潜入
くぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ん・・・・・・ 辺り一帯に鳴り響く遠吠え。 丘に一機のゾイドが陣取っている。 鳴き声によって呼び寄せられた同型のゾイドが集まり出す。 そこから見える一つの町。 先程の遠吠えを聞いて、町はずれに置かれてあるゾイドに向かう数人のパイロット。 それを確認するとともに、遠吠えしたゾイドを中心に丘を下る。 あっという間に町へと侵入すると、何の抵抗を受ける事なく町を火の海に変える。 ここ数日繰り返される光景の一つだった。 西エウロペ大陸での戦闘が開始してもうすぐ一年を迎えようとする頃、エウロ ペ同盟、ヘリック共和国の両軍は、著しく疲弊していた。 特にヘリック共和国は、本国でのネオゼネバス帝国とコクン派軍の両戦線を維 持する為に、膨大な物資と費用を必要としていたからだ。 元々ガイロス帝国との戦争で疲弊した状態で、両戦争に突入してしまっているのも 要因といえるが、肝心の本国からの物資調達ができなくなっていた。 和睦したガイロス帝国から多少の援助があるものの、ガイロス帝国の台所事情も あって頼る事もできず、エウロペ大陸内から自前調達しなければならい状態が 続いている。 いかに共和国といえども、国力は疲弊するばかりで回復する事はなかった。 また精神的柱となっていたルィーズ大統領が、首都での戦闘で行方不明となっ た事も国全体に影を落としている。 この日は、それら諸問題を話しあう最高幹部会がロブ基地にて開かれていた。 老将を中心に円卓に数人の将校が座り、神妙な面持ちでテーブルを囲む。 「さて、今後両戦線をいかにして戦うかだが・・・・・なにか意見はないかね」 まず中心にいる老将が口を開く。 「本国へは部隊や援助物資を送る事に終始するほかないが、コクンの件について は、そうはいかない。数週間前から新型のゾイドを投入して来ており攻勢をか けてきている」 「それよりその新型だが、うわさでは無人のBLOXゾイドと聞く。最近ゼネ バス側が戦線に投入しているBLOXゾイドに近い物がある。やつらは手を組 んでいると見て間違いないだろう。」 「いや、情報部からの報告によると、回収した残骸を調査した結果、我々が開 発を進めているBLOXに近いそうだ」 「開発部に裏切り者がいるのか??」 情報部からの報告内容に驚愕する将校。 「情報を流した奴がいても不思議ではあるまい。その情報を元に地元企業の開 発部門と共同で完成させたものだろう。何せあなどれないからな、あそこの地 方企業は」 そう言うと苦笑してみせる。 「さらにこれらの無人ゾイドを効率に運用、統括を主目的にした新型ゾイドの 開発も間近らしい」 「そのような新型が完成したとしても現状とたいして変わらんのではない か??」 モノクルをつけた年老いた将校が頬杖を突きながら言う。 「いや、間に合わせで改造したゾイドと違って専用機となると、一機で運用で きる無人ゾイドの数がかなり違ってくるはずだ」 「そうだ。その上、BLOXは生産性を考慮した機体で、通常のゾイドを生産 するより効率かつ短時間で完成する。私はこの事を憂慮すべき問題だと思うの だが」 「そう悲観する事もない。機体分析の結果を見る限り、一機につき10個以上 物パーツを使っている。いくら生産性が高いとはいえ、これだけの数のBLO Xパーツを一機に使っている事を考えると、生産効率があまり良いとは言えない」 技術開発部門に所属する将校が、手元の報告書を見ながらいう。 彼の考えとしてはそう悲観する物ではないとの見解だった。 「とにかく、これ以上これを作らせない為にも、生産拠点の空爆は欠かせません」 青年将校が挙手の後、意見を述べる。 彼にとっては性能云々よりも、まずは敵の生産能力を低下させて一気に決着をつけ たいと考えていた。 その為のプランを持参し、いつでも配れるように手元においてある。 「その意見には賛成だが、攻撃する度にどこかの町が消えてしまっては、人道 的立場を取る連中がうるさいぞ。それを無視してというわけにもいかないだろ?」 「・・・・・」 自らのプランを発表しようとして、他の将校に口を挟まれて機会を失う青年将校。
そしてしばらくの沈黙が続く。 その後、これといった意見が出る事もなく、将校達は皆、一様に黙り込んでしまった。 「ここまで八方ふさがりだと、コクンとの和睦もやもなしといったところかだ な・・・・・」 中年将校が考え深げにボソッとつぶやく。 「そうだな。早急な和睦を行い、本国での戦闘に集中すべきだ」 「やもえんですな。それに彼が離反する原因となった大統領もいない。ひょっ とすれば軍に復帰して中央大陸での戦闘に参加してくれるかもしれませんな」 行き詰まった上で出た和睦案に何人かが飛びつく様に賛成する。 しかも、冗談めかしてはいるが、中央大陸での共同戦線などと正気を疑うような 意見も出る。 「そんな希望的観測で意見を述べられては困る」 少し歳のいった将校がすぐさま否定する。 おまえの悪ふさげは聞き飽きたといわんばかりに。 「中将が言われるとおりだ。第一そのような行為は、同盟を結んだエウロペ同 盟軍や、苦しい思いをしながら西エウロペで戦っている多くの自国の兵士を欺 く事になる。絶対に出来ない事だ」 生真面目な若い将校が老将の意見に賛同して擁護する。 「そうだな。その上、反乱を起こしたのに、元の地位に収まられては軍の古堅に 関わる」 「たしかに後で足元を救われかねない。だが彼がいなくなれば、彼らは路頭に迷う。 それではかわいそうであるから、彼らには懲罰部隊への配属を命じればよい」 中年将校が淡々と述べる。 要は人、一人いなくなれば全てがうまくいくのだといいたいのだ。 「暗殺か・・・・・」 そういうとじっと黙り込む老将。 「今更な気がするが・・・・・その案で行くしか無いな」 「以前からそう言った案は幾度か出ていたから、それらをベースに作戦を練ろう」 「そう簡単に行くものかね。失敗すれば人質同前にされている地元住民の命は クイエルディニーのように失われてしまう。それはまず過ぎないか」 老将が手で口もとを隠し肘をついてはなす。 「その件についての作戦も立案中です。1、2ヶ月以内には対応策ができるかと。 対策後は同盟軍と歩調を合わせて再度進攻する予定です」 「それでは時間がかかるな。我々はもっと早く本土の方に集中したい。終結後 の西エウロペは、同盟軍の好きにさせればいい。そうすれば以前のように我々に 歯向かう気も失せるだろう。では暗殺の件を優先的に進めて行く。ただ、この 事は本土にいるハーマンの若造には言わないように。奴は反対するに決まって おるからな。」 そういうと老将は、肘置きに手をついてゆっくりと立ちあがり、部下に支えら れるようにして会議室を後にする。 その姿を見て各将校達は、早速自分の仕事をする為に会議室を出る。 今、国の中心人物であるルイーズ大統領がいなくなり、バラバラになりつつ ある共和国は、このような反乱を一刻も早く終わらせなけれならなかった。 でなければ、あらたな反乱者を生みかねない。 本土の動向も気になる事もあり、安全で確実な作戦を後回しにするほど上層部 の焦りが見て取れる。 だが、その焦りが戦いを泥沼へと導くだけだと言う事を、彼らはまだ気づいて いなかった。 会議から数日後。 一人の男が上級将校達のいる特別棟に呼ばれる。 「・・・・・というわけで、君の部隊を中心にシビーリに潜入してもらう事と なった」 「中将、上層部の焦りも分かりますが、今更な作戦ですな」 作戦指令書を見て鼻で笑うとそう言う男。 「それを言わんでくれラーマ、我々だって対処に困っているのだ。あのような 男が何故反乱を起こすのか、まずそこから考えてしまったのだよ・・・・・・」 ラーマの目の前にいるのは、先程の会議に参加していた中将である。 彼はラーマの所属する特殊部隊を直接指揮する立場にいた。 そして今回の作戦をラーマの部隊に任せる為に、ラーマを戦場である西エウ ロペ大陸から遥々(はるばる)ロブ基地まで呼んだのだ。 「その結果、時間を与えて長期的な反乱を許す事になってしまったと」 「それだけ聡明な男だったのだよ。それが私欲の為に反乱を起こす。 周りにいた人々のショックは計り知れん」 そう言うと疲れた表情を見せる准将。 彼自身、コクンとの親交を持っており、どういった人物かよく分かっているだけ に今回の反乱が信じられなかった一人である。 「もうすぐ開戦から一年になります。あなた方上層部が未だそんな気持ちでお られるようでは困りますね」 「分かってはいるのだがね。・・・・・辛いものだな。信頼していた者に裏切 られるというのは・・・・・」 そう言うと言葉を詰まらせた後、遠くを見る。そして間を置いて話し始める。 「彼は常々この国は我々国民の者であって、独裁的な一権力者に持たせては ならないと常々言っていたが、おそらく大統領の素性を知って、自分の理想を 実行するつもりなのだろう。 だが皮肉なものだな。彼が反乱する原因となったルイーズ大統領はすでにおら んというのに・・・・・」 そう言うと寂びそうな表情をする。 もう少し我慢すれば、反乱する事もなかっただろうにと思う。 「さて、私の感傷などどうでもいい。今は君にこの作戦を遂行してもらうだけだ」 気持ちを切り替えると作戦指令所に目をやる。 「ですが、複数の部隊を使って行われるこの作戦。少々不安がよぎります」 「言いたい事は分かる。その辺は君自身の判断で行動してくれればいい。 とにかく奴を仕留める。これでこの戦争は終決するはずだ」 「そううまく行きますか?」 「情報によれば軍政府軍の大半は、コクンを支持する上官について行っただけ の意思のない兵士達ばかりだ。すぐに崩壊するさ」 その言葉を聞いて黙り込むラーマ。 間を置いて敬礼すると、足早に中将の部屋を出る。 (本当にそうなのか??上官だけとはいえ、信奉する者はかなりの人数いるは ずだ。もし討ち漏らし、ゲリラ化されれば一生おびえて暮らす事になるのは 我々やエウロペの人々だ。そんな単純な事に何故気づかないのか・・・・・) 心でそうつぶやくラーマだった。 「親機となる改造ゾイドとの連携はうまくいっております。予想以上です。 例のカルベルツァの投入をしなくても戦線を維持できるかもしれません」 コクンを前に上級士官とおぼしき将校が各前線でも報告を行っていた。 「たしかに良い様だが、いく例かの暴走の報告があるな。やつらにシステムの 再構成をさせねばな。」 手にした資料は、先日より投入された無人型ブロックスの実戦報告である。 「はい。通達はしておりますが、このぐらいの報告では許容範囲内と思われます。 現行のシステムのままでも問題ないかと思われますが」 「簡単に言うが我が軍では正規兵の数が不足している。現地徴用兵ではほとんど 役にたたん。下手すれば徴用兵達が手にした兵器を持って我々に反抗する可能性もある。 我々を信頼する兵士一人一人の命を無駄に失うわけにはいかんのだよ」 そう言うとつかれた表情を見せるコクン。 「准将、お気持ちはわかりますが、我々はあなたに賛同してここまで来たのです。 あなたの理想を実現させようと、皆、命を捨てる覚悟は出来ております」 「わかっている」 頭を抱えつつ、将校の言葉を遮るように言うコクン。 彼とて彼らの気持ちは良く分かっている。 だからこそ死なせたくなかった。その気持ちがさっきの言葉として出たのである。 「分かっていただければそれで言いのです。では私はこれにて・・・」 彼の心中を察したのであろう、それ以上の事は言わずに部屋を去る。 「いろいろと奮戦してみたつもりだが、なかなかうまくいかないものだな。ル イーズは首都攻防戦で行方不明だ。ならばネオゼネバスさえ駆逐すれば、この 戦争は無意味となる。本国と和解すべきなのかもしれん・・・・・」 そういうとしばらく黙り込むコクン。 その様子をモニターで確認する男がいる。 コクンとともに反乱を起こした中心人物であるアルバンだ。 「親父殿もすっかり弱気だな。これはチャンスかもな」 そう言うとモニターのスイッチを切って自室を出る。 この時点でコクンは共和国への降伏を考えていた。 だがその後に起きる事件が、この反乱をしばらく続かせる事となった。 命令を受けて数日後、ラーマの部隊は最前線を超えて、軍政府の中枢が置かれ ているシビーリに後数十キロという所まで来ていた。 彼の乗るヘイトグラウラーを中心にシャドーフォックスが3機続く。 『全く俺らは特殊部隊と言っても暗殺とかするような特殊ではないはずなんで すがねぇ。その上、裏切り者と一緒だなんてよ・・・!!』 前衛を行くキシェルドから愚痴の通信が入る。 今回の任務に隊長であるラーマ自身不服があるが、命令された以上はやるしか ない。そんな気持ちで任務にあたっていた。 そして今回の任務上、どうしても内情を知る者が必要だった為、ワジョも彼らに 同行していた。 彼にとって、ブライツの事もあるために断りようもなかった。 (曹長の彼女が見つかった事を知らせなくて正解だったな。) この時点でラーマは、エリーの事をワジョには話していない。 その方が、何かと都合よく彼を使えるのではないかと思っていたからだ。 『前方にテントらしき物発見』 前衛のキシェルドからの通信。 「なに!?ここは遊牧民族も暮らしている。識別を急げ」 『テントの周りに小型のゾイドや動物が見えます。遊牧民の物でしょ』 「そんな推測での返答など聞く気は無いな。早く行って確認しろ!!」 キシェルドの曖昧な報告に少し苛立って怒鳴る。 「チッ、えらそうに・・・・」 不満顔でテントに近づくキシェルド。 中から数人の人が驚いた様子で現れる。 「やーっぱりただのテントじゃねぇか。こんなのになにビビッて・・・・・・」 彼の言葉が言い終わる前に機体を襲う2本のビームの矢。 かすった部分の装甲を溶かして変形させる。 「な、なんだ!?」 慌てて辺りを見まわすキシェルド。 しかし、敵機らしき者は見当たらない。 テントの住人達も突然の事に慌てふためく。 「た、隊長!!敵の位置がわからねぇ!!」 わめきながら次々に襲ってくるビームをかわす。 「そっちか!!」 ビームの走った方向へ機体を向ける。 『うかつに動くな!!』 だがラーマの通信にも耳を貸さず、猛進するキシェルド。 そこに彼の乗るフォックスの脇からミサイルが飛来する。 「え!?」 考えていなかった方向からのミサイル。 思わず足を止めてしまった為に逃げ様がなかった。 向かってくるミサイルに向けてレーザバルカンを放つが、数発のミサイルが彼 のフォックスに命中し、大きな爆発が3回起きる。
「敵は四方に隠れている。各機分散せずに固まりながら移動する。警戒を厳にせよ!!」 コクピットに響く声。 その命令を受けて密集する3機のゾイド。 この戦闘を早く終わらせなければ敵に潜入している事が伝わってしまう。 そんな焦りを覚えつつ、ラーマ達は戦闘に入るのだった。
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