黒き稲妻2
かつてガイロス帝国の南部地域一帯の拠点だったバルハナ基地にゴジュラスMK −U(ゴジュラスガナー)を中心とした大部隊が到着した。 戦力は2個大隊に相当するほどの戦力だった。 「アルバン・ヴァルケイト隊、ただいま到着。」 ゴジュラスを降りたパイロットが、目の前に立つ男に報告と敬礼をする。 「おう、よく来てくれたアルバン。歓迎するぞ。」 そう言うとゴジュラスのパイロットとがっちりと握手をする。 「コクン、またいろいろとつるませてもらうぞ。」 そう言うと顔をにやつかせるアルバン。 「まあ、まかせておけ。うまくいけば今よりもっといい生活が出るからな。」 そう言いながら二人は司令塔へと向かう。 「今回は俺に何をさせよってんだ?」 コクンの自室に入ったアルバンは、ソファーに腰掛けて楽な格好をする。 「おまえにこの基地の守備を任せようと思ってな。」 そう言いながら棚からワインとグラスを取り出す。 「おまえの部隊がいるだろ。最近じゃあ部隊の増強もされるそうじゃないか。」 「たしかにそうだが、俺の部隊は南に向かう。」 「ディーベルトを攻めるのか?」 「ああ、準備が出来次第といったところだ。そのために都市戦などに備えて後2、 3個小隊を新設する予定だ。」 「なるほど、それで留守番を俺にさせよってかい。しかしあんたが南に行くのな ら俺の部隊は不要に思うが。」 「近々向こうさんも攻勢をかけてくるらしい。前線基地のフォルナは、壊滅は覚 悟せんとな。基地の連中にも遠まわしながら逃げるなといってある。」 「またむごい命令を・・・。そんな情報をどこから拾ってくるんだか。」 飽きれたように言うアルバン。 「なあに向こうからわざわざ教えてくれたんだよ。かなり協力的な連中でな。」 「・・・そんな連中の言う事を信用するのか?」 不審そうに尋ねる。当たり前といえば当たり前の話である。 自国の情報をそんな簡単に流す者など、スパイでもない限り普通は考えられな い。 「何、嘘か誠かそのときが来たら分かるさ。嘘だったらおまえの部隊と俺の部隊 で挟撃してやればいい。本当だったらおまえさんは、疲れきった敵をあしらっ てくれればそれでいいさ。後は俺の部隊だけで何とかなるさ。」 余裕の笑みを見せながら軽口をたたく。 「まあいい。ちゃんと儲けさせてくれるのなら文句は言わないぜ。おれは。」 そう言うと自分のグラスにワインを注ぐアルバン。 そしてそのままコクンのグラスにもワインを注ぐ。 「おう、期待しててくれ。」 そういいつつコクンは、グラスに注がれたワインを一気に飲み干すのだった。 「この時期にシンカーの大量生産だと?また摂政殿はどんな作戦を考えている んだ?新型ゾイドがようやくテスト量産の段階に入ったって言うのに。その上、 アイゼンドラグーン師団の小型ゾイドの生産もさせられてるんだぞ。こっちの 事はお構いないしか。大体ゾイドの生産なんざあ、生産工場でやればいいもの をなんで研究所でやらせるんだ。」 バンダナを頭に巻き、あごひげをはやした男が怒鳴るように言う。 彼のいる研究所は、ここ最近ゾイドの開発研究ではなく、ゾイドの生産を中心 に行っていた。 かなり大きい施設で、自前でゾイドの生産が出来る施設を有していた為である。 結果的にその施設のせいで、ゾイドや武器開発などは滞り、一向に進まない状 況が続いていた。 開発屋としては頭に来る事ばかりである。 「あんたが乗り気でなくともやってもらわないと困る。今は国力を上げてシン カーの生産に当たらせている。ここだけの話じゃない。」 うっとうしそうに言うクリスティ。
「この間はウォデックだったと思ったら今度はシンカーだ。摂政殿は、次の戦い では勝つつもりかい?」 「らしいよ。とりあえずうちのバーサークの調整は、その辺が落ち着いてから でいいし。」 そう言うと用意されたコーヒーを口に含む。 口の中にコーヒー独特のにがみが広がる。 (にが・・・・・・。オレンジジュースをおいといて欲しいもんだわ。) 顔を少しゆがめながらふとそう思うクリスティ。 「本気でエウロペに行くかい。エウロペに残った部隊は、それは悲惨な状態だっ て聞いてるぞ。」 「ええ、らしいね。でもうちは戦いに行くわけじゃないからね。あくまで引き抜 きの為だよ。」 そう言いながら彼と目線をあわせないようにする。 「アルフレッドかい。あんたも諦めの悪いこった。」 彼はそういった事情をよく彼女から聞かされていたので、ピンときた。 「っるさい!!人の事を言える立場ではないでしょ。いまだ別れた女房に気が あるらしいし。」 本心をつれたクリスティは、思わず対抗してよく聞いていた彼の事を取り出す。 「うっそれを言われると・・・・・・。」 クリスティの言葉に何も言えない状態になってしまう。 「・・・・とりあえず行くにしてもあのクレイジーロックはないだろう。やつ のことはうわさで聞いているだろう。」 「一応ね。その名前の通りクレイジーだったわ。横で見ていると面白いくらい に。」 「気の多い姉ちゃんだなぁ。」 「何言ってんの。あんなのがうちの守備はいんな分けないじゃない。ああいう のはね一線脇から見ているのが一番楽しいのよ。」 そういうとカップを机に置く。 「とにかく大量生産といってもここの事情を考えて各20機だけでいいそ うだから頼むよ。」 そう言うと研究所の事務室から出て行く。 「おいおい、合計100機は下らんぞ・・・。」 男は冷や汗を流しながら一抹の不安を感じるのだった。 セイロンがあの黒いブレードと遭って2週間が経った。 この2週間セイロンが行くところ必ず黒いブレードのうわさが絶えなかった。 はじめは特に気にはしていなかったが、日が経つにつれてどうも自分がいく 先々に“彼”が付きまとっているように思えてならなかった。 「いつも何かを待つようにその場に立って、正面から戦いを挑んでくるらしい ぜ。」 「両軍関係なしらしいな。」 「この間は共和国の1個中隊がたった1機の黒いブレードに全滅させられたら しいぞ。」 町の酒場で耳に入ってくるのは黒いブレードの話ばかりだった。 その話にうんざりするかのようにセイロンは席を立つ。 無言で酒代を払うとその場を後にする。 そして愛機の元へと歩き出す。 セーフモードでじっとコクピット内で時が来るのを待つセイロン。 どうも追われている様に思えた彼は、ここで待ってみる事にしたのだ。 「・・・・・・。」 待ちはじめてから数時間後、何かの気配を感じるセイロン。 しかし機体のレーダーには何も映っていない。 セーフモードを解除して次に起こるであろう出来事に身構える。 次の瞬間、唐突にレーダーに数機の点が表示される。 しかしその点もすぐに動きがなくなる。 1機だけこちらに向けて高速で近づいてきていた。 砂煙を上げならコマンドウルフがこちらに向かってくる。 通信をオン状態にすると、しきりにパイロットの悲鳴が聞こえてきた。 すでに我を忘れて、ただ逃げ惑っているだけのようだ。 数分後、セイロンの目の前でコマンドウルフも動きを止める。 無残な姿をさらして。 そしてその奥にあの黒いブレードが見えた。 「・・・・・・。」 セイロンは無言で、機体をブレードにゆっくりと近づける。 お互いが簡単に視認出来る距離で機体と止めると、にらみあう2機。 先手を打ったのはセイロンだった。 得意のバルカンを使ったアウトレンジ攻撃。 攻撃を受けたブレードは、多少ひるむがしばらくして、攻撃などお構い無しに こちらに向かってくる。
そして一気に距離を詰めると大きくジャンプし、アタックセイバーの上空を過 ぎ去る。 飛び越えるブレードを見て即座に着地点へとバルカンを放つセイロン。 しかしそこにブレードはおらず、弾が土の上をはじけ飛ぶ。 実際にブレードが着地した場所は、彼が予想した着地地点より遠かったのだ。 セイロンがブレードの接近に気付いた時には、すぐそこまで迫っていた。 遠吠えを上げたかと思うと、一瞬のうちにセイバーの懐に入り込み、ハイブリ ットバルカンを前足で弾き飛ばす。 「くっ・・・!」 衝撃でよろめくセイバー。コクピット内にもかなりのGがかかり、うめくセイ ロン。 うめきながらもブレードのいる方向へ機体を走らせる。 バルカンがなくなったせいか、その分スピードは上がりブレード尻についた。 しかしそれを待っていたかのように、ブレードがブースターを使って急停止を かける。 急停止により、あたり一帯に砂煙が立ち上ってセイロンの視界を奪う。 そしてあたりを見まわしている間に機体に衝撃が走る。 この煙を利用してブレードが攻撃を仕掛けているのだ。 次々と攻撃を受けて、セイバーもその場に立っているのがやっとの状態になる。 その頃には、あたりに立ちこめていた砂煙が晴れ始める。 晴れた向こうには、獲物の状態を確認するかのようにブレードが立ちはだかっ ていた。 「・・・・・・。」 しばらくしてゆっくりとかけ出すと、ブレードを展開して止めを刺しにかかる。 迫るブレード。 セイロンは、動かないセイバーの状態を確認しながら、迫り来る敵を待つ。 そしてすれ違いざまにセイバーが、ブレードの背中へと飛び込むとそのままブ レードに抱きつく。
抱きつかれたブレードは、バランスを崩してその場倒れこむ。 抱きついたセイバーも無事ではなく、ブレードがバランスを崩したと同時に地 面の上を転がる。 すさまじい衝撃がセイロンを襲ったが奇跡的に気を失わなかった。 しかし、セイバーはコンバットフリーズどころかもう動く気配さえなかった。 「・・・・・・すまん。」 そう一言いうとセイバーのコクピットを強引開き外に出る。 少し離れたところに黒いブレードがうつぶせになっていた。 セイバーのもとを離れるとゆっくりとブレードのほうへと歩き出す。 ブレードの前で歩みを止めると、待っていたかのように立ちあがるブレード。 しばらくの間セイロンをじっと見詰めると、頭をかがめてコクピットハッチを 開く。 誘われるようにコクピット内に入るセイロン。 二人乗りの機体は、やたら広く感じられた。 その時、一気にあたりを証明が照らす。 それにあわせるように、当たり一帯を共和国軍のゾイドが取り囲む。 「そこまでだ。そのB2ライガー(ブラックブレードライガー)から降りて降伏 しろ。」 当たり一帯に響き渡る声。どうやら部隊の隊長のようだ。 先ほどから彼らの戦いを離れた場所で見ていたのだ。 しかしセイロンは、そんな言葉を無視してブレードと共にその場を去ろうとす る。 「こら!!待て!!全機動きを奴を押さえろ!!」 その一声で、各機ともにブレードに襲い掛かる。 だが、どのゾイドの攻撃もブレードにかすりもしなかった。 逆に始末されて行く共和国軍。 「な、何だと・・・・・・。」 一方的な戦闘を見て驚愕する隊長。 その脇を抜けて1機の青い機体が走り抜ける。 アタックブースターを装備したブレードが、セイロンの乗るB2ライガーの前 に立ちはだかる。 スピードではやや向こう側に分があった。 しかし、セイロンというパイロット得たB2ライガーの敵ではなかった。 強化されたスピードを生かして得意の格闘戦に持ちこもうとするアタックブレ ード。 逆にそれをただじっと待つB2ライガー。 アタックブレードがまじかに迫る瞬間を狙って、その場を高速で離れる。 それを見て慌てて急停止するアタックブレード。 振り返ると一瞬の隙を突いてB2ライガーが、ブレードを展開して迫ってきて いた。 背中のブースターキャノン砲で抵抗するが、それも難なくかわされてしまう。 慌ててEシールドを張ろうとしたが、時すでに遅く足を切断されてしまった。 その場に倒れるアタックブレード。 「すばらい。」 感慨深い声がどこからともなく響く。 「全くもってすばらいな、君は。」 そういって現れたのは、コクンだった。 「最初はその機体だけをもらおうかと思ったが、どうだ君もそいつと一緒に我が 軍に来ないか。」 「・・・・・・。」 無言のセイロン。 「我々のもとに来てくれれば、その機体を君にプレゼントしてもいい。ちゃんと それなりの報酬も払わせてもらう。さらにその機体のメンテから改造まで全て 我々のほうでさせてもらうよ。悪い話ではないと思うが・・・・・・。」 しかしその言葉も意に介さないセイロン。 「西エウロペを攻める為にも君の力が必要なのだ。」 その言葉に反応を見せるセイロン。 「・・・・・・わかった。しかし機体の整備は自分でする。それが俺の鉄則だ。」 そう答えるセイロン。 「よし分かった、これで交渉成立だ。」 そう言うと不気味な笑顔を見せるコクン。 「よいのですか?あのような輩を我が軍になどと・・・・・・。」 先ほどの部隊長が、コクンに耳打ちする。 「おまえの目は節穴か?あれだけの腕のパイロットはそうざらにはいない。 このまま捨て置くのは惜し過ぎる。」 そう言うとB2方へと目をやる。 「確かにそうですが、やはり危険過ぎます。」 「なあにリスクというものは常に背負って行かねば、戦いに何ぞに勝てるはずも なかろう。それに奴ほどの男を敵に回す事ほど恐ろしいものはない。」 そう言うとその場を去るコクンだった。
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