外伝2 ニクス3
ZAC2001年8月上旬、前進するにつれナトゥ少将の率いる師団は、戦力が弱 体化していた。 一番の原因は、長くなってしまった補給路である。 エウロペで帝国軍が悩まされた補給路確保だが、今度はこの大陸で共和国軍が悩ま されることになった。 地の利のある帝国軍は、地上の補給路を共和国のお株を奪うゲリラ戦法で挟撃し、 補給の枯渇を狙っていた。 そこで共和国軍は、空からの補給に切りかえることでこれに対処し、一定の補給を 行えるようになった。 しかし、空輸する為に補給路確保の為の戦闘機、物資を運ぶ輸送機などにエントラ ンス基地の航空兵力の大半を使ってしまい、敵の各拠点に対して有効な攻撃ができ ないでいた。 ナトゥ師団には前回の戦闘で航空兵力、支援砲撃隊の戦力が低下した為、思い切っ た戦闘が出来ずにいる。 戦線は膠着状態を迎えていた。 休憩コーナーでコーヒーを飲む一人の男。 そこに一人の兵士が男の前で立ち止まると、一枚の報告書を口頭にて伝える。 「鬼の爪がいなくなった?」 突然の報告にコーヒーを飲む男、ルーン・スレイブは驚愕した。 「はい、今朝のヴァルハラ行きの輸送機で。」 「何かあったのか?」 「いえ、詳しくは・・・・・・ただ、各地のPK師団のメンバーが集結しつつある そうです。」 「ヴァルハラを固めるため?いや、何かほかに目的があるのか・・・・・・。」 そういうと考え込む。 「分かった、報告をありがとう。そろそろ別働隊からの報告もあるはずだ。各員に 抜かりがない様に動く様に伝えろ。」 「はっ!!」 敬礼をするとその場を去る兵士。 (一体ヴァルハラでなにが・・・・・・。) 何か得たいの知れない物を感じるルーン。 コーヒーを飲み、一呼吸入れると格納庫へと向かう。 格納庫内はこれから始まる戦闘に向けて慌しく人々が動き回っている。 そこに並ぶ機体のほとんどは、スクラップに近いものだった。 ちらほらと新型のエレファンダーやセイバータイガーも見えるが、ほとんどが動く のかさえ危ういゾイド。そんなゾイドが整備士達の整備を受けている姿は手厚い看 護を受けながら戦う老兵の様だ。 格納庫内を歩くルーンの左脇では、退役してボロボロな状態のレッドホーンに、ビ ームガトリングを取りつける作業が見える。 一部の機体は黒く塗装されており、さながら往年のダーク・ホーンを思い浮かばせ る。 その作業が行われる格納庫内の一番奥に、一機の黒いゾイドが整備を受けていた。 その機体の足元まで歩く歩みを止めて機体を見上げる。 「大尉。いよいよですね。」 機体を見上げるルーンに声をかけるめがねをかけた黒髪の青年が一人。 「ああ、今回の作戦でこいつが戦線に出れば、やつらを恐怖のどん底に落とし入れ る事が出きる。バックアップは頼むぞジョン。」 「心得ています。この機体は大尉の研究の集大成ですからね。」 その言葉を聞いて首を横に振るルーン。 「集大成ではないな。こいつはあくまで私が描(えが)くゾイドの過程でしかない。 最終的には私自身で新型のゾイドを開発して見せるつもりだ。 だがそれには気の遠くなるような時間がかかってしまい、今のガイロスを救う事は 出来ない。 しかし、こいつは数機で危機的状況にあるわが軍を救う事の出来る機体なのだ。」 「こいつが大尉の描くゾイドの過程ですか・・・・。一体どんなゾイドが出きるの か今から楽しみにしております。」 「ああ、期待してくれ。君にも私のゾイドに登場してもらいたいものだ。」 「光栄です。」 そう言うと大きく敬礼をする。 「何?レイフォース師団が大陸中央部まで進んでいるだと?」 兵士の持って来た各戦線からの報告を聞いていたナトゥだったが、レイフォースの 報告を受けて驚愕する。 それは信じられない事だった。 精鋭部隊とはいえ、作戦開始から1ヶ月弱で大陸中央部まで攻め込んだ事になる。 現在の自分たちの戦況、そして旧大戦の戦訓からそれはありえない事だったのだ。 「一体なんだというのだ・・・・・・。」 以前現れた謎のゾイド、そして今回の異様なほどの戦況の進展。 頭を悩まされる事ばかりだ。 そうつぶやくと、思わず近くの椅子に腰をおろす。 そこへもう一人の兵が慌ててその場にやってきた。 「少将!!帝国軍の部隊が後方から進撃してきました!!前方の帝国軍陣地のほう も合わせるように動き始めています!!」 「なんだと!?今までわからなかったのか!!」 「申し訳ありません!!」 不意をついた挟み撃ちだった。前方の敵に気を取られすぎたのだ。 「エントランス基地へ空軍部隊の派遣を要請するんだ。」 「はっ!!」 大きな事ともに走り去る通信兵。 「今からで間に合うかどうか・・・・。」 師団をつかさどる将とは思えないほど弱気な発言であった。 ナトゥ師団の後方より進軍してきた部隊は、まだ戦闘体制が取れていない共和国部 対を次々に血祭りに上げて行く。 「くそッ!!後ろから不意打ちとは・・・・きたねえ事しやがるぜ!!」 そう叫びながら目の前のレブラプターを叩きつけるゴート。 「曹長さんよ。いくらなんでもこれはやばすぎないか!?」 接近してくるザバットを背中の2連ビーム砲で叩き落とすと、戦闘中のルキャナに 対して話しかける。 『こっちはあんたとおしゃべりしてるひまなんか無いんだからいちいち下らない通 信を送らないで!!』 苛立った声がゴートのコクピット内に響く。 「おーこぇー・・・・。こりゃヒスに近いわ・・・・。」 少しルキャナに対して畏怖する。 『曹長はヒスなんかじゃないです!!戦闘中に下らない通信をする軍曹が行けない んです!!』 間髪入れずにジェンの叫び声がコクピット内に響く。 「ってめーどっからそんなでかい声が出てくるんだ!?鼓膜が破れそうになったじ ゃねーか!!あとで憶えて・・・・まて、なんでお前が曹長の悪口に対して突っ込 んでくる!?ははん・・・・ジェン君。」 そういうとあくどい笑みを浮かべるゴート。 『な、なんですか。』 その顔を見てたじろぐジェン。 「君はああいうのがタイプなのか。まーたしかに悪くはないがあんなヒス女 は・・・・。」 『あんた達!!いつまで下らない事言ってんの!!状況わかってんの!?大体あんた達はさっきから・・・・。』 戦闘中にルキャナの小言は続く。 『曹長。ちょっと待ってください。敵の動きが変です。』 レーダーを見て異変に気づくジェン。 「どうしたの!?」 『敵の前衛部隊は中長距離からの攻撃を中心にこちらに突撃してくる様子がありま せん。これでは我が軍を南方の山へ追いこむだけで逃がしてしまいます。』 そこに司令部からの通信が入る。 『前衛の部隊は見せかけである。はりぼてやスクラップ寸前の旧ゾイドが中心だ。 後方の敵部隊は、前日までいた前衛部隊の主力部隊と推測される。一気に前衛の部 隊を駆逐して後方の部隊だけに集中する。それまで後方を支えよ。各機の健闘を祈 る。』 「前衛はダミーだったのか・・・・。それにしても後方を支えよなんて精神論的命 令なんか下すなよ!!」 師団司令部からの命令に不満を漏らすゴート。 「大隊長からの要請で前衛にまわるわ。二人とも急いで!!」 『了解!!』 ルキャナの機体が前衛に向けて走るのに連れて、ゴートのベアとジェンのガンスナ が後について行く。 前衛部隊と合流すると、なぜか動きが鈍いセイバータイガーやレッドホーンを翻弄する。 そこにゴジュラスが大きな手で動きを抑えると大きく投げ飛ばす。 投げ飛ばされたゾイドは一瞬で動かなくなってしまった。 「そろそろ空軍がくるはず何だがかまだなのか?」 空を見上げて愚痴るゴジュラスのパイロット。 そこにぼやきを聞きつけてかけつけたかのようにレイノスとプテラスを中心とした 部隊が現れる。 「ようやくきたようね・・・・。」 上空をと部プテラスを見てつぶやくルキャナ。 「まず後方の的に揺さぶりをかける。その後前衛だ。」 酸素マスクでこもった声の命令が各機に伝わる。 と同時にプテラスが、地上のガイロス部隊に対地攻撃を開始する。 レイノスは、上空を飛ぶザバットを中心とした航空部隊の迎撃を始めた。 『大尉、敵に気づかれました。敵の増援も来たようです。』 「予定より少し早かったな。さすがに共和国の空軍は足が速い。」 そう言うと電源を入れて各部機器のチェックに入る。 「ルーン・スレイブ出る。ジョンついて来い。」 『了解。』 格納庫からゆっくりと現れる黒いゾイド。 それは旧大戦でニカイドス島に突如として現れ、共和国の部隊を追い出し、ゼネバ ス親衛隊を壊滅させたあの機体。 「照準セット。まずは上空のハエを叩き落とす。」 背中に装備された2門の砲身が不気味な光放ち始める。 「全てのガイロス国民に安息の日々を・・・・そして共和国には地獄の日々を!!」 その言葉と同時に放たれる黒い閃光。 ピーピー!! 鳴り響く警告音。 「な、なんだ!?」 音に反応して何かが接近してくる方向を見るパイロット。 「なにぃ!?おわぁっ・・・・!!」 黒い光に包まれたレイノスは、一気にひしゃげ塵(ちり)となる。 「分かってはいたがこれほどまでにすさまじいとはな。Gカノン、私の考えるゾイ ドに一番ふさわしい武器のようだ。」 そういうと不気味な笑みを見せルーン。 普段の彼の言動から考えられない行動。一つの兵器に見入られた瞬間だった。 そしてこの一発は、この戦争の結末を暗示すかのように兵士に影を落とすのだった。
外伝後書き3 バトストMENUに戻る 前の話へ行く    次の話へ行く