黒き稲妻
ディーベルトで起きた議長‘失踪’事件で、議会は過激派が勢いづいた。 議会では事あるごとに、議長が自分の責任を放棄したとして議長をなじる。 それまで慎重派である議長寄りだったもの達までも、過激派に入ってしまった のである。 議会のほとんどは過激派となり、完全に穏健派はなりを潜めてしまった。 「・・・・よって空席となった議長席はクルアルド・コーエン君を議長に任命す る事になりました。」 発表と同じ議会内をわれんばかりの拍手が舞う。 それを悲しげに見る少女がいる。 サラ・ミランである。 議長の失踪後、彼女が穏健派の中心となって活動をしていた。 しかし、彼女による必死の多数派工作もあてが外れてしまい、つらい立場に置 かれつつあった。 名前を呼ばれて、1人の男がゆっくりと議会の中心へと歩く。 クルアルド・コーエン。彼は過激派の中心人物の1人である。 ローレン・ギリアードと深く結びつき、地位を獲得していった。 こうして1月の政変といわれたすり替え劇は、すんなりと行なわれてしまった。 クルアルドは、早速共和国へ改めて宣戦布告すると共に、国内での軍需拡大を 推し進めて行くのである。 連邦国民も、最近あまり良くない政治や軍事行動に嫌気を指していたのか、反 発するどころか逆に期待感を持つようになっていた。 一方、共和国軍エウロペ軍政府では、この事を鼻にもかけてはいなかった。 北エウロペでは、帝国軍残党の掃討作戦と暗黒大陸上陸作戦で手がいっぱいだ ったからだ。 所詮南の弱小国家には、好き勝手させておけば言いと思っていたである。 しかし、そんな中でディーベルトを早めに押さえる事を提唱するものがいた。 MK―2師団司令、コクン准将だった。 彼は、北エウロペ南部一帯での帝国軍掃討の功績を認められて昇進していた。 「我々はこれから50年前に、幾度も煮え湯を飲まされた暗黒大陸へ進出するの だ。君の部隊にもぜひ主力として行ってもらいたいのは、分かっていると思う が。」 ニクシー基地の作戦部長が怪訝そうに言う。 「確かにそうです。が、南の僅かな抵抗勢力を残してニクスに向かうのは少々危 険と思われます。相手は曲がりなりにも国家を名乗っている上、先日我々に対 して無謀な宣戦布告をしてきております。しかし、これ以上調子に乗られては 目触りというものです。まさかこんな辺ぴな戦いをレイフォースにさせるわけ にも行かないでしょう。ですから私の部隊で片付けようと申しているのです。」 彼は今回のニクス大陸上陸作戦を前に、南エウロペに巣食うディーベルトの一 掃を作戦部に持ちかけたのだ。 「・・・・・・分かった。君の言うとおりにしよう。明日にでも南部へ進出し、 ディーベルトをたたけ。作戦とは全て君に一任する事にする。ハーマン指令に は私から伝えておく。」 少し考えた後にそう述べる作戦部長。 「ありがとうございます。」 そう言うと部屋を後にした。 その頃、共和国が見据えるニクス大陸にあるユミール基地では、改造輸送船モ ビーディックが出航しつつあった。 それを凝視する男が1人。 「いくら見つめたってあんたがあれに乗ることは出来ないよ。あきらめな。」 男の背後から声をかける女性。ポニーテールのブロンドが髪の美しい女性だ。 「・・・・・・そんなことぐらいわかってる。」 「大体あんた、何のためにあの大陸に行ったか分かってないじゃないか。」 続けざまに言う女性。 「・・・・・・。」 男はその言葉にただ黙っているばかりだった。 「何にしても今のあんたではPKの面汚しでしかないの。分かる?前回の目的 を言ってもらいましょうか。」 怪訝そうな顔をする男。 「・・・第1、敵の動きを探る、第2に・・・・・・。」 そこで男の言葉が詰まる。悔しそうな表情でいっぱいだった。 「アルフレッド・イオハルの引き抜きだったよな。クリスティ。」 その言葉に二人が振り向く。 「マッケンジー。」 振り向いた先にいた男の名を呼ぶクリスティ。 「エウロペに対する攻撃は今回だけじゃない。もしアルとの再戦を望むんだっ たらその日まで待つんだな。」 「・・・・・いいのか。俺は命令を無視したんだぞ。」 ぼそっとつぶやくロック。 「どっちにしても彼には、この国や我々ゼネバスの同胞を裏切った罪がある。 誰かが一度、本国へ連れ帰らなければならいなからな。」 そう言うと西方大陸がある方向をにらむように見る。 「だったら今すぐにでも行かせろ・・・・!!俺は今すぐにでもやつを倒さな ければ気がおさまらない!!」 興奮して詰め寄るロック。 「・・・・・・やれやれどうやら興奮が収まらないようだね。じゃあ僕と戦っ て勝ったら、特別にヴォルフ様に口利きしてやろうじゃないか。」 困った様子を見せなら言うマッケンジー。 「なんだと!?やってやろうじゃないか!!」 いきり立つロック。 「おまち、あんたの相手はうちがしてあげるよ。いいねマッケンジー。」 二人の間に割って入るとそう言うクリスティ。 「僕はかまわないが、ロック君はどうだい?」 ロックに振るマッケンジー。彼自身は楽しそうだ。 「おれもかまない。アイゼンドラグーンのあんたとは一度やってみたかったん だよ。」 そう言うと不敵な笑いを見せる。 「もう一つ約束の追加。うちが勝ったら1ヶ月後の潜入の際には、うちもついて いくけど、それでもいいね。」 にらめつけるように言うクリスティ。 「ああ別に俺は何だっていいぜ。エウロペに行けるんだったらな。」 そういうと不適に笑う。 「勝負は公正に二人ともバーサークフューラーに乗ってもらう。二人ともはじ めて乗る機体だろう。そのほうがこちらとしてもデータも取れるし、見ていて 楽しいからな。」 屈託ない笑顔を見せてそう言うマッケンジー。 「相変わらず日とを使うのが上手いよねぇ。」 飽きれた様子のクリスティ。 「首を洗って待ってな・・・・。」 そう言うとロックはその場を離れる。すでに戦いの事でいっぱいのようだった。 「わざわざ君が戦う事もなかったろうに。」 「もともとうちが説得に行く予定だったんだ。これぐらいさせてもらってもいい だろう?」 「なるほど、前回あいつのせいで、会いに行けなかったのが腹立たしいんだ。」 意地悪く言うマッケンジー 「・・・・・・っるさいね。」 マッケンジーの言葉に頬を赤くしながらそう言って虚勢をはる。 「もうしらん。先に行ってるから。」 顔を赤くしながらそう言うと彼を置いてすたすたと格納庫へと向かう。 「うーん、ああ言うかわいいところをアルの前で見せていたら彼の気を引けたん だろうに。いつも虚勢を這ってばっかりで。分かってるのかな?クリスは。」 遠き過去を思い出すように言うマッケンジー。 二人は先に戦死したアダールと同じ、アルフレッドの幼馴染である。 正確にいうとマッケンジーだけは、高等部からの親友であったが。 彼らも元ゼネバス帝国の出身者である。 ただアルフレッドと違うのは、プロイツェンを信奉するプロイツェンナイツを 選び、(後にアイゼンドラグーンに配置換えとなった。)アルフレッドはプロイ ツェンを介さない、皇帝直属の親衛隊を選んだ事だろうか。 結果的にアルフレッドはエウロペへ飛ばされ、彼女立ちは高い地位を獲得した。 数分後、2機のバーサークフューラーが演習場に姿をあらわす。 ただ、クリスティの乗るバーサークの頭部の装甲はまだ試作段階のシュトゥル ムユニットのものである。 「よいのですか?マッケンジー大尉。」 マッケンジーの横に付き添うようにいる彼の副官が尋ねる。 「今回の事は、開発部からの要望もあって上からの了承は取っているよ。そんな 事は君らが心配しなくていいんだ。」 「・・・・分かりました。」 「何か楽しそうな事をしているね。」 すっと隣の席に座る女性。風に緑色の髪がなびく。 「これはこれは、PKで“鬼の爪“で有名なユイニー・カルダント少佐。」 驚いて見せるマッケンジー。 「くだらない言いぐさはいいんだよマッケンジー。で、これはどういう事だい?」 少し顔をゆがませつつマッケンジーの隣に座る。 「ええ、これはお宅のロック君の言い出した事でね。とりあえず機体のテスト もかねて一戦交えてもらう事にしたんですよ。」 「なるほどねぇ・・・。」 演習開始のブザーが鳴り響き、同時に2機が動き出す。 まず先手を取ったのはロックだった。 ビームを連射してクリスティの動きを封じようとする。 そして動きが鈍くなるのを見計らい、一気にバスタークローで動きを止めにか かる。
「さっさと終わらせようぜ!!」 「あまいね!!」 ロック機のバスタークローが振り上げられると、突きにかかる。 バスタークローはクリスティ機の右ほほをかする。 それと同時に音を立てて装甲が弾け飛ぶ。 「何!?それなら・・・!!」 次にロックはバスタークローを大きく展開して至近距離でビームを発射する。 クリスティは、それを察知してホバー機能を使い瞬時によける。 それを追いながら連射を続けるロック。 クリスティはバスタークローを大きく展開すると動きを止めて、Eシールドを はる。 「そんなものいつまでも使ってられると思うな!!」 ロックの攻撃は激しくなる一方だ。 一方のクリスティは、じっと攻撃に耐えていた。 「しつこいぞ!!」 そう叫んだかと思うと荷電粒子砲の発射体制に入る。 「!?」 それを見たクリスティ機が、一気にロック機との間合いを詰めると、そのまま 体当たりを敢行する。 「ぐあぁ!?」 ショックアンカーをおろしていた為に、よける事すら出来ずに近くのビルにた たきつけられる。 「あんたは性能に頼りすぎだよ!!」 その言葉はどこかで聞いた気がした。 そう、あのアルフレッドからも同じ言葉が発せられていた事を思い出す。 「お、おれは・・・・・・おれは!!」 叩きつけられたビルから驚異的スピードではいあがるロック。 「根性だけは立派なもんだね!!だけどそれだけじゃあうちは倒せんよ!!」 「くそったれ!!」 「バスタークローはこうも使える!!」 そう言うと目にもとまらぬ速さで、ロック機の首筋を三本のクローが捕らえた。
「・・・・・・!!」 「これで終わりだよ。」 その言葉と同時に三本のクローがじわじわと首筋に食い込んで行く。 「・・・・情けないやつだよ。今度みっちりとしごいてやろうかね。」 そう言うとその場を去るユイニー。 「こわいこわい。」 そう小声でおどけてみるマッケンジー。 そして決着のついた2機を見下ろすようにして立つ。 「そこまで。いい戦いぶりを見せてもらったよ。」 そう言うとにこやかな顔をしてマッケンジーは手をたたく。 「とりあえず約束は守りなよ。」 コクピットから降りてきたロックに向かってそう言うクリスティ。 「・・・っけ!分かったよ!!1ヶ月待てばいいんだろ!?」 そう言葉を吐き捨てるとコクピットから降りて、その場を足早に去って行く。 「今回の勝因は?」 いつのまにかクリスティの横にいたマッケンジーが、手をマイク代わりにイン タビューする。 「ま、自分を知っているやつと知っていないやつの差かな。」 舌を出しててへっと笑いながら言うクリスティ。 「何やらすんよ。」 と一人ボケ突っ込みを入れるクリスティ。 「ほんと君は見ていて飽きないね。」 笑いながら言うマッケンジー。 「ほっといて。」 そう言うとすねて見せる。 それから数週間後。 共和国軍の中でも知るものの少ない基地があった。 闇夜を利用した機体テストが毎日のように行なわれていた。 「なかなかいい機体じゃないか。あの黒いブレード。」 モニターを見て意気揚々のコクン准将がいた。 「我々の最高傑作品です。同じ共和国製のブレードと比べても天と地の差ほどに 違いますよ。」 脇にいる黒い服を着た男がそう答える。 「こいつを何機かこちらに回してもらえれば私の計画も進みやすくなるという ものだが。」 彼の目には黒いブレードの勇姿しか移っていなかった。 「残念ながらこの機体は試作段階です。その上ブレード自体がOSを通常より 強めの設定にしている為に、気性が激しくパイロットをえらびます。今動いて いるのも有線による制御で、パイロットは乗っておりません。」 「それは難物だな。なんとかならんか?」 「そちらのほうでパイロットさえそろえてくれれば問題はないのですが。」 そのとき、彼らの会話をさえぎるようにサイレンが鳴り響く。 「どうした!?」 黒服の男が通信機に向かって怒鳴り散らす。 「B2、2号機が突然制御不能に!!有線コントロールを引きちぎって基地外 に!!」 「何だと!?逃がすな!!あれには巨額の開発費を投入しているんだぞ!!」 怒鳴り散らす黒服の男。 「なってないな。裏企業とはいえこんなものか・・・・・・。」 彼らのお粗末な対応に嫌気がさすように言う。 「すいません、ちょっとしたトラブルが発生したようです。」 指揮をしおえた黒服の男は、そう言いながらコクンのそばにやってくる。 「私のライガーはちゃんと捕まるんだろうな。」 「当然です。」 意味もなく自身ありげに言う彼に、一抹の不安がよぎってならないコクンだった。 それから数時間後、一機の黒いセイバーが東に向けて歩いていた。 途中襲ってくる共和国ゾイドを、もろともせずに東へと歩きつづけていた。 機体にあるはずのガイロス帝国のマークはかすれて見えなくなっている。 その背には特徴あるバルカンが装備されていた。 コクピットには前髪の長い青年が座っている。セイロンである。 彼はあの日以来、軍を抜けてその日暮らしの用兵へと戻っていた。 ただ機体が機体なだけに共和国軍が、何度も襲ってくる。 この日も昼間に共和国軍が襲ってきたが、難なく迎撃した。 しかしこのようなことを続けていると、共和国からはお尋ねものになるのは必 死だった。 しばらく歩いていると、異様な気を感じる。 「・・・・・・。」 不可思議に思いその方向へ機体を向ける。 そして段々近づいてくるそれに対して身構える。 次の瞬間、近くの岩場の上から黒い物体が、セイロンの乗るセイバーの上空を 横切ったかと思うとこちらを向いて身構える。 「!?」
さらに3機の黒いシールドライガーがそれを追いかけるように表れた。 そしてセイロンの目の前で対峙する4機。 待っていたようにほえる黒いブレード。 威嚇するシールドたち。 それに呼応して黒いブレードが大きくほえるとシールドに向かって走り出す。 そして一気に先頭のシールドとの間合いを詰めると、前足でなぎ払う。 その一撃でしとめると着地と同時にもう1機のシールドのほうこへ向き、大き くブレードを展開し、一気に加速する。よける間もなくシールドは、足を切り 落としされて行動不能に陥ってしまう。 それを見ていた最後のシールドは、振り向きざまに放たれたビームを受けてそ の場に倒れた。 一仕事を追えたブレードは、力を誇示するかのように大きく遠吠えする。 そしてゆっくりとセイロンのほうを見る。 しばらくセイバーを見据えるとブレードは、その場を去って行ってしまった。 「・・・・・・。」 また会えるようなそんな気がするセイロンだった。
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