策動
血の色をした1機のゾイドが地をすべる。 目の前には同型の紫色のゾイドがいた。 両脇に装備された大型のシールド、そして巨大なはさみ。 そんな重い装備をもろともしない足と背中のスラスター。 背中のスラスター部分には、荷電粒子コンバータがついている。 ジェノブレイカー。名パイロット中の名パイロットのうち、さらに一握りのも のしか搭乗する事の出来ないゾイド。 実際この帝国で、このブレイカーを扱えるものはごく僅かな人間に限られていた。 その同型機同士の対決である。 「ほらほら、守りが手薄だよ!!」 紫の機体から響く女性の声。 その自慢のフリーラウンドシールドが大きく手前に伸びると、赤いブレーカー に襲い掛かる。 それを難なく交わすとすかさず懐に入ろうとする。 「はさみはもう一つ残ってるんだよ!!」 懐に入ろうとした赤いブレーカーを脇からはさみにかかる。 すると赤いブレーカーのフリーラウンドシールドが動き、紫のブレーカーの動 きを封じ込める。 「・・・・・・取った!!」 赤いブレーカーのパイロットの声が響く。 「このあまちゃんが・・・・・・ほざくんじゃないよ!!」 そう叫ぶと一気に全スラスターを使って体当たりをかける。 急激に動く紫のブレーカーになすすべもなく弾き飛ばされる赤いブレーカー。 「ぐぁ!!」 「はっはははは・・・!!久しぶりに楽しませてくれるけど、ここまでだね ぇ!!」 笑い声がこだますると、フリーラウンドシールドを使って体を安定させ、一気 にとどめを刺しにかかる。 そして、両脇のフリーラウンドシールドが巧みな動きを見せて、赤いブレーカ ーに襲い掛かる。 態勢を立て直そうと必死の赤いブレーカーには避ける事すら出来なかった。 このフリーラウンドシールドの神業的な使い方が、彼女を鬼の爪と言わしめる 一つの理由だった。
「終わりだよ。ロック。20分。まあ今回は何とか粘ったようだけど、まだまだ だね。」 その言葉はロックにとって屈辱でしかなかった。 彼にとって相手に勝つ事意外は、全て屈辱としか取る事が出来なかった。 しばらくしてパイロットスーツを脱いだロックが、バーに姿を見せる。 久しぶりに酒でもと思ったが、気が乗らないのでやめてそのまま自室に戻る。 「ちっあの女、いつかひれ伏させてやる・・・・・・。」 そう言うと自室のかべにこぶしをたたきつける。 あまりの力の強さに壁に穴をあける。 「ったく、もろい壁だぜ・・・・・・。」 そう言うと、そのままベットに倒れこむと眠りにつくのだった。 「彼はどうですか?」 「なんだい、また来たのかい。」 いつのまにか彼女の脇に立つマッケンジーに、冷ややかに言う。 「もと同僚にえらく冷たい言葉ですねぇ。」 ユイニーの言葉にどこか寂しげに言うマッケンジー。 「何をいまさら・・・。」 飽きれたように言う。 「で、彼の調子は?」 「あの男は根本的になってないよ。よくこのPKに入れたもんだ。操縦技術が ちょっといいのとゼネバスの生き残りだけって言うだけで、入れるもんなのか い?」 ユイニーはロックの資料を片手に言う。 「それを僕に言われてもねぇ・・・。審査するのは審査部でしょ。僕は作戦部な んだから。それに・・・・・・。」 そこで言葉を詰まらせると彼女のほうを見る。 「それになんだい?」 不機嫌そうに彼を睨む。 「鬼の爪とまで言われるあなたとあそこまで戦える人間はそういないでしょ う。」 にこにこしながら言うマッケンジー。 「・・・確かにここ数週間での奴の成長は著しいが、所詮付け焼刃だよ。」 そう言うと手に持っていたロックの資料を机に投げ出す。 それを何気なく見据える。 その中に書いてある一文を見て細い目をさらに細める。 「・・・・・・なるほど、そう言う事ですか。どうりで力のつけ方が異常だと思 いましたよ。」 「とにかく本人が望んでやっている事だから私は何も言いはしないさ。たとえ精 神が壊れ様が死のうが知った事っちゃないからねぇ。」 そう言うとにっと笑う。 「・・・これはこれは、また厳しい意見ですね。しかしあなたの部下である以上 はそういうわけにも行かないでしょう。」 困ったような言いぐさをするマッケンジー。 「あんな奴、私の部下でもなんでもないさね。」 つき放すように言い放つ。 「じゃあ何なんです?」 不思議そうに聞くマッケンジー。 「あれは復讐という名の鬼さね。私の部下にそんな奴はいないさ。」 そう言うとその場で少し考え込む。 「なるほど、復讐というなの鬼ですか。クリスティにはよく注意させておく必要 がありますね。」 そう言うと、その場を去ろうとする。 「ちょっとまちな。」 「??なんです?」 呼び止められて顔を向ける。 「あんたん所のBFの背中に付いてる奴をこちらに回してくれないかい?」 「バスタークローをですか?」 「ああ、あのおばかちゃんには、あっちのほうが使いやすいだろうと思ってね ぇ。」 「部下でもないとか言っていたのに親心とはなかなか・・・・・・。」 妙にニヤニヤとするマッケンジー。 「妙な事考えてんじゃないよ。ただPKを名乗る以上、これ以上同じ奴に負け させるのは、我々PK師団にとって屈辱でしかないからね。これで次も負けて きたら、あいつはもうこの世にいないだろうさ。」 そう言うと背筋寒気を覚えるような笑みを浮かべてその場を去って行く。 「おお、こわいこわい・・・・・・。」 悪寒が走ったか、そう言うと足早にその場を去って行った。
空には暖かい日差しをくれる太陽が光々と照っていた。 その下で若い男が壊れた建物の修理を手伝っていた。 「すいませんねぇ、こんな事までして頂いて。」 初老の女性が男に礼を言う。 「・・・・・・別に気にする事はない。こう言う仕事もたまにはいいもんだ。」 そう無愛想に言うと黙々と仕事をこなしていく。 「・・・・・・よし。これで雨が降っても大丈夫だろう。」 そう言うと男は、屋根から下りると脚立を折りたたんで直す。 「あ、そこにいたんですか。」 彼の姿を見つけると、近寄る女性。 「クランシーおばさん、こんにちは。」 「おやおやお出迎えかえ。いいねあつあつのカップルは。」 そう言うと笑顔を見せる。 「お、おばさんったら・・・・・・。」 顔を真っ赤に染めて女性はうつむく。 「何か私に用があったのではないのか?」 男は話を変えるようにたずねる。 「えっ、あ、パーカーさんが、用事があるので呼んできてくれって・・・。」 話を振られ動揺を見せつつも用件を言う。 「分かった。今すぐ行く。」 「あ、私も行きますね。」 そういうとか彼の横にピッタリと寄りそう。 「修理ありがとうね。」 そう言いながら手を振るクランシー。 「あの子がここを出て行った時は悲しい目をしていたけど、あの男を連れて戻 ってきた時からは、いつものあの子の目に戻ったようで良かったよ・・・。」 遠ざかって行く二人を見てそうつぶやくのだった。 二人は大きな建物に入ると、地下室へと向かう。 会談の奥には自動ドアがあり、扉が開くと同時に二人を明るい光が照らす。 そこには大きなスクリーンがいくつもあり、大勢の人々がせわしなく働いていた。 「おお来たか。」 年配の男が二人に声をかける。 「何か私に用があると聞いてきたのだが。」 「ああ、そうだ。正確にはそこの連中だがな。」 そう言ってパーカーが目をやった先には、サングラスをかけた男1人が座って いた。 「あなたが帝国軍、アルフレッド・イオハル中佐ですね。おお、ミラルダ・リ ヴィルさんもいらっしゃいましたか。」 その言葉に男が反応し、サングラスの男のほうへと顔を向ける。 「・・・残念がら私はすでに軍を抜けた身だ。いまはただの一般市民でしかな い。」 そう言うとサングラスの男を睨む。 「そんなに睨まないで下さい。アルフレッドさん。何もあなたを捕まえに来た というわけではないんですから。」 睨まれて慌てるサングラスの男。 「しかし、おまえ達は情報部の人間だろう。それでどんな用件だ。」 「あなたのパイロットとしての腕を見込んで、折り入って頼みたい事が有りま して。」 「私はもう無駄な戦いはするつもりはない。」 そういうとミラルダを連れてその場を去ろうとする。 それを見てサングラスの男は、あるに近づく。 「あなたが断れば、シビーリのサラ・ミランやこの町の方達がどうなるか分か りませんが、それでもよろしいのですか。」 ささやくような声でそう耳打ちされると、思わず振りかえるアル。 「きさま・・・・・・。」 「これはほんの一例、さあどうなさいます?」 少しの沈黙。 「・・・わかった。行けばいいのだろう。」 「ご承諾ありがとうございます。なあにご心配な去らずともあなたに戦っても らうつもりはありませんから。」 「アル・・・・・・。」 心配そうに見つめるミラルダに気付く。 「そういうことだ。おまえはどうする?ついて来るか?」 そうたずねられて戸惑うミラルダ。 「ミラルダ、心配しなくてもこの町は俺達だけで何とかやって行けるさ。」 答えあぐねている彼女を見てそう言うパーカー。 「でも・・・。」 まだ躊躇(ちゅうちょ)するミラルダ。 「今おまえが一番したい事をしてくれれば、俺達は安心して見守ってやれるん だ。だからおまえはアルと行けばいい。」 「・・・ありがとうございます。」 そう言うと、深々と頭を下げるミラルダ。 数時間後、二人は基地に着陸しているホエールクルーザーに乗りこむ。 ホエールクルーザーは、ホエールカイザーを参考にディーベルトで開発した小 型輸送機で、サーベルクラスの大型ゾイドを3機搭載できる機能を有していた。 ゾイドの輸送任務のほかに各都市間の、人員輸送にも一役買っている。 二人の乗りこみが確認されると、上昇するクルーザー。 それをパーカー以下数十人が二人を見送った。 ミラルダは、懐かしいフィルバンドルの町を窓越しに見ていた。 町は復興しつつあったが、町の脇にある湖の周りには、いまだあの時の戦闘で 再起不能となったゾイド達の残骸が、いまだに無残な姿をさらしていた。 それは彼女にとってつらい記憶を呼び起こすものだった。 「フィリア・・・お父様・・・私、また戻ってきます。」 そう言うと悲しい目からこぼれそうな涙をこらえながら、窓のそばから離れる。 その奥の別室では、アルフレッドと先のどの男が話しをしていた。 「ご紹介が遅れましたが、私は、カルル・レッデと申します。以後お見知りお 気を。」 「で、この私に何をさせる気だ?脅迫までして。」 「ああ、あの時は失礼いた入ました。あれはあなたを承諾させる為の言葉で、 本気でするつもりなどありませんよ。この大切な時期に敵を増やすようなこと を誰がするとお思いで。」 そう冷やかすように言うカルル。 ずれたサングラスをもとにもどす。 「脅された以上は徹底的に疑らないとな。」 そう言うとふっと笑顔を見せる。 「疑りぶかいですねぇ・・・。」 「で、私は具体的に何をすればいいんだ?」 「あなたにはシビーリの近くにある工場で、新型ゾイドのテストパイロットを していただきます。」 顔を近づけてなぜか小声で話す。 「テストパイロット?」 その言葉に思わず聞き返すアル。 「はい。ディーベルト連邦製の新型ゾイドです。今後主力として活躍を期待さ れています。」 男は淡々と説明する。 「テストパイロットだったらいくらでも要るだろう。脅されてまでする必要が あるとは思えんが・・・。」 やや不満そうに言うアルフレッド。 「はは、意外にしつこいですね。テスト終了後、あなたにはその後設立される 予定の教導隊の隊長を務めていただきたいのですよ。」 少し困った顔をすると、また淡々と説明する。 「・・・そんな役目をよそ者の俺にさせるとはどういう了見だ?」 通常考えれば驚いて当然である。 「この国にはそれだけ優秀な人材がいないのですよ。この国の未来の為にお願 いします。」 そう言うと頭を下げるカルル。 「まあいいだろう。やってやるよ。ただ一つだけ保証してもらおうか。」 「なんです?」 「我々とサラ、フィルバンドルの人々の安全だ。」 「ほんとしつこいですね・・・。私はこれでも穏健派の端くれですよ。今後と もよろしくお願いします。」 そう言うとカルルは笑顔を見せるのだった。
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