中央山脈2
大陸中央を横断する中央山脈。 かつて国家を二分する際、この山脈を中心に国境が敷かれた。 それから幾年もの月日が流れ、万年雪を頂にかぶる山々を中心に彼らの死闘が続く。 空気は冷たく、夏だというのにコートが手放せない。 時には高い場所にいる為に高山病と戦いも待っている。 そんな苛酷な環境下に多くの兵士達が居続けていた。 当初、山脈のほとんどを占領し、“ヘリックルート“を確立した共和国軍は、 山脈を自由に行き来し、帝国との戦いを有利に進めていった。 だが南部の山脈ルートを帝国軍が押えて彼らを取り囲んでしまった。 その日からヘリック共和国山岳部隊の明日をも知れぬ、困難な戦いが始まったのだ。 囲まれた山岳部隊は持久戦に持ちこまれてしまい、物資弾薬などを節約しなが らゲリラ戦を続けていた。 それもいつしか本隊が帝国軍を駆逐してくれる事を信じて・・・・。 「新型機はいつ来るのですか!?」 司令官に向けて一人のの士官が机を叩いて怒鳴り散らす。 「ファクナー、先ほど本部からの決定で新型機はシティを目指す事となった。 これは大統領命令である」 その言葉を聞いて驚くファクナー。 「・・・・!?大統領は我々を見放されたのか!!」 再び机を叩く。 「そう怒り狂うな。空軍が全力でバックアップしてくれるそうだ。 それがいつからかは分からんがね」 司令は当てにはしていないといった様子で話す。 各軍の確執は多く、空軍が素直に自分達を助けるとは思っていなかった。 「それでは部下達の士気を上げる事も出来ないじゃないですか」 「空軍が助けてくれるといっているんだ、そう素直に言えばいいんだよ」 邪険に扱うように言う。 「・・・・了解いたしました」 不服そうな顔をしながら退室するファクナー。 「まぁ、当然の反応か。皆、期待していたからな・・・・」 そういうとソファーに腰を下ろしてため息をつく。 いい加減にしてほしいものだと言った表情で彼が立ち去ったドアを見据える。 このように今後の作戦内容を聞いて怒鳴り込んできたのは、ファクナーだけで はなかった。 そして皆が言う言葉は、新型がここに来ないのはおかしい、空軍など当てには ならない。 そういって部屋を退室していく。 今度の新型は対デスザウラー用の超大型ゾイドであり、その仕様を知っている 司令官は、この作戦内容に納得していた。 元々共和国軍が中央山脈を中心に作戦行動をとってきた最大の理由が、デスザ ウラーの脅威におびえずに戦える地、だからだ。 デスザウラーやウルトラザウルスなどの超大型ゾイドには足場の悪い山岳地帯 は不向きで、それ様に改造するか特異な作戦でしか使用される事はない。 今度生まれてくる超大型ゾイドもその例に入ってしまうのだ。 つまり、山岳地域に来ても主だった活躍が出来ないどころか、へたをすればデ スザウラーを倒さずに倒れてしまうかもしれない。 虎の子をわざわざ危険を冒してまで使う当てなどないのだ。 だが、ファクナーなどの下士官には、ただ新型陸戦ゾイドが完成したとしか伝 わっていない為に、この様な事が起きるのである。 「ここの連中は食ってかかるだけで手を出しはしないが、他の奴等どう対応し てるんだろうな」 そういって同じく包囲されている基地司令達を哀れむ。 その月の半ば頃。いよいよ帝国軍が本腰を入れての共和国部隊の掃討作戦を開 始した。 ふもとに近い場所では、デスザウラーの姿も確認されている。 ファクナーのいる基地は、国境には近いが山頂に近く、街道からも遠いために デスザウラーが来るような事はない。 だが、物資の底がつきかけている現状では、攻めてこられてもさしあたる抵抗 も出来ないだろう。 空軍は? 結局、今後の方針と両面作戦決行の知らせが来た最初の数日間だけ、物資を届 にサラマンダーが爆音を響かせながら飛来したのみだった。 しかも、着陸する術が無かった為に上空から基地めがけて落とすというありさ まだった。 一応パラシュートは着いているものの、追撃してきた帝国軍からの対空砲火で 穴が空き、地上に激突して四散する物がほとんどだった。 地上の兵士達は四散した物資を必死になって拾い集めた。 必死になりすぎたのか、何個所かで包囲していた帝国軍との遭遇、小競り合い が発生している。 結局、物資の半分ほどしか手に入れる事が出来なかった上、小競り合いで数機 のゾイドを損傷させてしまう事態となっただけだった。 この事を憂いた司令は、本部に対して再度の物資補給を何度もかけあうが、一 向に来る気配はなかった。 基地の周りには土のうと城壁と化した自然の岩山が取り囲んでいた。 難攻不落に思える自然の基地を帝国軍はかれこれ数週間も取り囲んでいる。 数度の戦闘が行なわれた後は膠着状態が続いていた。 だが、それも今日で終わりと部隊を束ねる帝国陸軍、第34山岳攻略隊隊長の ラン・ボート少佐は朝の作戦会議で語った。 作戦時間となり、各機体が身震いをするかのように体を揺らしていくと、一歩 一歩前進を開始する。 前衛の部隊が足早に仮設基地を飛び出していくと、その後をディメトロドンが ゆっくりとした足取りで前進していく。 数機のお供を従えて警戒線を越えると、足を止める。 「さてはじめるか、各部隊指定の電波にて通信せよ。これより10分間、電波 照射を行なう。各員の健闘を祈る」 パイロットの言葉とともに周囲に対して妨害電波を発信するディメトロドン。 あっという間に辺りの電波状態が悪くなっていく。
数時間後、周囲の電波状態が不安定とたったために各監視所では警戒態勢に入 っていた。 不安定な場所に立てられたやぐらにいる監視兵が、進撃してくる帝国軍を発見し、 基地内にサイレンがこだまする。 「いよいよ年貢の納め時のようだな」 サイレンを聞きながらつぶやくファクナー。 パイロットスーツに着替えると愛機の待つ格納庫へと急ぐ。 彼が到着した頃には、ほとんどの機体が出払っていた。 「大尉、我々は出遅れています!!お急ぎを!!」 部下の一人がコックピットから、彼を見下ろすように叫んでいた。 「ばか野郎、急いで出たってかわりゃしねーだろうが」 愚痴りながら自分のゾイドの元へと走る。 目の前にそびえるように立つアロザウラー。 この基地の主力ゾイドである。その脇に更に大きなゾイドが立つ。 超硬角と16門突撃砲を持つディバイソンだ。 彼はディバイソンの前に立つとすかさず乗り込む。 「頼むぜ、相棒」 その言葉に呼応するようにディバイソンが吠えると、格納庫の外へと躍り出る。 続いて彼の部下の乗るベアファイター2機が付いてくる。 目の前の門を中心に、シールドとコマンドの集団が基地の外へと展開している のが見えた。 「門前間で移動した後は。命令があるまでその場で待機、以上」 『他の部隊が出ているのになぜ我々だけが!!』 「やかましい!!死にたいのなら1人で行け!!」 そういって通信を切る。 彼とて前線に出たいのは山々だ。 自慢の突撃砲や超硬角を駆使して帝国の連中に一泡吹かせたかった。 だが、機体に搭載された実弾は通常の半分しかなく、思うような戦いは出来な かった。 それを配慮してか、基地司令は基地内待機を命じている。 溜まる一方の不満と戦っている彼をよそに、外に出たシールドライガー部隊は 敵の接近を確認すると敵先行部隊に強襲をかけて前線を混乱させていた。 その状況を見てさらに苛立ちが募る。
足の止まったアロザウラー部隊が混乱して思うように動けないイグアン部隊を 血祭りに上げていく。 別方向から進撃してくる帝国軍をベアファイター部隊とともに突撃していたゴ ドス部隊を遠くから見つめる者がいた。 ガッという何かをはじく音がしたと思うと、数機のゴドスが地面に倒れ込む。 生き残ったゴドスが倒れた味方機の方へと目をやると、そこには黒い機体のゾ イドがたたずんでいた。 「ぐ、グレートサーベル・・・・!!」 驚くパイロットを無視して飛びかかると、巨大な牙を立ててゴドスの胴体に突 き立てる。 その状況に慌てたベアファイター部隊の脇を、ブラックライモスの硬角ドリル がえぐる。
「どこに潜んでいたんだ!?」 突然の攻撃に慌てるベア部隊の隊長。 逆強襲を受けた事により、体勢が崩れたベア部隊は後退を余儀なくさせられる。 それを追うように進撃する帝国軍。 基地近くの丘を越えた所で、進撃する帝国軍を砲弾の雨が襲う。 「やはりあのような隠し玉を・・・・うわぁ!?」 戸惑うライモス隊の隊長機を砲弾が命中し大破させた。 「無駄弾を撃たせてくれるなよな・・・・」 あきれたように言いつつ、帝国軍に砲弾による圧力をかけるファクナー。
ひるんだライモス隊を、追われていたベア部隊がチャンスとばかりに襲いかかる。 体勢は一気に共和国軍に傾き、それを察した帝国軍は後退を始める。 「分かってはいたが、段々押され始めてきたな・・・・」 顔に手を当てて悔しそうにつぶやく。 しばらく警戒した後に基地の格納庫へ引き返すと、疲弊しきった兵士達の姿が いやでも目に入ってくる。 ゾイドも五体満足な機体はいなかった。 それらを見ていると、物資の豊富な帝国軍がうらやましく思えるのだった。 そして彼らの戦いはまだまだ続くのである・・・。
後書き バトストMENUに戻る 前の話へ行く 次の話へ行く