本土防衛3
上空から火の玉のように煙を引きながら落ちてくる物体があった。 不時着とともに舞い上がる砂。 全身を砂だらけにしながらその物体はゆっくりと起きあがる。 目の前に見える丘には、モルガを中心とした数機のゾイドが並んでいた。 「撃方、始め!!」 合図とともにモルガが、背中に装備されたキャノン砲爆音を鳴らす。 各機から放たれた砲弾が、なぞの物体、”キメラドラゴン”に降り注ぐ。 砲撃を受けて、前面にEシールドを張るキメラドラゴン。 Eシールドが全ての砲弾をはじき、悠然と構えるキメラドラゴン。 そしてゆっくりと前進を開始する。 その姿を味方から送られてくる映像で眺める男がいた。 メインモニターには、せわしなく動く水流がプランクトンなどを通して見える。 「お、うまくかかったな」 モニターに映る地上での戦闘を見ながらつぶやく。
キメラドラゴンは、完全に前面の部隊に引きつけられているようだ。 「ヘル1シュトルトバルドより各機へ。対象は予定の行動に入った。 これより行動に移る」 『ヘル2、(3,4)了解』 全機からの応答を合図にシュトルトバルドが機体を躍らせるように動かす。 海水から飛び出た4機の黒い機体。 ヘルディ・ガンナーだ。 尾の付け根にはモルガと同じロングレンジキャノンが搭載されている。 放たれると同時に起こる地響き。 突然の後方からの攻撃に慌てる事もなく視線を送ると、後方にもシールドを張って 何事も無かったかのように動き出す。 「おれらは無視かよ」 ヘル2のパイロットがつぶやく。 「余計な事を考えている暇はないぞ。油断をしていると・・・」 砲弾で舞い上がった砂煙の向こうから、こちらに向けて数発の銃弾が飛んでくる。 身構えるヘル部隊。 突然、煙の中から何かが飛び出る。 「!?」 その物体は落下しながらヘル部隊にマシンガンを放って来る。 4機の内1機がその攻撃をまともに受けて煙を噴く。 「ヘル2、大丈夫か!!」 「動力パイプも切られたらしく、思うように出力が・・・うわぁ!!」 落下してきた二つの物体が、経る2に襲いかかる。 甲羅を背負い、太い二本の腕を持つ機体。 「シェルカーン!奴は分離したのか!?」 驚愕しながらキメラドラゴンがいる方向を見るが、分離した様子はない。 「こいつら一体何処から・・・・」 そう言いながらシェルカーンに向けて砲撃するシュトルトバルド。 ヘル2をしとめたシェルカーン2機は、再びキメラドラゴンの方へ跳躍し、キメラド ラゴンの後部に合体する。 「そういう事か・・・・」 通常キメラドラゴンは、4機のキメラから構成されているが、このキメラドラゴンに は2機のシェルカーンが余剰合体する事によって防御力の強化と戦況に応じた対応が出来 る様になっているのだ。 再び砲火をキメラドラゴンに向けるヘル部隊。 隊シールド用の特殊鉄鋼弾を使用しているが、Eシールドの壁は厚く、前面のモルガ 部隊もシールドを貫通できない。 再び分離してヘル部隊に近づくシェルカーン。 もう1機はシールドを張ってキメラドラゴンを護衛している。 「ちっ、2機ともやられるのを覚悟で砲撃しようかと思っていたが、機械ごときに 読まれるとは・・・・」 こちらの考えを読まれていたのが気に食わないとばかりに悪態をつく。 『隊長・・・・!!』 「なんだ、この忙しいと・・・・!?」 シェルカーンの行動パターンの見直しの為にコンソールを叩くのに気を取られていた デニッヒの叫び声に気づいてメインモニターに目をやると、こちらに向かってくる キメラドラゴンの姿が見えた。 巨大なバイトファングがヘルディ・ガンナーに迫る。 「ちぃっ!!」 悪態をつきながら回避行動をとるが、長い尾が災いしてしっぽをかみつかれてしまう。 「・・・・!! こいつはしっぽきりは出来ないんだぞ!!」
叫びを上げながら本物のトカゲの便利な機能をうらやむ。 小柄な機体に似合わぬ力でその場に叩き付けられる。 「うがっ!!」 うめくシュトルトバルド。 小さいながらも怪力を秘めた前足が機体を踏みつける。 ミシミシと金属が悲鳴を上げる音が聞こえる。 残り2機のヘルディ・ガンナーが慌てて支援にまわる。 その動きを見て頭に装備されたスピアをつきたてて威嚇する。 それでも隊長の危機と知って、ひるまずに接近戦を試みる2機のヘルディ。 だが、その勇敢さをたたえる間もなく、2機はキメラドラゴンの前に倒れる。 「くそ・・・・」 ヘル部隊を壊滅させたキメラドラゴンは、シェルカーンとともに目の前のモルガ部隊 に進路をとる。 こちらに向かってくるキメラドラゴンを見て、足を止めるために必死に砲撃を繰り返すが、 一向に貫通する気配がなかった。 距離を詰められすぎた為に、一旦間合いを取ろうとするモルガ部隊。 それを待っていたとばかりにシールドを解除してモルガ部隊に襲いかかる。 「こいつら・・・・うわぁ!!!」 接近するキメラドラゴンに近接用バルカンで対抗するものの、巨大なバイトファング がモルガを襲う。
周辺を右往左往するモルガ達。 それをやすやすと倒していくキメラドラゴンとシェルカーン。 最後の2機が必死に逃げようとするのを追いかける。 低い地響きが鳴ったかと思うと、赤い固まりがキメラドラゴン達を襲う。 背中に装備された刃が、分厚い装甲を持ったシェルカーン2機を切り裂いていく。 主力のレブラプター部隊である。 状況の悪化を見て後方より、駆けつけたのだ。 そしてあっという間にキメラドラゴンを取り囲む。 「やはりこういう敵は物量だけでなく、それなりの対処が必要だよな」 そう言いながら現れるジェノザウラー。機体は白く塗られていた。 「たまには無人機とやりあうのもいいかもな。各機は生き残ったものの救助に向かえ」 『了解』 レブが散開するのを見てキメラドラゴンへと向ける。 キメラドラゴンもレブラプターを気にする様子を見せずに、ジェノだけを見ている。 「無人機に気に入られたか?残念だが俺にはそんな趣味ないぜ?」 おどけながらキメラドラゴンとの格闘戦に入るジェノ。 つかみ掛かろうとするジェノに対して、スピアを突きつけて応戦するキメラドラゴン。 大きな口が開き、近づこうとするジェノの足を狙う。 慌てて引くジェノ。 その隙を突いて突進するキメラドラゴン。 2本のスピアがジェノの体を貫こうとする。 「そんなに慕ってくれて悪いねっ!!」 そう言ってとっさにスピアをかわすと、逆のそのスピアを持ってキメラドラゴンを引き寄せる。 抵抗するキメラドラゴン。 強靭な足がジェノを持ち上げたまま立ち上がる。 「こいつ!?」 驚愕するジェノのパイロット。
しかし立ち上がる事で、がら空きとなった腹にすかさず蹴りを入れる。 コアブロックが近かったのかもだえるキメラドラゴン。 その間に懐に入ると、突き上げるようにしてキメラドラゴンのコアがある場所をかみ砕く。 ぎゅぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!と断末魔ととれる叫び声を上げて力なく倒れるキメラドラゴン。 「モルガ隊、今だ!!」 生き残ったモルガ部隊に砲撃の合図を送るとすかさずその場を離れる。 動きが鈍くなったキメラドラゴンは、シールドを張る事も出来ず、砲弾の雨を受けて 土煙と火花の中へと消えていく。
分離しようと試みていたようだが、その前に装甲が限界を超えてしまいコアを中心に爆発がおき、 辺り一帯が舞い上がった砂埃で一瞬視界が悪くなる。 「あいつ、今回はいい所どりばかりするんだな」 そう言って、見知ったジェノのパイロットの顔をう影てぼやく。 しばらくして動きそうにない愛機から降り、海岸線付近に沈黙するヘルディ・ガンナーを見て 亡き友、亡き部下に思いをはせるのだった。
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