策動2
1機のホエールキングが、エウロペ大陸へ向けて出航した。 目標はニクシー基地である。 それに遅れる事1時間、エントランス基地で旧型輸送機であるホエールカイザ ーが、同じくエウロペ大陸へと出航した。 出航後しばらくしてレーダーに発見されにくい深海へと姿を消す。 機体には特殊な塗料が塗られており、電波をある程度吸収出来るようになって いた。 「ヴォルフ様の作戦を盾に一気にエウロペ大陸の奥深く潜入。これだとどっち が本作戦か分かりませんねぇ。」 楽しげに言うマッケンジー。 「あんた楽しそうだね。こっちは大役があるって言うのに・・・。」 脇で飽きれたように言うクリスティ。 「自分で志願しておいて何を言ってるんでしょうかね、この人は。」 こちらも飽きれて言う。 「ふん。」 そう言われて言い返せずただ顔をそむける事しか出来ないクリス。 「で、ロック君はいまどこにいるんですか?」 「与えられた部屋にこもってるみたいだよ。なんだかこの間会った時よりさら に無気味になって帰ってきた感じがするよ。思わず背筋が寒くなったよ。あん まりすかないなぁ、ああいうのは。」 「あなたが好意を寄せるのはアル1人でしょう・・・・・・ふがっ!?」 口に小指を突っ込まれて広げられるマッケンジー。 「あんたっていっつも一言多いんだよね。うちがアルをどう思おうといちいち 言われたくないよ。あんたもそのおせっかいがなければ、いい男だったんだけ ど・・・・・・残念の一言につきるね。」 怒りに任せて口を広げようとするクリス。 「ほらほふも、ごひふほふはひははふふへほっへおひはふ。」 小指で口を広げられている為に、上手く話せないマッケンジー。 それを見かねて口から手を離すクリス。 「それじゃあ作戦時間まで機体の様子を見てくるよ。」 「りょうはい・・・。」 まだ広げられた口が治らず、まともに話せないでいるマッケンジーだった。 その頃ロックは、与えられた自室でじっと窓から見える景色を見つづけていた。 部屋に電気もつけず、舷窓から漏れる光が唯一、部屋を照らす。 「・・・・・・決着は必ずつけてやるからな。首を洗っていろアルフレッド。」 そう何度もつぶやく部屋を出る。 そして格納庫に向かう。 格納庫に着くと自機であるジェノサイドの前でじっと見つめる。 「おや?ロック、あんたがこんな所にいるとは以外だね。」 機体の調整していたクリスティがロックに声をかける。 しかしロックは、そんな事もお構いなしにじっと見つめる。 「・・・・・ほんと無気味になって帰ってきたよ。まったく鬼の爪はどういう 教育をしてきたんだか。」 そう言うとフューラーの調整に精を出す。 ロックは目の前にいるジェノサイドを、目を細めて見据える。 「あの女・・・・一体どういうつもりでつけやがったんだ。」 自分の機体をまじまじと見ながらつぶやく。 彼のジェノサイドの背部には、ブレーカータイプのスラスターが装備されてい た。 しかし、その両脇に装備されているのはフリーラウンドシールドではなく、 バーサークフューラーが装備するバスタークローが装備されていた。 「・・・・・確かにこの装備のほうが攻守ともにフリーラウンドよりかはいい が、あの女に負けた気がしてならねぇ・・・・・・・。」 しかし有効性を認めている以上、装備をはずす気にはならなかった。 ジェノサイド(ブレーカータイプ)にバスタークローを装備することにより、 攻撃力、守備力の向上が著しいが、そのままではバスタークローに装備されて いる高出力ビーム、Eシールドを使用できない。 そのために、荷電粒子コンバーター部分をバスタークロー専用のジェネレータ ーに換装されている。 「何にしても、これで奴の首が取れる。」 そう言うと不適に笑ってその場を跡にした。 それから数日後、アルフレッドとミラルダはシビーリに到着していた。 まずサラの住む屋敷へと向かう。 二人の後ろをカルルがゆっくりと付いてくる。 (護衛だといっていたが監視と言った方が正しいようだな。まあガイロス出身 の身では仕方ないか・・・・。) ふと気がつけば、周りを気にしている自分に気付く。 そしてふっと笑う。 「どうかしたんですか?」 不意に笑顔を見せるアルフレッドを不思議そうに見ながらたずねるミラルダ。 「いやたいした事はない・・・気にしないでくれ。」 「なんだか気になりますが、あなたそう言うならいいです。」 そう言うとそっと腕を組むミラルダ。 その行動に多少戸惑いながらも何も言わないアルフレッドだった。 「いやはや、まったくもってお熱いカップルを見ているつらいですなぁ・・・。 思わずきぃーく・や・しー!!って叫びたくなります。どこかに玄ちゃんいな いかなぁ・・・。」 なんだかよく分からない事(知っている人は知ってます。)を言いつつ後ろをつ いて歩く。 彼らが屋敷に着くとサラが慌てて玄関に姿をあらわす。 「ミラルダ!!」 大きな声で叫ぶとミラルダに抱きつく。 「サ、サラ・・・・・・。」 突然の事に動揺するミラルダ。 「ったくあんたって子は、人に散々心配させておいて・・・。」 サラは涙を吹きながらミラルダの顔をまじまじと見る。 「ごめんなさい・・・迷惑ばかりかけて。でももう大丈夫だから。」 そう言うと笑顔を見せる。 「感動の対面に水を差すようですまないが・・・・・・。」 申し訳なさそうに二人の会話にわって入るアルフレッド。 「あ、どうも申し訳ないです。ミラルダ、こちらの方は?」 「あの前に通信した時に話したアルフレッドさん。」 「あーあなたが。はじめまして私ミラルダの従兄弟のサラ・ミランです。どう ぞよろしくお願いします。」 「よろしく。」 そう言うと二人は握手を交わす。 「ミラルダ、私はこれからあの男についていくからおまえはここでゆっくりし ていてくれ。」 「分かりました。」 その言葉を聞くとアルフレッドは、自分の荷物をもってカルルとその場を去る。 「さっき後ろにいたのはカルルね。何で情報部の人間と一緒なのよ。そもそも どうしてこっちに来たの?」 サラにとっては謎だらけである。 「ええ、あの人カルルさんからテストパイロットの要請を受けてそれで私達こ っちへ来たの。」 「テストパイロットねぇ・・・たくあの情報屋はどっからアルフレッドさんの 情報を仕入れてきたんだか・・・。」 「・・・・・・情報部だから入ってきて当然じゃないの?」 「・・・・・・あのね、当たり前の事言わないで。もうちょっとひねった言葉 を言って欲しいもんだわ。」 ミラルダにつっこみを強要するサラ。 「ご、ごめんなさい。」 「で、あのアルフレッドさんとはどこまでいってるのかしら?」 「えっ!?あのその・・・・・・。」 顔を赤くして押し黙るミラルダ。 「たくあの時はすごい顔をして出ていったと思ったら、ああ言う素敵な彼氏を 連れて帰ってくるんだからこの子は。奥手だとばかり思っていたけど母さんは 安心したよ。」 そっと目の涙を拭く真似をする。 「サ、サラ!!からかわないで!!」 そうい言うとミラルダは、赤い顔をしながらしばらくの間、追いかけっこをし ているのだった。 「私はタイガー乗りであって、T―REX乗りではないのだが。」 目の前にそびえ立つ機体を見てそうつぶやくアルフレッド。 袖を通した真紅のパイロットスーツ。 それは彼がガイロス帝国にいたときに着ていたものである。 彼らの部隊は皇帝のお膝元の部隊という事もあり、他の隊と区別する為にパイ ロットスーツは、旧暗黒軍タイプの色を使用していた。 左肩にあったはずのガイロスマークをはがした跡があったが、右肩のダーク・ ダガー隊の隊章はそのままだった。 「いやいやあなたほどの腕なら問題はないでしょう。」
脇に立つカルルがにこやかに言う。 「たしかに問題ないが、しかしこれだけの高性能な機体を良く作れたものだ。 ディーベルトの技術力もあなどれんな。」 手ものとの資料を見ながら感嘆の言葉が漏れる。 「そう言っていただけるとうれしいものです。今回は隊長機仕様の装備試験で す。ある程度の試験運用は済ませてますが、やはり一通りやってみますか?」 「そうだな。機体に対してなれも必要だろう。それにこいつとの相性もあるど だろうしな。」 そう言うと機体に向けて歩き出す。 そしてコクピット内に入ると一呼吸いれる。 「・・・ツェルベルクといったか、なかなかいい機体のようだ。」 そう言うと機体を格納庫から出す。 久しぶりに操縦する感覚が懐かしい。あの日を境に握る事のなかった操縦幹。 錆びついているようでも握ったと同時に研ぎ澄まされて行く感覚。 「準備よろしいですか?」 通信機越しにカルルの声がコクピット内に響いた。 「ああ、とりあえず訓練用ゾイドとの模擬戦から頼む。」 「基本からやるつもりだったのでは?」 アルフレッドの言葉に慌てるカルル以下スタッフ。 「そのつもりだったが、乗ったと同時にこいつから教わったよ。」 「はぁ、そうなんですか。それでは・・・・・・。」 アルフレッドの言葉にいまいち理解できないが、模擬戦の準備を進めるカルル。 「さぁおまえの実力を見せてもらおうか。」 そう言うといつもの鋭い目つきへと変わる。 そして目の前に迫ってくる訓練用ゾイドに目がけて飛び込む。 2機のサーベルシュミットを中心にレッドホーンやSディールが取り囲むよう にビームを放ちながら迫ってくる。 無造作に撃たれるビームを難なくよけながらまずサーベルシュミットの懐へと 入り込む。 それに気付いたサーベルが引こうとすると、その巨大な口がサーベルの喉もと を捕らえ動きを止める。 陣形を乱されたゾイド達は、右往左往としながら散発的な攻撃を繰り返す。 しかし全て返り討ちにされてしまう。 上空からSディールの低空部隊が数機、攻撃を仕掛けてくる。 何発か食らうが特に機体に支障はなかった。 「装甲も申し分ないようだ。」 そう言うと背中に装備された連装ビームを一斉射し、Sディールを沈黙させる。 そしてさらに襲い掛かって来る地上部隊を続けさまに、連装ビームを放つ。 背中のフレームにより、自由な角度でビームを放つことができる為に、岩場な どに隠れる敵も難なく撃破して行く。 そこに数機のサーペントが踊り出る。 同時に放たれる無数のビーム砲。 しかしそれも意に介そうとせず、サーペントに近づくとテイルスマッシュの 一撃を加える。 尾の一振りで吹き飛ぶサーペント。 「すさまじい破壊力だな。」 自分の放った攻撃の威力に感嘆の声を漏らす。 サーペントを相手にしている間に、生き残ったレッドホーンが隙をついてクラ ッシャーホーンの一撃をツェルベルクに見舞う。 しかし、ツェルベルクはすんでのところで避けると、レッドホーンの後ろへと 回り込み、巨大な口をあけてレッドホーンの尾を加える。 そしてそのまま引きずりながら勢いをつけて放り投げる。 投げられたレッドホーンは、システムフリーズしてその場に身を置いた。
あたりを見まわすとゾイド達の残骸があちらこちらに見えた。 そして訓練用ゾイドの全滅を確認すると、その場に機体を止める。 「想像以上に動きがいい。すばらしい機体だ。」 うれしそうに言うアルフレッドがそこにいた。 さらに数日後、夜陰にまぎれてきたエウロペ大陸と西エウロペ大陸の間にある 湾内を静かに航行するホエールカイザーがいた。 海岸に小さな青と赤の発光を確認すると、静かに浮上してゆっくりと岸につけ る。 大きな口が開くと同時に中からアイゼンドラグーン所属のディマンティスが、 十数機姿をあらわす。 蜘蛛の子を散らすように周辺に展開すると、そのまま警戒にあたる。 しばらくしてバーサークフューラーとジェノサイドが姿をあらわす。 「それではクリス、お達者で。ちゃんと説得してくるんですよぉ。」 「はいはい。」 マッケンジーの言葉をうざったい気持ちで返答する。 「それじゃあ行くよ。」 そう言うと機体を前進させる。 それにしぶしぶついていくロック。 2機の様子を見てディマンティスが、ホエールカイザーへと戻る。 ホエールカイザーは、ディマンティスを回収すると足早にその姿を海へ隠すの だった。 「さーて、まずは東22km地点にある地下基地で情報収集か。道のりは長 いねこりゃ・・・。」 これからの事を思うとついぼやいてしまう。 彼女達が降り立ったのは北エウロペ大陸の南岸である。 現在、北エウロペ大陸には地下基地などに姿を隠して、共和国や野生ゾイドの 偵察や捕獲を目的とした部隊が各地に点在していた。 それらの部隊から情報を集めようというのである。 「・・・・・・。」 クリスがぼやいていると、後ろにいたジェノサイドが急にその場から離れる。 「こら!!なにやってんの!?戻ってきなさいよ!!」 突然の事に怒鳴り声を上げるクリス。 「もともとあんたとちんたらしながら奴を探す気はないんでな。あばよ!!」 そう言うと一気にその場から離れる。 「ったく、あの馬鹿は何を考えてるんだい・・・!!」 足を止める為に牽制をしようかと思ったが、それによって敵に発見される事を 恐れて出来ずにいた。 そうこうしている間にジェノサイドの姿は見えなくなっていた。 「あれより先にアルを見つけないと大変な事になりそう・・・・・・。」 困った表情を浮かべてそうつぶやくのだった。
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