいたワイヤーが切り離される。 急降下するクライジェンシー。 Gスーツを着ているアダールだが、この急降下で発生するGには今まであった ことがなく、意識が飛びそうになる。 まもなくして降下してくるクライジェンシーを発見したタスマニアから、対空 砲火が飛んできた。
背中のイオンブースターとEシールドを巧みに使いながら、放火を潜り抜ける。 そしてタスマニアの背中に着陸する。 ゴゥゥゥン!! 「な、なんだ!?」 船体に響く大きな音に驚きを隠せないアルバン。 「敵ゾイドがタスマニアの背中に張りついたようです。」 「飛行ゾイドがか?」 「いえ、陸戦型ゾイドです。」 淡々と報告するオルメット。 「対処は任せる、もしもの時のことを考えて俺はあっちへ行ってる。」 「了解。」 返事を聞いておくの通路を歩くアルバン。 「なかなか面白いことになってきたもんだ。」 そう言って笑みをこぼすのだった。
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