蒼き虎5
夕日で赤く染まるルーサリエント。 人々が段々と増え、町が活気づいてくる時間帯。 それを遠めで見る一つの集団があった。 「数時間前にグスタフの集団が出て以来、何も動きはないな」 『はい、ネベット中佐。あの集団はなんだったのでしょうか?その前にもプテ ラスが群れをなしてでていたようですし』 アランド・アズがたずねる。 「さぁな、何かあったんだろ。どっちにしてもこちらには好都合な話だ」 そう言うとニッと笑みを見せるネベット。 彼はそれらの経緯(いきさつ)を知っていて、あえて部下には話していない。 もし、クイエルディニーが壊滅した為だといえば、ブライツのように町に恋人 や家族を置く者が戻りたがるのは必死だからだ。 これらは全てネベット達、上層部が計画した作戦の一環であると知ったら、ブ ライツなどはさぞ怒るだろうと内心思いながら笑みをこぼす。 「あと、数刻を持って攻撃を開始する」 『了解』 各機のパイロットからの返答が帰ってくる。 クイエルディニーと攻略部隊の壊滅の報告を受けたルーサリエント司令部は、 次に救援として送り込む部隊の編成や、今後の対策の為に会議などを行 ったりと対応に追われていた。 その中にホイスやラーマの姿もある。 事の大きさにホバーカーゴは、次の増援の準備を図るために共和国軍基地へと 向かった。 一方、ルーサリエントを手薄にする為に、捨て駒として使われたクイエルディ ニーの方では、先行して到着していたデランの率いるプテラス部隊が必死の 救助活動を行っていた。 と言ってもほとんどが息を引き取った人ばかりで、救助というより遺体捜索と いうような有り様であった。 部隊を指揮するデランが、様子を見ようと瓦礫(がれき)の山を登る。 そこで見つけた綿で出来た小さな人形。 「チッ、むごい事を・・・・」 そういうと人形を拾い、すすを払ってやる。だが彼が払う振動で足が落ちる。 それを悲しそうに見つめるのだった。 数時間後、真っ暗となった廃墟にぽつぽつと光る炎。 炎のまわりには、疲れ果てた兵士達の顔が照らされている。 その別の所では別の火がくべられていた。 今回の戦闘での死者が膨大な数となっている為、見つかった死体から焼いてい るのだ。 それをじっと見つめるデラン。 ポケットからおもむろに何かを取り出す。先ほどの人形だ。 悲しげな表情で見つめると、炎の中へと放り投げる。 (おまえが命を投げ打ってまで俺を行かせたのに、あんまり役にたてなかった な・・・・) 人形は火が瞬く間に燃え広がりながら、炎の中で踊っていた。 「デラン少尉!!」 不意に呼ばれて声のする方へ振り向く。 そこには自分に向かって走ってくる兵士が一人。 「どうした?」 「ルーサリエントが攻撃を受けています・・・!!」 「別動の部隊がいたのか!?」 キィィィィィィン・・・・ かん高い音が空から鳴り響く。 「チッ!!物影に隠れろ!!」 「えっ!?」 デランの言葉に戸惑う兵士を見て突き飛ばすと、自分も大きくジャンプして転がる。 すぐさま先ほどまで彼らがいた場所に機銃が撃ちこまれて行く。 「こっちにも送って来やがったか」 砂埃(すなぼこり)を浴びた姿で、低空まま去って行くレイノスを見る。 「す、すいません」 慌てて起き上がる兵士。 「礼を言うよりも戦闘準備にかかれ。敵がまたやって来るぞ」 そう言うときびすを返して自分の機体へと向かって走り出す。 「は、はい」 動揺しながら立ち上がる。 「後、救助した人々を安全な場所に連れて行け。いいな!!」 走りながら兵士の方へ振り向くとそう叫ぶ。 「りょ、了解しました」 そういうと、来た道を“戦闘体制に入れー!!”と叫びながら引き返して行く。 戦闘が開始されたルーサリエントでは、迎撃準備がなかなか整わずに各 守備隊員が右往左往していた。 「こんなにパニクるとは、日頃の訓練が足りない証拠だ」 愚痴をこぼしながら格納庫へと走るホイス。 「そう言ってやるなよ。おまえさんのところの連中は、ほとんどは旧ディーベ ルト軍とは関係ない奴ばっかりだろ。ぼやいてもしかたがないさ」 ホイスの横で走るラーマが言う。 「ち、いらん慰めだな」 そんな会話をしながら二人は廊下を走る。 格納庫に着くと、すぐさま自分の機体へ搭乗する。 「それにしてもやけに正確な射撃が飛んでくるな・・・・。一体誰がやってい るだ?」 各機器チェックをしながら、町のいたる所で上がる火の手と飛んでくる砲弾を 見つめながらつぶやくラーマ。 「コンマ0.3。照準セット・・・・テッ!!」 ハイブリットキャノンを発射すると同時に、スコープを乱暴に脇に追いやり、 モニターで着弾を確認すると、すぐさま移動を開始するネベット。 その後ろにアランド・アズの機体が続く。 「さーて、町に入った連中はどこまでかき回してくれるかな」 そうつぶやくと町の方をチラッと見ながら、次の発射ポイントへ向かう。 「ろくでもない指揮官と思っていたらなかなかの腕じゃないか」 そう言いながら町の中を走り回るブライツ。 『くだらん事を言っているひまなど無いぞ!!』 「えっ!?わっ!!」 ワジョの通信を聞いて前を向くと、前方に展開したサーペントの列が攻撃しな がら前進してくる。
銃弾をまともに受けるブライツ機。 「車輪ごときがでしゃばるな!!」 背中の対AZ砲を展開すると、サーペントに向けて放つ。 攻撃を受けて火を吹く機体。 その隙にブレードを展開したワジョのタンデロイガが、低くジャンプして一気に 切り裂いて行く。 そこに緊急通信が舞込んできた。 『こちらケンデニッヒ!誰かこっちのバックアップをしてくれ!!』 「ケンデニッヒ、どうした!?」 足元に接近して来たガイサックをなぎ払いながら通信を続けるワジョ。 『中尉!!カルチェットがやられた!!その上、大尉もどっかに消えて・・・・』 「ガデニーが??・・・・分かったすぐ向かう」 『なっ!?・・・・おいおい勘弁してくれてく・・・・。な・・・・で・・・・ ガンブラ・・・・が・・・・。バシュ!!』 大きな音とともに通信が途絶える。 「どうした!?」 「中尉、ガンブラって・・・・」 「どうやら共和国本国と同盟軍が共同で戦線を展開している様だな」 「そろそろ引き上げサインがあってもいいんじゃないっすか!?このままだと オレ達もやられてしまいますよ。奇襲は素早くかき回して素早く去って行くの が基本でしょう?」 『・・・・・・・・』 ブライツの問いに沈黙で答えるワジョ。 チュン、チュン・・・・と地面やコンクリートを弾が跳ねる音が聞こえたかと 思うと、正確な砲撃がブライツの機体を襲う。 「またかよ!!」 そう叫びながら衝撃に体を揺らすブライツ。 操縦桿から手が離れて思わずコンソールに手をやる。 一定の距離からバルカンを放つG・リーフを発見すると、一気に襲いかかる。 バルカン砲を放って近づけさせまいとするが、Eシールドを張りながら突き進ん でくるタンデロイガには歯が立たずに切り裂かれる。 『・・・・クイエルディニーの方も救援隊が襲われているようで・・・・』 「ん?クイエルディニーに救援隊??」 先ほどの攻撃の際にコンソール内にある通信装置を触ってしまったらしく、敵 の通信が飛び込んで来たようだった。 「中尉!!敵の通信でクイエルディニーについての通信が!!」 『おまえ、作戦行動中に敵の通信を聞くとは何考えている!』 「いいから中尉も聞いてくれ!!」 そういうと、音声があまり聞き取りにくいので音量を大きくして耳を澄ます。 雑音交じりに通信するようすが聞き取れる。 『ディニーにて負傷者の救助に当たっていたデラン隊より、敵航空部隊と交戦 中との連絡が・・・・』 『あいつら、こっちの攻略部隊と一緒に町を壊滅させたのは予定どおりだった わけかよ』 『どうやらその様で、地上から向かっていた救援部隊の方に敵の部隊が攻撃を ・・・・。とにかくここを奇襲した連中の把握できた。鎮圧したらすぐにでも 向かうことにする。』 彼ら、特にブライツにとって驚愕の内容であった。 「聞きましたか中尉、今からでもクイエルディニーへ戻りませんか!?」 『今は作戦行動中だと言ったはずだ。なにが起きても作戦の終了、または中止 の命令が下らない限り遂行しなければならい。それに囮の通信かもしれん。 仮に本当だったとしてもオレ達が戻って何が出来る?すでに町は壊滅している。 行ってもおまえの彼女の死体を見るだけなのかもしれんのだぞ。まずはこの作戦 を終了させろ。わかったな』 「くっ・・・・了解しました・・・・」 『分かればいい』 「くそっ!!」 しばらく間を置いて力いっぱいコンソールを叩く。 痛みが手に広がって行くのを感じながら思いを馳せる。 ワジョの言う事が正しいという事は、自分自信でもわかっている。 ただ、さっきの通信が本当だとしても、エリーは生きていると信じたい。 今ごろ心細く助けを待っているのかもしれない、ひょっとしたらもう助け出さ れて一人寂しく震えているのかもしれない。 そう思うといても立ってもいられなかった。 だが、ワジョの言うようにエリーの遺体を見る事になるだけだったら? いや、そうだったとしても抱きしめて守ってやる事が出来なかった事をわびたい そう思った。奥歯をかみ締めながら何も出来ない自分を呪う。 しばらくして、ブライツの青いタンデロイガが突然大きく咆哮を上げると、反 転して町の外へと向かう。 「!?おまえ・・・・」 タンデロイガが自分の気持ちをわかってくれたのだと思った。 「気持ちは嬉しいが、このままだとオレもお前も敵味方の攻撃を受ける事に ・・・・」 言い聞かせようとするが、タンデロイガは聞く耳を持たずに走り出す。 すると前の建物の影からガンブラスターが姿をあらわす。 「くそっ!!」 そういうと操縦桿を握り、慌ててEシールドを張る。 ガンブラスターは多種多様なビームを放つ為に、Eシールドを張っても無駄だ と知っていたが、張らないよりかはましだと思ったからだ。 「こうなったらやけだ。いくぜ相棒よ!」 そう言うと今までの事を吹っ切るように目の前の敵へと向かって行く。 タンデロイガもそれに答えるように咆哮する。 向かってくるブライツの機体を見て砲撃を開始するガンブラスター。 予想どおりに何発かのビームがシールドを素通りして機体を貫く。 素通りしたビームが、背中の左側に装備されているブレードに直撃し、 少し体制を崩す。 それでもひるまずに直進すると、2機のガンブラスターのローリングサンダー キャン砲を踏みつけてジャンプする。 踏みつけられた2機のガンブラスターはたまらずその場に突っ伏する。
「もう少しで外に・・・・!?」 目の前に1機のタンデロイガが現れる。 『どこへ行く気だ』 モニターにワジョ顔が映ると、そう語りかけてきた。 「・・・・言わなくても分かるでしょ」 脂汗を浮かばせながら答えるブライツ。 今、ワジョと戦って勝てるのだろうか?それ以前に機体のダメージも相当きている。 まともに戦う事すら出来ないのではないか?そんな思いが彼の脳裏をよぎる。 『なるほどな。そうなるとおまえを敵前逃亡者として扱い、止めなくてはなら なくなるな』 「覚悟の上ですよ・・・・」 操縦桿を改めて握りなおすと笑みをこぼすブライツ。 『じゃあ・・・・かかって来い!!』
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