告げるもの3
「良いですか、くれぐれも事を荒立ててはなりませんよ。すでに多くの血が流れ ている事を認識してください。」 めがねをかけた一人の女性が面と向かってコクンに話しかける。 「分かっております。我々もルイーズ大統領の意向どおりに、降伏勧告から行う予 定です。」 「なんとしてでもこれ以上のいざこざは避けたいのです。彼らは元々この大陸にす む住民で、我々はそこへやってきた異人である事を、そして譲るべき立場なのは 我々だということを理解してください。」 「・・・・重々承知しております。それではそろそろ相手との交渉の時間になり ますので。」 「よろしくお願い致しますよ。」 そう言うと、ルイーズ・レイナ・キャムフォード大統領は画面から消える。 「ゼネバスの忘れ形見がなにを言うか・・・・。」 そうつぶやくと通信士にディーベルトとつなぐように指示する。 彼のように現大統領に対するあからさまな嫌悪を抱くものは、少なからずいる。 彼女は、前大戦である大陸間戦争時にガイロス帝国に亡命し、戦争集結後、当時 のヘリック共和国大統領の許可を経て、戻ってきたものの1人であった。 その為彼女が大統領になった際、純共和国人であるもの達の間では、彼女を罵倒 する言葉などがたびたび出るのである。 そして現体制に対して不満を持つようになるが、彼女の国民からの人気の高さに、 誰一人としてその不満をぶつける事が出来ないでいた。 彼もそんな者の1人である。 「シビィーリとの連絡つながりました。」 通信士の言葉と同時にスクリーンにディーベルト最高指導者クルアルド・コーエ ンの姿が現れる。 「はじめまして、コーエン議長。私は、MK2師団最高責任者のコクンというも のです。現在、我々はあなた方のいるシビーリ向かっております。」 ふてぶてしいほどの笑みでそう言う。 「それは重々承知している事です。で、今更何用か?」 コクンの笑みを見て気分を害したのか、撫前とした態度でたずねる。 「降伏勧告する為に決まっているではありませんか、コーエン議長。」 「・・・・そんな事応じる事ができると思うか。」 「いやいやそう言うと思っておりましたよ。まあどちらにしても私があなた方に提 示する降伏勧告は、無条件降伏、あるいは全滅かのどちらかしか、選択肢があり ませんでしたからな。」 「!?・・・・元々戦う気でいるというわけか。」 コクンの言葉を聞いて思わずそう口に出すコーエン。 「あたりまではありませんか。出なければ、こんな辺境の果てまできませんよ。」 そう言うと相手を子馬鹿にするように笑みをこぼす。 「・・・・その笑みいつまでもこぼせると思うなよ。」 そう言うと通信を一方的に切るコーエン。 「若造が・・・・外交の仕方も知らんのか。」 そう言うと先ほどまでと違って厳しい顔つきになるコクンだった。 その頃ミラルダは、急に襲ってきた吐き気に戸惑っていた。 いつ来るか分からない吐き気に対して化粧室の前でうずくまる。 そこにクリスティが通りかかり、うずくまるミラルダを発見すると、慌てて駆け 寄る。 「ミラルダ、どうしたの?そんなところにうずくまって。」 「クリス・・・・実は・・・・。」 吐き気のことを話すミラルダ。 「・・・・・それって、あんたアルには言ったの??」 「・・・・まだ・・・あの人今仕事で忙しい身だから・・・・・。」 苦しそうに言うミラルダ。 「ったくあんたって子は!!とにかくこんな所にいたらだめよ。医者にちゃんと 見てもわないと。」 そう言うとミラルダを抱えて部屋へ連れて行く。 「絶対安静にしてなさいよ。」 医師の診断が済み、医師が出てしばらくすると、そう言ってクリスは足早にミラ ルダの部屋を出る。 部屋を出ると同時に複雑な顔をするが、すぐさま司令室に向かう。 司令室に入ると、皆何かに追われるように動き回っていた。 「どうしたの?」 そばを通ったオペレータに声をかける。 「ええ、実は共和国の部隊がこのシビーリに向かっているという情報がありまし て、イオハル隊長からシビーリの守備を任されたからここの防衛とクライジェン シーを中心部の基地までもってこいといわれまして・・・。」 「なにそれ??この大事な時にあの馬鹿、一体何考えてんのよ!!」 顔を真っ赤にして怒るクリス。 「あんた、ミラルダの体調が悪いからって、あのこの従姉妹のサラに至急来るよ うにって行っておいて!!いい!?至急よ!至急!!」 「は、はい!!」 マシンガンのように話すと、すぐさまその場を後にして格納庫へと向かう。 「まだいたか。」 クライジェンシーティガーの存在を確認すると、安堵の表情を浮かべる。 「これ、アルの所へ持っていくんでしょう?私、あいつと直接話さなきゃ行けな い用事ができたから、これに乗るよ。かまわないよね!?」 焦りと苛立ちで鬼のような形相に皆が乗る事に承知した。 彼女の乗るクライジェンシーは、ほぼ最高速度で町へと向かう。 その脇には、護衛で2機のツェルベルクが随伴する。 そのままのスピードで町の中を疾走したものだから町中ではかなりの大騒ぎにな ったが。 町の中心部近くにある司令部に着くと、休む間もなく近くにいた兵士にアルフレ ッドの場所を聞き出す。 そしてアルフレッドを見つけると、足早に近づいてぐっと腕をつかむ。 「ク、クリス!?お前なぜここにいる!?」 唐突に現われたクリスに驚きを隠せないアルフレッド。 「アル!!大事な話があるのよ!!ちょっと来てちょうだい!!」 「お、おう。」 彼女のあまりの迫力に気圧されるアル。 アルフレッドの腕をつかんで部屋から連れ出す。 「すまんが、今さっきこの町の防衛を任されてな、できれば後にしてもらえない か?」 「!?何それ。何であんたがそんな事をしなきゃならないのよ。こんな一大事の 時になんてもの、引き受けてきたのよ!?」 「何だ一大事って。」 「ミラルダのことよ。さっき調子悪そうだったから医者に見てもらったんだけど ・・・・。」 「・・・・・・・そうか、だったら今すぐにミラルダと彼女のいとこのサラ・ミ ランを連れてお前はフィルバンドルへ行ってくれ。」 彼女の言葉を聞いて少し驚いた表情を見せた後、少しの合間の後にそう言う。 「何いってんのさ、あんたも一緒に行かなきゃあの子が悲しむだろ!?それにあ の子に最後に会っても行かない気かい!?」 「心配するな、必ず生きて帰る。会うのはその時までの辛抱だ。」 「あんたそんな単純なことだと思ってんの!?今不安でいっぱいのあの子を支え てあげれるのは、あんたしかいないんだから!!」 あまりミラルダのことを心配しているそぶりを見せないアルを見て苛立ちが募る。 「さっきのクリスの話を聞けば、今会うとかえって問題がおきそうだ。それにお 前がミラルダのそばにいてくれたほうが俺は思いっきり戦える。」 そのゆるぎない自信を持った眼がクリスティをじっと見つめる。 「たくこの男はくだんない事言って・・・・・・。」 怒りは収まらない。 「俺は死なない、あいつのためにも。必ず生きて帰ると約束する。」 「・・・・・・・・・この男はそんな言葉どこで覚えてきたんだか・・・・。」 数分の押し問答の末、彼の勢いに負けたクリスが折れる形になってしまった。 「すまないな、お前には何かしら迷惑をかけてばかりだな・・・・・・。」 今までのことを思ってボソッというアル。 「・・・・・・・いまさらなに言ってんのよ、それよりちゃんと戻ってこないと 地獄の果てまで追いかけて償わせてやるから。いい?」 「ああ、約束するよ。」 そういうとふっと笑顔を見せる。 その言葉を聞くと部屋を出て行くクリスティ。 その姿をじっと見つめるアルフレッドだった。 それから2時間後、コクン率いる共和国軍はシビーリから十数キロはなれた所に ある海岸線に着陸する。 次々とネオタートルシップの腹の中からゾイドが現われる。 「ここが西エウロペの西岸部か、あまり北エウロペと代わり映えしないな。」 そう言いつつ、あたりを見回しながら母船より降り立つのは、グラッツ・ディメ ルディオ大尉のゼロシュナイダーだ。 その後ろからセイロンの乗るB2ライガーも姿をあらわす。 次々に下船するゾイド達。 しかし、彼らを狙う者達が周辺にいた。 突如として海面に現われた十数機のシーパンツァーが、共和国部隊に向けて砲撃 を開始したのだ。
「なんだ!?」 突如として起こる爆音に驚くグラッツ。 周囲にいた共和国ゾイドはわけもわからず撃破されていく。 『機種シーパンツァー』 アラームとともに敵の機種を告げる電子音がコクピット内に鳴り響く。 「こんな所に帝国か!?」 「何をしている、空戦部隊に対処させないか!!」 MK2主力部隊、隊長であるガルーシャ・クッフェル少佐が、通信機に向けて怒 鳴り声を上げる。 その言葉に呼応するかのように上空で待機していたプテラスボマー数機が、シー パンツァー迎撃に向かう。 海面ぎりぎりを疾走すると、深海深くに逃げようとするシーパンツァーを対潜魚 雷や爆雷で始末していく。 しかし好調だった対潜戦を覆すかのように上空からファルゲンとラポータの一群 が現れる。 ラポータは対潜攻撃のために速度を落としていたプテラスを一撃の下に撃墜し ていく。 そしてファルゲンは、地上部隊に一気に機銃掃射をかけるとボマー隊を壊滅させ たラポータとともに逃げていった。 「くそ!!やつら何のつもりだ!?」 コンソールを叩きながら怒るグラッツ。 「少ない部隊でも我々は勝てるといいたいいのだろう。」 彼をなだめる様に言うガルーシャ。 しかしこの攻撃により、地上部隊の戦力低下はいななめなかった。 しかも戦略爆撃部隊もかねていたプテラスボマー隊をほぼ壊滅させられたため、 上空からの地上部隊への攻撃ができなくなってしまった。 「どうしますか?これでは制空権を制することができないまま進撃することにな ります。」 コクンの脇にいた副官は、不安げに尋ねる。 「ここまで来て引き下がれるか?それに爆撃隊がやられたと言っても、上空の安 全を守ってくれるレイノスの部隊が残っている。奴らに制空権を完全に掌握され なければ現在の地上部隊の数だけでやれる。全部隊へ通達、予定を少し繰り上げ て進撃を開始する。奴らに余計な時間を与えるな。」 「はっ!!」 副官がコクンの言葉を復唱して通信オペレータに伝える。 多少予定より遅れはしたものの、先ほどの攻撃がうそうのように共和国部隊はま とまりを見せ始め、再編成を無事終了させて進撃を開始した。 「市民の非難避難まだというのはどういうことなんですか!?」 アルフレッドの怒りのこもった言葉が室内に響き渡る。 司令部にいた者はその声に手を止め、足をとめて声のする方向を見る。 彼には珍しく感情的になっていた。 「アルフレッドさん、あまり大きい声で言われても困りますよ。無用な混乱を避 けるためです。仕方ないでしょう。」 シビーリ守備隊の司令官は落ち着いた態度で言う。 「では何のために海岸線での時間稼ぎだったんですか?」 「戦力を整えるためのものです。この時間稼ぎである程度抵抗できるだけの戦力 が整います。」 わざとらしく笑みをこぼしながらそういう司令官。 「戦力ですか・・・・・私があなたの上層部のかたがたから聞いた戦力内容では、 どう考えても時間稼ぎにもなら内容に思いますが。戦力を見誤るとろくなことに はなりませんよ。」 「それは君の実経験からかな。」 「くっ・・・・・・。」 その含みのある言葉を聞いて何も言い返せないアル。 「それでは私としてもこれ以上の協力はできません。独自に行動させてもらいま すがよろしいか?」 彼のその言葉を聞くと同時にどこからともなく現れた兵が、アルフレッドに向け て銃を構える。 「心配せずともこの町の守備に着くだけだ。逃げたりはしない。」 「お前達、下がれ。」 その言葉を聞いて兵士達は銃を下げてまたどこへともなく消える。 「この町を守ってくれるのであれば私に依存はないですよ。」 そういうとにっと笑う。 「では前線で敵が来るのを待ちます。」 そう言うと足早にその場を後にする。 今回、彼が立てた作戦は市民の非難を少しでも助けるものだったが、彼らは上層 部を逃がすためにその時間を費やしたのだ。 上層部のメンバーと面会した時になんとなくそうなるだろうと予想はしていたが、 実際彼らに利用されている事に押さえる事の出来ない感情を思わずぶつけてしま った。 そしてアルフレッドが格納庫に着く頃にようやく市民に避難命令が出されていた。 「このような事、許しはしない。必ず私が全ての市民を助け出して見せる。」 そうつぶやくと、ティガーのコクピット内にはいる。 その頃、航空基地を飛び立つ機体があった。 「何とか我々が脱出するだけの時間稼ぎはなったな。」 そうつぶやく過激派の上層部。 一部議員は、この町と市民を捨てて逃げ出す事に反対して町に残った。 馬鹿なやつらだと心に思いながら眼下に見えるシビーリの町を見る。 今は平和なときを刻んでいるが、後数時間後にはここは戦場となり、地獄絵図が あちらこちらで見られるであろう。 ふとコーエンはそう思う。 皆が安心して一息ついたときにアナウンスが流れる。 『ようこそ、死の旅路へ。』 その声に各議員には聞き覚えがあった。 「ローレン・ギリアード・・・・。」 声を聞いて思わずその名を言うクルアルド・コーエン。 『過激派と名乗り、敵を倒すまでは一歩も引かないと言っていたあなた方でした が、敵が攻めてくると一目散に逃げ出す。なかなかすばらしい心構えです。』 言葉に続いて拍手が鳴り響く。 「死の旅路とはどういうことだ!?」 『周りを見てもまだお分かりいただけませんか?』 そういわれて議員たちはあたりを見回す。 ホエールクルーザーの周りには護衛のファルゲンが飛んでいるが、撃墜されたと いうわけでもなく、先ほどと何も変わるところはなかった。 「ふざけた事を言うな、何も変わらんではないか!?」 一人の議員がおびえつつも笑みを漏らしながら叫ぶ。 「!!まさかこの護衛機たちは・・・・。」 何かに気づいたコーエンは、護衛機を見据えながらそう叫ぶ。 『お察しのとおりですよ。今回、共和国軍を利用してふるいをかけさせていただ きましたが、やはりあなた方はその程度の政治家でしかなかったのですね。』 「な、なんだと!?」 「ふざけるな!!」 「われわれを愚弄するとは・・・・!!」 その場に居合わせた議員達が口々に反論する。 「共和国を利用しただと・・・・・まさか、あの連中を手引きしたのは・・・・・。」 『さすが最高議長を努めるだけの事はありますねコーエン議長。お察しの通り、 このローレン・ギリアードがここに呼び寄せたのですよ。』 「貴様、正気か!?貴様が呼び寄せたせいで、この国は滅亡しかかっているんだ ぞ!!」 今、自分達が逃げ出さなくてはならなくなった原因が、スピーカー越しに話しか けてきている。 それがとてつもなく許せなかった。 『現在この国を動かしているあなた方や前政権の方々は、自分達の利益とその傲 慢なプライドのためだけにこの戦争をお始めになった。当初の目的とは裏腹にむ やみに戦闘が行われ、多くの人々が死んでいったのです。その代償はここで払っ ていただきます。この私の手で罰を与えましょう。』 「ふ、はっはっはっは!!人が人に罰を与えるなどと・・・・片腹痛い。それに 貴様がやっていることはこのわれわれが行ってきたこととなにも変わらんぞ!!」 ローレンの言葉を聴いて笑い出すとそう述べるコーエン。 『そのようなこと分かっております。ご心配なさらずとも、けじめだけはつけさ せてもらいますよ。では前線で苦しみもがき死んでいった兵士やこの戦争で亡く なった市民の事を悔いて死んでください。』 その言葉を合図に左右に展開していたファルゲンが激しい動きを見せる。 「ローレン・・・・・・・!!」 コーエンの言葉をかき消すかのように爆発音と轟音とともに、ホエールクルーザ ーは炎をあげて墜落していく。
非難する人々の前に50年前、隕石落下の地獄絵図のように、火の弾が地上に激 突し、巨大なきのこ雲を上げた。 しかし、彼らにはそんな感傷に浸っている暇などなかった。 今、自分の身にふりかかる火の粉から逃げるので精一杯だった。 だが彼らは思うのだ、あと数時間後の自分達の姿ではないのかと・・・・・。
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