告げるもの5
コクンの放った共和国部隊はゆっくりとシビーリへ向かっていた。 その上空をレイノスやダブルソーダなどが飛び交い、制空権を確保する。 そんな中、数機の黒いゾイドが先行してシビーリへと向かって行った。 シビーリは、都市の拡張の度に新しく城壁を作り町の安全を確保していた。 過去2度の拡張が行われた為に3つの城壁が数キロ間隔で町を取り囲んでいる。 攻めて側は3つある城壁を破壊しない限り、政治中枢を制圧する事は出来ない。 まさに難攻不落といえる都市だった。 共和国軍が移動し始めて数十分後、シビーリを堅く守る城壁に備え付けられてい る見張り台にいた兵士が、なにかの違和感を覚える。 「??なぁあそこなんか妙な感じがしないか?」 すぐ脇にいる同僚に、何もない所を指しながら言う。 「はぁ?何もないじゃねぇか。くだんないこといってんなよ。」 「何かいる感じがするんだけどなぁ・・・・・。」 「気のせいだぜ気のせい。共和国のやつらが北のなら、レーダーサイトから何らか の報告があるって。」 「ああ、そうだな。気のせい気のせい・・・・・。」 兵士はそう自分に言い聞かせながらまた自分の職務につく。 ガッ 鈍い音とともに突然城壁に傷が現れるが、その事に誰も気付くものはいなかった。
その頃アルフレッドは、中壁と呼ばれる2番目の城壁付近にて待機していた。 そのまわりには、ディーベルト軍があちらこちらに見うけられる。 現在、中壁から内壁間に住んでいる人達が避難中で、それも後少しで終わる。 アルフレッドは、非難する人々をよそにてにもったネックレスを眺めていた。 ネックレスには指輪が通されている。 「結局、渡しそびれたままか・・・・・。」 そうつぶやくとポケットにそれをしまう。 指輪付きのネックレスは、以前町で買ったものだったが仕事にかこつけて結局渡 せなかったものだ。 「・・・・・元ダークダガーの部隊長とは思えぬぐらいの体たらくだな。」 自分自身を非難しつつ苦笑する。 だが、こういう物を渡す自分も、自分自身で創造できなかった。 一呼吸間を置いて、外壁部沿いに待機していた守備隊が、突然爆発を起こして炎 上し始める。 「ん!?もう来たのか!?」 アルフレッドも唐突の爆発音に慌てて振り向く。 しかし、爆発した機体には何もいない。 「工作員の仕業か?」 その爆発を合図に陣形をとっていた部隊が次々に爆発のあった方向へと向かい出 す。 だが、向かった部隊も次々と謎の爆発をおこし、兵士達は見えない恐怖に支配さ れて誰も現場に近づかない。 「まさか・・・・・。」 以前この様に姿を見せないまま攻撃してくるゾイドの事を思い出す。 そして熱探知センサーで、あたりを探知する。 「やはりそうか。」 そう叫ぶとセンサーに反応があった方向へビームを放つ。 ビームが町を通り城壁ぎりぎりを通過する間に、何箇所か空間がゆがむ。 その中から現れたのは、共和国軍のシャドーフォックスだった。 唐突に現れたフォックスに町の守備隊は大混乱を来たす。 町の中には、3機のシャドーフォックスが姿をあらわしたまま攻撃に移った。 体制の崩れたシビーリ守備隊は、何も出来ないままに撃破されて行く。 特に今シャドーフォックスに対抗できる中方の高速ゾイドがないのも要因だった。 外壁内部にいた守備隊をあらたかた制圧したフォックスは、次に中壁内へと向か う。 「く、来るぞ!!」 身構える兵士達。 中壁を破壊してくると踏んだ部隊長達は壁に向けて銃を構える。 しかしフォックス達は、軽々と中壁を越えてそのままストライクレーザークロー を隊長機のサーベルシュミットに加える。 「くそ!!システムフリーズかよ!!」 コンソールを叩いて、動かなくなった愛機に苛立ちをぶつける。
散々引っ掻き回した後、まだかくれていたと思われる数機のフォックスが、壁に 穴を開けて侵入する。 現在のディーベルトのレーダーでは、全てのフォックスを把握する事は出きない。 そして先ほどの爆発に呼応して、内壁内にある空軍基地で爆発が起こる。 別角度から進入したフォックスが、光学迷彩で姿を消しながら基地に配備されて いたファルゲンを次々に破壊して行く。 「上手い作戦だ。この分だと制空権も危ういな。」 そういいながら目の前にいたフォックスをはたく。 「なんだ?あのゾイドは?」 「新型だぞ。捕獲しろ。」 「了解。」 目の前にいる敵の新型機が、仲間を簡単に撃破したのを見て、数機のフォックス が同時に仕掛けてくる。 フォックスのクローがまばゆい光を放つ。 アルフレッドの乗るクライジェンシーティガーの前で大きくジャンプし、必殺の ストライクレーザークローを放つ。 しかし、その攻撃をいともあっさりとかわすと、お返しとばかりにティガーのレ ザークローがフォックスの胴体をなぎる。 ティガーが正面のフォックスをなぎるのと同時に、側面から2機のフォックスが 仕掛けてくる。 一機は、背中のレーザーバルカンを使って牽制し、もう一機は巧みに接近しなが ら攻撃を仕掛ける。 その動きを見たアルフレッドは、すぐさま機体を走らせてレーザーバルカンの攻 撃をかわす。 その動きに合わせて接近中のもう一機は、背中に飛び掛る。 背中に迫り来る機体を確認しつつ、ブースターを反転させて機体を急停止させる。 「なに!?」 フォックスのパイロットのうめき声が漏れる。 ティガーの前に無防備な姿で着地するフォックス。 ここぞとばかりに襲いかかるティガー。 しかし、フォックスも並外れた動きを見せてティガーの攻撃をかわして行く。 「ン?さすがだ。」 そういうとビーム砲を放ち、間合いをとる。 慌てて合流しようとする2機。 それを見たアルフレッドは、一気にスピードを上げてフォックスに近づくと、ビ ームで牽制しながら相手の動きを封じる。 そして一機のフォックスの喉笛に、鋭い牙が突き刺さる。 力を失ってその場に倒れるフォックス。 「こいつ、桁外れに強いぞ。」 「アッザム、これ以上相手をするのは得策ではない。それに時間だ。」 「だがよルーデン、ナディックが・・・・!!」 「忘れろ。冷酷なようだが、今おまえが助けに行った所で二の舞になるだけだ。」 「・・・・くっ、わかったよ。」 そういうとアッザムは口惜しそうにその場を去る。 それを見たルーデンの乗るフォックスもあとに続く。 「・・・・?」 撤退して行くフォックスを不思議そうに眺める守備隊。 自分達は、かなり追いこまれていたはずなのにと誰もがおもっていたので、この 撤退を素直に喜べなかった。 案の定フォックスは一番外の城壁の所に陣取り始めた。 「もう時間が来たのか。」 そう言うと身構えるアルフレッド。 数分後、轟音とともに一番外の城壁を突き破ってコクンの主力部隊第1陣が到着 した。 大きく開いた城壁から高速機動部隊が次々と進入してくる。 上空には、レイノスとダブルソーダが待ってましたといわんばかりに姿を見せる。 いとも簡単に共和国軍を接近させてしまったのは、都市内部に敵を侵入させてし まった事によって、外への警戒がおろそかになっていたためだった。 元々フォックスの先制攻撃のねらいはそこにあった。 街の上空を悠々と飛ぶレイノスは、町の中枢へ無理やり装備した爆弾を投下する。 フォックスの攻撃から逃れていた数機のファルゲンが、すぐさまレイノスと交戦 にはいる。
またダブルソーダは、上空から敵の位置を的確に味方に知らせて、攻撃を有利な ほうへ持っていく。 発見したS・ディールが対空砲火で応戦するが、のらりくらりと動き回ってなか なか落とす事ができない。 「くそぉ!!当たれよ!!」 必死にビームを放つパイロット。 「そうそう、へぼ弾に当たってられるか。」 ダブルソーダのパイロットはそうつぶやくと、一度旋回して一撃離脱法でS・デ ィールを沈黙させる。 ディーベルト軍には地の利はあるものの、戦力差や奇襲による同様のせいで優位 に持っていく事ができない。 それをいい事に、どんどんとライガーを中心とした高速機動部隊が、奥へと侵入 して行く。 「へっ、ろくな戦力がないぜ。なぁセイロン。」 グラッツ大尉の乗るライガーゼロ(背中にハイブリットキャノンを装備。)の脇に いる、黒いブレードライガー(B2ライガー)のパイロットであるセイロンに話 しかける。 「・・・・そうだな。」 現れる敵機を駆逐しながら内壁の近くまで来ていた。 他の部隊も後からついてくる。 「さて、ここにどでかい穴でもあけて中の連中をびびらせるか。」 目の前に見える城壁を見ながらつぶやくグラッツ。 背中に装備したハイブリットキャノンの照準を合わせる。 ゴォゥッ・・・・ 背中で爆発音と鈍い音がした。 慌てて振りかえると、見た事のないトラ型ゾイドが後方にいたライガー部隊をあ っという間に仕留めた後だった。 アルフレッドのクライジェンシーティガーだ。 「なっ、こいつは!?」 たじろぐグラッツ。 それを見逃さず、一気に間合いをつめて必殺の一撃であるレザークローを見舞う。 胴体をなぎられ手横に転がるグラッツのライガー。 とどめを指す為にライガーを追いかける。 そうはさせまいと背中のビーム砲を連打して、牽制をかけるセイロン。 それをうまく避けながらグラッツ機の足をもぎ取る。 「クッ、足を取るのがやっとか・・・・。」 そうつぶやきながら次の目標をB2ライガーへと絞り込む。 両者しばらくにらみ合うが、先に動いたのはセイロンだった。 セイロンお得意のビーム砲による牽制。 ビーム砲は的確に牽制をかけるために、アルフレッドに動く隙を与えない。 「この戦法を使うとは・・・・もしそうなら面白い事になった。」 そういうと笑みをこぼす。 アルフレッドは、機体を反転させて間合いを取ると真正面から突入を開始する。 市街地である事を感じさせないほどに、スピードを加速させてB2ライガーに近 づく。
ビームの直撃もお構いなしだ。 とはいっても急所には当たらないように巧みに避けてはいるが。 ある一定の間合いで大きくジャンプし、ビルの上に踊り出るとミサイルを放つ。 それを見てミサイルを迎撃するセイロン。 爆発と同時に通常より大量の煙が辺りを包む。 アルフレッドが放ったミサイルは煙幕弾だった。 チャフも混ざっている為にレーダー早くにたたない。 「・・・・そこか?」 そう言うと上空へ向けてビームを放つ。 「正解だが、この煙ではこちらの位置の特定は出来まい。」 煙の中から唐突に現れるティガー。 セイロンは、動物的感でこの一撃をかわす。 しかし、それも予想していたように地面をはねるようにしてB2ライガーへと大 きくジャンプする。 ぎぃぃぃ 引き裂かれる金属音がこだまする。 だがそこにはライガーの残骸はない。 僅かに引き裂かれた左前足の装甲からスパークが見えるだけだ。 逆にティガーは、右後ろ足の装甲が吹き飛んでいた。 「やはり、見込んだだけの事はある。」 さっきまで真剣だった顔が急にほころぶ。 「・・・・隊長も。」 ボソッとつぶやくセイロン。 「まさか共和国にいっているとは思わなかったぞ。」 「・・・・成り行きでこうなった。」 「セイバーはどうした?」 「いい機体だったのだがこいつと戦って果てた。」 「・・・・なるほどな。」 あの黒いライガーなら仕方がないとアルは思った。 親友の残した機体に会えないのは残念ではったが。 「セイロンなにをしている!?奴を攻撃しないか!!」 グラッツが、生きも絶え絶えのライガーのコクピットから命令する。 「・・・・残念だが仕事はここまでだ。」 「な、なんだと!?貴様、そんな勝手な事が許されるとでも・・・・。」 いきなりの契約破棄に動揺するグラッツ。 「・・・・。」 セイロンは、無言のまま銃口をグラッツのライガーに向ける。 「・・・・!!ちっ、何処にでも行きやがれ!!」 そう叫ぶと、コクピットから這い出て重い体を引きずりながらその場を去る。 「いいのか?」 「・・・・隊長の機にする事ではない。」 ドウ・・・・・・ 鈍い音とともに城壁が揺れる。 「!?」 違う方向から大きな煙が立ち昇る。 「別口の部隊がとうとう侵入したか・・・・。セイロン、おまえはこれからどう する気だ?」 「・・・・。」 「今後の行動が決まってなければ、一つ頼みたい事がある。782リンクを開い てくれ。」 そういうと、端末を呼び出してセイロンのライガーにデータを送る。 「??」 送られてきたデータを見て首をかしげる。 「これは俺が教えている訓練部隊が撤退するルートだ。もしよければだが彼らを 護衛してやってほしい。頼めるか?」 「・・・・かまわない。隊長はどうする気だ。」 「俺はまだこの国との契約があるんでな。もうしばらくここにいて市民の避難を 確認したら合流するつもりだ。」 「・・・・そうか。先に行っている。」 そう言うとその場を去るセイロンのライガー。 「さて、かっこいい事を言ったのはいいが、ある程度区切りをつけてここをでな いとな・・・・。」 そういうと崩れた城壁の方へと向かうアルフレッド。 市街戦は佳境へと入って行く。
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