死を招く少女
ディーベルト連邦とガイロス帝国の国境沿いで、暗闇を引き裂く光が次々と起 こる。 「護衛部隊の奴ら何やってやがるんだ!?」 グスタフのパイロットはあたりに起こる爆音に苛立ちを隠せず愚痴をこぼす。
「うるせぇ!!敵の動きが速すぎて・・・・うわぁぁぁぁ!!」 通信機からパイロットの断末魔が伝わってくる。 「本部!!本部応答願います!!本部!!こちら470輸送部隊。」 通信機を本部につなごうとするパイロット。 「現在的と思われるゾイドと交戦中至急応援を・・・・。」 グスタフの爆発とともに彼の言葉は切れてしまった。 連絡から1時間後、その場に到着した救援部隊は、無残な姿をさらけ出す47 0輸送部隊があっただけだった。 輸送大隊本部はこの事態を重視し、軍上層部に襲われた一体の調査を依頼した。 帝国軍上層部は、あまりこのことに重視していなかったが、これをかわきりに 連続して襲われる事件が頻繁に起こったため無視できなくなった。 「しかしこの忙しいときにこういうことが起きるのかねぇ。」 エウロペ大陸上層部の一人、ノビエル・パッカードが愚痴る。 「わが軍のみが襲われる。どう考えても恨まれてますな。シビィーリの連中に。」 もう一人の高官がやれやれといった風に言う。 「確かにこの大陸に戦乱と憎悪を持ち込んだのは我々だからな。」 「この件、下手に処理すると大変な事になりかねないかもしれません。」 「そうだな。前回の総攻撃の失敗がここまで響くとは。」 「戦線の縮小をしているので、後数ヶ月の辛抱でありますが、この勢いにのっ て奴らにまで攻めてこられると・・・・。」 「我々の悩みの種は尽きないな・・・・。」 けんげんそうな顔を浮かべて言うノビエルだった。 今日も帝国部隊同じ地区を進軍していた。 これだけの事件があってもこの地区を通るのには、理由があった。 現在、初期の段階の小競り合いなどで一部帝国軍はディーベルト領内に徒出し てしまい、そこへの補給ルートが今回の事件の起こる地区しかなかったのだ。 以前からディーベルト連邦の攻撃があったのだが、ちょっとした小競り合い程 度で、今回のような一方的な戦いで全滅する事はなかった。 「このあたりですね隊長。」 一機のレブラプターのパイロットが問い掛ける。 モニターには黒と紫を貴重としたジェノザウラーが見える。 「そうだな。これよりあたりの警戒を厳重にせよ。」 隊長機から返答が来る。
現在このルートを進行しているのは、ジェノザウラーを中心とした帝国軍討伐 部隊である。 万が一のことを考え、量産型ジェノ1機、レブラプター8機という布陣であった。 これらオーガノイドシステムを搭載した最新鋭ゾイド部隊は、戦力的に見て 1個中隊以上の力を発揮する。 厳重に警戒し始めてから30分、今のところ何も起きずに進軍をしていた。 「オーティス、レーダーに反応は?」 隊長であるジェノザウラーのパイロットが、部下であるレブラプターのパイロ ットに問い掛ける。 「今のところありません。」 レーダーを監視しつつ答えるオーティス。 「今夜は出ないのかなやっこさんは・・・・・。」 やれやれといった感じで言う隊長。 「!!・・・・き、来ました!12時の方向真正面からです!!」 慌てて報告するオーティス。 「真正面からとは相当の自信家のようだな。砲撃戦用意!!」 その動きを知るかのように急に敵機のスピードが上がる。 「な、敵機、280kmのスピードで突っ込んできます!!」 「なんてスピードだ!これでは荷電粒子砲もうてん!」 その叫びにあわせて1機のレブラプターが断末魔を上げる。 「な、なんだと!?いつの間に!!」 ちょうど今まで雲で隠れていた2つの月が姿をあらわし、あたり一体を照らし出す。 ジェノのパイロットは、目の前の光景を見て驚きを隠せない。 不気味に月明かり照らされたその青い機体は、紛れのなくセイバータイガーだった。 しかし背中には3機のブースター、側面には2枚の羽があった。 「サーベルシュミットか・・・・!!」 ディーベルトで開発されたゼネバス帝国軍"サーベルタイガー"を改造した機体。
そいつが目の前でしとめたレブラプターの頭部をくわえ、殺気だった目をこち らに向けている。 「・・・・こ、こいつは一体・・・・・・!?」 異様な殺気を感じたジェノのパイロットは恐怖感を覚える。 「仕掛けます!!」 レブのパイロット、オーティスから威勢のいい声が通信機から聞こえる。 その動きに呼応してさらに3機のレブラプターが前に出る。 「待てうかつに近づくな!!まだあの機体の性能は分かっていないんだぞ!!」 制止するジェノのパイロット。 しかし動き出したレブラプター4機は、仲間の敵討ちとばかりに攻撃を仕掛ける。 それを見てサーベルは、加えていたレブの頭部を放り捨てて攻撃に備える。 シャキーン レブラプターに装備された鎌の形をしたサーベルが、音を鳴らして不気味に動く。 そしてレブラプター2機が砲撃で援護をかけ、残りのオーティスともう1機が チャンスをうかがいつつ接近する。 しかしサーベルシュミットは、砲撃を難なくよけると接近してくるレブラプタ ーに向かって走り出す。 「オーガノイドシステムを積んでいない旧式の機体が何様のつもりで・・・・・・!!」 走りながら背にある2枚の羽を広げるサーベルシュミット。 「放熱フィンが何だってんだ!!」 さらにスピードをあげ、突撃をかけるオーティス。 すると広げられて2枚のフィンが赤く光りだす。 「・・・・・・何ぃ!?」 だんだんと色が変わり最終的には白く輝く。 次の瞬間。 レブラプターは、そのフィンによって二つに切り裂かれていた。 「・・・・・!!」 その場にいる誰もが動きを止めて驚愕する。 「あれはただの放熱フィンじゃなくサーベルだったのか!?」 荷電粒子砲の照準をセットしながらぼやく。 ジェノのパイロットの言葉は、半分正しく半分誤っていた。 確かに放熱フィンである。しかしそれは通常状態での話で戦闘時には、その放 熱を利用してヒートサベールとして使用される、ディーベルト連邦のみの技術 だった。 猛スピードでレブを切り裂いた後、残った6機のレブに対しても同様に突撃を 開始する。
それを見てレブラプターのパイロット達は、逃げたり、砲撃して応戦したりと 抵抗したが、逃げ出したものはスピードの差から後ろから切り裂かれ、応戦し たものも同様の道をたどった。 「な・・・・なんて奴だ・・・・。8機のレブラプターをあっという間に・・・・・。」 呆然とするジェノのパイロット。 レブラプターを片付けたサーベルシュミットは、ゆっくりと近づいてくる。 「・・・・・・余裕を見せるな!!」
先ほどからエネルギーチャージをしていたジェノザウラーの口から収束荷電 粒子砲が放たれる。 一発必中の武器で、当たらなくともそれ相応のダメージが機体に生じる。 しかしサーベルシュミットは、荷電粒子砲を難なくよけると、その場から突撃 をかける。 「機体にダメージがいかなかったのか!?」 そういいながらパルスレーザーを放つ。 それに答えるかのようにサーベルシュミットも背中にあるビーム砲で応戦してくる。 250kmを超えるスピードで。 「くそっ!!はやくはずれろ!!」 ジェノザウラーの足の固定フックをはずすのに時間がかかり、焦るパイロット。 ようやくフックがはずれ、移動しながらジェノがパルスレーザを打ち込む。 しかしジェノが放つパルスレーザーは、当たる事がないのに対して、サーベル の放つビーム砲は、正確にジェノにヒットする。 「な、なんであのスピードで正確な射撃ができるんだ!!」 ぼやきながら必死に応戦するパイロット。 すると目の前に徐々に赤から白に変わっていく2つの光が見える。 「そうそうやられるか!!」 そう叫びつつ、パルスレーザーの発射ボタンを押すパイロット。 しかしどうやっても当たらない。 そしてだんだんと目の前に近づいてくるサーベルシュミット。 「く、来るなぁーーーーーーーーーー!!!!!!!!」 しかしサーベルは止まることなく、ジェノザウラーを真二つに切り裂き、少し はなれたところで停止する。
それと同時に大爆発を起こしたジェノザウラーは跡形もなく消える。 サーベルシュミットは振り向くと、その赤々と燃える炎をしばらく見つめ、そ の場から去っていった。 数日後、ディーベルと連邦の首都シビィーリでは連邦会議が行われていた。 「今、帝国の目をこちら側に向ける事は非常にまずい!!その事をわかっているのかね、軍部は!!」 一人の議員が軍上層部に言い放つ。 「そう言われましても我々軍部もこの事は関しては何も感知しておりません。」 「どういう事だね?先月、ようやく各都市部隊をまとめ上げることができたと 報告してきたのはきみらだぞ!!」 開戦直後に連邦国家宣言は出されたが、各都市部隊はいまだ連邦軍として統括 されていなかった。 その為、都市部隊ごとに勝手気ままな作戦行動をとり、議会を困らせていた。 そこで、連邦軍として再編成させる事が急務となり、連邦発足から2ヵ月後、 各地の軍部首脳を集めた連邦軍本部が首都シビィーリに設置された。 しかし一部それに抵抗を示す部隊も多かったため、ZAC2100年6月によう やく都市部隊がひとつの連邦軍として本格的な活動をし始めた。 それまではやはりかってな作戦行動により、いくつかの都市が壊滅する騒ぎが 起きていたが、"連邦軍"となって以降はそのような事が一切起こらなくなった。 しかし、あくまで現在顕在する都市部隊をまとめただけであって、壊滅した都 市の残存部隊に関しては野放し状態であった。 野放しといっても6月以降徐々に連邦軍に合流させつつあるが、いまだ完全で はなかった。 「確かに我々軍部は、先月各都市部隊をひとつの軍としてまとめ上げることが できたと報告しましたが、それは今現在存在する都市部隊の事です。 開戦後、壊滅した都市の部隊などは、いまだ単独で行動しているものも多くい ます。全てを掌握したわけではありません。その事は前回お話しているはずですが。」 「なら今回の件、どうする気か!野放しにするつもりかね!?」 息を切らして言う議員。 なぜ今回この議員がこんなに荒々しく質疑をするのは、彼が代表する地区で起 きた事件だったからである。 「調査の報告はすでに受けました。今回この事件での情報収集により青いサー ベルシュミットによる犯行との見方が強まっています。パイロットはミラル ダ・リヴィル。」 「ミラルダ・リヴィルだと?フィルバンドル議長の娘の?間違いないのかね?」 議会がざわつく。 「調査は100%信頼できます。」 自信を持って言う軍上層部。 「これは問題だぞ、フィルバンドルはどう考えての行動か!」 そう叫ぶと一人の少女を凝視する。 「これは我々の知らない事です。第一ミラルダ・リヴィルはフィルバンドル攻 防戦の後、行方不明です。我々が知っているはずがありません。」 威厳ある少女の態度に少したじろぐ議員。 「し、しかし君らの失態である事は確かだぞミラン議員殿!」 必死に言い返す議員。 「感知していないといっています!!」 ミランが少し怒鳴るように言う。それを聞いて弱腰になる議員。 「まぁ、まちたまえ。」 議長が割って入る。 「この件は非常に難しい問題だ。今帝国軍は共和国との戦闘で大敗し、こちら に目が全くと言っていいほど見ていない。そんな時にこちらからわざわざ目立 つような行動は避けたいのだよ。ミラン議員。」 そう言うと議長は、ミランのほうに目をやる。 「それは重々承知しています。しかし彼女の事に関しては、我々も捜索をして いる状態です。それをどうこう言われましても対策のしようがありません。」 「下らんごたくをならべおって・・・・・!!」 「やめたまえ!君の気持ちもわかるが、今回の事は軍部、フィルバンドル地区 やポルカルティア地区のみならず連邦全体の問題である。それをみなが協力し て彼女を見つけ出すことが先決である。以上だ。 今回の議会はこれにて終了する。」 その言葉と同時に議会終了の木づちの音が議会室にこだまする。 一気に議会室はざわめきを覚える。 席を立ち議会室から出ようとするミランを先ほどの議員が近寄ってくる。 「このままでは済ませんからな。小娘……!!」 そう言い放つと苛立った表情を浮かべて廊下に出る。 「・・・・うるさいひげおやじだこと。」 とポツリとつぶやく。 現在彼女は、フィルバンドルのあった都市周辺の地区の代表者となっていた。 壊滅した都市も最近になってようやく復興し始めてきている。 が、彼女の一番の心配はミラルダのことである。 フィルバンドル攻防戦後、ミランがシビーリへ旅立ったあの日以来、彼女は 愛機サーベルシュミットととも姿を消して行方不明になった。 それから人を使って捜索しているが、いまだ見つからない状態であった。 入ってくる情報は後手後手の情報ばかりで一向に見つからないのである。 「まったく・・・心配ばかりかけて見つけたらどうしてくれようか。」 そう言うと廊下を歩き出すのだった。 そして今日も移動中の帝国軍を見つめる機体があった。 ミラルダのサーベルシュミットである。 帝国軍の動きを見てさっそうと姿をあらわすし、数十分で敵をただの鉄くずへ と変えていった。
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