告げるもの4
シビーリ近くの海岸線で戦闘が開始された頃、北エウロペと西エウロペ大陸をつ なぐ半島では、激しい戦闘が繰り返されていた。 半島の両端で囲まれた形となったディーベルト軍は、必死に包囲網の突破を試み たが、失敗に終わる。 そして数時間前には、半島最大の基地であったフォルナ基地も陥落した。 敗走を続けるディーベルト軍は、部隊数も作戦当初の半分以下となって、武器弾 薬も残り少なく、抵抗らしい抵抗もままならなくなっていた。 現在は、半島中心近くの西岸部に追いこまれていた。 「急げ、もうじき共和国のやつらが来るぞ。」 海岸線には、各地で生き残ったホエールカイザーと、脱出作戦の切り札としてフ ォッケナウより飛来した、ホエールキングが停泊していた。 彼らは共和国軍の監視の目をかいくぐって到着すると、休む間もなく残存部隊を その巨大な腹へ兵士やゾイド達をその腹の中に収めて行く。
全部隊の収容が、残りわずかという所でけたたましく警報が鳴り響く。 「こちらホイス・ランドレー大尉、敵を発見!!ホエール隊はすぐに発進せよ!!」 守備についていた部隊隊長であるホイスからホエールキングに向けて通信を送る。 「君らの収容がまだだ、それが終わるまでは発進できん!!」 ホエールキングの艦長であるダッタ・カウト中佐は、味方を見捨てるという行為 がどうしても出来なかった。 「今、発進しないと敵に撃ち落とされるだけだ。共和国軍は、地上に残っている我々 に任せてもらおう。あんた方は自分の任務を成功させる事に専念すればいい。」 そう言うと敬礼をして通信を切る。 「・・・・・・全艦発進する!!Eシールドは離陸とともにはれ!!ファルゲンの 部隊に警戒を怠るなと伝えろ!!」 ホイスの言葉を聞き、断腸の思いでオペレータに命令する。 ホエールキングが離陸して間もなく、共和国軍の機影が見えるのと同時に海岸線 に向けてミサイルやビームが飛ぶ。 「敵、迎撃ビームがこちらに向かってきます!!」 オペレータの悲痛な声の報告が来る。 「慌てるな!!Eシールドもはっている、落ち着いて離陸すれば何も問題ない。あ んなやけっぱちの弾が早々当たるわけがないだろ。それより目の前のオペーレー とに集中しろ!」 「了解!!」 そういってまわりを落ち着かせるが、内心では周りのクルーと同じく、飛び交う 銃弾が当たるのではないかとけがきではなかった。 かといってそんな事でこの場を逃げるわけにはいかない。 今、自分の操る艦にはクルーだけではない、数千の連邦兵をのせているのだ。 絶対に逃がして見せる。そう心に誓っていた。 「おまえ達、絶対に輸送船を守りきれ!!守りきったら投降させてやる!!それま では、降伏も死ぬ事もこの俺がゆるさねえからな!!」 『了解!!』 気合の入った応答がホイスのコクピット内に響き渡った。 彼の乗るツェルベルクをとりかこむようにしていたS・ディールやG・リーフが 共和国軍に向けて走り出す。 共和国軍は、アルバン隊の部隊を中心とした混成大隊だったが、戦力的には、ホ イスの守備隊をはるかに上回っていた。 「あのデカ物を沈めたものには俺のおごりで最高級ワインを飲ましてやる!!」 各機にアルバンの威勢の言い声が響く。 アルバンのその言葉に高揚していやがおうにも士気があがる。 前衛のガンスナイパー部隊は、手柄を欲して我先にと前進する。 そして後方支援ゾイドのゴルドス部隊は、照準はあくまで目の前に見えるホーエ ル部隊で、ホイスの部隊には目もくれる様子はなかった。 「大きい獲物を先に釣り上げたいのは分かるがよ、俺達にも意地があるんでな!!」 そう言うと戦場を一気に駈けぬけて、戦場よりやや後方に集結していた後方支援 ゾイド部隊のなかに飛び込む。 彼の部下の乗るG・リーフ4機もそれに続く。 突如として飛び込んできたツェルベルクとG・リーフに対した抵抗も出来ずに 次々と撃破されるゴルドス。
それでも執拗にホエール部隊を攻撃するゴルドス部隊。 そのうち発進の遅れていたホエールカイザーに弾が数発命中。 やや持ち上げた機体をすぐにその海に没すると、爆発を起こして炎上する。 「これ以上はやらせんよ!!」 そう叫びながら、護衛についていたガンスナイパーをものともせずに駆逐していく。 そこにすばやい動きで近づく機体が一瞬見える。 次の瞬間には、部下の乗るG・リーフが撃破されていた。 「アコット!!こいつは・・・・・・。」 部下を一瞬にして血祭りに上げたゾイドが目の前に立ち止まると、こちらを興味 深く見つめていた。 それは青い武装をしたライオン型ゾイド、ゼロイェーガーだった。 「こ、こいつが新型のライガーゼロか・・・・・・。」 うわさに聞いていたとはいえ、予想以上の動きに思わず冷や汗を流す。 「あの機体は初めて見るぞ。メインバンクのデータにはないか?」 目の前の見なれない機体に驚きながらも、部下のヤコーニに機体確認をさせるラ ーマ。 「・・・・・・メインバンクにも登録されていない敵の新型機のようです。」 「あの青角(G・リーフの事)でも驚かされているのに、こんな機体まで開発し ていたのか。なかなかあなどれんなぁ。」 感心したように言うラーマ。 「隊長!!この新型とは俺にやらせてくれよ。」 その台詞ととも2機の間に割って入ったのは、キシェルの乗るライガーゼロだ。 彼の機体だけ通常のライガーの装甲をつけている。 これは、初期に行った強行偵察時に、イェーガーユニットを破損させてしまった ためだった。 「・・・・・・・お前には無理だ、それより敵小型ゾイドの制圧に迎え。」 「あんなやつらよりもっと大物のこいつやりたいんだよ、隊長。」 「・・・・・・・聞こえなかったのか、制圧に迎え。」 「・・・・ちっ、わかったよ。」 悔しそうな顔をしてその場を離れ始める。 「キシェル、おまえは己の実力を知るということを知らなさ過ぎるぞ・・・・。」 キシェルの機体が離れて行くのを横目で見ながらいう。 ラーマは目の前の新型ゾイドに登場するホイスの気迫と、実力を肌で感じ取って いた。 「ゴルドスはあいつらにまかせて目の前のこいつに集中するか。」 横目でゴルドス部隊を懸命にかき回す部下達のG・リーフを見て、目の前の敵に 集中する。 対峙する2機。 先に動いたのはラーマのイェーガーだ。 それに呼応するようにホイスのツェルベルクも動く。 両者の格闘スピードにはかなりの差がある。 それを悟ったホイスが近づくイェーガーを天才的な感で捕まえると、格闘戦に持 ちこむ。 巨大な口で、イェーガーの後ろ足に噛み付いてはなさない。 「クッ、なんて奴だ、すれ違いさまにイェーガーの足に噛み付くとは・・・・!!」 驚きを思わず口に出して言うラーマ。 「驚いているようだが、まだまだこれからだ!!」 そう叫びながら機体を反転させて、尾の一撃を何度もイェーガーの胴体に叩きこむ。 足を捕まれている為に、逃げように逃げられないラーマのイェーガー。 「このままではライガーが持たん。こうなれば・・・・。」 そう言うと装甲の強制排除ボタンを押す。 それと同時にライガーが身にまとっていたイェーガーユニットが吹き飛ぶ。 「何!?」 吹き飛ばされたイェーガーユニットが、ツェルベルクを襲った。 次々に襲い来る衝撃にコクピットが揺れ、思わず口を緩めてしまう。 「そら。」 足を捕まえていた牙の緩みを感じると、一気に引きぬいてその場をはなれる。 逃がしたライガーを追う為に振り向くと、一旦離れたライガーが反転してこちら に向かっていた。 「し、しまった!!」 光り輝く前足。 装甲がない分、軽快な動きを見せながらツェルベルクに近づくと、大きくジャン プし、ストライクレーザークローでツェルベルクの胴体をなぎる。 レーザークローの一撃を食らったツェルベルクの胴体は、大きな傷を受けるとそ の場にドウッと大きな音を立てて倒れこむ。
コクピット内に響くアラーム。 そして目の前のコンソールにはシステムフリーズのメッセージが点滅していた。 「ちっ、ここまでか・・・・だが役目はたせたようだ、なぁ相棒・・・・。」 愛機をねぎらいつつ、空のかなたに見えるホーエル部隊を眺めていた。 そして一発の弾が、ツェルベルクより発射されると空中で赤煙を上げる。 それを見るとディーベルト軍は次々と武器を捨て白旗を揚げていく。 「潔い降伏か・・・・うまく敵に乗せられてしまったようだ。あとは空軍に任せる しかないな。」 戦いを終えて海岸線の方を見ると、上空に浮かぶ巨大な機体がぽつんと見える。 それはもう自分達には、どうしようもない事をラーマは悟っていた。 そして戦いにこそ勝ったが、戦略的に負けた事を悔しがった。 数分後、遅れて到着した空軍のレイノス部隊が、ホエール部隊の追撃に入ったの だった。 一方シビーリでは、コーエン議長以下の主要人物の戦死により政治的混乱をきた していた。 「彼らはなぜあの上空にいたのだ!!ここに踏みとどまって指揮する立場だとい うのに!!」 「我々も知らなかったのだ!!彼ら首脳陣だけが逃げ出そうとしていた事は・・・・・・・・。」 「それより目の前まで来ている敵にどうやって対処するつもりだ!?あの船には 軍上層部も一緒にいて、戦死している。誰がこの町を守るのだ!?」 残った議会議員達によるやじりあいとも取れる緊急議会が開かれていた。 緊急議会とはいえ、ほとんどは過激派の末端に位置する議員と、穏健派の議員だ けだが。 その中には今の議会進行をうやうやしく思う一人の少女がいた。 サラ・ミランである。 クリスに言われてミラルダのそばにいたが、緊急徴集により後ろ髪を引かれる思 いでこの場にいた。 しかし、ここで話し合われている内容は、とても一国家の議会内容とは思えない低 能なものだった。 だんだんここに居る事事態が情けなく、そして恥ずかしく思えた。 そこに1人の男が何の前触れもなく立ち上がる。 「皆さん、そんな事を言っている場合ではないと思いますが。そこで一つの提案 があります。お聞き、頂けますか?」 発言したのはローレン・ギリアードだった。 「なんだ?この状況を打開する案があるのなら言いたまえ。」 臨時議長がローレンの発言を認める。 「あなた方の無能さをこれ以上見せられても面白くありません。ここは一つ私に 全権をゆだねて頂けないでしょうか?」 それはとてつもない言葉だった。 「な、何?」 「貴様、正気か!?この状況でそんな事が出きると思うのか!?第一その言いぐさ は一体・・・・。」 ローレンの言葉は、各議員の逆鱗に触れる。 「ではしかたありません、ぜがきでも従っていただきます。」 その言葉とともに議会内に兵隊が流れ込んでくる。 「な、なんだ貴様達は!?ここを何処だと思っている!?」 「残念ながら今の貴方ではこの国の行く末が見えています。ですから、ここから先 は私に任せていただ事ういうのですよ。」 そう言うとにっと笑う。 「なにを言ってるの!!議会制も無視してクーデーターを起こすような人を誰が 信じると思っているの!!」 静まり返った議会場にひときわ大きく響く女性の声。 「サラ・ミラン、いろいろと不満がおありのようだが。」 「おおありよ!!たしかにここにいる連中の心は、保身で凝り固まっていてヘドが でそうだけど、貴方のように改革を進める為に私達が今までやってきた事をぶち 壊すような事は断じて許せないわ!!」 「残念だ、非常に悲しいことだが君にはもうここに入てもらう必要は無いようだ。」 そう言うと彼女の近くにいた兵士に支持して退席させる。 「こら何すんの!!話しなさいよ!!あ、今変なとこ触ったでしょ!!セクハラで 訴えるわよ・・・・・・・・!!」 彼女も必死にもがくも力の差は歴然としていて、あっさりと議会からつまみ出さ れる。 「いやぁなかなか素直で元気のいいお嬢さんだ。セクハラで訴えられなければいいが。」 そう言うと苦笑して見せる。 「さて・・・・あなたがたはここから出すつもりはありません。この町の最後ま でここに居て頂き、共和国の裁きを受けていただきましょう。この国を作り直す 為に・・・・。」 彼は意味深な言葉を残してその場から去る。 つまみ出されたサラは、兵士に連れられ議会場の外に出ていた。 「殺すならさっさとしなさいよ!!」 そこに2機にG・リーフが現れて彼女に近づく。 「わわ、こんなか弱い子をゾイドで踏み潰すっていうの!?鬼!!悪魔!!わかった!! あんた達どこかのネオアトランとか合言葉にしている仮面をかぶった組織ね!!」 なんだかよく分からない事を叫びつつ、混乱するサラ。 目はぐるぐる回っていて混乱の様子が伺える。 「はははは、なかなか面白い事をいうね。でも我々はそんなあくの秘密結社でもな んでも無いから安心してほしいですね。」 そう言って現れたのは、ローレンだ。 「あ、ローレン!!どういうつもりよ!!私の死にざまを見にきたわけ!?」 ローレンを見つけると、突っかからずにおれないとばかりに叫ぶ。 「残念ながら違います。お見送りですよ。」 そう楽しげに言うローレン。 「みおくり??」 彼の言っている言葉が理解できず、目をきょとんとさせる。 「貴方はこの私に反逆した。よってシビーリより追放し、フィルバンドルに帰って いただきます。この2機のゾイドはその護衛ですよ。まあ予定では、町の郊外に 作られている訓練部隊や周辺部隊とも合流していただく予定ですが・・・・・・・・。」 (ミラルダのいる訓練部隊のこと?それって・・・・。) 「・・・・あなた、本当は何がしたいの?」 「多分、あなたほどの方なら察しがつくかとおもわれますが、今は言わないでおき ましょう。」 「・・・・・・・・こんな強引なやり方が許されるはずがありません。」 先ほどとはうってかわって、とても丁寧な口調で話すサラ。 「たしかにあなたの言うとおりですよ。でもね、こういう根本的に根が腐ったもの に対しては、誰かが犠牲になる覚悟で行わなければなりません。でなければ、せ っかくでた若い息吹までもが枯れてまいます。そしてそれはあなたには出来ない こと。だから私がやるしかないのですよ・・・・。」 「そう言った自己犠牲を認めるわけには・・・・第一、住民を残してここを離れ られるとでも・・・・!!」 「・・・・これ以上はもう話す事も無いでしょう。では彼女の護衛、しっかり頼 むよ。」 「はっ!!」 敬礼するとサラを脇抱えながら向きを変えて進む兵士たち。 「あ、こら!!待ちなさい!!まだ話しは・・・・。」 その言葉を聞き、歩みを止めて振りかえる。 「次に会う時があれば、あなたのそばに居たいものです。会えれば出すけどね。」 ふっと笑みを見せるとまた歩き始める。 「・・・・!!」 ローレンの言葉に赤くなるサラ。 言いたい事は山ほどあったのだが、彼の一言で言葉を失ってしまい、抵抗する事 もなく車に乗る。 ただ、去って行くローレンの後ろ姿を見ていた。
後書き31 バトストMENUに戻る 前の話へ行く    次の話へ行く