蒼き虎2
日が落ち、辺り一帯が真っ暗になると、町のいたる所で明かりが灯る。 煙突からはもうもうと煙が立ち昇り、酒場や料理店では時を忘れて騒ぐ人々。 いつもの夜の一場面であった。 それを傍観(ぼうかん)する一人の男がいた。ブライツ・カイマンだ。 彼は何をするわけでもなくじっと立っていた。 ただ雑踏(ざっとう)を聞きながら何かをじっと待つ。 向こうから見知った顔がやってくる。 エリーだ。彼女の告白とともに以前より親密になった二人。 笑顔を見せながら来るエリーを見つめる。 彼女もブライツの事を見つけると、少し遠慮しながら小さく手を振る。 思わず行為に笑いそうになったが、とりあえず応えようと手を上げた。 それを見て、うれしそうにこちらに向かって走ってくる。 ポニーテールが彼女の後ろでかわいい姿を見せていて、なんだかそれすら面白 く思えてしまう。 ズゥゥゥゥゥン・・・・・・ 突然轟く音。足元が揺れ、棚から皿やグラスが雪崩れの様に落ちる。 皆一様に驚いて、家の窓から顔を出したり、外に出たりする。 辺りを見まわすと、町外れでもうもうと吹き上がる黒煙を発見する。 何事が起きたのかとしばらく煙のほうを見ていた。 少し間をおいて町外れにある基地に向けて、ミサイルが雨のように降り注がれた。 次々に起こる爆発と爆音。 遠く離れた酒場まで爆風はやってきて、土煙と何かが燃えたようなにおいを運び、 窓をガタガタを揺らす。 降り注ぐミサイルの雨を見て、外から行われた攻撃だとようやく気付く人々。 恐怖にかられ悲鳴を上げながら、その場から我先にと逃げ惑う。 いつの間にか町の方にも火の手が上がり、町の至る所で悲鳴が起きる。 その炎をバックに、数機のゾイドが町へと侵入してきた。 バックパックを背負い、特徴ある重装甲の頭部と口の長いシルエット。 エウロペ同盟軍のツェルベルクだ。 さしたる抵抗を受けないまま町を蹂躪(じゅうりん)し、基地へと足早に近づ いていく。
そこに基地から飛び出す2機のガンスナイパー。即座にツェルベルク対してバ ルカンを放って牽制する。 しかし、ツェルベルクは何ごとも無いような素振りを見せると、ガンスナイパ ーに向けて走り出す。 その俊足に驚いたガンスナイパーのパイロットは、あっという間にツェルベル クの餌食となってしまった。 そこに炎をかき分けてブレードライガーが現れる。 しばらくにらみ合う2機。 そして突如として激しく激突する。 轟く銃声、燃え盛る炎、そして激しくぶつかるゾイド。 その足元では、いまだ逃げ遅れた人達が右往左往している。 その中にエリーの姿もあった。 彼女は泣き叫びながら町の外へと走る。 しかし、無常にも彼女を上空からの爆撃が襲う。 激しい爆音とともに吹き飛ばされるエリー。 吹き飛ばされたエリーの体は引き裂かれ、あたり一帯に四散する。 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 目の前で起こった出来事に叫ぶブライツ。 ハッとして辺りを見まわすと、自分がコクピットの中にいる事に気付く。 「ゆ、夢か・・・・」 頭を抱え、なんともいえない感情をおさえようと必死になる。 夢とはいえ、とても生々しい光景が今も脳裏に焼き付いて離れない。 「まったくなんてものを・・・・」 全身汗だくになっていた。 「こんなに汗かいて一体どこでシャワー浴びれってんだよ」 うっとおしそうにぼやくブライツ。 彼は今、作戦行動の為に町の外に出ており、コクピット内での仮眠中だった。 モニターにはダークイエローの機体が数機並んでいるのが見える。 『さっきからなに叫んだり、ぼやいたりしてるんだ?』 目の前の通信モニターに一人の男の顔が映る。 「えっ!?あ、いやなにもないです、ワジョ中尉」 突如入ってきた通信に、慌てて応えるブライツ。 何かあった時のために常に通信機の電源はONになっていた。 その為に聞かれてしまったらしい。 『寝言を言うのもいいがはた迷惑にならん程度にな』 そう言うとモニターの向こうでワジョがシートに沈み込む。 その姿を見てほっとすると、自分もシートに沈み込む。 ただその日は、寝ようと目をつぶっても寝る事ができなかった。 翌日、ここ動作チェックや連携などのテストが行われた。 6機のゾイドが二つに分かれて対峙している。 『今回は時間がない為、この様な場所で訓練を行う。本番は明後日だ、気を抜 かずにやれ』 少し離れた所にいるパンツァーユニットを装備したタンデロイガ1機が陣取っ ている。パイロットは部隊長のネベットだ。 「ブライツ、ケンデニッヒ、あまり遅れをとらないように努力してくれよ」 借る口を叩くワジョ。 『よし、開始だ』 ネベットの一声で、6機のタンデロイガが入り乱れる。 各機、各々(おのお)の装備がされており、それらをたくみに操る。 『ケンデニッヒ、脇が甘いぞ!!』 その叫びとともに懐に入りこもうとする1機のタンデロイガ。 「カルチェット、敵のてめーに言われたかねぇなぁ!!」 叫び返すと、カルチェット機に向けてバルカンを放つ。 ひるむカルチェット。 その隙をついてブライツの乗る蒼いタンデロイガが、ストライクレーザークロ ーを仕掛ける。 しかし、僅かの差でカルチェットが必殺の一撃をかわす。 一杯一杯でかわしたカルチェットを援護するように奥からもう一機のタンデロ イガが現れる。 そのまま突っ込むとカルチェット機を踏み台にして大きくジャンプし、ぽかん と見上げているケンデニッヒ機を衝撃砲で仕留める。
コンバットフリーズがモニター一杯に表示される。 「ちっ、ガデニーの奴、相変わらずだぜ」 悪態をつくケンデニッヒ。 そして踏み台に去れたカルチェット機もフリーズしていた。 「ガデニー、おまえこのタイミングを狙ってただろ!?」 「当たり前だ、味方をもうまく利用してこそ本当のパイロットと言うものだ」 そういうと、カルチェット機を置き去りにしてブライツ機と対峙する。 ブレードを展開して相手の攻撃に備えるブライツ。 両者とも攻撃を仕掛けず、相手が自分の間合い入るの待つ。 そこに一筋のビームが、彼らの対決を邪魔するように通過して行く。 両者ともビームが放たれた方を見る。 遠くのほうから走ってくるカーキ色のタンデロイガが見える。 『いまだ!!ガデニーに一発かましてやれ!!』 「了解!!」 ワジョの通信に答えると、即座にガデニー機に向けて突撃を開始する。 ワジョの機体もガデニー機に向かって走ってくる。 この2機の動きに対してガデニーの機体はうごかない。 「そんなにわか連携で倒されてたまるか。」 そう小声で言うと、まず目の前から突撃してくるブライツ機の攻撃を簡単に避 けると、後ろ足でブライツ機を蹴り上げて地べたにはいつかせる。 「っくぁ!?」 衝撃で思わず声を上げるブライツ。 「さすがガデニー大尉だ。」 そう言いながら空中を舞うガデニー機に向けてビームを数発放つ。 しかし、うまく体を回転させていとも簡単にかわしていく。 「ワジョ、おまえもそろそろ他人を頼らずにきたらどうだ!?」 「言わせておけば・・・・・・!!」 ガデニーの言葉が癇に障ったらしく、一気に加速して間合いをつめる。 「・・・・」 無言で不気味な笑みを見せると、ワジョ機の突撃進路に向けて衝撃砲とビーム 砲を放つ。 「なんだと!?」 目の前で起こる爆発と土煙。 思わず足を止める。 「やはりそこで止まったか!!」 煙の中から右前足を光り輝かせながらデニーの機体が飛び出す。 「ちっ!!」 舌打ちすると、そのまま直進してガデニー機の攻撃を避ける。 間を置かずに彼の機体を振動がおそう。 「なっ!?なんだこの振動は!?」 「さっき、そこら一帯の地面をぼこぼこにしてやったんだぞ。まともに走れる ものか」 そう言うと足元がおぼつかず、スピードがあまりでないワジョ機に向けてビー ムを放つ。 当然ワジョはそのビームを避けようとするが、おうとつの激しい地面の対応で 裂けきれずに後ろ足の装甲に当たる。 カーキ色に白い反転がつくと、急激に機体の動きが鈍くなる。 ビームが装甲に当たり足が使用不能になった為だ。 ガデニーはそれを見定めると、走りにくい地面を避けるために大きくジャンプ し、ワジョ機に襲いかかる。 『そこまでだ。それ以上やっても無駄に機体が傷ついて作戦に支障が出る。そ の辺で止めてくれ』 ガデニーがワジョ機の頭をおさえようとした時に、ネベットの通信が入る。 「了解」 そっけなく返答すると、その場を離れるガデニー。 数時間後、動けるようになった機体で近くにあるエンデニック補給基地で機体 整備を開始する。 この基地の要員は、この整備が終われば基地を爆破による放棄が予定されてい る為に、休んでいる者は一人としていなかった。 その脇でブライツとワジョがパイロットスーツを半分脱いだ状態で、スポーツ ドリンクを飲んでいた。 「さすがに今回のメンバーの中で凄腕だけあって歯がたちませんでしたよ」 苦笑しながら言うブライツ。 「たしかに奴は凄腕だが、もっと上のやついる」 「へぇーそれは興味ありますね。味方?それとも敵にですか?詳しく聞きたい っすねえ」 好奇心踊る子供の様に尋ねるブライツ。 「敵だったよ、西エウロペ戦役の頃だ。シビーリを攻めた時だったんだが、俺 はガデニーと組んで攻めたんだ。その時、ディーベルトの新型の虎型ゾイドが いてな。どんな性能か試してやると二人で挑んだのはいいが、オレは軽くあし らわれてな。ガデニーの奴の必死に戦った様だが、一発を食らって即ノックア ウトだったよ。その後混戦となって、あの機体とパイロットは行方不明になっ たと聞いたが・・・・生きていてほしいものだ」
「また挑むつもりですか?」 「まぁな。」 そういうニッと笑みをこぼす。 「おまえが挑んだ所でまた返り討ちにされるのがオチだ。止めておけ」 脇から聞こえたその声に二人が振りかえる。 「それぐらいわかってる。だがガデニー、挑みたい壁があるって言うのは良い もんだぞ。」 「たしかにな。だがおまえの場合、我々が外宇中へ冒険するのと変わらない壁 だと思うのだが?」 そういうと小ばかにする様に薄ら笑いを見せる。 「チッ、言ってくれるぜ。そういうおまえも似たような気がするがね」 「俺はおまえとは違う・・・・・・絶対にな。」 そう捨て台詞をはくと、足早に去って行った。 「オレもそんなすごい奴とやり合ってみたいけど、オレの場合は大尉や中尉が壁 ですからね。まずこの壁を乗り越えない事には挑めねえなぁ・・・・」 「おまえはまだまだ若い、腕もある。いつかできるさ・・・・」 そういうとワジョは、目の前で整備中の機体に目をやり、じっと見つめるのだった。
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