蒼き虎3
コクピット内には各コンソールから発せられる光しか見うけられない。 その中でぼわっと浮かぶ人影。 「なるほど、奇襲後はそちらへ向かえばいいわけだな」 男の声がコクピット内に響く。 イヤホンを耳あてて話をしているのは、特別襲撃部隊隊長のネベット少佐だ。 彼は今、ベースキャンプであるクイエルディニーからの連絡を受けていた。 ただ、この機体に搭載されている通信機では、通信の出来ない所まで来ている 為に、急遽積み込んだ長距離無線機を使用しているのである。 「了解した。ではその様に動く。合流地点であおう」 そう言うと通信機を切る。 「これで反抗を企てている連中や本国の連中に一泡食わせてやれる」 そういうと陰湿な笑みを浮かべるのだった。 その彼のコクピット内の見えないところに光る点がある。 「なかなか面白い通信をしているな・・・・。」 少し離れた機体のコクピット内でイヤホンをした男がつぶやく。 そしてイヤホンを外すと、手にした小型受信機を胸ポケットにしまう。 「あいつの情報はあまりないようだな、別口を探ってみるか・・・・」 そういうとまた何かをしはじめるのだった。 その日、夕闇にまぎれて共和国本国軍から、ルーサリエントに3機のスナイプ マスターが支援物資を護衛しながら到着した。 3機が取り囲む中心には、カタツムリ型のホバーカーゴが陣取っている。 ルーサリエントの基地に到着すると、ホバーカーゴは大きな口をあけて中から 次々とゾイドや武器弾薬を吐き出して行く。 その中には、最近配備されたガンブラスターやガイロス帝国軍のセイバータイ ガーATなどの姿も見える。 これは、つい先日交わされた共和国と帝国の同盟規約に基づいて、北エウロペ に支援機として配備されたものである。 それをさらにエウロペ同盟側に提供しているのだ。 セイバーに関しては、サーベルシュミットやクライジェンシーなど多くのティ ガー系ゾイドを採用している同盟国側の方が、共和国より扱いに慣れていると 言う判断だった。 この事に関して、ガイロス側からの承諾は得ている。 その最後尾に、あまり見なれない機体が降りてきた。 2機は、ブレードライガーを改造した機体の様でもう一機は、見た目は普通の シールドライガーの様だったが違っていた。 「戦闘があったとは思えないほどきれいじゃないか」 改造ブレードのパイロットは、ぽかんとした顔で遠くにそびえ建つ城を見る。 このルーサリエントは、元々南東部一帯を領土としていた都市国家の首都で、 他の町には見られない大きな城が見られるのが特徴だ。 しかも前回の戦闘で、この地に駐留していた部隊が無血開城したことで、美し い町並みがそのまま残っている。 夕闇の中にある古い町並みは、人を穏やかな気持ちにさせる。 『キシェルド、間抜けな顔をしていないでさっさと行くぞ』 不意に入った通信に驚く。 「ラーマ隊長、たまにはゆっくりしましょうや」 『おまえはいつも気を抜くのが早すぎる。まずここの司令に挨拶をしてからだ ろう。それに我々の任務中だと言う事を忘れるな』 そう言い放つと、隊長のラーマ・カルクは機体を基地へと向ける。 その後に続く2機。 「ち、毎度毎度えらそうな事ばっか言いやがって・・・・」 不満げな顔をするとぼやく。 彼には逆らえない自分が悔しくて仕方がないが、いつか見返してやると心の 中で唱えていた。 ラーマは、機体を格納庫に入れるとリフトを使って降りる。 ふと目を前にやると、出迎えらしき数人の兵士が立っていた。 その声に見た事のある顔がある事を発見する。 「ホイス・ランドレー・・・・」 そうつぶやくラーマにいきなりヘッドロックを食らわす。 「よう、なに自信なさげに人の名前をつぶやいてんだ、ラーマ」 楽しそうにぐいぐいと首を締めつける。 まわりにいた兵士や作業をしていた整備員達も目を丸くしてその様子を見てい る。 「って、手荒すぎる歓迎だ・・・・な!!」 そう言いながらそのままの体制でホイスの胴体を両腕でがっちりと固めると、 そのままの体制でバックドロップに持ちこもうとする。 「わ、待て!!30過ぎたオヤジ同士でそんな技やったら後で手痛い目に・・・・」 そう言って慌てて技を放す。 それを見てラーマも技をかけるのを止めた。 「とりあえず・・・・よくこのルーサリエントに来られた。歓迎すぞ」 しばらく間を置くとそう言って、握手を求めて手を差し出す。 「・・・・そういう言葉と行動は先にするもんだ」 苦笑しながら握手するラーマ。 ラーマとホイスの二人は、以前敵同士として戦った経緯がある。 その戦いでホイスは、退却中の部隊を逃がして戦闘後に部隊長として部下を率 いて堂々と降伏した。 その堂々とした態度と、戦闘時に認めた凄腕パイロットと言う事で捕虜収容所へ 移送される前の彼と面会する。 そしてその場で意気統合し、戦争が終わったら飲もうと約束して分かれたのだ。 「戦争が終わる前におまえさんと会う事になるとは思いもよらなかったよ」 ジープを運転しながらそうつぶやくホイス。 「戦争が終わっていない以上、酒はまだ先か」 「だな。」 「それにしても今回の機体はゼロじゃなかったな。まだ実戦テストも兼ねた運 用をさせられているのか?」 「まぁな、今回中身はゼロのままだ。テスト対象は外装の方でね。」 「ゼロの新型アーマーか。ぱっと見た時、シールドのリファイン機かと思った が。」 「その意味合いは強い機体だ。ゼロにシールドの能力を持たせる為のものだか らな。装備ない様もほぼかわらない。ただ、両脇にポイントを設けていてブレ ードや重火器も装備できる様なっている」 「ほほう、なんともうらやましい機能だ。オレの乗るツェルベルクは、チェン ジングアーマーシステムを持っていても肝心の装甲がないからなぁ」 ため息をつくホイス。 「あれは主力ゾイドとしては充分な能力を持った機体だ。変に弄くった装甲を 付けても能力が下がるだけだろう」 「よく分かってるじゃないか」 「この間、そっちから譲渡された機体で実験的に編成された部隊を見てきたが、 メンテナンスの面を考えてか、共和国色の強いものに変わっていてね。あまり の不格好さに笑っちまったよ。中にはキャノン砲をつけた奴もあったぞ」 「ああ、そのパーツならオレらの部隊にもまわされて来たよ。後方支援部隊が 長距離専門のクラウザントジークが主力のうちらには、重宝するパーツだよ」 そういって笑みを見せる。 「なるほどね。で、この辺一帯の状況はどうなってる?」 「おたくの反乱部隊の連中が素直に投降してくれたおかげで周囲30kmは、 安全圏さ。そこから外は小競り合いがたまにあるらしいが、向こうも領土維持 に必死なのかクイエルディニーから1歩も出ずに重火器で武装したうえで要塞 化を進めてるらしい」 結う事を聞かない子供に、困ったような表情をしながらいう。 「ここからシビーリに向かうには、クイエルディニーは避けられないのか?」 手にした周辺マップを見ながら言うラーマ。 「残念だが町が近すぎてどう通っても向こうの監視の目に引っかかってしまう しな。海はハンマーヘッドで固められていて容易に抜けれん」 そう言って厳しい顔つきをみせる。今の状況が気にくわないといった様子だ。 「・・・・すまんな、こちら側のごたごたに巻き込んでしまって」 ラーマは、ホイスの言葉を聞いて少しけげん顔になると、そう切り出した。 「かまわんかまわん、元々この大陸のほとんどは融和ムードの強い土地柄だ。 なのにこの間のエウロペ戦役では、一部の馬鹿連中の暴走がきっかけで、大陸 全体が巻き込まれちまった。そしてそれを止められなかったオレ達にも非があ る。だから今回の戦争は仕方ない所さ」 少し苦笑しながらいう。 「・・・・そうか」 そういうと黙り込むラーマ。 「で、特殊部隊のあんたがまたなんでここに来る事に?」 彼の気持ちを察してか、話題を変えるホイス。 「あまり通信などのやり取りでは言えない様な話でな。実は明後日、ここであ る人物と会う予定だ。」 「これはまた何か重要な話のようだな。一応内容は知っているのか?」 「まぁな。今後の戦闘が大きく変わるかもしれない大事な事だ」 「??戦闘が大きく変わる・・・・なんだそりゃ」 ラーマの言葉に頭を悩ますホイス。 「どうせおまえもその場にいるはずだからその時に教えるよ」 「チッ、お楽しみは先送りかよ」 「ははは」 ホイスの言葉に笑い声を上げるラーマ。二人を乗せたジープはそのまま城へと 向かった。 それから数日後、闇夜にまぎれて7機のゾイドがルーサリエントへと走る。 「次の補給ポイントはまであと5kmだ。そこから先はすでに反抗軍の領域と なっている。油断するな」 『了解。』 威勢の良い声が通信機からこだまする。 数分後、補給部隊との合流地点の方から煙が濛々と上がっているのが望遠カメ ラ越しに見える。 全機、一旦足を止めてゆっくりと近づく。 煙の発生しているポイントを発見すると、ネベットは機体の望遠カメラを駆使 して何の煙か探る。 カメラの向こうに見えるのは、合流地点にいるはずの補給部隊の残骸だった。 残骸からは、まだくすぶる火があちらこちらに見え、まだそんなに時間が経っ ていない事を示していた。 「全機、辺りの警戒を怠るな。部隊を襲った連中がまだいる可能性もある。」 ネベットはそう言って部隊に注意を促がす。 ガシャッ 金属片が崩れる音とともに別残骸から突如として数機ゾイドが飛び出す。 その頭部から長く生えた角、一目見て分かるそのゾイドはエウロペ同盟所属の G・リーフだった。 「また厄介なほどでかい獲物の会った様だな。」 飛び出したG・リーフ部隊のパイロットがぼやきながらネベット達バルカンを放つ。 「こんな所で補給をする予定だと言う事は、こいつらまたルーサリエントを・・・・」
バルカンを放ちながら突進するもう1機のパイロットがつぶやく。 『ルーサリエントに連絡は?』 「この状況で余裕があればな・・・・」 レーダーに映る大型機の機影を見てつぶやくG・リーフの隊長。 「この戦力では到底かなわんだろうが、移動中の本隊の事を悟られない様によ うにしろ。あくまで偵察部隊を装え。いいな」 各パイロットに言い聞かせるように命令するG・リーフの隊長。 『了解』 各パイロットから覚悟を決めたような声の返答がかえってくる。 彼らは何かしらの作戦行動中でのようであった。 「こんな所にいる事をルーサリエントに連絡されてはまずい。さっさと片付けるぞ」 そう言って戦闘体制に入るワジョ。 彼らも隠密行動である為に、出会った敵は有無を言わさず全滅させなければならない。 こうして、互いに隠密行動をしている事がわからない様に、殲滅、もしくは偽装を行う。 「了解、了解。こんな雑魚に連絡なんかされたらたまったもんじゃないしな」 そう軽口を叩いて先頭に出たのはケンデニッヒだ。 それの後にブライツ、カルチェットが続く。 その動きを見てさらに隠れていた4機のG・リーフが突如として姿をあらわし てバルカンを放つ。 「ちっ!!」 残骸から現れた2機と不意に現れた4機のG・リーフの集中砲火で突撃を止め て散開する各機。 散開と同時にネベットのタンデロイガパンツァーからハイブリットキャノンが放たれる。
「な!?」 残骸から現れた2機は、避ける間もなくキャノン砲を受けて爆発を起こす。 それを見て慌ててくもの子を散らすように散開する4機のG・リーフ。 しかし、それを狙っていたかの様に待ち構えていたブライツらが、G・リーフの 行く先に回りこんでとどめをさす。 次々と倒れる機体を背に、一機のG・リーフが巧みな動きを見せて徐々に近づ いてくる。 「少しは悪あがきをさせてもらう!!」 そう叫びながらカルチェットの乗るタンデロイガに突撃をかける。 思わぬ反撃に攻撃を許してしまい、機体が大きく揺れる。 「くっ!!なんてうごきだ・・!?」 「カルチェット!!」 そう叫びながらケンデニッヒが助けに入る。 脇から襲い、G・リーフを咥えると、一気に噛み砕く。 動かなくなったG・リーフを見て咆哮を上げるタンデロイガ。 勝利の雄たけびだ。 「敵は通信を打った様子はあるか?」 「発信のようすは見うけられませんでした。大丈夫かと思われます」 パンツァーの援護として脇に立っていたタンデロイガのパイロット、アランド ・アズがそう答える。 「補給部隊がやられてしまったが、辺りに使えそうにあれば全て回収しろ」 苛立ちを募らせながらそういうネベット。 「簡単に言ってくれるぜ。あの隊長さんは」 そうつぶやくと辺りを見まわすブライツ。 結局その日、一日を費やして使える物を探す羽目になり、攻撃予定時間に多少 の影響が出たが、スピードを上げて対処する事になった。 彼らの夜襲はもうすぐである。
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