死を招く少女2
世紀の大撤退から数日が過ぎた。 何とか逃げ延びたアルフレッドは西エウロペ大陸南部にあるバルハルナにいた。 現在、西側に追い詰められた帝国軍の拠点の一つである。 アルフレッドは作戦の失敗の後、エドワード大佐を救出した後、基地で増援 部隊として待機中に前線部隊の撤退を知らされた。 前線部隊の撤退を知るやいなや基地指令は、基地の放棄するように指示した。 他の最前線基地でも同じようなことが命令されている。 この事が一部帝国上層部で問題になり何人かが処罰を受けたらしい。 幸いアルフレッド達はそのようなゴタゴタには巻き込まれずに済んでいた。 しかしそういい事は続くものではない。 彼はその日、バルハルナにある基地通信室に呼ばれていた。 「・・・・・・・・・というわけで、まことに遺憾ながらダーク・ダガー隊の 規模縮小とともに君の中隊長任務も解かれる。今後アルフレッド小隊を ダーク・ダガー小隊とする。セイロン小隊は解散、セイロンは前回の戦闘で 失ったパイロットの補充で君の部隊に配属する。ヒィル小隊はニクシー基地防衛 に当たってもらう。以上のことを各隊長に申し述べるように。以上だ。」 「はっ。」 静かに敬礼するとアルフレッドは通信をきり、通信室に出る。 現在帝国軍は総攻撃の際に総崩れとなった主力部隊を立て直しにかかっていた。 早く部隊の再編成を行い、勢いに乗ってやってくる共和国軍を阻止しなけれ ばならなかった。 今回のダーク・ダガー中隊の縮小もその一環である。 「ま、仕方ないだろ。これだけ軍組織が崩れかけてきては。」 横にいたエドワード大佐が、アルフレッドの肩をぽんとたたきなら言う。 「大佐もニクシー基地での防衛線に借り出されてしまいましたね。」 「はっはっは、わしほどの実力のある男がおればニクシーも安泰じゃて。」 笑い声を部屋一杯に響かせながら言うエドワード。 彼はこの後、エレファンダー部隊に配属になり、その命をニクスに散らす こととなる。 「お前の部隊はここで待機のようだが、ま、そのうちニクシーに呼び戻される だろ。お前ほどの男をこんなところでくすぶらすのはもったいなさすぎる からな。」 「しかし、南部にあるディーベルト連邦との戦闘経験がありますので、 そううまくはいかないでしょう。」 「それはそうだ。あの反乱軍の連中と一番やりやっているのはお前だからな。」 帝国にとってディーベルト連邦は所詮民族運動の一つで、反乱組織でしか なかった。 その為、ディーベルトに対する対処をお粗末なものが多かった。 その上、共和国との戦線の立ち行きが行かなくなってさらに無視するように なっていた。 最もそのおかげでディーベルトは国を維持させる事ができたわけだが。 そんな事を話しながら彼らは通信室を後にした。 数日後、部隊の再編成によりエドワード、フィルらがニクシーへと去って行った。 彼らの乗る大型輸送ゾイドホエールカイザーがその灰色の巨体を北へと向け 飛び立つ。 それをアルフレッド達は敬礼して見送る。 「ん?何だあの赤い機体は?」 それはホエールカイザーがニクシーから持ってきたゾイドだった。
「これは・・・・改造ジェノザウラーか?」 ワインレッドを基調とした機体の背には、パルレーザーと2連ビームを 計4基装備し、頭部の形状も異なっていた。 「俺の機体に興味津々かい?」 そう言いながら現われたのは、年若いパイロットだった。 パイロットスーツを上半身だけ脱ぎ、袖を腰で結んでいる。 「・・・君は誰だ。」 「俺か?へっ、ヒトに名前を尋ねるときはまず自分の名前だろ?」 からかい口調で言うパイロット。 「・・・・・私はアルフレッド・イオハル中佐だ。」 いぶかしげな顔つきで、パイロットを見るアルフレッド。 なぜだかわからないが彼に対して警戒心を持っていた。 「へぇーあんたが。活躍はいろいろ聞いてるぜ。俺はロック・コードウェル 二尉。そしてこれが俺の相棒、"ジェノサイド"だ。よろしく頼むぜ。」 二尉とは中尉に値する。 「・・・・これがジェノサイドか。ということは…摂政の?」 内心驚きながらも尋ねるアルフレッド。 以前から改造ジェノザウラーのうわさは聞いていたが本物を見るのは初めて だった。 「おっと、そっから先は言わないほうがいいぜ。いくらあんたでも"プロイ ツェンナイツ"にけちをつけた日にはこれもんだ。」 ロックは親指を喉首に持っていくとすっと横に引く。 「・・・で、何の用があってプロイツェンナイツがこんなところにくる?」 ロックをにいぶがしげに見ながら話すアルフレッド。 「特に意味はねーさ。ただあんたらの仕事振りを見にきただけさ。」 見下すような目つきでいうロック。 (ようは監視というわけか・・・・。) そんな事を心の中でつぶやくアルフレッド。 「ま、それは冗談としても、近いうちあんたの実力を見せてもらうぜ。 じゃぁな」 そう言うと愛機に乗り込み、格納庫へと去っていく。 「・・・・・あれがプロイツェンナイツ用ジェノザウラーか。」 ジェノサイドは、プロイツェンナイツ主力のアイアンコングPKの代替え機と して生産された改造ジェノザウラーだが、大元のジェノザウラー自体が生産し にくい機体であったため、現在わずか9台のみ実戦配備されているに過ぎない。 しかし通常のジェノザウラーと違い、各部がチューンナップされているため、 性能面で上である。 またジェノブレーカーのように限られた人間にしか扱えないと言うような機体 ではないため、重宝がられている。 最大の特徴は、収束荷電粒子砲を拡散荷電粒子砲に変更していることである。 これにより広範囲にわたり、敵にダメージを与える事ができるようになった。 格納庫に向かうジェノサイドを見送ると、アルフレッドは宿舎へと戻る。 基本的に彼はこの場所ではすることがほとんどなかった。 この基地に来て以来、出動騒ぎが3回あったのみでおおむね平和な日々が 続いていた。 上層部は先の作戦の失敗以後、再度侵攻作戦を行わずにただひたすら時間を かけてエウロペ駐留の帝国部隊の再編に力を注いでいた。 それだけ作戦の失敗が大きかったのだ。これは大きな転換点と言えた。 「アルフレッド中佐。」 ふいに後ろから声をかけられ、振り向くアルフレッド。 「なにか?」 「はっ、コーエル大佐がお呼びです。」 振り向いたアルフレッドに敬礼をすると用件を伝える下士官。 「分かったすぐに行く。」 そう言うと基地の管制司令塔へと足を向ける。 司令塔にある司令室に入ったアルフレッドは部屋の真ん中にある机に腰掛けて いる男のもとへと向かう。 「アルフレッド中佐ただいま参りました。」 男の前に立つと敬礼と同時に言うアルフレッド。 その言葉に反応してアルフレッドのほうへと顔を向ける。 「きたか。まぁそこの椅子にでもかけな。」 「はっ。」 コーエルの言葉を聞き、椅子にかける。 「それで、私に用とは?」 「ああ、さっきのホエールカイザーに搭乗していたお偉方が直々に命令書を 渡してきてな。まぁこれを呼んでみな。」 そう言うと乱暴に差し出す。 「はい。」 コーエル大佐から渡された命令書を読む。 「これは・・・南の方で何かあったんですか?」 驚きを隠せない様子のアルフレッド。 「まあ書いてあるとおりだ。厄介な奴がいて南部地域撤退に支障が出ている。 そこで次の第2次撤退作戦の際にはおまえに囮となってもらう。 囮だけでいいが、うまく敵さんをやってくれると今後の作戦もやりやすくなる。 その辺はわかってくれてるな。」 ようはなんとしてでも敵を倒してこいと言うことである。 「はっ。」 返事をするとその場を去ろうとするアルフレッド。 「話はまだだぞ。それには書いていないがお前の部下ははずす。あいつらには ここの防衛の指揮を担当してもらう予定だ。」 アルフレッドを呼び止めるとそういうコーエル。 「私一人で行けと?」 振り向きざまにそういう。 「いや、そういうわけではないんだ。実は・・・。」 「へぇ〜ここが司令室かい。」 コーエルの言葉をかき消すように軽い感じの声がこだまする。 「きたか。こっちだ。ロックウェル二尉。」 「なんですかい。お、こりゃあアルフレッド中佐殿。」 「どうやらもうすでに会っているようだな。紹介する手間が省けた。 二尉をお前と組ませる事にした。」 その言葉を聞いて目を細めるアルフレッド。 「・・・・分かりました。コーエル大佐がそう言われるのであれば異論は ありません。」 「ロックウェル二尉はどうだ?」 そう言うとロックウェルのほうへ目をやる。 「ここでちんたら共和国の連中を相手にするよりかはいいだろ。俺も かまわねえさ。で、相手はどんな奴だ。」 少し興奮気味に聞くロックウェル。 「さあな、行ってみれば分かるさ。」 「なんだそりゃ。」 「こっちとしても命令書を渡されただけだ。それ以外の事は分からんよ。 明日にでもここを立ってくれ。と、いうわけで解散だ。」 その言葉を聞いてアルフレッドは敬礼をするとその場を去る。 翌日、敬礼をせずじっとアルフレッドの乗るグレイト・セイバーを見送る セイロンを背に南へと向かった。
同日、ディーベルト議会は荒れていた。 ここ数日間、穏健派と武闘派の間で論争が続いていたのだ。 「そのような無謀な戦いを挑んで勝てると本気で思っているのか!?」 一人の議員が叫ぶ。 「何を言うか!!連邦宣言の時にすでに両国に対して宣戦布告を行ったでは ないか!!今帝国の勢力が弱まっている以上、共和国に対しても攻撃すべ きだ!」 負けじと強い口調でいいかえす武闘派議員。 「この間の帝国軍の総攻撃による失敗を知らぬわけではあるまい。 我々は現段階では自分達の身を守るので精一杯なのだ。そんな藪をつついて ヘビを出すような事は断じてできん!!」 「お前たちは自分の事しか見えておらんな!!そもそも連邦国家発足の折の 宣言に、この大陸を侵略した帝国、共和国にたいしと明言しているのだぞ!」 その言葉をきっかけに議会の論争は激しくなり、収拾がつかなくなってしまい 今日のところは閉会となった。 ここ最近、帝国軍の弱体化につけ込んで、一気に共和国も倒してしまおうと いう武闘派と、この大陸での帝国と共和国の戦闘が終了次第、共和国と 和平条約を結び国家ないし大陸の安定を模索する穏健派の対立が続いていた。 武闘派の後ろには戦争を利用しても受けようとする商人や現在の戦況が膠着状態に 陥っていることに不満を持つ軍幹部などがいた。 武闘派議員達は、彼らを擁護する立場のものばかりである。 議長で、国家元首たるロード・ワーグナーは、普段中立の立場をとっているが、 今回の事に関しては穏健派を擁護していた。 この穏健派にはサラ・ミランも加わっていた。 ここに来た理由はただ一つ、はやく戦争を終わらせる事。 それをかなえるために必死で活動している。 いとこのミラルダの消息は以前分からず、気になるものの、何とか今の議会を 和平への道へ導こうとしていた。 この日の議会も結局、お互いの主張を言い合うだけで終わってしまった。 お互い一歩も譲らないためにこんな日が何日も続いている。 議会終了後、穏健派のみの会議が別室で行われていた。 「このままだといつ武闘派が暴走するかわかりませんね。」 怪訝な表情を見せていうサラ。 「確かに。最近彼らは、連邦国民にも我々のことを弱腰の国賊などと吹聴している。 大丈夫だとは思うがこの言葉に乗せられて国民からも批判を浴びるようになると…。」 議長はそこで言葉を止める。その先は誰が言わなくともわかることだ。 「とにかくわれわれは断固としてこれ以上戦争を拡大しないように彼らと後ろ盾の連邦軍を 引き離さなければ……。」 他の議員たちも口々に言うが、結局何とかして彼らの行動を阻止する、それしか決まらなかった。 それから数日が過ぎた日、とある町にミラルダの姿があった。 全身をマントで覆っていた。うつろな眼をしながらゆっくりと町を抜けて行く。 とん 「わぷ。」 ミラルダの体に何かがぶつかり体がゆれる。それとともにうめき声が聞こえる。 声のするほうへ顔を向けるとそこには小さな女の子がしりもちをついていた。 それを見てミラルダは、無言のまま彼女の手を取り、立ち起こす。 「ありがとう。おねえちゃん。」 そういうと女の子は走って親元へと行く。 その姿をいつまでも見つめるミラルダ。 「フィリア……お父様……。」 そうつぶやくと一瞬、彼女の顔に悲しみの表情が表れる。 またうつろな表情に戻った彼女は町の外へと足を運ぶ。
街はずれの場所に彼女の愛機、サーベルシュミットが佇んでいる。 幾多の戦いで全身は傷ついていた。修理した様子もなく、故障は全て自己修復 能力で補っているようだった。そのため装甲にはおうとつが見て取れる。 彼女は足元にたどり着くとそのまま座り込み小声で何かをつぶやく。 しばらくすると急にサーベルシュミットが遠吠えを上げる。 それを聞き、立ち上がるとコックピットへ乗りこむミラルダ。 同時刻ジェノサイドと2機で南下していたアルフレッド耳にゾイドの遠吠えが 聞こえる。 その刹那、レーダーに接近する機影が映し出される。その機影が1機である こと、高速で接近してくることから目的の機体だと考える。 「お客さんのお出ましか。ここで戦闘すれば、撤収する部隊に被害は及ばない。 ロックウェル二尉、くるぞ。準備はいいか?」 「いつでもいいぜ中佐さんよ。」 軽い感じの返事が返ってくる。 「…よし、行くぞ。」 アルフレッドとミラルダ、2人の対決が再び始まろうとしていた。
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